アイスランド語の動詞の変化・過去分詞
　

　英語でもそうですが、過去分詞は完了形や受動形に使うほか、形容詞として名詞を修飾したり補語になったりとさまざまな用途があり、ある意味動詞の変化形の中で一番重要なものといえるかもしれません。
　英語では過去分詞は一度作ってしまえばどんな用法でも語形変化しませんが、アイスランド語では用法によって過去分詞が語形変化する場合としない場合があります。そこでここでは先に語形変化しない用法で使う過去分詞の作り方を見てから、より複雑な語形変化する過去分詞の作り方と変化をまとめてみましょう。
　また現在形や過去形を作るとき区別の必要がなかった弱変化２類と３類は過去分詞を作るときには区別が必要です。

　
語形変化しない過去分詞

　現在完了形・過去完了形や、getaと組み合わせて「できる・できない」を表す構文では過去分詞は変化しません。
　こうした用法の変化しない過去分詞は、本来は過去分詞のさまざまな性数格変化形のうちの中性単数主・対格形です（下記参照）。辞書や入門書の語彙集で見出し語と一緒に挙げられている過去分詞もたいていこの形です。

Hvaða bækur hafið þið lesið eftir Tolkien?（lesaの現在完了形）
　トールキンのどの本を読んだことがありますか。
Hún hafði aldrei heyrt af McDonald áður.（heyraの過去完了形）
　それまで彼女はマクドナルドというものを聞いたことがなかった。
Við gátum ekki hætt að hlæja.（geta＋hættaの過去分詞）
　われわれは笑いが止まらなかった。

　上の例文だと主語は上から複数２人称、女性単数、複数１人称ですが、過去分詞はそれに一致せず中性単数のままです。

　
弱変化１類・３類

　原形に-ðをつけます。ただし弱変化３類では弱変化２類のような作り方をするものがあります。

　
弱変化２類

　原形末尾の-(j)aを取り去り、過去形の歯音Dが-d-、-ð-、-t-のものには-tを、歯音Dが-dd-、-tt-のものには-ttをつけます。

　
弱変化４類

　弱変化４類の動詞は現在形の人称変化が強変化動詞と同じでしたが、過去分詞でも強変化と同じ語尾がつきます。
　原形末尾の-(j)aを取り去り、過去形と同じように（可能なら）語幹母音を逆i-変音させ、-iðをつけます。ただし弱変化２類のように過去分詞を作るものも結構あります。

　setjaやseljaなどは過去形でも逆i-変音しないし、過去分詞も弱変化２類式なので弱変化４類に分類する必要があるのか、という気もしますが、現在形はやはり４類らしく強変化動詞式ですし、なんといっても歴史的にさかのぼるとsetjaもseljaもveljaなどと一群（ja-動詞などという）をなしていたのが確実と思われるのでやはり４類です。

　
強変化動詞

　上で述べたように、辞書などで強変化動詞の見出し語と一緒に挙げてある過去分詞というのが中性単数主・対格ですから、それをそのまま使います。
　ごく少数の例外を除けば弱変化４類と同じで-iðで終わりますが、重要な例外はséð（sjá）です。またbiðjaもbíðaも過去分詞はbeðiðで同じです。

　
性数格変化する過去分詞

　受動形や、過去分詞を形容詞として名詞と一緒に使っているとき、過去分詞は性数格変化します。
　受動形では主語に一致させるだけなので男性単数・複数、女性単数・複数、中性単数・複数の区別だけですが（ただし女性単数と中性複数は常に同形）、形容詞用法のときは修飾している名詞の性数格に合わせ変化し、さらに冠詞類の有無によって（形容詞の）強変化と弱変化も区別されます。

