こうしたデル・モデルは、商流、情流、物流、金流の4つの評価視点があり、特にロジステイックス部門では情流(情報の流れ)と物流(物理的物の流れ)をフォーカスしています。ウエイト配分は報流に約80%、物流に約20%となります。情報の量、伝達スピードそして精度を常に最高のレベルに維持することで思い切った先行手配が行えます、物流はあくまでも物理的な箱の通過と損傷チェックを行うのみとなります。約70の数値化された効率測定項目があります。ぞれぞれの項目には目標、現状、ギャップ、取るべきアクションと担当者は誰、というサイクルを瞬時に回せるようにしています。なお金流ではCCC(Cash Conversion Cycle)と呼ばれる会計指標で流れをモニターしています(買掛金・日数−売掛金・日数=限りなく0に近づけること)。
■情報共有 〜ローコストオペレーションの条件
@受注の流れ:デルでは注文をインターネット、電話(受注センター)、営業マン(法人)の3つの方法で受けています。需要形態では法人が約80%ですが、法人でも最近はインターネットでの発注が増えており、全体ではインターネットによる注文が既に50%を超えるまでになっています。
A情報の流れ:受注情報は即座に生産工場に届けられるのは当然ですが、デルの場合は同時にサプライヤーと物流会社(センター)にもシェアされます。これによってサプライヤーはデルからの発注状況をリアルタイムに把握でき、生産計画や部材発注の予測や計画がたて易くなり、様々なコストダウンにも繋がります。物流センターでも生産が始まる前から物流計画が立ちコストダウンが図れます。
なお関連して言いますと、デルではリボルビング・ウェアハウスという、言わば工場の近隣や同じ屋根の下にサプライヤー在庫を持つ方式をとっておりますので、横持ちやピッキングや管理コスト等の節約にも貢献しています。
B物流の流れ:生産された商品は100%飛行機で運ばれます。
C納期情報サービス:注文した顧客からの問合せに応えるサービスでもあり、デルとしてのローコスト対応施策でもあります。Web上でも、或いは電話でもコンピュータが自動的に瞬時にお答えします。商品が手元に届くまでのお待ちいただく間をより楽しくする意味合いも考えた施策なのです。
■インターネットの活用
情報共有のところとも多少重複しますが、3つほど画面をご覧いただきます。
*プレミアページ:法人所属の方だけがパスワードで入れるページです。価格も見られ、見積も作れます。基本的なことは人手を掛けずにシンプルに、お客様側はいつでも確実にデルと連絡がとれるという仕組みです。
*オンラインサポート:ご購入いただいた製品のデータベースがご自分でもサイトで見られます。いわば履歴ですが製品一台一台のカルテのようなものです。人手は要らないしお客様も便利です。5桁の製造番号をお客様に入れていただくだけで瞬時に検索が可能。
*納期情報サービス: 24時間365日いつでも対応可能な全自動の納期情報サービス (オーダーステータス)システム。注文番号等を入れていただくと、ご自分の注文は今、7つの段階の何処にいるか分かります。生産準備中、生産中、・・・完了など。今1日2000件ほどのご利用があります。お客様の満足度向上への貢献はもとよりデル社にとっても人件費の大幅な削減に寄与しております。
このようにして生み出されるコスト(利益)は、全て製品価格に反映させるというのがデルの基本方針です。単にマーケティングだけからの利益ではなく、オペレーション面からも原資を得ることが徹底されています。インターネットの威力をあらためて認識せざるを得ません。
■スピード経営
デルではあらゆる局面でスピードが重視されます。消費者の好みが猛スピードで変わりますと、在庫や材料などのリスクが発生します。それをどう回避するか。ここにオペレーションの基本命題があります。
@情報の共有:受注から納品までのサプライチェーンの何処かでもし必要な情報が途絶えるとなると誰しも守りの行動をとる恐れがあります、つまり在庫保有行動が発生し過剰在庫のリスクが生まれます。情報共有、しかも早い段階からの共有こそが最重要になります。
