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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case029 ユニ・チャーム
2002.07.25東京第15回 事例報告−1

ベビー用品の”eロイヤリティ・プログラム”実践事例

ユニ・チャ−ム株式会社 eUC推進室長 台代雅之氏
http://www.babytown.jp/

はじめに

 ユニ・チャームは日用品を中心に売上約2000億円超の会社ですが、ベビー用品が半分以上という重要な事業になっています。
 本日は当社がコンビさんと和光堂さんと、赤ちゃん用品3社の連合で展開しておりますポータルサイト「ベビータウン」の取組みについてお話させていただきます。この8月でやっと1年という展開ですが、背景事情、狙い、経過などをご説明して皆様のご参考になればと存じます。また、アドバイスなど戴ければ幸です。

なぜベビーサイトか、なぜ「連合」か

 世にベビーサイトは6万とも10万とも言われています。ベネッセさんや乳業・雑貨メーカーさんなど企業関係、それから個人のサイトも膨大です。わりと早くから確立したカテゴリーです。しかし少子・高齢化の流れの中でサイトに求められるものも少しずつ変化してきていることも確かです。
 ところでなぜ連合か。ご存知の通り年間110万人の赤ちゃんが生まれますが、実は赤ちゃんには余りものは使われないのが市場の特性なのです。オムツがせいぜい2年半、チャイルドシートも法制化があったとはいえ、巨大な市場ではありません。つまり単品、単一メーカーではこの市場規模の小ささから、従来のままでは消費者とのコミュニケーションを強めるといっても限界があるのです。ここに連合を組む必要性があったのですが、ネット普及の本格化の見通しや、基本的なコンセプトに各社がご同意頂き話がまとまりました。それぞれにブランド力もあり信頼性あるメーカーとの評価がありますから、何かしら出来るだろうと・・・。これが一つ目の理由です。

 もう一つ、もっと重要なことですが、たとえば当社が、紙オムツメーカーとして一体何が出来るのだろうか、という問題です。現実には365日お使いいただき漏れた、かぶれたといったトラブルがない限り日常当たり前の商品になってしまっていますから、育児という観点でどれだけのことが言えるのか。おかげで50%からのシェアを戴いてはおりますが、プラスαは何なのかというと案外難しい。同様にミルクや離乳食、用具や玩具にしても専門分野ではそれぞれ語るものがありますが、育児支援という観点から総合的にとなると限界を感じてしまうというのが実情です。

 顧客が求めているものが各メーカーの専門性というよりは、もっと広い総合的かつ専門的育児情報になってきており、そのことにどう対応すべきかが問われているという認識で一致しました。それに取り組んでみよう、というのが二つ目の狙いでした。

 以上のように連合を組むことで戦略的には @効率的に顧客を囲い込み A幅広い情報提供により各社のロイヤリティ向上 を狙った展開となります。
 しかしながら一方で、消費者のグループインタヴューからはメーカーサイトへの評価にはハッキリと2つの矛盾した意見があることも事実です。同じ個人の中に同時に両方があるのです。曰く

  *ポジティブ:「情報が信頼できる」「真剣に消費者のことを考えてくれているので安心」「商品のことが詳しく理解できてよい」
  *ネガティブ:「商品を売り込まれそうで好きでない」「一方的な商品情報が多い」「参考にはするが鵜呑みにはしない」

 この現実を踏まえて、だからこそ育児の悩みやニーズにきちんと応えていく必要があるのだろうと考え、連合での挑戦に踏み切った次第です。

eロイヤリティづくりのビジネスモデル

 ところでターゲット層におけるネットとの関わり方ですが、妊娠期後半と出産後前半の1〜2年間が様々な悩みやストレスがありネットとの親和性が良いということが分かっています。この時期こそロイヤリティ形成にとって重要な時期とも言えます。
 また、私どものような日用品の購買層の傾向はよく言われている通り、客数の上位30%で利益の60-80%、次の40%で10-30%、残り30%で10%以下となります。これは小売業だけではなく我々メーカーでも言えることです。当社のオムツもこの例に漏れず約25%の固定層で60-70%を占めています。従ってその下の40%の人々を含めて、よく買っていただく層でのロイヤリティ獲得が極めて重要課題になっています。

