「けっこう、キャンプをなさってるみたいですね」
「ええ、もうオートキャンプ歴5年ですから。有名なキャンプ場はほとんど泊まりましたよ」
「道具も、立派なのが揃ってますね」
「一通りはね。でも、これくらいは揃えてなくちゃ、快適なキャンプはできないでしょ」
 と、女性のほう。
「いつも、お二人で?」
「そうね、大勢いると、どうしても仲間うちで騒いで、自然に浸ることができないでしょ」
「ところで、明日は、どんな予定なんですか。○○山にでも?」
 と、質問すると、二人同時に怪訝そうな顔をして、
「明日も、もちろんキャンプですよ」
「いや、だから、昼間は、なんかしないんですか?」
「いいえ、私たちは、キャンプに来たんですから」
「……………」
 そろそろオートキャンプブームにも陰りが見えてきているようです。彼らのようなキャンパーが、一通りキャンプ場巡りを終えてしまったということでしょうか。
 これで一つの流行がまた終わったのか、と冷めた目で見ればそれでいいのかもしれません。でも、せっかく自然に接するいい機会を持てたのに、ブームが去ったから、「はいそれまでよ」では、いかにももったいない。オートキャンプのその先に何かを求めたり、キャンプの楽しみをもっと深く味わいたいと思っている人も多いはずです。そもそも、あのカップルがキャンプ場の外へ一歩も出ないのは、出て行って自然と接する術をなにも知らないからではないでしょうか。せっかく、扉に手を掛けながら、それを押したらいいのか引いたらいいのかわからずにいるようなものです。
 キャンプとは具体的な何かではなく、人間が自然に接する一つのスタンスだと思います。自分で荷物を背負ってキャンプサイトまで出かけ、そこをベースにして何かにアプローチするといういちばんベーシックで自然に近いスタンスにたちかえってみることで、何かが見えてくるのでは……そんな発想から本稿はまとめられました。
 これからキャンプでもはじめてみようかという方、あるいは、もっとキャンプの楽しみを掘り下げてみたいという方の道しるべとなれば幸いです。

1997年9月

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