・ハイポサミア(低体温症)

 体温が急激に低下して、動けなくなり、最悪の場合死に至る。それがハイポサミア(低体温症)です。低温時のトラブルとしては、まず凍傷が思い浮かびますが、凍傷が冬山のような特殊な環境下で起こるのに対して、ハイポサミアはその前段階で起こりうるし、冬山のように極低温でなくとも、例えば、夏山で雨に打たれ風に吹かれただけでも起こりえます。冬になると、酔っぱらいが街頭で寝てしまって凍死したなんてニュースが流れますが、これなどは典型的なハイポサミアといえます。
 STEP3のウェアリングの項でも説明したように、外気温はさほど低くなくても、風の影響で体感温度は意外に低くなっていることがあります(風速1m/sで体感温度は1℃下がるといわれます)。夏山だからと安心していて、雨や汗で衣類が濡れたのを気にせず、強風に当たっているうちに、突然動けなくなってしまう。ハイポサミアの怖いところは、知らず知らずのうちに最悪の状況まで追いつめられてしまうことです。
 ハイポサミアは、寒さを感じないように、ウェアリングに気をつけていることで防げます。
 万が一ハイポサミアになったときは、とにかく暖かくすることが先決です。肌を強く擦って血行を促してやることも有効です。
●追記
 冬山で飲料水がなくなり、雪を口に入れて乾きを癒しているうちにハイポサミアになってしまったという例もあります。冷たい飲み物も体温を奪うので、寒い季節には、できるだけ温かい飲み物を取るようにしましょう。ぼくは、冬のトレッキングなどのときには、サーモスの魔法瓶に砂糖をたっぷり入れた紅茶を満たして行きます。冷え切った体に、一杯の熱い紅茶は格別です。

・打撲

 手足の打撲なら、外傷や骨折がないことを確認し、患部を冷やして処置します。とくに、早い段階で処置をしておけば症状が軽く済むので、患部を瞬間的に冷やすコールドスプレーやコールドパックをファーストエイドキットに入れておくと便利です。コールドスプレーは、サッカーや野球の試合などで、打撲した選手にトレーナーがシュッと吹きかけるあのスプレーですね。大きなパーティでトレッキングに行くときに共同のファーストエイドの中に一本いれておくといいでしょう。コールドパックは、100円懐炉と同じように揉んだり叩いたりすると冷えるパックです。ソロの場合でも、これを一つ用意していけば、急な発熱などにも対処できるので便利です。
 打撲で深刻なのは、問題なのは、頭部や腹、背中などを強打したときです。意識の混濁や嘔吐、手足の麻痺などがある場合は、脳や内臓の損傷が考えられるので、緊急に医療機関へ収容しなければなりません。こんな症状が見られる場合は、患者をその場で動かさず、保温して、呼吸の楽な姿勢で寝かせ、急いで救助を要請します。その場では症状がない場合でも、後で症状が現れる場合がありますから、頭や腹、背中を強打した際には、1日は安静にして経過を見ることが必要です。不安があれば、やはり早期に医療機関で診察を受けたほうがいい。

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