守護聖対抗大運動会・その6「お昼休み」




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チーム分けは以下の通りです。
        金組      黒組
      ジュリアス   レオナード
      フランシス   クラヴィス
      ランディ    ユーイ
      ティムカ    リュミエール
      オスカー    チャーリー
      マルセル    セイラン
      エルンスト   ゼフェル
      メル      オリヴィエ
      ヴィクトール  ルヴァ


◇◆◇◆◇


「お昼、お昼、お昼だよ〜、ランディ〜♪」
午前中の競技はすべて終了、お昼休み。
マルセルが歌うように言った。
お昼の食事として、グラウンド脇に用意したテントの中で、サンドイッチセット、おにぎりセット、焼きそばセットの三種類のお弁当が配られていた。
「ほら、マルセル、お前の分も貰ってきてやったぞ。サンドイッチでよかったよな?」
「うん。今日の気分はサンドイッチかな〜?ランディはおにぎりなの?」
「ああ、午前中、たいして活躍してないくせに、腹へっちゃってね〜、しっかり食べたい気分かな?」
「じゃあスタミナつけて午後も頑張ってね〜!!ふふふ、ところで誰と一緒にどこで食べる?」
そして、グラウンドの周りに陣取った仲間たちを見回す。
そこに、アリオスがなにやらクーラーボックスらしきものを携えてやってきた。
「おふたりさん、これ、飲み物。そこで食堂のおばちゃんに手渡されたんだが・・・」
食堂のおばちゃんとアリオス、その組み合わせを聞いたときに、マルセルの脳裏に去来したのが、
(普段食事をめぐんでもらっているのでは・・・・?)
だということはこの際スルーするとして。
「申し訳ないが、配ってもらえないか?俺がそんなことするより、あんたたちから受け取ったほうが貰うほうも気分がいいだろうからよ。俺は昼寝でもしてくるから。じゃ・・・」
アリオスは一方的にそう言うと、ランディの手に−見た目より重量のある−クーラーボックスに入った飲み物を押し付けて去って行ってしまった。
「はは、行っちゃった・・・仕方ない。配るとするか?」
「うん。」
ランディとマルセルは、にっこり笑って、歩き出した。重いクーラーボックスを、ランディがひとりで持って・・・

「飲み物持ってきました〜〜!!」
マルセルが爽やかにそう言った後ろで、ランディは(重い)クーラーボックスを抱えて笑っている。
「どれにします?」
「ありがとうございます、マルセル様、ランディ様。ぼくは・・・」
そう言ってメルがいかにも甘そうなジュースに伸ばしかけた手をエルンストがピシリと叩いた。
「食事の時は甘いものを採るのをやめるように、いつも注意しているでしょう。」
「しょ、食後に飲むんだよ。」
慌てて言い訳をするメルに、エルンストは仕方ないですね、という表情を作った。
「では、百歩譲ってスポーツドリンクなら許可しましょう。ティムカは何にしますか?」
エルンストとメルのやりとりを静かに微笑みながら見守っていたティムカはそこで初めて口を開き、
「ミルクティをいただけますか?」
と、控えめに、しかしはっきりと言った。
「ティムカはミルクティ、メルはスポーツドリンクだね、エルンストはどうする?
「ランディ様、私にはシュガーレスタイプのスポーツドリンクを。」
エルンストが、長くて繊細な指先でミルクティと、甘そうなスポーツドリンクとそうでないスポーツドリンクを器用に受け取っている所に、ヴィクトールがやってきた。
「ランディ様、マルセル様、任務のご遂行お疲れ様です。飲料配給でありますか?」
言い方がいちいちアレっぽいのには目をつぶってあげてください・・・
「はい。ヴィクトールさんは何になさいますか?」
「俺はミネラルウォータを。あの飲んだくれの分も。」
ヴィクトールが視線を送った先には、木にもたれかかって、ヒップフラスコを持ち、空いているほうの手を軽くあげて会釈するレオナードがいた。
「あいつ、昼休みになったとたんにあれなんですよ。本人は軽く引っ掛ける程度だったら午後の競技の妨げにはならない、と言い張るんですがね、最後に冷たい水を飲ませようと思いまして。」
「ふ〜〜ん。そうなんだ。で、ヴィクトールさんはどうしてお水なの?」
マルセルが特に気にもしていないようではあったが、お義理でそう聞くと
「プロテインを溶かして飲みますので!」
と力強い答が即、返ってきた・・・あっけにとられている二人に
「では!!」
と太い声で力強く挨拶をして、ヴィクトールはレオナードの待つ木の下へ戻って行った。
「・・・よく考えたら、あの二人敵チームだよね?」
「ヴィクトールさん、本当に面倒見がいいんだなぁ・・・」
「さっきは医務室で休んでいるフランシスさんのところに行っていたみたいだしね・・・」
さすが影の首座、ヴィクトール・・・

