守護聖対抗大運動会・その3「ムカデ競走」




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チーム分けは以下の通りです。
        金組      黒組
      ジュリアス   レオナード
      フランシス   クラヴィス
      ランディ    ユーイ
      ティムカ    リュミエール
      オスカー    チャーリー
      マルセル    セイラン
      エルンスト   ゼフェル
      メル      オリヴィエ
      ヴィクトール  ルヴァ

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「ぐぬぬぬぬ・・・」
どなたかのうなり声が低く響いている、こちら金組ベンチに潜入して、今回はお送りしたいと思います。

「まぁまぁ、ヴィクトールさん、そんなに興奮しないで下さいよぉ。」
「いや、マルセル様、俺は悔しいんですよ!!完璧なはずの筋力データが役に立たなかったなんて・・・」
マルセルの慰めに耳も貸さず、ヴィクトールはベンチを拳で叩いた。
無理もあるまい。この、守護聖対抗大運動会に備え、彼は忙しい執務の間をぬって、自軍の選手達のありとあらゆる筋力データを自ら計測し、エルンストの協力を得て、データ化に成功した。
そのデータを元に参加者を選出したさきほどの障害物競走で、ご存知の通りボロ負けを喫してしまったのだ。
「ヴィクトールさん、そんなこと気にしないで、顔をあげてくださいよ。」
「そうだよ、ヴィクトール、あなたの読み違いとかじゃないんだから、責任を感じることはないよ。」
「俺、次頑張りますから!!」
「私も、精一杯のことはしますので。」
一斉に10代の方々(わかりにくい?わかりにくいよね?上から、マルメルランティム)ヴィクトールを慰める。
落ち込む年長者を慰める年若い仲間たち。
この美しい光景に、ジュリアスは感動した。
そして、キャプテン(なのか?)として自分も何か、この場で声をかけるべきであろう、と考えた末の発言が、これだ。

「まぁ、ムリもあるまい。メガネに筋肉はないからな。」

(ああ〜、ジュリアス様ったら・・・あんなこと言っちゃって。)
(そりゃ確かに敗因はメガネなんだけど・・・そこまではっきり言ったら・・・)
(筋力データはあてにならない、って言っているのと同じだよなぁ。)
(ヴィクトール、余計に落ち込んじゃいますよね?)
一瞬にして、つめた〜〜い空気があたりに満ち、10代の皆様が、視線で会話をする。
ヴィクトールは更に小さく背中をすぼめる。
しかし、ジュリアスは、自分が失言をしてしまったなどという意識はまるでなく、
「さぁ、ヴィクトール、気を取り直して次の種目を頑張ろう!!」
ヴィクトールの背中をバシィンと叩く。

しかし、何が幸いするかわからない。
ヴィクトールにすれば「背筋のスイッチが入った」とでも表現するのであろうか?
とにかく、そのジュリアスの手荒な励ましが一番有効だったのである。
言葉ではなく、体で語り合うべき相手だった、ということであろうか。
ヴィクトールは急に元気に立ち上がり、大きな声で言った。
「そうですね、ジュリアス様!!次こそこの筋力データに基づいて目に物言わせてやりますよ!!
さぁ、みんな、ベンチの外へ出ろ!そして今から言う順番に並べ!!」

次の種目はムカデ競争。
選手が一列になって長いスキー板のようなものを履き、フィールドに用意されたパイロンなどをまわってゴールイン!というあれである。
「これこそ筋力データがものを言う筈だ。
何も考えずにただ並ぶだけでは、お互いの足をひっぱりあってうまくいかないことになり兼ねんからな。」
ヴィクトールは非常に得意そうに、筋力データがはじき出した順番を告げる。
「まず先頭がフランシス、その次に俺、マルセル様、ティムカ、オスカー様、ジュリアス様、メル、エルンスト、最後がランディ様だ。」
「先頭がフランシスか!?」
オスカーがうなる。
「それは・・・どんなもんだろう?」
オスカーならずとも、全員が疑問を覚えたはずだ。
当のフランシス本人も困惑している。
しかし、ヴィクトールは余裕の表情。
「先頭なら、手が空くので、酸素吸入しながら参加できるだろう?」
なるほど・・・それは重要な要素かもしれない。
「フランシスはムリはせんでいい。酸素を補給しながら、立っている、と言うくらいの気持ちで構わん。
後ろで俺がコントロールする、任せておけ。」
再び納得。実質の先頭は『フランシスを抱えたヴィクトール』ということになるのだろうか。
「ああ、ヴィクトール、それなら私にもできそうな気がしてきました・・・」
フランシスもほっと一安心。
「ランディ様は一番後ろで声をかけながら、全体の舵をとってください。」
「わかりました、任せて下さい!!」
運動会が誰より似合うランディが白い歯を見せて笑う。
「他のみんなは、ランディ様の掛け声に従うこと!では、よろしくお願いします!!」
一礼するヴィクトール。
「勝利目指して、一致団結して頑張ろう!!」