 こうした背景から、我々が目指すロイヤルユーザー創出ということ、つまり「eロイヤリティ・サイトのビジネスモデル」は、育児関連情報の提供や情報交換の場の提供をベースに、FSP(特典ポイント制)による購買履歴や個人情報および成長段階に応じた商品推奨とその利用履歴などの顧客DBに基づいたロイヤル層創出、と定義しました。それを実現するためにこの連合育児ポータルサイトの基本的な構成と役割・機能を整理したのが以下です。(下図)

 価値ある情報サイトであることを大前提に、何よりもまず顧客にとっての「コミュニティサイト」であること、そして「パーソナルサイト」でもありかつ「ポイントプログラムサイト」でなければなりません(構成要素)。そのための機能としてコミュニケーション、マーケティング、プロモーションのそれぞれの中身を詰めていきました。

 ここで我々が目指す「育児サイトのあり方」について若干、触れておきます。
 第一に「基本機能としての良質かつ最新の育児ノウハウの提供」ということ。大変にコストが掛かります。権威ある情報源からの情報入手或いは自らの取材など、大変です。“正しく役に立ってしかもタダ”という世界、だからと言って手抜きをしたら即、信頼を無くす羽目になりかねない面がある。この1年間、ほんとに注力してきました。
 次に「二次的機能、つまりこのサイトへ来る意義があるのか」に関わることです。一つは「妊娠―出産−育児」という人生で大切な思い出を楽しくメモリーしてもらったらどうかということで、従来のようなマス・マーケティングでは出来ないことを採り入れました。例えば「パーソナルページ」です。これは登録の時に誕生日を記入いただきますので簡単なんですが、ページを訪れるたびに「○○ちゃん、今日で○日ね!元気にご成長ですか?」などと呼びかけられるのがとても好評なんです。また「成長カレンダー」なども書き込むために続けて訪問する意味が出てきます。

 二次的機能のもう一つは、「妊娠―出産−育児」に関する個別の悩み・ストレス解消のためのコミュニケーションのあり方です。この部分の悩みは10人10色です。しかも定期検診でも待った割には1,2分で終わりで、聞いたり訴えたりしても軽くあしらわれたり逆に叱られたりと、すっきりしないことが多いようです。かといってよその産院へ行くほどではないし、友達も少ない、親の言うことも大体読めてるし、・・・というような状況の悩みのようです。しかし本人は何かが欲しい。実は最近分かってきたことですが、消費者も下手な答えをメーカーに求めてはいませんで、同じような状況にある人の体験談の方がよほど安心させられるし、或いは状況をしゃべるだけで満足するというのも本当のようです。出産予定日別とか誕生シーズン別掲示板とかが受け入れられているのも肯けます。従来のコミュニケーション方法では決して見えなかったところです。

 1年間やってきて今、会員が22,000人、月間300万ページヴューになっています。会員の半数が毎月必ず訪問して来るアクティブユーザーです。先にお話しましたようないろいろな施策の効果でしょうか、一般よりは高い率といわれています。

”オンライン・コミュニティ“ 決定まで

 以上で「ベビータウン」サイトの概要をご説明しましたが、ここで社内事情も含めての経緯をご参考までに触れておきます。なぜなら、この種決定は、伝統的な多くの日本の企業や経営陣にとっては、理屈はわかっても事業への貢献度が測り難い、見え難いということで容易に決断しかねるテーマであることもまた事実だからです。
 当社では2000年に若手による経営陣への意見具申制度(MMBD)で、IT時代に向けての事業成長の条件として「オンラインによるカスタマー・コミュニケーション・ツールの確立」を提言していました。3月の取締役会に取り上げられ取組みの強化は決議されました。しかし各事業本部にて推進するとの確認のみで、資源投資の話までは具体化しませんでした。売上何ぼで、利益は幾らと見え難いものに投資を考えるのは、しかも各事業本部毎に決断するというのは難しい。
 12月に経営戦略担当取締役(現社長)のリーダーシップでグループ横断での取組みが決定され、人、もの、金がつくことになりました。早速、社内公募でeビジネスへの取組みプロジェクトが立ち上げられ、2001年3月、6名によるオンライン・コミュニティづくりがスタートする運びとなりました。
 このようにオンライン・コミュニティの推進はマーケティングの方向を大きく変換する可能性があります。それだけに経営資源もリスクも必要となります。従って経営トップ自らの強い決定と推進が不可欠だということを身近に教えられました。

