守護聖対抗大運動会・その8「組体操」




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チーム分けは以下の通りです。
        金組      黒組
      ジュリアス   レオナード
      フランシス   クラヴィス
      ランディ    ユーイ
      ティムカ    リュミエール
      オスカー    チャーリー
      マルセル    セイラン
      エルンスト   ゼフェル
      メル      オリヴィエ
      ヴィクトール  ルヴァ

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「どうしましょう・・・?」
「どうしようか?」
「どう・・・すればいいのかな?」
こちら金組ベンチでは、ティムカとランディとマルセルが額を集めて相談中。
何を困っているのかというと、次の種目の組体操の出場者についてである。
この競技は、両軍一名の助っ人−相談の結果、金組はアリオス、黒組はアルフォンシアに決定。−を入れた10名で行う。他の競技と違い、一発勝負とはいかないこの競技。一応何度か練習をつみ、課題をクリアできるようになってはいた。だが、ここで問題になるのが・・・
「フランシス、出るのは無理っぽいもんねぇ・・・」
そう、マルセルの言うとおり、フランシスがダウンしているということが大きな壁となって金組にのしかかっているのだ。
万全の状態でいたところで、あまり戦力にはならないフランシスではあったが、人数を合わせるという必要性があるため、そこにいるだけでいいから、いてほしい訳なのだが・・・
「フランシスの故障は不可抗力です。どうでしょう、ここは個人、二人組、三人組で行うものと、あと5人組の扇はひとつだけにする・・・という競技内容に変更してもらうというのは・・・?」
普通に考えれば、ティムカの提案が最善の策であろう。
「そうだね、ティムカの言うとおりだ。オリヴィエさまたちもきっとわかってくれると思うよ、俺がかけあってこようか?」
と、言うが早いか、ランディがベンチの柵を乗り越えようとした、その時だった。
ドスン、という鈍い音で一同が後ろを振り返ると、そこには、満面の笑みを浮かべたヴィクトールが・・・
「よいしょっと・・・さて、フランシスを連れてきたぞ、これで問題ないはずですよね?」
どうやらヴィクトールに無理やり背負われてきたのだろう、蒼い顔をしたフランシスがその横で弱弱しく微笑んでいた。
「ヴィクトール、あなた・・・」
ティムカが息をのむ。
「大丈夫だ、ティムカ。俺が全面的にサポートするから。」
って、あんた、フランシスがこんなになってるの、そのあんたのサポートせいじゃないか!?とそこにいる全員が心の中で突っ込みを入れたその時、フランシスが消え入りそうな声で言った。
「ああ・・・ティムカ、私なら大丈夫です・・・充分休ませていただきましたから・・・」
「で、でも・・・」
ユー、全然大丈夫じゃないじゃん!?と、某社長ならつっこみをいれそうなこの場面を治めたのは、意外にも敵チームのセイラン!?
「ごめん、僕も医務室にいたもんだからここまで着いて来ちゃったよ。
本人が大丈夫、って言ってるんだから大丈夫なんじゃない?ヴィクトールもサポートする、って言ってるんだし。なんだか面白いものが見れそうで、僕はワクワクするよ。」
そしてちいさくクツクツと笑った。
その笑い声を聞き、意味もない不安が増してくる金組メンバー(除くヴィクトール)ではあったが、結局本人のやる気にかけてみることになった。
それが彼にあれば、だが・・・