スタート地点に並んだ黒組の選手を見て、ヴィクトールは内心(勝った!)とほくそえんだ。
何故なら敵は、先頭からルヴァ・オリヴィエ・ゼフェル・セイラン・チャーリー・リュミエール・ユーイ・クラヴィス・レオナード、とサクリアの反対の順番に並んでいたにすぎなかったのである。
筋力データを取り入れて、しかも体力のないフランシスへの配慮も忘れない自軍のラインナップに勝てる訳がない。
かつて王立派遣軍で百戦錬磨の鬼将軍と恐れられたヴィクトールは、勝利を確信し、スタートを切った。

だが、しかし。

「みぎ!ひだり!みぎ!ひだ・・・」
「右ぃ!!左ぃ!!右ぃ!!左ぃ!!」
黒組のしんがりをつとめるレオナードの声は、ランディの爽やかな声を掻き消すくらいに不必要にデカく、素直なメルやティムカ、そしてジュリアス(笑)は、それにつられて間違った方の足を出してしまい、
金組のムカデは転倒してしまう。
「みんな、落ち着け!!ランディ様の声を聞き逃さずに、従うんだっ!!」
体勢を建て直し、再びスタートを切ったとき、ヴィクトールが目にしたものは、真後ろで大声を出され、体が勝手にその通りに動いてしまうクラヴィスと、やる気のなさそうなセイランをさりげなく支えている
チャーリーの姿だった。
(うっ・・・これは、ただサクリアの順とは逆に並んでいるだけだと思っていたが・・・)
更に、カーブに差し掛かり、先頭のルヴァを見事にコントロールしながら進んでいるオリヴィエの姿を見て、この順番が考えた末のものだったことを悟った。
動揺したヴィクトールは、あろうことか、何もないところで躓いてしまう。
「ヴィクトール!!そなたがそのような調子でどうするのだ!!」
ジュリアスの激しい叱責が飛ぶ。
そうなると、ジュリアスの後ろのメルはビビってしまって、もういけない。
ジュリアスとの距離をなるべく開けよう、とばかりに体を後ろに反らしてしまうので、全体のバランスが崩れ、また転倒。
その勢いで、エルンストのメガネが飛び、その上にランディが誤って手をついてフレームをぐにゃりと曲げてしまった時には、黒組のムカデは既にゴールテープを切っていた。

「ま、負けても最後ま・・・」
「ああ、ヴィクトール、私はもう・・・限界です。」
負けてもいいから、せめて最後まで競技を続けたい・・・ヴィクトールの願いは、転倒した位置から体勢を立て直すだけで体力を消耗しきってしまったフランシスの、消え入りそうな声によって阻まれてしまった。

団体戦。
配点は勝者30点、敗者0点。
黒組65点、金組28点。
点差は無常にも開いた・・・

「ねぇ、ヴィクトールさん。ぼく、思ったんだけど、次の種目だけ、試しにティムカに指揮してもらう、っていうのはどうかなぁ?ほら、やっぱり元国王陛下だけあって、きっと、みんなを統率していく、
っていうのは上手だと思うんだよ。その・・・ヴィクトールさんがよかったら、だけど?」
「マルセル様、どうぞお好きに・・・」

ああ、ヴィクトール。
元気、出してね・・・(泣)

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