守護聖対抗大運動会・その4「借り物競走」




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チーム分けは以下の通りです。
        金組      黒組
      ジュリアス   レオナード
      フランシス   クラヴィス
      ランディ    ユーイ
      ティムカ    リュミエール
      オスカー    チャーリー
      マルセル    セイラン
      エルンスト   ゼフェル
      メル      オリヴィエ
      ヴィクトール  ルヴァ

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(ったくよぉ、なんだってこんないい天気の日に、守護聖様方の戯れ事にお付き合いしなきゃいけねぇんだよ・・・)
アリオスは真っ青なアルカディアの空を見上げてため息をついた。
(こんなことがなけりゃ、今日はジーレの視察に出発するつもりだったのによぉ。
仕事が終わったら・・・あそこの、なんつったかなぁ、名前は忘れちまったけど、田舎町の、うまいラムシチューを食わせてくれる居酒屋に行って・・・
そうだよ、あそこの看板娘、今度こそ落とせると思ってたところだったのによ・・・)
「それが何が悲しくてこんなチイチイパッパに付き合わなきゃいけねぇんだ!?」
「アリオスさん、出てます、声。」
慌てて我に帰ると、傍らでエンジュが彼を睨みつけていた。
「気持ちはよくわかります、私もまるで同感ですから。
でも、チイチイパッパはまずいと思います。
あの方の耳に入ったら、どんな惨劇が起こるかわかりませんから・・・」
エンジュが遠慮がちに指差す先には、金色地に白い縁取りとネームが輝くユニフォームが良く似合う、神鳥の首座の守護聖が鼻息も荒く、スタートラインに仁王立ちしていた。
「あぁ?あのおヒトは何をあんなに気合入れてるんだ?次の種目はナンだよ?」
「借り物競争です。種目が何であれ、あの方はあんな感じだと思うのですけど・・・」
その、エンジュの言葉をアリオスは半分も聞かずに走り出していた。
「あ、アリオスさん?何?」
「準備だ、準備!!競技の準備!!」
「準備って・・・もう済んでいるのに?」

エンジュが訝しげにそう言うのも気にせず、アリオスは堂々と、トラック上に置かれている借り物を指定する紙が入った封筒を、ポケットの中のものと交換する。
それは、今朝のことだった。
競技場につくやいなや、チャーリーが、決して心を許すことができないと脳が思わず信号を出してしまう様な満面の笑みを浮かべて近寄ってきた。
「なぁ、アリオス、お願いがあるんやけど?」
「あぁ?お前のお願いなんてどうせろくなもんじゃねぇだろうけどよ、聞くだけ聞くぜ?」
「そんなつれないこと言わんといて!!あれやん、アリオス、俺とお前の仲やんか?」
「どんな仲だよ・・・」
「こんな仲やんか!」
と、ヘッドロックをかますチャーリーの言うことはまったくもってよくわからないが、とりあえず、首から手をはずし、言い分を聞くことにする。
「借り物競争なんやけどな、何も聞かんと、この封筒を使うてほしいんや!」
チャーリーは黒と金色の封筒をそれぞれ三つずつ差し出す。
「ズルかよ?」
「あらぁん、アリオスさん、『ズル』なんて小学生みたいなこと言わんといて〜!!
これは、競技をスムースに進行するための『配慮』ですって、『配慮』!!」
「ものは言いようだな・・・」
「アリオスも、早よ終わって家帰りたいやろ?
そのために、すぐ探し出せるものを中心にリストアップして書いておいたんや。
ほんまやで!?進行スピードアップのための『配慮』なんやから、よろしく頼んだで!!」
チャーリーはそう言うと、アリオスの手に無理やり封筒を押し付けると、油断ならない微笑を浮かべて
「あ、オリヴィエ様〜〜!!」
と、走り去っていった。

(まったく、何が『俺とお前の仲』だよ・・・)
スタートラインに立って、『♪親指立てて笑って行こう』状態であの微笑を浮かべるチャーリーを見とめて、アリオスは苦虫を噛み潰すような表情を作った。
(俺が、あの、金盥の、ハリセンの、そして奥様仕様のフライパ〜ン!の痛みを忘れたとでも思ってるのかよ・・・)