A数値データによる促進:SCMの各段階に数値目標を設定してスピードを測る仕組みが出来ています。ゴールを共有し切磋琢磨して全体を如何に縮めるか腐心します。
Bジャストインタイム:たとえばお客さまの必要な納品日が2週間先の場合、普通は早めに作っておこうとしがちですが、デルはそうしません。その日から逆算して最適な時を算出して生産に入ります。納品日→配送→飛行機着・発→生産完了→・・・生産準備と逆算のプログラムをコンピュータの中に作りました。早すぎても遅すぎてもリスクが生まれる、そば屋の出前に似ています。
C一気通貫:出来上がった商品は一気にお客様に納品します。中国からは、1日1便〜2便の貨物機で製品を日本に空輸しております。アモイをお昼過ぎに出て日本(名古屋、関空)に夕方着き税関手続き後、私どもの物流センターへ翌朝入ります。 その翌日、製品は全国の殆どの地域のお客様の手に日届けられます。
D3つの物指し:量、距離、時間などの物指しの内、我々は時間をよく使います。高速道路も時間を経て普通の道路の混雑と変わらなくなります。それでは意味がありません。どう工夫して生産性を高めるか、業務の随所で物指しが使われているのです。
E業務分析:その観点の第1はお客と自社の双方にメリットがあることです。たとえば2年前に関西にセンターをオープンしました。これにより翌日配送エリアのカバー率が大幅に広がりお客メリットも増し販売も押し上げました。当然配送能力も上がり、国内配送コストも予測道理に下がりました。何よりも在庫日数が1日減ったのです!
F業務改善のケース:先にも申しました納期情報サービスが典型です。言ってみればピザを注文して待つ間、それを絶えず見ながらワインでも飲んでおしゃべりして楽しく過ごす例えです。納期情報を知らせないところは無いと思いますが、お客様と作り手が一緒になって楽しむ仕組みは未だなさそうです。
SCM実践を支えるデル経営の特性
いくつかデルのオペレーションのポイントをお話いたしましたが、その背景にあるデル経営の特性を整理しておきたいと思います。
@垂直統合から仮想統合へ:「ものから情報へ」、在庫でなく情報を持ち合おうということ。「資産から知恵へ」、インターネットがあれば東京の一等地でなくとも川崎でも十分ということ。「閉鎖系から開放系へ」、系列で顧客価値を阻害するよりパートナーシップで顧客は勿論、供給側の価値も高めようということ。そんな風に理解していただければと思います。
A信頼の絆:特にパートナーとの間の問題です。本質はあくまでも「顧客のために何が出来るか」なのですが、パートナーシップを組んだ場合にボタンの掛け違いが起こることがあります。それをなくすためデルでは「パートナー・スコアカード」という仕組みを使っています。
勿論、パートナーとは契約を結んでいますが、これは単純なもので婚約みたいなものです。しかしそれだけではビジネスはうまくゆきませんので、いくつかの項目を設定します。各項目が自己採点、デル採点、ギャップ、改善方法、相互成長の5軸で確認し合えるようにしています。ギャップがあるから話し合いが可能になり、信頼も深まります。項目としてはたとえば「戦略の理解」「ビジネスリスク(Y2Kなど)」「業務品質の向上と維持」「デルのビジネスの理解(何故在庫ゼロでなければならないかなど)」「(パートナーの)経営者の理解とバックアップ」などがあります。前に触れた納期情報などと同じように、このスコアカードは大変よい仕組みです。皆様も研究してみることをお勧めします。
B人材への期待:冒頭にも申しましたが「グローバルタレント」の一語に尽きるようです。全体を見る力ですね。私の人材登用・採用の基準もそこに準拠しています。
例えば1万メートルの上空から大局が読み取れること、問題の位置と状況を概観できること、そこに降りてみて分析・原因把握・対策検討し提案できること。この上下の行き来を速いスピードでできること。採用も育成もそんな方針でやっています。