[バードウォッチング]

 キャンプサイトからほんの少し離れて、獣道を散策していたときのこと。地面のある一カ所だけスポットライトが射したように、明るく浮き上がっていました。側へ寄ってみると、ヤマボウシの赤い実がたくさん落ちています。「なんだろう?」、立ち止まり、かがむと同時に、ポトッと、目の前にその実が……すると、またポトリッ。見上げると、樹の上のほうで、嘴にその実をくわえて、今まさに実を落とそうとしているムクドリが一羽……。一瞬、視線が合うと、彼は思わず目を外らし、素知らぬ顔をします。そのとぼけた表情が、とある知り合いの顔にそっくりで、ぼくは、上を見上げたまま、おもわず吹き出してしまいました。ただ別の生き物として観察するだけでなく、鳥も動物も人間と同じように生きているのだと思うと、フィールドにたった一人でいても、仲間に囲まれているような気持ちになります。
 日本で確認されている野鳥の種類は500種あまり、このうち日常的に観察できるのは300種あまりといわれています。それぞれの種にそれぞれの特徴があって、また、いろいろな性格の個体がいるので、いつまでも観察していて、飽きるということがありません。
 バードウォッチングに必要なのはビノキュラーですが、これは、7〜8倍程度で視野の広いものを選ぶといいでしょう。倍率の高いものは、視野が狭く、飛んでいる鳥など、動きのあるものを追うのに適していません。
 ビノキュラーで鳥を観察して、図鑑でその鳥を同定するには、いくつかポイントがあります。
 まずは、その鳥の大きさを確認すること。スズメ、ムクドリ、カラスなどを基準にして、どれと大きさが近いか確認します。
 次に、その鳥の体型的な特徴に注目します。嘴は真っ直ぐか、それとも曲がっているか。体型はスマートかずんぐりしているかなどです。
 第三に姿勢と動作に注目します。枝に止まったときに伏せるような姿勢でいるか、それとも縦に立ち上がった格好で止まっているのか。枝に止まっているとき、尾は縦に振っているか、それとも横に振っているかなどです。
 さらに、体の色、飛び方、歩き方、鳴き声、さらには群れで飛んでいるなら、その隊形が同定する重要なポイントとなります。
 いずれにしろ、はじめにも言ったように、鳥や動物を単なる観察対象としてでなく、身近な隣人として、その振る舞いを見ているだけでも楽しいものです。そして、鳥の名前を覚えるいちばんの早道は、そのように親しみを持って接することなのです。
●追記
 バードウォッチングはあんまり本格的にやるほうではありませんが、そんな素人のぼくでも重宝しているのが、日本野鳥の会がまとめている野鳥図鑑です。これは、水辺の鳥とか山の鳥と、生息する場所別に編集されているので、自分が行くフィールドによって必要な図鑑を用意すればよくなっています。サイズはコンパクトで、ポケットに入れても邪魔にならず、すでにかなり絞られているわけですから、同定もしやすく、フィールドワークを実践することを第一義としている機関が編集しているだけに、説明もつぼを得ています。

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