守護聖対抗大運動会・その9「騎馬戦〜閉会式」




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チーム分けは以下の通りです。
        金組      黒組
      ジュリアス   レオナード
      フランシス   クラヴィス
      ランディ    ユーイ
      ティムカ    リュミエール
      オスカー    チャーリー
      マルセル    セイラン
      エルンスト   ゼフェル
      メル      オリヴィエ
      ヴィクトール  ルヴァ

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「で、最後は騎馬戦なんですが……組み合わせ、考えてます?ヴィクトールさん……」
ランディが、金組ベンチの隅でうなだれるヴィクトールに遠慮がちに声を掛けた。
ここまですべての作戦が裏目に出ていると言っていいヴィクトールの采配。しかも途中からはティムカが仕切っていたようなものである。しかし、最後の競技もまた、自らを指揮官と認識しているであろうヴィクトールをないがしろにしては、のちのちの執務に差しさわりがあるのでは……とまでランディが考えたかどうかでは定かではないが、ヴィクトールは、そのランディの言葉に救われたように目を輝かせた。
「もちろんです、ランディさまっ!!いいですか、まず……」
しかし、ここまですべてを他のものに任せていたあの人が、ここで初めて、しかし有無を言わさない迫力で、ヴィクトールを遮った。
「阿弥陀だ」
「ジュリアスさま?」
「本日の競技を振り返ってみるに、指揮官のまずさで敗北を喫している試合が多々ある。先方の参謀、オリヴィエはなかなかの切れ者だ。彼の者をしのぐ采配が出来る者は、悔しいが我々のチームにはいないであろう」
出たよ、眩しいばかりの正論。彼が自信たっぷりに一つ言葉を発するごとに、ベンチの隅でヴィクトールがうなだれていくのが、ランディにすらわかった。周りは皆慌てているが、ジュリアスはおかまいなしに先を続ける。
「そこで私は考えたのだ、阿弥陀で騎馬を作ることを。もちろん、我がチームだけでなく、先方にもそれを申し出る。どうだ、公平であろう」
鼻息も荒く一同を見回すジュリアス。こうなった彼はもう誰にも止められない。皆はジュリアスの力強い視線から目をそむけ、少しばかりの抵抗をしてみたが、空気を読まないことにかけては、ランディやユーイも遠く及ばないジュリアスのこと、もちろん彼等の気持ちを汲むこともなく……
「それでは、今から私が先方に掛け合ってこよう」
もはや、黒組がジュリアスの申し出をつっぱねることを願うしか、金組メンバーには成す術がなかった……

だが。
「おもしろそうじゃない☆ジュリアス、あんたたまにはいいこと言うねぇ」
「あ〜、ですが、オリヴィエ、あなた先ほど作戦を練っていたじゃないですか?」
「別にいいじゃん、ルヴァ。オレもジュリアスの意見に賛成だぜ!!面白そうじゃねぇか」
「ふふふ〜〜ん、トラブル・アンド・アクシデントは私の信条だ・よ☆ ク〜ックックック」
オリヴィエが思わず違うキャラになりながら(わかる人だけ笑ってください)ジュリアスの申し出を受理(駄洒落はいいから)してしまったからさあ大変。

「俺とエンジュが、阿弥陀を作るのか?」
「うむ、公平に頼む」
(うわっ、嫌な役が廻ってきちまったよ、やっぱりこんなの無視して仕事に行けばよかったぜ……)
「こんなのどんな結果が出たって恨まれるに決まってるだろうよ」
「アリオスさん、最後、声出てますってば……」
アリオスは慌てて口元を押さえたが、しかし、ジュリアスは気にも留めずに
「意見や文句は受け付けない旨、私からも厳しく申し付けておくので、気にせず阿弥陀作りに取り組んでほしい」
と、笑顔すら浮かべながら言うではないか。少しは空気読めよ(泣)
そこまで言われたら仕方ないので、アリオスがしぶしぶ、エンジュがビクビクしながら作った阿弥陀の結果……