競技開始時間になり、金組のメンバーが全員グラウンドに姿を現すと、対する黒組は一様にまず意外そうな顔をし、次になるほど、という表情をし、最後に憐憫の色を浮かべた。チャーリーの言葉で語るのなら
「え?うっそ〜、全員揃てるやん?フランシス大丈夫なの?」
「ああ〜、ヴィクトールが支えとるわ、やっぱりなぁ・・・」
「ってさっきヴィクトールが原因で倒れたんちゃうのっ!?これはまたえらいことになるに違いないわ、可哀想になぁ・・・」
というところだろうか。
とにもかくにも開始の笛が鳴り、各人は競技の隊形につく
まず最初は各々が一人でブリッジをする。
足をつき、体を弓なりに反らせ、両手をついてやる、アレである。
ここらへんだと、ほぼ全員が危なげなくできているが、頭が重そうなアルフォンシアは少しタイヘンそうである。
ゼフェルは、ルヴァがうっかりターバンをほどきやしないかと気が気ではない様子だ。
フランシスはかなりつらそうだが、ここでふらつこうもんなら、隣でまるでお手本のように完璧なブリッジを見せているヴィクトールがどんなサポートをするかわからないので、なんとか頑張っている、といったところが本音であろうか。
全体に綺麗に揃って見事なブリッジだったが、この競技の採点係を仰せつかった両宇宙の女王、それぞれの補佐官、そしてエンジュへのアピールが過ぎたか、妙にオスカーの股間が盛り上がっていたように見えたことだけが、気がかりだった。

次に二人一組となり、支持倒立。一人が逆立ちをし、もうひとりが支える例のアレである。
ここでもオスカーは自慢の股間をアピールしたかったのであろうが、彼が組む相手はもちろん親愛なる上司ジュリアス様。当然、彼が支持側にまわり、その願いは叶わなかった、残念!?
リュミエールはクラヴィスと、ヴィクトールはフランシスと組み、相手の支持なしで倒立、つまりクラヴィスとフランシスはただ立っているだけである。
メルはエルンストと組みたがったが、どちらも不安がある同士なので、メルはティムカの、エルンストはアリオスの支えに回った。
一番綺麗な倒立を見せたのは、双方とも予想通り風の守護聖。ランディはマルセルの、ユーイはアルフォンシアの支えで、見事に逆立ちをした。
セイラン、レオナードといった、少しやる気の面で問題のありそうな輩は、如才ないオリヴィエ、チャーリーの支持に回り、意外にもいいコンビネーションを見せた。
その反対に、一番見ていて危なっかしかったのが、ゼフェルとルヴァのコンビ。
ゼフェルが倒立するリズムと、ルヴァが足を掴もうとするリズムが絶望的なほどにあわない。テンポが違いすぎるのだ。
仕方なく、隣にいたオリヴィエが、逆立ちしながら号令をかけてやり、なんとか倒立に成功。
これで支持倒立はどうにか無事終了。

次は三人一組の塔。
下になる二人が、背中合わせになり、体をほぼ曲げ、両膝を両手で支える。
昔なつかしい、「だっちゅーの」のポーズと言ってお分かりになる方は何人いらっしゃるだろうか?小学生にしてはお笑いに造詣が深い筆者のムスメに聞いたが知らなかった。(当然か?)
閑話休題。
この姿勢で背中合わせ、ということはぶっちゃけお尻合わせの状態になるのだが、そんな二人の背中にもう一人が乗り、バランスを取りながら大の字にポーズをとれれば大成功!!
まずは、金組、ジュリアスとオスカーの台にランディが乗り、危なげなくポーズを決める。
ランディはとても気分がよさそうだし、ジュリアスもまずは自分が役割をきちんと遂行したことで満足していたが、オスカーだけはひとり微妙な表情を浮かべていた。
心中を察するに
(何が悲しくて男と、しかもジュリアス様とこんなポーズを・・・泣けてくるぜ・・・)
というところだったのではないだろうか。
黒組リュミエールも、クラヴィスの補助(というか指導?)をしながら一方ではユーイが落ちないように苦心していた様子だったが、なんとか無事クリア。
金組ではアリオスが同様にエルンストとメルの面倒をみながらなんとかクリア。
黒組オリヴィエは、先の競技に続き気は合うがテンポの合わないゼフェルとルヴァの、文字通り尻を叩きながら成功!!
金組ヴィクトール、ティムカがマルセルを危なげなく支えて綺麗にクリア!!
黒組チャーリー、アルフォンシアが気の乗らない(ふりをしているのかも?)セイランをなんとか上に乗せることに成功し、無事クリア。
残ったフランシスとレオナードがこちらをご覧下さい、とばかりにポーズを決め(フランシスはそれだけでも辛そうだったが)この競技も無事終了。


