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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case026 デルコンピュータ
2002.05.24東京第14回 事例報告−2

デル・モデルの屋台骨、”オペレーション”の実践

デルコンピュータ株式会社 オペレーション本部本部長 新良 清氏
http://www.dell.com/jp/

はじめに

 当社はアメリカに本社を置くデルコンピュータの日本法人です。アジア地域全体のオペレーション戦略の中核をも担っています。急速なグローバル化を痛感する毎日です。特に重要なのは人材で、グローバルタレントの有無がビジネスの成否を左右すると言っても過言ではありません。スピード・コスト・品質の競争を勝ち抜くために、人間のボーダレス、ITのボーダレス、国のボーダレスは必然です。本日はオペレーションがテーマですが、激動する世界市場において企業が成功するにはグローバルタレントの育成がますます重要になってきていることも付け加えさせて頂きたいと思います。

 私のこの5年間は煎じ詰めれば「サプライチェーンのBPI」とそれを推し進めるための原動力となる「人材育成」の仕事だったとも言えます。オペレーションを支えるもの、それはやはりそうした人材に他ならないからでしょう。

デルという会社

 デルコンピュータは1984年マイケル・デルが19歳の時に起こした企業です。創業18年で約4兆1,000億円(2001.2―2002.1)の売上、世界170以上の拠点で事業を展開しています。2001年にワールドワイドでシェアN0.1のPCメーカーになっています。日本法人は1989年6月に設立され1993年1月から日本における販売活動を本格的に開始しました。日本法人の所在地は神奈川県川崎市。

 生産拠点はオースティン、ナッシュビル(北米)、ブラジル、リムリック(アイルランド)、ペナン(マレーシア)、アモイ(中国)の6箇所です。アモイに3年前に実験工場を設立、そして一昨年11月に新たに最新鋭設備を備えた量産工場を完成し本格的稼動に移行しました。日本へも昨年5月から出荷が開始されています。一般的には中国での工場設立はコスト面で人海戦術重視が有利と思われがちですが、デルは人的数量や熟練度に頼るより最新鋭設備を投入することでより品質の安定した製品の量産を目指しています。これにより急激な需要の増加に伴う生産ラインの人員増加も短期間のトレーニングで対処することが可能です。

 またアモイ工場から約800mの位置に隣接してアモイ飛行場があります。ここは日本への出荷の基地であり、車で3分というまさに工場のエンド的な好立地となっております。なおペナンにはAPCC2という第2工場(APCC1の4倍規模)を昨年新設しました。そこでは、多国籍の人々が大勢働いております。アモイ工場は日本や中国、ペナン工場はインドやオーストラリアなど、アジア全体を視野に入れての戦略的工場配置でもあります。

 デルコンピュータの事業の特徴はデル・ダイレクト・モデルとして知られています。サプライヤーとのパートナーシップを大切にし、在庫を持たない受注生産をし、直接販売し、サービスやサポートもダイレクトに行う方法です。重要なことはこれら全てがインターネットで結ばれることです。

 また、デルの企業文化にも際立った特徴があります。4大特徴の頭文字をとって“SOFT”と呼称しています。つまりSpeed, Openness, Fairness, Transparencyです。お客様への対応の最大の価値はスピードですが、そのためには経営組織のフラット化が重要です。デルでは一般社員、マネジャー、ディレクター、社長とせいぜい4,5階層でシンプルにコミュニケーションが取れるようになっています。加えて誰もが気軽に話し合えるオープンさもデルならではの素晴らしさです。その前提には内部の誰それさんがどうのというのではなく常にエンドユーザーを中心に据えた話題であることという明快なルールがあるからです。それから公平性。デルは世界的な事業展開ですし多国籍な人々が働いていますので、明快な実力主義で無ければなりません。最後に透明性ですが、これは特に経営人が何を考えているのか、会社はどの方向に進もうとしているのかを常に社員に伝えているということ。例えば年度始めに事業計画とゴールが全世界の社員に示されます、進捗状況はその後定期的に電子メールで社員にも公表されます。また頻繁に経営層からのメッセージが社員に対し映像・音声・文字入りでイントラネットを経由し配信されます。

 つぎに人材育成に関してですが、最近、弊社ではeトレーニングを積極的に採り入れています。 社員は各種のトレーニングを自分の都合の良い時間に合わせ受講することができます。この方法は地方(リモートオフィス)勤務の社員にも大変好評です。公衆回線でもワイヤレスでもいつでも簡単にアクセスしでき、大変良い効果が上がっています。これは皆様にも是非お勧めしたいと思います。

デルのオペレーション戦略

 では以下に、デルのオペレーション戦略について、SMCの観点からいくつかのポイントについてお話させていただきます。

 ■デル・モデル

 @顧客フォーカス:顧客のために自分が何を出来るかを第1に考えます。顧客とは「最終ユーザー」であり、ここでの自分とは「デルおよびパートナー企業の合同チーム」を意味します。