「まずAチーム、私、フランシス、そしてティムカ」
ティムカの顔色がさっと蒼ざめた。フランシスはもとより青息吐息だが。
「そしてBチーム、オスカー、マルセル、ヴィクトール」
マルセルが露骨に、そしてオスカーとヴィクトールはひかえめにほっとした表情を浮かべた。
「最後にCチームが、ランディ、エルンスト、そしてメルだ」
ランディに力が入っているのが傍で見ていてもよくわかり、それが逆に一同の不安を煽った。
「これは公正な方法によって作られた阿弥陀の結果である、意見や文句は受け付けない。それでは各チームごとにわかれ、騎馬を作るように。私からは以上だ」

「組み分けの発表だよ〜〜ん。
Aチームがクラヴィス、私、ルヴァ
Bチームがリュミちゃん、セイラン、ゼフェル
そしてCチームがレオナード、ユーイ、チャーリーだよ〜ん」
むちゃくちゃなチーム分けにならず、ひとまず胸を撫で下ろす一同。
「でも、三組じゃあっという間に勝負決まっちまうんじゃねぇの?」
レオナードの疑問ももっともである。
「ああ、そうそう、だから、今スタンドで応援している各々の守護聖補佐や、館の男性スタッフを守護聖一人につき3名出して、一騎ずつ騎馬を作って頂戴。合計12騎で争うよ〜〜ん」
「なるほど……」
「さて、作戦なんだけど……」
名参謀オリヴィエの目がキラリと光った……

5分後。
最後の競技、騎馬戦の幕が切って落とされた。
ここまでの点数は、金組101点、黒組125点。
騎馬戦の勝者に与えられる点数は30点なので、この競技を制した方が守護聖対抗大運動会の覇者となる。
この直後に予定されている表彰式に備え、スタンドからベンチ裏のスタッフルームに移動した神鳥の女王陛下が思わずつぶやく。
「見てみて、守護聖補佐も、館のスタッフもみんな美形揃いね〜」
「そこはもう、ええ。何の為に履歴書に写真を貼付させると思っているのです?」
神鳥の女王補佐官がエヘン、とばかりに胸を張る。
「そうだよ、陛下。ワタシ補佐官になってまず最初にロザリアさまに教えていただいたのが、『スタッフは顔で採る』ことですもん☆」
聖獣の女王補佐官もそう言って頷く。
「あら、レイチェル、そうだったのね、私知らなかったわ〜〜」
と、おっとり微笑む聖獣の女王陛下に、彼女の補佐官が目配せをする。
「ねぇ、あなたの好みのタイプの人は誰か当てようか?」
「ええっ!?」
「あそこにいる、浅黒い肌の黒髪の男性なんか好きでしょ?」
「やだ〜、レイチェルったら〜!!」
真っ赤になって俯く後輩女王に、先輩が助け舟を出す。
「彼女ばかりいじめないで、レイチェル。あなたの好きなタイプだってわかりやすいと思うのよ、ほら、向こうにいる眼鏡の人と、こっちの眼鏡の人と、あっちの眼鏡の人でしょう?」
「やだ〜〜!!陛下〜〜〜!!」

などと、勝手に盛り上がるガールズトークにも入れてもらえず、エンジュはホイッスルを片手に審判としてグラウンドを駆け回っていた。
一刻も早く終わりにして帰りたい一心から、エンジュと、そしてもう一人の審判アリオスは、騎手が地面に落ちていなくても、少しでも騎馬の形が崩れようものならすぐに失格と見做し、容赦なく退場を申し付けた。
その努力が報いられ(?)開始3分ほどで騎馬は当初の24騎から6騎に減った。
さすがに、補佐や他のスタッフが守護聖の騎馬を襲うのは憚られるのか、守護聖騎馬だけが残ったのである。

