序
キャンプというと、かつては小学校の林間学校やボーイスカウトあるいは登山などをイメージさせる、どちらかというと地味でマイナーなアウトドアレジャーでした(キャンプそのものをレジャーというには、若干抵抗がありますが……)。山でキャンプするような“物好き”は女の子にはもてない男のナンバー1と相場が決まっていたものです。
ところが、オートキャンプブームの洗礼を受けた後は、“キャンプ”がアウトドアレジャーの筆頭に踊り出てしまいました。ファッショナブルなRVや、いかにも使いやすそうで豪華なグッズが巷に溢れ、映画の題名じゃありませんが「今度キャンプに連れてって」なんて、若い女の子にリクエストされたりして……。
べつにストイックなほうがいいとは思いません。自然の中で風や鳥の声に耳を傾け、雲や星を眺めて過ごすことの楽しさを誰もが手軽に味わえるようになったのは、オートキャンプの普及のおかげだと思います。
でも、何かが足りない気がするのです。
現にオートキャンプを楽しんでいる人でも、今までのオートキャンプに物足りなさを感じている人は多いのではないでしょうか?
取材で、とある谷間のオートキャンプ場を訪れた時のことです。
3連休の初日だというのに、台風が接近中で生憎の雨模様。狭い谷に切り開かれたキャンプ場は昼前から夕方のような暗さ。2、3日は天気の回復がみこめないことがはっきりしていたので、まさか客など来ないだろうと思っていました。ところが、昼過ぎから続々とキャンプ道具を満載したRVが到着しだすではありませんか。そして、夕方にはなんと満員!?
車一台にタープを張ったら目一杯という広さ(狭さ?)のサイトに、豪華なテントを張り、テーブル、大型ストーブ等々を並べ……といったものだから、個々の人たちの持ち物は高級でも、全体を見渡すと、隣のタープと軒が重なり、張り綱はもつれ、難民キャンプさながら。夕食時になるとそれぞれのサイトから、バーベキューやらラーメン、ステーキに鍋物とあらゆる匂いがたちはじめ、それが谷間で渦を巻きはじめました。
そんな状況の中でも、みんなけっこう楽しそうにしているのです。まあ、グループなら、どこぞの居酒屋でコンパしていると思えば同じようなものなのかもしれません。でも、傍らを見ると、最新のグッズを揃えたカップルが、ワインのグラスをカチリなんてやっているではありませんか。掃き溜めに鶴なんて言ったら他の人に失礼ですが、でも、この難民キャンプの中で、そこだけ妙に清々しい雰囲気だったので、思わずインタビューしたわけです。
「楽しいですか?」
「ええ、もちろん。こうして自然の中で料理を食べると、調味料なんかなくたってそれだけで美味しいんですよ」
どこに自然があるの、と思わず言いかけ、なんとか言葉を飲み込む。
「ここへは、よくみえるんですか?」
「いえ、ここは初めてなんですけど、○○とか××とかはけっこう行きますよ」
と、よく耳にするオートキャンプ場の名前をいくつか上げました。