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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case027 シャープ
2002.05.24東京第14回 事例報告−1

市場の壁を打ち破る”オンリーワン商品”の開発

シャープ株式会社 電化システム事業本部
ランドリーシステム事業部商品企画部部長 山本裕二氏
http://www.sharp.co.jp/

はじめに

 低成長期における商品開発の一例として「えりピカそでピカ」のお話をさせていただきます。事務局からは「市場の壁を打ち破る」とたいそうなご案内がありましたが、未だそこまで言うにはおこがましいと自認しております。また私どもの「オンリーワン商品」とは、あくまで世の中にこれまで無かったというのが本意です。決して“独善的”ではないことを自他共に戒めております。今日のご報告を通して、シャープという会社のモノづくりの特徴をご理解いただければ幸です。

エレクトロニクス業界動向と洗濯機市場

 既に皆様ご承知かと存じますが、エレクトロニクス業界の全体的な立場、課題を簡単に要約してみます。

  @中国を中心としたアジア勢との競争。特に白モノといわれるアナログ家電品では顕著です。ちなみに国際賃金比較では日本を100とすると中国は6.3です。これを見ても日本では何をつくるべきか、オンリーワン商品しかないことは明白です。
  Aこれまでの「総合メーカー」から「グローバルNo.1メーカー」にならないと生き残れないことが現実となって来た。3番、4番はもう無いですね。
  Bプラス要因としてデジタル化やブロードバンド化など、新しいビジネスチャンスが出てきています。
  C環境保護、消費者保護の不可欠性。これには環境保全・リサイクル・省エネの各領域毎の対応を具体化することが法律でも決められております。省エネなど既にこれまでも、また今後も永続的に取り組むものもある一方、「易解体(解体のし易さ)」などリサイクル対応商品づくりはこれからです。

 また国内家電市場は「低成長化の価格低下」という二重苦に置かれています。市場は90年の3兆円をピークに02年には2.5兆円までシュリンクする予想です。洗濯機の価格は7kgで98年下期80,000円が01年下期には70,000円まで下がりました。各社とも工場など過去の膨大な投資の回収もあり撤退もままならず、加えて中国製品との対抗もあり、厳しい競争に明け暮れている現状です。こうした状況からどう抜け出すか。答ははっきりしています。お客様に納得して購入いただける商品開発以外にありません。

 なお今日のテーマであります洗濯機市場に関して見てみます。1930年代に電気式洗濯機(攪拌式)1号が出て60年代に遠心脱水式(2槽式)、65年には洗い・すすぎ・脱水の全自動(1槽式)が出て今日に至っています。この間様々な機能改良を加えてきましたが、2000年に日本では始めての乾燥までこなす全自動洗濯機が登場しました。そうした中で需要は年間約470〜480万台で安定していましたが、86年をピークに下降傾向に入り420万台まで落ち込んできました。
 大きな要因は家族数の減少、若い世帯のシングル需要の減少と見られます。就職や就学でも自宅からが増え、移動が確実に減ったようです。ただ、全体が低成長の中で「乾燥式」が年々伸びており構成比も上げてきています。需要構造の転換が起こっていると認識しており、ここに着目した商品開発の余地があることも実感しております。

シャープ流商品開発の原則

 「需要は創りだすもの」。これは創業者早川のものづくり精神、哲学となっています。世の中にないものをつくっていこう、いわば「オンリーワン」志向です。それは単にアイディアではなく「要素技術でのオンリーワン」を意味しています。何も未だ分からない新入社員にも、各地の工場をまわっても、絶えずこのことを言い続けておりまして、私もそれを聞かされてきた一人です。
 よそに無いデバイスからよそに無い商品づくりを目指そうということで、私ども本部ではいま「グリーンデバイス、グリーングッズ」という構想・戦略を打ち出しています。つまりグリーンデバイスという独自の要素技術を基に、健康・パーソナル・ネットワーク・デジタル・環境という大きく5つの分野での商品をつくる、グッズ化してゆこうとしています。
 こと白物家電でも「ホワイト云々」という言い方を止めて、オンリーワン商品戦略としての取組み、つまりは「白物ルネッサンス」をやろうという方向で動いております。

