●追記
 以前、東北の山の中を夜中に歩いたことがありました。日中はそれなりに交通量のある林道で、昼間は動物の影すら見られなかったのですが、夜になると、一変して、まるで動物たちの天下でした。
 ヘッドランプの明かりに動物たちの目が、そこここで浮かび上がります。ウサギ、タヌキ、シカ、サル、ミミズク……みんな、生き生きと活動しています。しかも、今はあちらのほうが多勢に無勢であることを理解しているのか、ちっとも怯みません。それどころか、「こんな夜中に山の中を歩いている人間は、どんなやつだ?」と、こちらが観察されているような感じです。やはり、自然の中では主役は野生動物たちなのだと、そのとき痛感しました。
 ふだんの山歩きのときは、やはり、直接、野生動物を直接観察するのは難しいので、もっぱら足元に気をつけながら歩いて、いろんな動物の痕跡をさがすようにしています。獣道を辿っていくと、水辺やヌタ場にはっきり残った足跡を見つけることができます。タヌキ、キツネ、ウサギ、イタチ、カモシカ……、けっこうたくさんの動物が集まっているのがわかります。ホシガラスが羽つくろいでもしたらしく、岩の上に灰色のグラデーションのきれいな羽が何本も落ちているのをみつけたこともあります。樹林の中では、白樺の幹にまだ新しいクマの爪痕が残っていたりします。ぼくの10代から20代にかけての山登りは、ピークハントばかりに気持ちがいっていて、目指す頂上のことしか考えていませんでした。今、30代も終わりに近づいて、余裕を持ってフィールドを見られるようになって、森では多彩な動物が息づいていたのだと実感しています。
 動物の足跡をいちばんみつけやすいのは雪上。それも新雪が降り積もったばかりのパウダースノーなら申し分ありません。ウサギとそれを追ったキツネ、里を徘徊しようと山から出てきたタヌキ、ときにはクマの大きな足跡……冬のトレッキングの大きな楽しみでもあります。
 場所によっては、特定の動物の生息数が多く、出現頻度も高いということがあります。そういった特定動物の『名所』に行くのも面白いですね。大雪のヒグマ、立山の雷鳥、可愛らしいヤマネが餌をねだりに度々訪問してくる八ヶ岳黒百合ヒュッテのようなところもあります。
 もう5、6年前でしたか、アウトドアショップで様々な動物の足跡がプリントされたバンダナを見つけて、フィールドに出かけるときは、これを持っていくようにしています。ふだんは頭に巻いて、汗拭きにしていて、足跡を見つけると、すかさず外してどの動物の足跡なのか同定します。図鑑だと、いちいち取り出すのが手間だったりしますが、これなら、まったく手間にならず、けっこうこまめに調べようという気がおきます。
 ちなみに、同じようなバンダナで、星座がプリントされていて、星が夜光塗料のドットで打たれているものも持っています。こちらも、けっこう重宝しています。同じようなコンセプトで、『木の葉』とか『木の実』プリントのバンダナがあったら欲しいのですが、どなたか、ご存知ありませんか?

before
next
step9