フィールドでじかに野生動物と出会うこと機会はあまり多くありません。それは、敏感な野生動物が人間の気配を感じて、こちらが気づく前に姿を隠してしまったり、ほとんどのほ乳類は夜行性であるためです。
アニマルウォッチングの場合、動物そのものを観察するというよりは、その足跡や糞、樹皮などにつけられた痕跡を探して、どんな野生動物がその付近に生息しているのか推定する推理ゲームのような楽しみが主といったほうがいいでしょう。もちろん、そういった痕跡から活動範囲を特定し、持久戦で動物が現れるまで待つというやりかたもありますが……。
いちばん手軽で面白いのは、地面や雪の上に残された足跡を探して、動物を同定することでしょう。イノシシやシカ、カモシカのような有蹄類、サル、ウサギ、テン、タヌキ、キツネ、それにクマ……、日本には約100種のほ乳類が生息しているといわれますが、それぞれに特徴のある足跡をしていて、また、その歩き方も千差万別で、それぞれがユニークです。、足跡を辿っていくと、どんなものに興味を持って立ち止まったのかとか、木の根で滑って尻餅をついた跡があったり、その個体の性格まで見えてきて、それだけでもけっこうドラマチックです。
冒頭に、フィールドでは野生動物に出くわす機会はあまりないと書きましたが、それは相手にとっても人間にとっても、じつはいいことなのかもしれません。自然の中では、野生動物のほうが主役です。彼らは、自分たちの縄張りを持ち、自らのルールに従って生きています。その中に踏み込んでいく人間は、相手にとって、近寄ってほしくない邪魔者である場合がほとんどです。防衛本能を発揮した野生動物は、非常に危険です。とくに、クマやカモシカ、イノシシといった大型獣に襲われると致命的な結果につながってしまいます。ふつうは、こちらの存在を動物のほうが先に察知して、通り過ぎるまで姿を隠すのですが、たまたま風下から近づく形になって、お互い出会い頭のようになってしまったり、ハンターに追われた手負いの動物の逃げ道に入り込んでしまったりといったアクシデントが起きることもあります。子連れの熊などはとても神経質になっているので、不意に遭遇するととても危険です。クマと遭遇する可能性のあるフィールドへ入る場合は、クマ避けの鈴をザックに装着するのは常識ですが、フィールドではそういう危険も存在することを肝に銘じておくことも大切です。日ごろ文明に浴して暮らしているぼくたちは、自然の中では、悲しいかなよそ者なのです。