 オンライン・コミュニティ・サイトの、事業への貢献度合いを考えるのに、以下のような図があります。

 これでお分かりの通り、我々のベビー市場は年間110万人とニッチでかつブランディングを狙わざるを得ないところにあるのですが、ここは最も効果測定がしずらいセグメントでもあるのです。まさしく社長直属の組織としてこそスタートできたと言わざるを得ません。

“オンライン・コミュニティ”成果と課題

 2001年4月からアライアンス企業との交渉やサイト構築作業に入り、7月コンビ、和光堂の2社さんが決定し、8月1日オープンしました。1年目の結果は先ほどの通りです。なお4月に富士写真フイルムさんがアライアンス企業に参加されています。
 ではこの1年をマーケティングの観点から振り返ってみます。やりたかったことは@顧客の潜在ニーズを察知すること、A顧客とのコミュニケーションの質の改善、B顧客との接点拡大・強化、Cそして顧客の囲い込み(ロイヤリティ獲得)の4つでしたから、順にみてみます。

 顧客のニーズというのはこれまでは紙オムツという商品の使用評価としてしか捉えていなかったが、オンライン・コミュニティによって「お客の生活実態」から来るニーズとして理解できるようになりました。紙オムツは機能的には煮詰まった商品といわれ、各社とも差別化は2次的な色柄とかキャラクターになりがちですが、それはそれで好き嫌いとか、夏は真っ白な無地にしてとか、メーカーの勝手なやりかたが批判されたりしています。なかなか決定的な潜在ニーズの発見までは未だ時間はかかりそうです。

 コミュニケーションの質は高められたかですが、ハイハイ用オムツの導入時の実験では、会員・非会員では認知率で20−30%の差、購入経験では2.5−3.0倍という差になって現れました。マス(CM)で訴求できることとオンライン・コミュニティで出来ることの差をよく証明してくれました。製品を使用する意味付けを伝えられたことの違いが大きいと認識しています。また、ユニ・チャームとしてのブランドリレーションも狙いどおり実現していました。

 次に顧客との接点ですが、これはメーカ−として確立した販売チャネルがあり、なかなかオンラインが肩代わりはできません。ただし情報流では相互バランスが取れていないことは確か。実はサイトのアクセスログから新しい事実が見えてきました。育児の母親は「水曜日」と「深夜」にオンラインに集中する、つまり育児用品のゴールデンタイムがそこにあるという発見。広告費の掛けかたも再考させられます。

 そして顧客の囲い込み。店頭での購買に至ってこそのロイヤリティですので、4月から3社アライアンスのポイントプログラムをスタートしました。マイページに蓄積し、ネット上で随時応募も出来るものです。

 以上のように取り組みは始まったばかりですが、これからの課題を幾つか整理してみますと

  1.ブランディングの難しさ。
   「ベビータウン>ユニ・チャーム>ムーニー>・・・」、しかも3社の混成の中での問題ですから更に複雑です。

  2.新規顧客へのリーチ。
   IT化はリーチもリッチネスも同時実現というのはウソですね。マスは大事でお金も掛かります。それと110万人が毎年入れ替わる中でどう囲い込んでいくのか。

  3.顧客の声へのマーケティング対応。
   1日400件の掲示板への書き込みがあります。その整理には手間は掛かる、読み取りセンスが要る、マイニングで何か出るのか等々、マーケティングへの活用という点では大いに課題を残しています。

 以上です。皆様の企業のご参考、或いは我々とのアライアンス検討のきっかけになれば幸いです。ご清聴ありがとうございました。(文責:事務局)
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