 Aパートナーシップ:弊社は多くの分野において社外の企業と戦略的パートナーシップを組んでおります。部品サプライヤー、物流パートナー、など等全てのパートナーはデルと対等と位置付けています。

 Bマス・カスタマイゼーション:1台1台仕様の異なる製品を大量生産します。高度な生産技術・工場技術の基に成り立っています。

 Cジャストインタイム:常に最新のテクノロジーで最高の価値(製品)を一早く市場に届けております。技術革新の早いハイテクの世界の「在庫保有」は注意が必要。




 こうしたデル・モデルは、商流、情流、物流、金流の4つの評価視点があり、特にロジステイックス部門では情流(情報の流れ)と物流(物理的物の流れ)をフォーカスしています。ウエイト配分は報流に約80%、物流に約20%となります。情報の量、伝達スピードそして精度を常に最高のレベルに維持することで思い切った先行手配が行えます、物流はあくまでも物理的な箱の通過と損傷チェックを行うのみとなります。約70の数値化された効率測定項目があります。ぞれぞれの項目には目標、現状、ギャップ、取るべきアクションと担当者は誰、というサイクルを瞬時に回せるようにしています。なお金流ではCCC(Cash Conversion Cycle)と呼ばれる会計指標で流れをモニターしています(買掛金・日数−売掛金・日数=限りなく0に近づけること)。

 ■情報共有 〜ローコストオペレーションの条件

 @受注の流れ:デルでは注文をインターネット、電話(受注センター)、営業マン(法人)の3つの方法で受けています。需要形態では法人が約80%ですが、法人でも最近はインターネットでの発注が増えており、全体ではインターネットによる注文が既に50%を超えるまでになっています。

 A情報の流れ:受注情報は即座に生産工場に届けられるのは当然ですが、デルの場合は同時にサプライヤーと物流会社(センター)にもシェアされます。これによってサプライヤーはデルからの発注状況をリアルタイムに把握でき、生産計画や部材発注の予測や計画がたて易くなり、様々なコストダウンにも繋がります。物流センターでも生産が始まる前から物流計画が立ちコストダウンが図れます。
 なお関連して言いますと、デルではリボルビング・ウェアハウスという、言わば工場の近隣や同じ屋根の下にサプライヤー在庫を持つ方式をとっておりますので、横持ちやピッキングや管理コスト等の節約にも貢献しています。

 B物流の流れ:生産された商品は100%飛行機で運ばれます。

 C納期情報サービス:注文した顧客からの問合せに応えるサービスでもあり、デルとしてのローコスト対応施策でもあります。Web上でも、或いは電話でもコンピュータが自動的に瞬時にお答えします。商品が手元に届くまでのお待ちいただく間をより楽しくする意味合いも考えた施策なのです。

 ■インターネットの活用

 情報共有のところとも多少重複しますが、3つほど画面をご覧いただきます。

 *プレミアページ:法人所属の方だけがパスワードで入れるページです。価格も見られ、見積も作れます。基本的なことは人手を掛けずにシンプルに、お客様側はいつでも確実にデルと連絡がとれるという仕組みです。

 *オンラインサポート:ご購入いただいた製品のデータベースがご自分でもサイトで見られます。いわば履歴ですが製品一台一台のカルテのようなものです。人手は要らないしお客様も便利です。5桁の製造番号をお客様に入れていただくだけで瞬時に検索が可能。

 *納期情報サービス: 24時間365日いつでも対応可能な全自動の納期情報サービス (オーダーステータス)システム。注文番号等を入れていただくと、ご自分の注文は今、7つの段階の何処にいるか分かります。生産準備中、生産中、・・・完了など。今1日2000件ほどのご利用があります。お客様の満足度向上への貢献はもとよりデル社にとっても人件費の大幅な削減に寄与しております。

 このようにして生み出されるコスト(利益)は、全て製品価格に反映させるというのがデルの基本方針です。単にマーケティングだけからの利益ではなく、オペレーション面からも原資を得ることが徹底されています。インターネットの威力をあらためて認識せざるを得ません。

 ■スピード経営

 デルではあらゆる局面でスピードが重視されます。消費者の好みが猛スピードで変わりますと、在庫や材料などのリスクが発生します。それをどう回避するか。ここにオペレーションの基本命題があります。

 @情報の共有:受注から納品までのサプライチェーンの何処かでもし必要な情報が途絶えるとなると誰しも守りの行動をとる恐れがあります、つまり在庫保有行動が発生し過剰在庫のリスクが生まれます。情報共有、しかも早い段階からの共有こそが最重要になります。

