アイスランド語の動詞の分類
 

 英語やドイツ語では、語形変化に関して動詞を分類すると規則変化動詞・不規則変化動詞という2区分で、不規則変化は過去形と過去分詞の暗記が必要ですが、規則変化なら全て -ed をつけるだけ(ドイツ語なら -te と ge-t)なのでなにも暗記する必要はありません。
 しかし全てにわたって英語やドイツ語より語形変化の複雑なアイスランド語では、もっと細かい区別が必要で、また暗記が必要な語形も多くなります。
 まず大きく分けると弱変化動詞・強変化動詞・不規則変化動詞の3種となりますが、このうち弱変化というのが英語やドイツ語でいう規則変化に対応し、残りの強変化と不規則変化が英語やドイツ語の不規則変化に対応します。

弱変化動詞(tala、gera、brosa、veljaなど)

 過去形・過去分詞を作るときに、英語の -ed やドイツ語の -te/ge-t のように歯音(舌先を上の歯につけて出す音) -d-、-dd-、-ð-、-t-、-tt- が語幹の後ろに入るのが特徴です。アイスランド語の弱変化動詞に語源的に対応する動詞は英語やドイツ語では規則変化動詞です。
 現在形・過去形・過去分詞の作り方の違いから、弱変化はさらに4種類か3種類に分類することができますが、どれを1類、どれを2類、…と呼ぶかについて習慣化したものがなく詳しい文法書でも統一がとれていません。ですから実用的には、弱変化動詞は分類にこだわらず原形-現在単数-過去-過去分詞を覚えておくといいでしょう。 

本ホームページでの分類 原形-現在単数1人称-過去単数1人称-過去分詞(中性単数主・対格) 特徴
弱変化1類 tala - ég tala - ég talaði - talað 一番規則的な感じで、動詞の数も多い
弱変化2類 gera - ég geri - ég gerði - gert 語幹母音が e、ei、ey、i、í、y、ý、æ のものが多い
弱変化3類 brosa - ég brosi - ég brosti - brosað 語幹母音が a、á、o、ó、u、ú のものが多い
弱変化4類 velja - ég vel - ég valdi - valið 弱変化だが強変化と共通点が多い

 
強変化動詞(drífa、fljúga、drekka、bera、gefa、fara、láta など)

 過去形・過去分詞を作るときに、弱変化動詞のように語幹の後ろに歯音を入れるのではなく、語幹の母音を替えて現在形との違いを表すのが特徴です。英語の give - gave やドイツ語の geben - gab も同じものですが、過去形なのに -ed や -te はなく語幹母音が変わっています。というわけでアイスランド語の強変化動詞に語源的に対応する動詞は英語やドイツ語では不規則変化動詞になっています。
 強変化動詞は過去形・過去分詞での語幹母音の替わり方から7種類に分けることができますが、ある強変化動詞がどのグループに含まれるかわかっても、それだけでは原形から過去形と過去分詞のすべての語形をきれいに導き出せない場合が結構あるので、英語やドイツ語の不規則変化動詞の暗記のときのように、原形―過去単数―過去複数―過去分詞の4つをそれぞれの動詞について丸暗記してしまう方が実用的です(下の表では過去形に主語がついていませんが、強変化のときは母音の交替が重要なのでつけない方が覚えやすいです)。 

原形-過去単数1/3人称-過去複数3人称-過去分詞(中性単数主・対格) 語幹母音のみ 備考
強変化1類 drífa - dreif - drifu - drifið í - ei - i - i
強変化2類 fljúga - flaug - flugu - flogið jó/jú - au - u - o
強変化3類 drekka - drakk - drukku - drukkið e/i - a - u - o/u
強変化4類 bera - bar - báru - borið e - a - á - o
強変化5類 gefa - gaf - gáfu - gefið e/i - a - á - e
強変化6類 fara - fór - fóru - farið a/e - ó - ó - a/e
強変化7類 láta - lét - létu - látið a/á/ei - é - é - a/á/ei
au - jó - ju - au
A-B-B-Aとなるものが多い

 
不規則変化動詞(vera、eiga、vita、vilja など)