“真空超音波洗浄”洗濯機

 昨年11月に発売しました「えりピカそでピカ」の開発経緯についてご説明いたします。この商品の特徴は3つです。1つは真空超音波洗浄という民生用としては初めての新技術を搭載していること。それによって汚れをなくしてしまうので2つ目は水洗いだけで済む、ないしは洗剤が少なくて済むという特徴があります。これが物議をかもすことになりました。先に三洋電機さんが洗剤要らずの洗濯機とおやりになってすぐまた当社がと!しかし決して洗剤不要というのが本意ではありません。技術の進化がそこまできているということです。3つ目の特徴は「カビきらい」、つまり最近、学会やマスコミで要注意と指摘されています洗濯機の中につくカビの発生や侵入を抑える“シャープ独自の穴なし槽”の採用です。

 ●真空超音波洗浄:身近なところではメガネ屋さんの店頭で実演されている原理と似ています。勿論、当社の技術は桁違いの性能を有しています。仕組みは斧のような形をしている超音波振動子に電流を流すと1秒間に34,000〜35,000回の高速微振動が発生します。これを超音波ホーンで増幅して衣類に伝えます。このとき同時にバルブから水を噴射してやります。すると繊維の隙間に真空の泡が発生しやがて約1,000気圧もの力で泡が弾けて汚れを飛ばす仕組みです。

 ●洗剤節約効果:特に汚れのひどいところを真空超音波洗浄してしまえば、全体として洗剤が少なくて済みますので節約になります。モノと状況にもよりますが50〜30%は節約になる結果を得ています。決して洗剤不要とは言っておりません。

 ●穴なしステンレス槽:10年前にシャープが採用し特許ともなっているものです。従来は各社とも穴開きで、材質も樹脂を使った槽でした。湿気を免れない部分ですから黒カビが発生しやすいところでもありました。また構造上から来るメリット、例えば水・洗剤の節約、布傷みの抑制、急速な槽の反転が可能で洗浄力が向上などにも繋がっています。

 ではこのような商品開発を当社はどのように進めてきたかについてお話いたします。


コンカレント・エンジニアリング

 コンカレント・エンジニアリングとは「同時開発」と言い換えても良いかと思いますが、商品開発の一般的な流れであります構想・企画立案・DR・商品化のステップに対して、各機能セクションが普通はそれぞれの役割をバトンタッチしていくところを、コンカレントでは、流れの早い時期から各セクションが同時に関わりながら開発してゆこうというやりかたです。当社ではこのやりかたがかなり当たり前になっております。私ども商品開発部と言わずに商品企画部となっているのもその表れかも知れません。

 ●ユーザー調査:主婦の意識調査など毎回毎回、行われています。大体のところはいつも一緒です。例えば「洗濯機では落ちにくい汚れ」に対しての不満が86%あっても、ああそうか、で終わってしまっていました。しかし今回は徹底して追及してみようということで、いろいろ調べてみました。社員の家庭の協力等で「洗濯日記」なども実施してみました。しかし記録というのはなかなか難しいようです。続かなかったり忘れたり、しかもよほど良くないことしか出てこなかったり。よほど良くない点は我々にも既にわかっているのです。
 ある時、休日に家内が洗濯しているのをじっと見てましたら、やはり部分汚れやシミなどに洗剤つけてブラシでこすったりしていました。なるほど困ってるんだなあと思いました。ただ、自分とか子供のものは丁寧なのに亭主のものはいい加減という奇妙な現象のおまけがついていましたが!
 実は真空超音波洗浄の技術は4年前に出来ていました。ただバカでかく使い物にならないというので断念していました。しかし今回、それをどうにか小型化して社宅の奥さん方20人程に使用してもらいました。「よく落ちるわ」とか「いいですね」と評判だったのですが、念のためご主人方に奥さん達の本音をそれとなく聞いてもらったところ、「あんなのいちいち使えない」「めんどうだわ」など、惨憺たる評価でした。