金組のジュリアスとティムカは、ジュリアスが前でティムカが後ろ。ジュリアスの背に乗っているだけで精一杯なフランシスを騎手としていた。ティムカがエルダに助けを乞うことを提言したのだが、頭の堅いジュリアスはそれを受け入れることをしなかったからだ。ティムカは何度となく意識を失いかけるフランシスを後ろから支えた。
オスカー(後ろ)とヴィクトール(前)の騎馬は定石どおりにマルセルを騎手とし、ランディ(前)とエルンスト(後ろ)はメルを乗せていた。
一方の黒組、リュミエール(前)とゼフェル(後ろ)の騎馬に軽量級のセイランが乗り、(セイランの気が向くか否かというのも正直一種の賭けだった。が、騎馬戦をしたことなどなかった彼には、このちょっと変わった経験は創作意欲を刺激する出来事だったらしく、なかなかに上機嫌であった)レオナード(前)とチャーリー(後ろ)はユーイを騎手としていたのだが、クラヴィス(後ろ)とルヴァ(前)が作った馬にオリヴィエが乗る、という少し納得の行かない騎馬もあった。

「ふふっ、守護聖だけが残るというこは読み切っていたよ。さぁ、作戦通り行くよ〜っ!!」
オリヴィエが不気味な掛け声を掛け、一同がそれに応じ、黒組の騎馬たちは一斉に オスカー・マルセル・ヴィクトールの騎馬目掛けて走り出す。最初にユーイ騎が、少し遅れてセイラン騎がマルセル騎に辿り着き、同時に攻撃を仕掛ける。二騎から攻撃を受けたマルセルは防戦一方で手を出すことなどできない。
「ああっ、二対一で攻撃するなんて、卑怯だぞっ!!黒組っ!!」
それを見たランディは、慌てて全速力でマルセル騎目掛けて走り出してしまったものだからいけない。エルンストがランディのスピードについていける筈などなく、メル騎はバランスを崩す。
「審判さ〜〜ん、この騎馬、少し崩れてなぁい〜〜?」
メル騎の横を優雅に通過しながら、オリヴィエがエンジュにアピール。エンジュは光の速さでホイッスルを短く吹く。
「メルさまの騎馬、失格につき退場――!!」

「んふふ〜〜ん、速い人と遅い人が騎馬を作ればバランスを崩すに決まってるじゃない。遅いなら遅い同士の方がかえって安定するんだよ、じゃあね〜〜ん☆」
オリヴィエはそう言い残して、遅い人二人が作る騎馬でゆっくりとマルセル騎に近付き、後ろからマルセルの肩をポンっ、と押してやると、それが決め手となった。
マルセルはバランスを崩し、騎馬から落下……寸前でヴィクトールが慌ててキャッチし、大事には至らなかったが、急にヴィクトールに手を離されたオスカーがバランスを崩し、嫌と言うほど尻餅をついた。
オスカーの痛む尻に響くほど鋭く、アリオスのホイッスルが鳴る。
「金組マルセル騎退場!!残りあと一騎!!」

アリオスのその言葉と同時に、黒組の騎馬の視線が一斉にフランシスに注がれる。
「あと……一騎……ああ、私にはそんな重責は……とても……」
「ああっ、フランシス!!いかんっ!!」
プレッシャーで意識を失いかけ、フランシスがぐらりと揺れた。それを見て、思わず退場した筈のヴィクトールが駆け寄って支えた。王立派遣軍時代の記憶が体に残っていて、考えるより先に救助にあたってしまったらしい。
「審判さぁ〜〜ん、退場した選手が残っている騎手に触れるのはルール違反だよね〜?」
オリヴィエの言葉が終わらないうちに、アリオスは一際大きな声で叫んだ。
「ヴィクトールの反則により、フランシス騎失格、退場―――!!」
その声にかぶせるように、エンジュが試合終了を知らせる長いホイッスルの音をグラウンドに響かせた。