次に5人一組の扇。5人が手をつないで並び、両端に向かってななめに傾斜し、両端が地面に、右端なら右手、左端なら左手(つまりつないでいないほうの手)をついて、扇状の隊形を完成させられれば成功!!である。
(まったく、絵を描けない、というのはどれだけ不便であろうか?)

金の一組、扇の中心を成すのは、とりあえず「中央は私が」という本人の意思を尊重してジュリアス。マルセルとティムカがその横を支え、地面に着くのはオスカーとランディ。
この競技、一番大変なのは、地面に手をついて支えるポジションである。
ただでさえもそうであるのに、オスカーは、中央のジュリアスになるべく負担がかからないようにするべく、頑張っていた。
オスカーがマルセルを引っ張る力が大きければ、当然ジュリアスが引っ張られる力も大きくなる。
そうなることを防ぐために、オスカーは力いっぱい踏ん張って、マルセルとつないだ手を思い切り伸ばし、なるべくマルセルを引っ張らないように心掛けた。
彼の涙ぐましい忠誠心に拍手!!(泣)
ランディは、オスカーのようにいろいろ考えたりはしなかったが、脊椎反射でオスカーに追従する。おそるべき運動神経と順応性。
ジュリアスは真ん中でふんぞり返って立っていればいいだけであったが、誰もそれを彼に告げることはしなかった。

黒の一組は、金の一組とは一味も二味も違った布陣で来た。
中央に軽量級のユーイを置き、地面に近い方がクラヴィスとレオナード。ここでリュミエールとチャーリーは、なるべくクラヴィスとレオナードに負担が掛からないようにすることに重点を置き、真ん中のユーイは持ち前の身体能力の高さで乗り切る、そういう作戦らしい。これが見事に的中し、綺麗な扇形ができた。
黒の二組も同様に、真ん中にゼフェル、その両脇にオリヴィエとアルフォンシア、両端はルヴァとセイラン。このチームもオリヴィエとアルフォンシアが両端を重点的に支え、ゼフェルは根性で踏ん張った、見事成功。

さて。
一番問題がありそうなのが、金の二組。
息も絶え絶えのフランシスとやる気満々のヴィクトール。どうにもお荷物になりそうなエルンストとやる気がからまわりしているメル。この四人を目の前にして、アリオスは再び
(仕事に戻りてぇ〜)
と心の中で涙を流していたのだが、ヴィクトールにはまるで伝わらない。
「さて、頑張るぞ!!」
というが早いか、なんとフランシスを背負い、両手を堅くメルとアリオスとつないだ。
あっけにとられているエルンストに、アリオスと手をつなぐよう指示し、それがすむと、メルとエルンストに手をつく様、促した。
ふたりがおずおずと地面に手をつくと、レオナードとアリオスは力いっぱい体を傾斜させ、なんとか4人(プラス背中に一人)で扇の形を成すことに成功。
ヴィクトールの捨て身の力技で、この競技も何とか終了、組体操は残すところあとひとつの競技だけとなった。

最後はやはり、大技のピラミッドである。
金組は定石どおりに、重量級が下で頂点は体力のないフランシス、という並びで来た。
一番下にヴィクトール、アリオス、オスカー、ジュリアスを並べた。
ジュリアスが一番下ではいつくばることをするのだろうか、とオスカーは内心ヒヤヒヤだったが、ジュリアスは首座の守護聖たるもの、皆の基盤になるべし、と実に都合のよい解釈をしたらしい。その前向きさがまぶしい光の守護聖であった。
その上にランディ、エルンスト、メルがならび、ティムカ、マルセルの上にフランシス・・・というのが金組の陣形であった。