ランディとマルセルは、レオナードがいた所より更に涼しそうな木陰にシートをひろげてくつろいでいるクラヴィスとリュミエールの所へやって来た。
「クラヴィス様、リュミエール様、お飲み物を持ってきました。何をお飲みになりますか?」
いや、マルセル、だから持ってきたのはランディだからね?
「ああ、ありがとう、マルセル、ランディ。一応ハーブティはポットに入れて用意してきたのですが、冷たいものがほしかったのです。」
リュミエールが微笑みながら、ランディの持っているクーラーボックスを覗く。
「そうですね、私はこのアイスティを頂きましょう。クラヴィス様は・・・」
そこでリュミエールはクラヴィスを振り返り
「クラヴィス様、珈琲はいかがですか?」
と、歌うように尋ねた。
「ああ、任せる・・・」
相変わらず気のない返事を寄越すクラヴィスだが、マルセルが
「え〜と、ルヴァ様とゼフェルとオリヴィエ様とチャーリーさんはあっちの木のところにいるし、フランシスさんは医務室でダウンしてるんだよね?だとしたらあとここにいないのは、セイランさんとユーイとジュリアス様とオスカー様?」
とつぶやくのに、
「セイランとユーイのことは解らぬが、ジュリアスなら先ほど外の店に食事に行ったようだ。あれには、屋外でものを食することなどできないのであろう・・・」
と、反応していたのがおかしい。リュミエールも
「当然オスカーもお供していました。お弁当を配っている女性に未練たっぷりといった風情でしたが。だからあのおふたりの分は配らなくともよいでしょう。」
優しいが、有無を言わせない口調でそう言った。
「教えてくださってありがとうございます、では、ごゆっくり!!」
ランディが爽やかにそう言って、マルセルは苦笑いしながら頭を下げ、二人は次の場所へと急いだ。

「あぁ、ゼフェル様、まだ焼けてませんて!!生焼けのまま食べたらあかん、午後の競技に差し障りますって、もぉ〜〜!!」
ルヴァとゼフェルとオリヴィエとチャーリーが何かを囲んで丸くなって座っている場所からチャーリーのすっとんきょうな声が聞こえてきた。
「なに何?何してるの?」
マルセルは興味津々といった様子でそれを覗き込む。
「ああ、マルセル、ランディ。今、チャーリーにたこ焼きを焼いてもらっているんですよ〜、二人は食べたことがありますか?」
ルヴァが、それでも手を出そうとするゼフェルの手をはたきながらも、事情を説明する。
「ええ、一度チャーリーさんに用事があって執務室に行ったときに奥の間で焼いてもらったことがあります。」
「ランディ様、あきまへんって。執務室でそんなんやってんのバレたら俺が叱られますって〜!!ああ、ゼフェル様、まだです!!今ソースやらかつおぶしやら青海苔やらかけますからもうちょっと待ってくださいよ〜!!」
「大丈夫だよ、チャーリー、頭が固いのは外へ食べに行ったらしいからさ。あっ!!ゼフェル、青海苔は最後だよっ!!一番最初に青海苔かけるなんて私の美学に反するんだよっ!!」
「どいつもこいつもうるせぇな!!俺は腹へってんだよ!!で、ランディ野郎にマルセル、何しにきたんだ?」
「ああ、そうそう。飲み物届けに来たんだよ、ゼフェルは水だよね?他の皆さんは何になさいます?」
しつこいようですがマルセル、届けに来たのはランディなんですけど。
「ルヴァは茶だな、茶。」
ゼフェルはルヴァに確認もとろうとせずに、ミネラルウォータと緑茶のペットボトルをクーラーボックスから抜き出す。
「おや、野菜ミックスジュースなんかがあるね、私はこれにしよ。チャーリー、あんたは何にする?」
オリヴィエが、たこやきに最後の仕上げを施しているチャーリーを振り返る。
「俺はあれあります?ウーロン茶。」
「あんたベタだねぇ・・・ウーロン茶、と。ところでランディにマルセルはお昼はこれから?」
「はい、オリヴィエ様。」
二人が声を合わせる。
「じゃああんたたちもここで食べていきな。大勢の方が楽しいだろう?」
「あ〜、オリヴィエ、それはいい考えですねぇ、さぁ、ランディ、マルセル、こちらへどうぞ。」
ルヴァが二人の場所を空けて誘う。
「オリヴィエ様、ルヴァ様ありがとうございます。それじゃランディ、お言葉に甘えちゃおう。」
「そうだな。お邪魔します!!」
マルセルとランディが少し大きくなった輪の欠けた部分を満たしたところに、後ろから声がかかる。
「俺もここで食っていいか?」
ユーイである。ランディを除く一同の間に、気まずい空気が流れるが・・・
「あれ、ユーイ?エンジュと一緒にいたんじゃ・・・?」
マルセルが慌ててランディの口をふさぐが、天然ぶりではランディに負けず劣らずのユーイ、そのランディの隣に腰を下ろしながら、ふくれっつらで言った。
「一緒にメシ食おうと思って、俺あいつの分も弁当貰って行ってやったんだよ。なのにあいつ怒って『陛下やレイチェル様と食べますからっ!!』って行っちまったんだ・・・なんでだろう?」
ランディがユーイと一緒に首をひねるのを見て、オリヴィエがため息をつきながら尋ねる。
「ユーイ、あんた、いったい何をどれだけ持っていってあげたのさ?」
「あいつ、焼きそば好きだから、焼きそばを三人前・・・」
ランディを除く一同は先ほどオリヴィエがもらしたよりも更に大きなため息をいっせいに吐く。マルセルがみんなの気持ちを代弁するように言った。
「女性にそんなにたくさん持っていったら怒るに決まってるでしょう?もぉ、ユーイったら女心がまるでわかっていないんだからぁ〜!!」
「だってあいつ、いつもカプリコルン広場で焼きそば食う時物足りなそうにしてるんだぞ?あっ、三人前は多すぎた?二人分だったらよかったのか?」
ユーイが必死になればなるほど、(ランディを除く)他のメンバーはおかしくて仕方がない様子だ。
「まぁまぁ、ユーイ、今日のことは痛かったけどいい経験として受け止めて、次から同じこと繰り返さないようにするべきだね?」
「そうそう、オリヴィエ様の言うとおりやで、ユーイ。まだまだたこ焼き沢山焼いたるさかい、お前もここで食べてき!!」
「そうしろよ、ユーイ、飲み物は何にする?」
「三人前でもいいよ?」
「マルセル様って、結構いじわるなんだな・・・」
どこまでも高い青空に一同の笑い声が吸い込まれていく。
さぁ、午後一番の競技は玉入れ、両チームとも頑張ってね。

