白と黒

■注意!思いっきりギャグです。
クラヴィス様のイメージを損ないたくない方は、お戻りください。
また、損なってOK!と言う方は、
CD「White Dream」の「愛のメッセージ」の台詞を当てはめながらお読みいただくと、
一層クラヴィス様が壊れた感じになって、よろしいかと思われます。


佳月作

失せ物を探して、闇の守護聖・クラヴィスは夜遅い時間に宮殿の自室を訪れていた。
静かな夜に音を響かせて扉を開くと、既に暗き闇に覆われた廊下に、さらなる闇がさらさらと零れ出る。
そしうて入った執務室の中。
机の横に、闇にぼんやり白く浮かぶ物体がある。
彼は、それを見つけてしまった。

―― 何故、これがここに。

そういえば、補佐官のアンジェリークが、『くりすます』とやらのパーティーを行う時の出し物用に用意したはいいけれど、置く場所がないと困っていたな、と思い出す。
―― クラヴィス様のお部屋に、置かせて頂いていいですか?
そう愛らしく笑った恋人の顔を思い出して、彼はふと笑みを零す。
パーティーに興味はないが、彼女の笑みを見れるのなら悪くない。
ついでにその日はさっさとアンジェリークを連れて抜け出して、自分の館に連れ込んであーんなこととか、こーんなこととかしちゃおう、とか思っている。
まあ、それは、ともかく。

闇の中から、その物体のつぶらな瞳がこちらを向いてみている。
夜になっても眠りもせず、そうして闇をみつめるそれは、今にも歩き出しそうにも感じた。
命無き物とわかっていても、彼はつい、その物体 ―― パンダの着ぐるみ ―― に話し掛けてしまう。
実はロマンチストな男、クラヴィス。
もっとも、話し掛けたはいいけれど、やってることのバカっぽさに気付いてつい、照れ隠しの苦笑を零しちゃったりなんかして。

―― 何をしているのだ、私は。
そう自己突込みをして失せものを探そうと気持ちを切りかえようとした。
だがしかし。
その物体のもこもこの毛並みが、妙に彼をひきつける。
クラヴィスは彼女 ―― 頭に赤いリボンをつけている ―― の側に寄る。
目の前で見る、こちらをみつめるようなその瞳。もこもこの毛並み。

間違いなく ―― 癒し系。

体温など持ち合わせないそれが、暖かそうだから不思議なものである。

「お前に触れても …… よいか?」

また思わず話し掛けてしまう。
そして、そっと手を伸ばして、ふわふわのもこもこのほっぺのあたりに触ってみる。
ああ、もう ―― 癒し系。
ひとしきりそのふわふわ感を楽しんだ後、ふと更なる欲求がクラヴィスに生まれた。

―― 着てみたい、かもしれない。

いやしかし、それは。
何だかこれまでの自分とは一線を隔した世界へいっちゃいそうで流石にためらいがある。
でも、アンジェリークという存在を得て、すでに過去の己とは決別した今。
ちょっとはじけてみても、いいかもしれない。などとも思っている。
客観的にみてそれはどうかとも思うけれど。
当事者には意外とわからないものだ。実際。

そして、彼はその欲求に抵抗しきれず。
着ちゃってます。

その、はじめての境地。
全身のもこもこ感がいい感じである。
―― 悪くない。
しかし、意外と、重い。あと、視界が悪い。
そして。

「暑い」

いや、そろそろ冷え込む季節。あたたかいと評してもいいくらいか。
まあ、表現はどうであれ満喫している様子である。

しかし、とクラヴィスは思った。

―― 私には少し小さいが、アンジェリークが利用するには大きすぎはしないか。

胴のあたりを、すこしつまんで短くした方がよくはないか、などと考えている。
腕を上げてみたり、かがんでみたり、いろいろ動いてためしているようだ。
そして、その時。

扉が、開いた。

◇◆◇◆◇

水の守護聖リュミエールはクラヴィスを探していた。
昼間、中庭でお茶を一緒にした後、彼の座っていた椅子の下に、小さな包みを見つけたのだ。
可愛らしいリボンがかけられたそれは、彼の、彼の最愛の恋人に渡すべく用意されたクリスマスのプレゼントなのではないかと、リュミエールは推測した。

―― 本当に、最近はすっかり明るくなられて。

端からみると何処がどう明るくなったものか皆目見当もつかないが、長い間クラヴィスを気にかけていたリュミエールにはその違いがわかるらしい。
その包みをすぐに渡そうと思ったのだが、いろいろすれ違いが起きて結局この時間になってしまった。
館の者が言うには、遅くに宮殿に向ったという。
―― きっと、探していらっしゃるに違いありません。
そのまま館のものに預けてもよかったのだが、何かの行き違いできちんと手元に渡らないのも困るし、じかに渡して安心して欲しかった。それに。
―― 他の人に渡しては、照れておしまいになるかも知れませんから。
さすが、リュミエール。優しい気遣い痛み入る。

そんなわけで、彼は宮殿へ赴き、まずは闇の執務室へと向ったのだ。
扉の奥、なにやら物音がする。
やはり、探しているのだと安堵して、リュミエールは扉を開けた。
そして、そこに彼が見たものは。


―― 暗闇の中で踊る(?)巨大パンダ

思わず息を呑んでリュミエールは凍ってしまう。
しかし、頭の中ではフル回転で思いが駆け巡る。

―― こ、これは。ああ、中に誰かが入っているのですね。
―― だとしたら、誰が。
―― マルセルやランディあたりが悪戯で
―― でも何故、こんな夜中にこんな場所で。
―― しかもパンダ。
―― けれども、いかに着ぐるみを着ているとはいえ、この身長の高さは、まさか。
―― まさか。
―― ああ、けれども。まさか。
―― しかもパンダ。

そして、リュミエールは目の前の人物のまごう事なきサクリアを感じ取る。
その、闇の安らぎ。

―― ああ、間違いありません。
―― しかし、何故。
―― 何故。
―― パンダ。

フル回転で考えた後、リュミエールはすこし震える声で、けれどもにっこりと笑って言う。
「こちらに、いらしたのですね。クラヴィス様」
「…… ああ」
「これを、お渡ししようと思って、探していたのです」
リボンのかかった、包みを差し出す。
2メートルを越す(身長190センチ+着ぐるみ分)巨大パンダが手を出して包みを受け取る。

「これを …… 探していたのだ」
嬉しそうな、声。
「アンジェリークへの …… 贈り物だ」
だれも聞いてないけど、言いたかったらしい。
「それは、ようございました。クラヴィス様」
微笑むリュミエール。
目の前の巨大パンダが微かに頷いた。

穏やかな、一日の終わり。夜は静かに更けていって ――



っていうか、いいかげんそのパンダ脱げよ、クラヴィス。


―― オシマイ

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「雪白幻夜」企画出品作品。
企画には既に、他の方の書いた素敵なシリアスクラヴィス様がいらっしゃったので、ギャグに挑戦してみたという経緯があります。
我ながら、よく考えたもんだと誉めてあげたい(笑)
元ネタとなった「White Dream」の「愛のメッセージ」。
クラヴィスの「熱い…あたたかい…これがおまえとひとつになることか…」というあの台詞は、発売当時もいろいろ物議をかもしましたが(笑)
どう聞いても18禁ですよねぇ…。

以下、企画出品時あとがき
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間違ってるよ。間違ってるよ、私!
どう聞いても全年齢OKのティムカで18禁なあの話書いて、どうして聞くだけで十分な18禁なクラヴィスでこの話なんだよ!(笑)


2004/11/25 佳月