しかし、黒組は少しばかり違って見えた。
一番下こそ、クラヴィス、アルフォンシア、レオナード、と安定のよさそうな三人が並んだが、ここにルヴァが入っているのがまず最初の?である。
そして、その上にオリヴィエ、チャーリーとくるのは納得いくが、その間に挟まれているセイランが再び?である。
下から三段目、つまり上から二段目はゼフェルとリュミエール。普通に考えるのであれば、一番下で支えることもできそうなリュミエールが上から二段目に来ている、これも?である。
一番上はユーイ・・・とこれは納得がいくのだが・・・どうにもフシギな黒組のピラミッドである、さて・・・

競技が始まった。採点基準はピラミッドの美しさと、そして持続時間である。いかに美しいピラミッドが形作れたとしても、すぐに崩れてしまったのでは減点の対象になる。
両軍とも、慎重にピラミッドを作っていき、ほぼ同じ時に完成し、ホイッスルが鳴り、ここからが持続時間の勝負になる。
金組を事実上率いているティムカは向かい合う黒組のピラミッドを見て思った。
(正直な話、フランシスの体力がいつまで保つか不安があったのですが、黒組の並び方を見て安心しました。やはり下よりも上に重そうな方が来ているのは納得がいかない。向こうの作戦参謀、オリヴィエ様も今度ばかりは計算間違いをしたというところでしょうか・・・)
ティムカばかりではない、金組の誰もが同じことを思っていたのだが・・・
予想外に、一番下のルヴァは平気そうな顔をして耐えているではないか。
セイランが崩れそうになると、両脇の二人がバランスを取り、どうやらセイランにかかる負荷を上手く分散している様子だ。
その上のリュミエールは、というと、どうやら上からも下からも、一番歪みがくるらしいこのポジションで、ゼフェルを支えながら上手にその歪みを補正していた。全体として、綺麗に見えるか、長くこの体制を続けていられるか、考えながらバランスを取っているリュミエールこそが実はこの競技の要であったのだ・・・

そのことに、同じポジションで競技に参加しているティムカが気付いたちょうどその時に、フランシスの弱弱しい声が上から聞こえてきた。
「ああ、ごめんなさい・・・私はもう・・・」
言い終わるやいなや、力尽きたフランシスが、地面めがけてゆっくりと落下してきた。
「いかん!!頭から落ちてきているぞ!!」
すわ、大怪我、という場面でヴィクトールの危機回避スイッチがとっさに入ってしまい、フランシスを助けにいったからもういけない。礎を守り抜くはずの彼が抜けたピラミッドは、見るも無残に崩れ落ちた。

「よかったな〜、フランシス、無事で!!」
ユーイが黒組ピラミッドの頂上で逆立ちをしながら、実にほっとした様子でそう言った・・・

後でオリヴィエに聞いたところ
「ふふふふ〜〜ん、人間ピラミッドっていうのはね、一番下に、何があっても動ぜずにいられるヒト、その上は要領がよくて臨機応変に振舞えるタイプのヒト、その上が本当は一番運動神経と判断力を要求されるので、ここにはそういうタイプのヒトと、何かあったとき、とっさに身軽に逃げられる様なヒト、一番上がバランス感覚に長けた軽量級のヒト、っていう並びが一番いいんだってさ、知ってた?」
とのことだったのだが・・・

結果。
採点の必要すらないほど完璧な、黒組の勝利。
玉入れに続き、勝者黒組に30点。しかし、負けた金組も途中までは互角に張り合った、という女性陣のお情けにより20点が追加。
金組101点、黒組125点。
残すところ、あと一種目のみとなった守護聖対抗大運動会。
勝利の行方は、最終種目、騎馬戦へともつれこんだ・・・

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