その少し前、金組のベンチでは、がっくりと肩を落とし落ち込むヴィクトールを気遣いながらも、自分の采配を振るうティムカの姿があった。
「借り物競争ですか〜・・・う〜〜ん、コレは足の速さよりも、むしろ、指定されたものを借りてくる要領のよさが重要ですねぇ・・・」
そしてベンチを見回すティムカ。残念ながら、『要領のよさ』を備えている者はほとんど向こうのチームに行ってしまい、このヒト!といえるのはマルセルくらいである。
「じゃあ、まず、マルセル様と・・・それから・・・」
そこで、一番『要領のよさ』から遠く離れたところにいる、ジュリアスと目が合ってしまった。
彼は出る気満々のオーラを放っている。
ティムカは一瞬逡巡したが、このような時は『やる気』が実力の数倍もの力を引き出すものだ、ということを国を治めていく上で体得していたので、ここはジュリアスの『やる気』に賭けてみようと思った。
「ジュリアス様、お願いしますね。そして最後は・・・」
まるで散歩を待つ犬の様な表情のランディが肩を叩いた。
どうやら、彼は走りたくてうずうずしている様子である。『要領のよさ』を望むことができないのであれば、足が速い者に頼むのが次善の策である。
ティムカは決心した。
「ランディ様にお願いします。では、お三方、よろしくお願い致しますね。」
神鳥の三守護聖は、三者三様の『やる気』でティムカの呼びかけに答え、ベンチを後にした。

かわって、こちらは黒組ベンチ。
「借り物競争か・・・よし、チャーリー、行くよ!」
「はいな!!・・・と、クラヴィス様も、忘れずに!!」
こちらは、やはり『要領のよさ』をメインに据えて考えたらしく、オリヴィエ自らがご出陣。そして如才ないチャーリーと、全種目出場のクラヴィスが続く。

このメンバーを見れば、おそらく、何も小細工をしなくとも、黒組が勝利をおさめたであろう、と思うのだが。
いや、小細工さえ、しなければ・・・

(俺は別にそない勝ち負けには拘らんつもりや。
でもな、借り物競争で負けるんは、元・商売人としての俺のプライドが許さへん!!
そやから、多少手心を加えることにしたんや。
黒の封筒には、「メガネ」「メガホン」「カメラ」と、競技場でも見つけ易いモノを書いて入れといたわ!
そして金色の封筒には、「熊の手」「Tバックの下着」
それから、ジュリアス様にでもあたれば面白いな、思て「金髪女」って入れておいたわ。
「熊の手」なんかひいたヤツの顔が見てみたいわ、くくくく・・・
ま、多少ズルい気はせぇへん訳でもないけど、負ける訳にはいかへんのや!!
よぉし!!がんばるでぇ!!)
チャーリーの、そんな思いを乗せ、スタートを告げるピストルの音が轟く。

一斉にスタートを切る選手達。
封筒が置いてある地点には、当然一番最初にランディが到着する。
金色の封筒を手に取り、中を開いた彼は、ガッツポーズを取り、ポケットをゴソゴソと探る。
(ガッツポーズ?何?ランディ様、ポケットにTバックでも仕込んでますの?)
チャーリーは走りながらあっけにとられた。
しかし、ランディがポケットから出したものは、先ほどの競技で誤ってフレームを壊してしまったエルンストのメガネだった。
(なんで、なんで金色の封筒なのにメガネ?)
チャーリーが驚いているうちに、ランディは快足を飛ばしてあっという間にゴールしてしまった。
(なんでや?なんでなん?)
チャーリーが訝しげに黒い封筒を取ると、その中に入っていたのは、彼の字で書かれた『熊 の 手』の三文字・・・
(あっ、こっ、これはっ!!)
ゴール地点のアリオスを見ると、今度は彼が、『♪親指立てて笑って』いた。
(アリオス・・・やりやがったな!!黒と金の封筒の中身入れ替えたんや!!)
呆然と立ち尽くすチャーリーの横で、マルセルが
「メガホン、メガホンください〜!!メガホン〜!!」
と観客席に走っていった。ジュリアスもマルセルに続いて観客席に行き、
「どなたか、写真機を私に貸してくださりはしないか?」
重々しく借用を申し出ていた。
(あかん、これじゃ一位から三位まで全部もっていかれる!!)
焦るチャーリーの後ろで、オリヴィエの声がした。
「チャーリー・・・これあんたの字じゃないの?いったいこれ、どうしろっていうの?」
振り向くと、オリヴィエが『Tバックの下着』と書かれた紙を手に震えていた。
「そ、そやな〜、やっぱり、ここで脱ぐ・・・はナシですよね?ハハハ・・・
どないしたらいいんやろ・・・そや、クラヴィス様?クラヴィス様はどない思います?」
しかしクラヴィスは残された『金髪女』という紙を見て、完全にトラウマスイッチが入ってしまっていた。
「ああ・・・ほんま、どないしましょ・・・」

「チャーリー!!あんたいったいどうしたかったの、こんなことしてくれてっ!!」
結局黒組は全員棄権した。
ヘンに小細工しなければ、絶対勝てていた対戦だったのにね。
ヘタな考え休むに似たり・・・

障害物同様、一位10点・二位5点・三位3点、の配点すべてが金組に入る。
金組46点・黒組65点。
ワンチャンスで逆転可能の点差に、金組ベンチは盛り上がる。

(やっぱり・・・俺よりティムカの方が、統率力も、兵を見極める力も上回っているのか・・・)

ある一人を除いては・・・

元気だしてね。
ヴィクトール(号泣)

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