キャンプとは、本来、登山や探検、調査あるいは旅という別の目的をこなすための手段として行われます。もちろん、キャンプ地に定着してキャンピングそのものを楽しむことを否定するつもりはありませんが、『はじめに』の項でも紹介したように、ひたすら有名キャンプ場を巡ることだけが目的となって、その数を自慢にし、あるいはキャンプ場の設備やら雰囲気だけしか記憶に残らないとしたら、あまりにも貧困で哀れなセンスだと思います。ふつう、キャンプ場は魅力的なフィールドの中や側に設置されています。それなのに、テントの横に設えた狭いアウトドアリビングスペースとバーベキューしか記憶に残らないのでは寂しすぎます。たまには、キャンプ場という狭い枠を離れて、広い世界に足を踏み出してみましょう。
行動を起こすには、早いに越したことはありません。早起きは三文の得とは、まさにアウトドアでは的を得た格言です。
例えば、夏のフィールドでは、涼しい午前中のうちになるべく予定を消化しておいたほうが、気持ちがいいし効率的です。とくに真夏の山では、午後三時を過ぎると夕立に襲われる危険性が高く、安全性の点からも早起きのメリットは大きいといえます。秋から冬の陽が短い季節なら、早く行動を起こすことのメリットはもっと歴然としています。
早起きしたら、簡単に済ませられ、かつ消化の良さや午前中の行動に十分なカロリーをとることを考えた朝食を摂ります。
そして、食事を済ませたら、天気や気候、体調などを考え合わせて、行動計画を最終的に決定。最後に装備をチェックしたら、いよいよトレッキングに出発です。
●追記
登山の世界では、気象の安定している午前中のうちに、その日の行動の主要なところを消化してしまうのが鉄則となっています。だいたい、日が昇る少し前に起き、日の出を拝んでから、早々に朝食を済ませて出発。午後3時くらいまでには、キャンプサイトに戻るか、次の幕営の準備にとりかかっているというパターンです。ふだんは生活リズムがめちゃくちゃなぼくも、なぜかフィールドでは、規則正しい生活リズムとなります。
アウトドアでは、とくに朝と夕方の景色は荘厳で、とりまく空気の感触が爽快です。朝寝坊をして、せっかくのモルゲンロート(朝焼け)を見逃したりすると、なんだか一日の半分を損したような気分になります。同じく、次の幕営の準備を早く終えて、景色を堪能する余裕があれば、今度はアーベントロート(夕焼け)をゆっくり楽しむことができます。日が落ちる寸前に真っ赤に燃え上がる山稜、さらにそれから10分ぐらいして全天が茜に輝く夕焼け、運が良ければ、雲海に落ちるブロッケン(雲海の上に伸びた自分の影の周りが七色に輝く現象=ドイツのブロッケン山で良くみられて、『ブロッケンの妖怪』といわれたことからこの名があります)が見られます。早起きは、三文どころか、大きな得ですよ。