「やった〜〜〜!!優勝だ〜〜っ!!」
オリヴィエ、ゼフェル、レオナード、ユーイ、チャーリーあたりは素直に喜びを表し、リュミエールは優雅に微笑み、クラヴィスも決して機嫌が悪そうではなかった。
セイランはやれやれ、といった表情を浮かべていたが、その眉はくもってはいなかった。
皆、一様に嬉しそうな黒組とは対照的に、金組の面々の反応はそれぞれであった。苦虫を噛み潰したようなジュリアスのまわりでおろおろするオスカー、深く深く気落ちするヴィクトールにかける言葉もなく機能停止するエルンスト。メルとマルセルはフランシスの看護にあたり、ランディが、ティムカに
「そろそろ上、着た方がいいんじゃないか」
と、言い、ティムカは「そうですね」とばかりに微笑んだ……

そして、閉会式。
神鳥の女王陛下から渡される豪華絢爛な優勝カップを手にし、満面の笑みを浮かべるレオナード(一応キャプテンだったらしい。久しぶりに最初から読み返して筆者も驚いたけど)と、血がにじむほどきつく唇を噛んでそれを見つめているジュリアスの姿が見えないほど、エンジュは脱力していた。
自分がうっかり余計なことを女王陛下及び補佐官に報告してしまったという大失敗(佳月さんの名作・クラスがえ参照)に端を発した組替え騒動が一応の決着を見たことに彼女は心の底からほっとしていたのだ。
その横で、アリオスがボソリとつぶやく。
「でもよ、運動会程度で済んでよかったな」
「ええ、これが本当に両宇宙の守護聖入れ替え、なんて事態になっていたら、私たち、もっときっと大変な思いをしていたに違いありませんから」
当初の、両宇宙の親睦を深める、という目的が達成されたか否かはあやしいところだが、
「結局、今のままが一番だ、ってことだな」
それを実感することができただけでも、やってよかったよね、運動会。

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■マコトさんより註釈
この最終回だけえっらく時間が経ってから書かれた為、以前に考えていた騎馬の組み合わせやネタなどを全て忘れてしまっていました。仕方ないので、この組み合わせは本当に 阿 弥 陀 で 決めました(泣)

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佳月より、お礼にかえて。
2005.07.12〜2007.1.12の間マコトさんのサイト「ビタァ・スヰート・チョコレイト」で連載されていたこの作品を、完結のタイミングでごっそり頂いてまいりました。拙作「クラスがえ」を読んで、「この組み分けで運動会ネタ書いていいでしょうか」というご相談を頂いた時、飛び上がってしまいそうなほど嬉しかったのを覚えています。
実は、幾度か「運動会ネタ読みたいです」という感想を「クラスがえ」に頂いていたにもかかわらず、私の脳内には全くネタが無く、ごめんなさい〜と謝るばかり。
そこへ、アンジェでスポーツネタギャグを書かせたら天下一品のマコトさんからお話を頂いて、まさに渡りに船!だったわけです。

当サイトにいらっしゃっているお客様、ましてやギャグをお好みのお客様でしたら。
マコトさんのサイトをご存じない、というケースはあまりないと思うのですが、それでもひとりでも多くの人に読んでいただけたら、と。ここに掲載させて頂きました。
登録の際、再読して思わず当時の事を思い出して、懐かしいやら、可笑しいやら。
「大玉ころがし」の回はですね、当サイトでは「故国に還る日」を連載中で、丁度クライマックスを書き終えたときに原稿データを頂いたのですよ。そん時ゃぁもう、
ハラがよじれました。
いやー、窒息するかと。笑いすぎて。
今でも、私の脳内で、白亜の国技は大玉ころがしです。はい。
他にもクラヴィスの出番が多いことについてチャーリーが「ネタ元への配慮か?」って言ってたり、ちゃっかりユーエンだったりティムコレだったりと、大変美味しい思いをさせて頂きました。
マコトさん、本当にありがとう!!
そして、大作の連載、おつかれさまでした〜!
2007.02.13 佳月