 ●コラボレーション:もっと小型化できないか、もっと使い勝手良くできないか、更に社内中に協力要請しましたが、技術的に無理、というのが結論でした。しかし魚群探知機など真空超音波技術が応用されている分野やそれぞれの専門家・大学教授などたくさん存在する筈です。いろいろ歩き回りやっと外部協力者を探り当て、更に小型化・L字型・高性能化に漕ぎ着けました。それが2年前です。最近でこそコラボレーションが言われていますが、私どもでは「協力戴けるものは飛びつけ!」というのが体質でして、コラボの重要性をあらためて実感した次第です。

 ●ニーズとシーズの融合:ニーズのないところにシーズを持ってきても始まりません。しかしニーズがあってもシーズが合わなければものになりません。どちらが先かとよく聞かれますが、同時進行が正解ではないかと思っています。留保されていた「えり、そで」への不満が83%と大きいのに、洗濯機としての踏み込みが無かったわけですから、私どもの挑戦はそれなりの意義があると考えています。このことを「ユーザーが納得できる商品づくり」と定義し、私どもの基本コンセプトとしております。

 ●ユーザビリティ:これまでの商品デザインでは機能品質を重視した進め方をしてきました。しかしユーザーが納得するには利用品質という軸を持たないと失敗します。機能品質を縦軸、利用品質を横軸とした象限の右肩上がりの矢印(ベクトル)がユーザビリティです。今回いくつかの試作品についてユーザビリティ・テストを実施しました。私どもは離れたところ、ガラス張りの部屋などにいて口出し出来ないようになっていて、ひたすらじっと観察するというやり方です。私どもの常識や思い込みをぶち壊すこと、考えてもみなかったことなどの知見がいろいろ発見出来ました。
 これを整理してデザイン、設計、生産などいろいろな担当者に配布してそれぞれ絵を画かせました。1人5〜10枚ずつ、100数十枚集まりました。これらを整理してまた試作品を3通り作り、ユーザビリティ・テストに掛けました。ほぼ絞られたのを社長に見てもらったら「こんなの商品やない!」と一蹴され、それからも何度か試作とテストを繰り返し、今カタログでご覧のものに決定されました。第三者の目の大切さを痛感しております。

 ●プロモーション:商品が決まったら宣伝や販促は販売部門に任せるのが普通ですが、今回は商品企画部も大いに関与しました。戦略的広報活動ということで、自治体、消費者団体、TVの生活情報番組などへの働きかけに注力しました。商品の特性を納得していただくこと、そのためにキーとなることを突き詰めていった結果です。
 また一番困ったのは、営業部門から言われたことでした。「なんぼ納得して貰うといっても、たとえばヨドバシカメラさんやラオックスさんの店頭で洗濯でけへん」、「実演キットでも作ってくれ」というもの。これも今回は我々企画部門が中心で開発して、店頭での活用で効果を上げた次第です。

市場反響と今後の展開

 購入者調査では8割が満足して戴いております。後は今後の開発への課題と受け止めております。マスコミや流通筋からの評価も概ね良好でした。やはり商品特性の新しさが要因のようです。販売状況は、昨年が駆け込み需要で異常に高かったわけですが、その対比で1.5倍のペースです(7、8kg)ので、これが無かったことを考えるとぞっとさせられます。
 なお今後の展開では超音波技術の拡がりと、環境対応技術への取り込みが課題です。いずれにせよ低成長、低価格時代を生き残るにはコストダウン、オンリーワン商品開発、コモディティ化からの脱却という果てしないスパイラル競争への挑戦あるのみと自戒しております。ご清聴ありがとうございました。

 Q&A

Q:購入層は?
A:30代小児持ち、20代新しいもの好きを想定したが、あらゆる年代層に拡がりを見せた。

Q:今回に限りコンカレントだったのか?
A:否。当社は概してコンカレント方式が多い。ただ試作は多くて3次試作止まりだが、今回は8次試作まで掛けた。それだけコストも掛けたが成果も出たと思う。

Q:キンプロ(緊急プロジェクト)だったのか?
A:否。これしきのレベルではならない。しかしキンプロ並に予算がついていろいろさせてもらった。

Q:ネーミングがユニークだが、どう決めたか?
A:社内の女の子と社長が決めた。我々も広告代理店もあれこれ苦慮したが顧客のわかり易さが今一だった。

(文責:事務局)
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