 英語やドイツ語の不規則変化動詞が上の強変化動詞に対応するなら、さらに不規則変化動詞などという区分は不要ではと思われるかもしれませんが、ここには弱変化動詞や強変化動詞には分類できないような変化パターンを示し(特に現在形)、しかも他に同じようなパターンを示す語がない孤立したものが含まれます。したがってここに分類される動詞の変化(特に現在形)については、つべこべ言わずに丸暗記した方がいいでしょう(英語の be動詞だってそうですね)。ただしここに含まれる動詞はアイスランド語の be動詞 vera の他は、英語やドイツ語の助動詞に対応するものくらいですから数は少ないです。
 vera 以外をまとめて「過去現在動詞」と一見不条理な名称で呼ぶこともあります。
 

その他の不規則変化動詞

 すぐ上で不規則変化動詞について書きましたが、実は弱変化動詞や強変化動詞にも、それぞれの基本パターンから多少はずれた不規則変化をするものがあります。理屈っぽい話になりますが、そこまで考えるとアイスランド語の不規則変化動詞には、vera や助動詞のような「完全」不規則変化動詞と、弱変化動詞や強変化動詞に一応分類される「不完全」不規則変化動詞というか「若干」不規則変化動詞の2種があることになります。
 上にも書いたように「完全」不規則変化動詞については全人称の変化を丸暗記する必要がありますが、「不完全」不規則変化動詞については、ふつうここは語幹母音が a になるところが e のまま語尾は規則通り(selja の過去形)とか、現在形だけ弱変化して過去形は強変化する(heita)とか、そんなに暗記の手間はありません。
 

かんじんの見分け方は?

 弱変化4類+強変化7類+不規則変化の計12区分があることがわかったところで、ある動詞がそのうちのどれであるか知る方法が気になるところですが、現代アイスランド語を対象とした入門書の語彙集や辞書では「弱3」とか「強4」などとは示されていないのがふつうです。それは上記のとおり、弱変化3類とか強変化4類とかわかっても、それだけではある動詞の変化形すべてを正しく作り出せないことが多いからです。
 ではそうした語彙集や辞書ではどのような書き方がしてあるのかというと、動詞の類にはまったく触れず、弱変化動詞では(現在単数1人称・)過去単数1/3人称・過去分詞(中性単数主・対格)、強変化動詞では(現在単数1人称・)過去単数1/3人称・過去複数3人称・過去分詞(中性単数主・対格)を挙げていることが多いです(ただし現在単数1人称は省かれていることも多い)。
 現在もっとも入手しやすい参考書2冊から具体例を見てみましょう。

 
森信嘉編『アイスランド語基礎1500語』
(viページ参照)

 弱変化動詞の現在単数1人称は省かれているので、弱変化4類を正しく人称変化させるにはコツがいります。
 動詞の種類は見出し語の他にいくつ語形が挙げられているかでわかります。
1つ= -aði (過去単数1/3人称)→弱変化1類
2つ= -di, -t など(過去単数1/3人称、過去分詞(中性単数主・対格))→弱変化2・3・4類
 このうち弱変化4類だけ独特の変化をしますので見分けなくてはなりませんが、過去単数で語幹の母音が逆 i -変音して、過去分詞が -ið で終わっていれば弱変化4類ですのでこれでだいたいわかります。 skilja や leggja などでわかりにくくなっているのは仕方ありません。
3つ=過去単数1/3人称、過去複数3人称、過去分詞(中性単数主・対格)→強変化
4つ=現在単数3人称;過去単数1/3人称、過去複数3人称、過去分詞(中性単数主・対格)→強変化(現在単数で i -変音するもの)

 
Daisy L. Neijmann著『Colloquial Icelandic』(44ページ参照)

 巻末の語彙集では、不規則変化でなければ示す必要のない強変化動詞の現在単数1人称まで挙げられています。
弱変化動詞→現在単数1人称、過去単数1/3人称、過去分詞(中性単数主・対格)
 現在単数1人称が -a とか -i で終わっていなければその動詞は弱変化4類ということになります。
強変化動詞→現在単数1人称、過去単数1/3人称、過去複数3人称、過去分詞(中性単数主・対格)
 ただしこの語彙集は校正していない可能性があるので用心した方がいいかもしれません。323ページだけでアイスランド語に少し詳しければ絶対間違えないような誤植が2か所あります(biðja(bið、bað、báðu、beðið)、bíða(bíð、beið、biðu、beðið))。あと338ページに1か所誤植がありました(leyfa(leyfi、leyfði、leyft))。

 
2022年9月1日更新

 
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