 A数値データによる促進:SCMの各段階に数値目標を設定してスピードを測る仕組みが出来ています。ゴールを共有し切磋琢磨して全体を如何に縮めるか腐心します。

 Bジャストインタイム:たとえばお客さまの必要な納品日が2週間先の場合、普通は早めに作っておこうとしがちですが、デルはそうしません。その日から逆算して最適な時を算出して生産に入ります。納品日→配送→飛行機着・発→生産完了→・・・生産準備と逆算のプログラムをコンピュータの中に作りました。早すぎても遅すぎてもリスクが生まれる、そば屋の出前に似ています。

 C一気通貫:出来上がった商品は一気にお客様に納品します。中国からは、1日1便〜2便の貨物機で製品を日本に空輸しております。アモイをお昼過ぎに出て日本(名古屋、関空)に夕方着き税関手続き後、私どもの物流センターへ翌朝入ります。 その翌日、製品は全国の殆どの地域のお客様の手に日届けられます。

 D3つの物指し:量、距離、時間などの物指しの内、我々は時間をよく使います。高速道路も時間を経て普通の道路の混雑と変わらなくなります。それでは意味がありません。どう工夫して生産性を高めるか、業務の随所で物指しが使われているのです。

 E業務分析:その観点の第1はお客と自社の双方にメリットがあることです。たとえば2年前に関西にセンターをオープンしました。これにより翌日配送エリアのカバー率が大幅に広がりお客メリットも増し販売も押し上げました。当然配送能力も上がり、国内配送コストも予測道理に下がりました。何よりも在庫日数が1日減ったのです!

 F業務改善のケース:先にも申しました納期情報サービスが典型です。言ってみればピザを注文して待つ間、それを絶えず見ながらワインでも飲んでおしゃべりして楽しく過ごす例えです。納期情報を知らせないところは無いと思いますが、お客様と作り手が一緒になって楽しむ仕組みは未だなさそうです。

SCM実践を支えるデル経営の特性

 いくつかデルのオペレーションのポイントをお話いたしましたが、その背景にあるデル経営の特性を整理しておきたいと思います。

 @垂直統合から仮想統合へ:「ものから情報へ」、在庫でなく情報を持ち合おうということ。「資産から知恵へ」、インターネットがあれば東京の一等地でなくとも川崎でも十分ということ。「閉鎖系から開放系へ」、系列で顧客価値を阻害するよりパートナーシップで顧客は勿論、供給側の価値も高めようということ。そんな風に理解していただければと思います。

 A信頼の絆:特にパートナーとの間の問題です。本質はあくまでも「顧客のために何が出来るか」なのですが、パートナーシップを組んだ場合にボタンの掛け違いが起こることがあります。それをなくすためデルでは「パートナー・スコアカード」という仕組みを使っています。
 勿論、パートナーとは契約を結んでいますが、これは単純なもので婚約みたいなものです。しかしそれだけではビジネスはうまくゆきませんので、いくつかの項目を設定します。各項目が自己採点、デル採点、ギャップ、改善方法、相互成長の5軸で確認し合えるようにしています。ギャップがあるから話し合いが可能になり、信頼も深まります。項目としてはたとえば「戦略の理解」「ビジネスリスク(Y2Kなど)」「業務品質の向上と維持」「デルのビジネスの理解(何故在庫ゼロでなければならないかなど)」「(パートナーの)経営者の理解とバックアップ」などがあります。前に触れた納期情報などと同じように、このスコアカードは大変よい仕組みです。皆様も研究してみることをお勧めします。

 B人材への期待:冒頭にも申しましたが「グローバルタレント」の一語に尽きるようです。全体を見る力ですね。私の人材登用・採用の基準もそこに準拠しています。
 例えば1万メートルの上空から大局が読み取れること、問題の位置と状況を概観できること、そこに降りてみて分析・原因把握・対策検討し提案できること。この上下の行き来を速いスピードでできること。採用も育成もそんな方針でやっています。

まとめと今後の課題

 SCMの視点からデルのオペレーションの一端をお聴きいただきましたが、ポイントを整理してみます。

 ・顧客とは「最終ユーザー」のことである。
 ・スピードとは「明確な数値とゴール」をもつ。
 ・情報共有とは「ローコストオペレーション」の基本条件であり、EDIでなくてもインターネットで十分可能である。
 ・パートナーシップは互いの利益を生む。
 ・必要な人材とは「グローバルタレント」である。

 最後にデルの今後の課題ですが、それは経営環境の変化をどう見るかにも規定されると思います。先ずそう遠くなく経済活動上では「国境は無くなる」でしょう。中国の例でも我々の説得でアモイと深川の税関の慣習を変えさせたり、日本への直行便を飛ばせたり出来ました。ITの世界でも既に国境は無くなりつつあります。また言葉もアモイでもマレーシアでもビジネスは英語が主流です。そうした環境のもとで高スピード、高品質、低コストの競争が激しさを増すでしょう。どう対応すべきか。 冒頭にも申し上げましたが人材=グローバルタレントこそが新たな解決策を生みかつ実践できるでしょう。やはり人材育成こそがデルの課題と言えましょう。ご清聴ありがとうございました。(文責:事務局)

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