Þessir tölvuleikir eru bannaðir börnum innan 18 ára.（bannaの受動・現在形（男性複数主格））
　これらのパソコンゲームは１８歳未満の児童に対しては禁止されています。
Viðey er gleymda eyjan sem fæstir Reykvíkingar hafa komið í.（gleymaの過去分詞gleymdurの形容詞用法（弱変化・女性単数主格））
　Viðeyはレイキャビクの人でもほとんど行ったことがないような忘れられた島だ。
Flugmaðurinn lenti vélinni á snævi þöktum akri.（þekjaの過去分詞þakinnの形容詞用法（強変化・男性単数与格））
　パイロットは飛行機を雪に覆われた畑に着陸させた。
Með þessum öryggisbúnaði er hægt að slökkva á vél stolinna bíla.（stelaの過去分詞stolinnの形容詞用法（強変化・男性複数属格））
　このセキュリティ装置を使えば盗まれた車のエンジンを停止させることが可能です。

　
弱変化１類・３類（中性単数主・対格が-að）

　中性単数主・対格形にさらに-urをつけたものを男性単数主格とし、あとは-urで終わるふつうの形容詞と同じ変化になります。ただし-aðurのaや、さらに語幹にaがある場合のu-変音に注意してください（表では赤太字）。

-urに終わる形容詞や過去分詞の変化（語尾のみ）

　強変化中性単数主・対格ですが、形容詞は-t（ungur→ungt、fallegur→fallegt）で過去分詞は語幹のみ（ただしu-変音しない）です。本当は形容詞の場合は語幹末の音によりさらに細かい場合分けが必要ですがここでは省略します。

　
弱変化１類　skrifa（書く）→skrifað→skrifaður

　
弱変化１類　banna（禁止する）→bannað→bannaður

　
弱変化３類　skrá（登録する）→skráð→skráður（語幹がáで終わるとき原形と過去分詞で-aはつけないので例外的にu-変音も出てきません）

　
弱変化２類（中性単数主・対格が-t、-tt）

　弱変化１類・３類と同じく、中性単数主・対格形に-urをつけて男性単数主格としますが、-tか-ttになっている歯音を過去形の歯音Dにもどします。あとは弱変化１類の過去分詞と同じく-urに終わる形容詞のように変化します。弱変化２類では語幹にaは出てきませんのでu-変音はありません。

弱変化２類　læsa（施錠する）→læst→læstur（過去単数１/３人称læsti）

　
弱変化２類　gleyma（忘れる）→gleymt→gleymdur（過去単数１/３人称gleymdi）

　
弱変化２類　byggja（建てる）→byggt→byggður（過去単数１/３人称byggði）

　
弱変化２類　þýða（訳す）→þýtt→þýddur（過去単数１/３人称þýddi）

　
弱変化２類　bæta（改良する）→bætt→bættur（過去単数１/３人称bætti）

　
弱変化４類（中性単数主・対格が-ið）

　弱変化４類の過去分詞の性数格変化は強変化動詞と同じになりそうですが、ところどころ弱変化２類のように歯音を入れるところがあり、過去分詞の変化としては一番複雑です。
　まず中性単数主・対格形-iðを-innに替えて男性単数主格とします。あとは-innに終わるheppinn（幸運な）とかopinn（開いた）などの形容詞と似たような変化をしますが、語尾-innのiが脱落する所でnの代わりに過去形の歯音Dが語幹のすぐ後ろに入ります（表では太字）。語幹にaがあるときはu-変音も忘れずに（表では赤字）。

　
弱変化４類　hylja（隠す）→hulið→hulinn（過去単数１/３人称huldi）

　
弱変化４類　krefja（求める）→krafið→krafinn（過去単数１/３人称krafði）

　
弱変化４類　þekja（覆う）→þakið→þakinn（過去単数１/３人称þakti）

　
強変化（中性単数主・対格が-ið）

　弱変化４類と似ていますが、歯音Dの挿入がない分こちらの方がすっきりした変化になります。
　まず中性単数主・対格形-iðを-innに替えて男性単数主格として、あとは-innに終わる形容詞と同じ変化をさせます。歯音Dは出てきませんが語尾-innのiが脱落する所（表では太字）と、弱変化４類に比べてかなり少ないですが語幹にaがある場合のu-変音に注意してください（表では赤字）。

　
強変化３類　finna（見つける）→fundið→fundinn

　
強変化４類　stela（盗む）→stolið→stolinn

　
強変化６類　deyja（死ぬ）→dáið→dáinn

　
強変化６類　vaxa（育つ）→vaxið→vaxinn

　
２００８年８月２８日更新

　
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