・・・の前に。

「さてと、昼休みの間にベンチの片付けもしなきゃいけないね・・・
ってわぁ、コレ何?このメガホン!?ビッカビカの金色でしかも重っ!!
何これ?純金製?・・・ってジュリアスって書いてあるよっ、いるかこんなのっ!!
次のはなんだ、これ?メガホンなのにまっすぐ!?これじゃ声全然大きくならないから意味ないし!!何この一本まっすぐー!!なメガホン・・・あっ、ランディって書いてある!!
なるほど、声大きくしなくても十分でかくて、しかも性格と同じでまっすぐ・・・っているかこんなもんっ!!
次のは・・・なんだこれ?でかっ!!でかいにもほどがある!!人一人はいれるんじゃないか?しかも黒っ!!中入ってみよ、中・・・って本当に真っ暗!!しかもこの中で十分に眠れる広さ・・・ってこれはもちろん・・・クラヴィスって書いてあるわっ!!・・・ちょっとほしいけどでかすぎて持って帰れないからやっぱりいらんわっ!!
次のは・・・あ〜あ〜、なんだこれ?このカタチを克明に描写したらこのハナシ表に置けなくなるような形だよ・・・これって本当にメガホン?ああ、やっぱりオスカーって書いてある・・・お約束すぎてもう怒る気にもなれない、真剣にいらんわ。
次は・・・わっ!!なんだこれ!!メガホンロボ?めんどくさっ、スルーしよ、スルー。こーゆーのには関わらないに限る。
それからなんだこれ?メガホンにしちゃずいぶん匂うね・・・って思ったら巨大イカ徳利、しかも、『俺様のモノ』って書いてあるよ、どなた様だいったい!!メガホン酒の肴にしてどうする、俺様!!
これも、何?ずいぶん重いし、ツルツルする・・・ってこれメガホンじゃなくて象の牙、いわゆる象牙?あ、ティムカって彫ってある・・・って何でこんなもん持ってくるんだ、いらんわっ!!
うわっ、これは何?なんで黄色と黒のシマシマ?わかりやすいね、トラの絵も描いてある・・・当然持ち主の名前はチャ・・・いらんわ、こんなの!!
最後のこれは・・・あれ?さっきの黒い大きいのと同じくらいデカイのが・・・これもまたクラヴィス様のおさぼり用???と思いきや、名前はフランシス??そうか、これくらい大きいのじゃなくちゃ声が聞こえないんだね〜、いや〜、大変だなぁ・・・っているか、こんなもんっ!!」
最後の小道具を放り投げて、セイランはベッドに横になっているフランシスの顔を反応を確かめるように覗きこむ。
フランシスは弱々しく微笑んで言った。
「セイラン・・・新ネタのネタ見せ、何もこんな時にしなくても・・・」
「これはお言葉だね、フランシス、僕は君に元気になってほしかったのに。笑いは万病に効く治療薬だ、そう思わないかい?」
「私にとってのそれは、休養だと思うのですが・・・」
遠のいていきそうな意識の中、フランシスはこの友人思いの変人の迷惑なまでの友情に、それでも少し感動していた・・・
午後の種目は団体競技の玉入れからだよ、フランシス、いつまでも寝ていないで、頑張ってね!?(泣)

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■マコトさんより註釈
セイランがムリクリフランシーに見せたがった新ネタの元ネタはネ○シックスです。これを書いた頃(05年9月)は新しかったんだろうなぁ(遠い目)

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