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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case025 プラネット
2002.03.27東京第13回 事例報告−2

化粧品・日用品業界の情報ネットワーク”プラネット”

株式会社プラネット 取締役専務 井上美智男氏
http://www.planet-van.co.jp/

はじめに

 一般消費財、中でも化粧品・日用品業界における情報ネットワークの現状とプラネットの役割についてお話させていただきます。先ほどのラクーンさんのような革新性には至りませんが、日本の伝統的流通もIT時代を迎えて大きく変わりつつあることを感じ取っていただければと存じます。

消費財の流通ネットワーク化の経緯

 先ず簡単にネットワーク化の経緯を見てみます。80年頃から大手小売業さんが中心ですが、卸店さんへのオーダーをオンラインで行うEOS(Electronic Ordering System)が現れました。小売業さん毎にそれぞれのネットワークを利用しなければなりませんし、1アイテム(1行)当たり3〜7円の経費を徴集されますので、卸店にとっては負担になるシステムでした。この頃は未だ卸店とメーカーとの間では営業マンが介在して注文を取るという従来の形が中心でした。

 85年に電気通信事業法の成立を機にVAN会社が相次いで登場します。メーカーと卸の間には業界VANが、卸と中堅小売との間には地域VANが生まれました。私どもプラネットも業界VANとして85年に設立されました。地域VANは一時、各県に1つないし2つ、合計で50以上出来ましたが、データ量の多さや発注データだけでは価値が無いなどで相当数が淘汰されました。やはり多対多(N対N)で、かつ発注から決済までのデータ種の豊富さが求められていたわけです。

 90年頃からEDI(Electronic Data Interchange)が言われ始めます。企業間のコンピュータの結合により標準化されたビジネス文書を電子的に交換し、企業間の取引を完結するものです。私どもプラネットではEDIの成立条件として@標準化、AN対N、B多数のデータ種、C明確なコスト負担ルール、の4つを重視しています。どれが欠けてもうまくいきません。EDIが回りだしますとメーカーと卸、卸と小売がそれぞれにいわゆる一体型のバーチャルコーポレーション化し、スムーズな関係が出来てきます。

 一方、93年にアメリカからECR(Efficient Consumer Response)という考え方や技術が上陸します。小売は卸に、卸はメーカーに、それぞれ発注データだけでなく在庫や販促計画の情報も開示して、欠品ロスや在庫ロスを最少にする商品補充をしましょうというものです(CRPによる連続補充、CPFR = Continuous Planning and Forecasting Replenishment)。日本ではなかなか普及せず今日現在でもごく一部の導入に限られています。

プラネットの機能

 先ほども触れましたがプラネットは業界VAN第1号として85年8月に設立されました。資本金3.9億円、「流通機構のインフォメーションオーガナイザーとして最適なソリューションを提案し、流通機能の強化に貢献する」という経営理念をもって事業を開始しました。キャッチフレーズは「システムは共同で、競争は店頭で!」を謳っております。

 当時卸店さんにコンピュータが入り始めた頃で、ライオンさんが逸早く120社ほどの卸店さんと繋げて、小売店さんへの出荷データを集めて販売計画やマーケティング計画に活用していました。そのうちに各メーカーさんも我もわれも導入しようとしましたので、卸店さんは端末だらけになる心配がありました。たまたまユニチャームさんがライオンさんに一緒に使わせてくれないかと話があったことをきっかけに、ライオンさんの大英断があり資生堂、サンスター、ジョンソン、クレシア、エステー化学、牛乳石鹸を加えた8社が発起人となってプラネットが設立されました。正確にはVAN会社は株主でもあるインテックさんで、プラネットはVAN運営会社といいます。

 その後、松下電器さんやP&Gさんなど参加メーカーさんが増え、現在224社になりました。販社流通の花王さんも数年前に参加され、株主にもなっていただいております。なお株主には大手の卸店さんも加わっていただいております。

 プラネットの事業・サービスは大きく分けて4つです。@EDI事業(基幹EDI=メーカーと卸、資材EDI=資材サプライヤーとメーカー)、Aデータベース事業(商品DB、取引先DB)、Bプラットフォーム事業(CRP=連続自動補充プログラム、専用掲示板、シングルポータル=バイヤーズネット)、Cコンベンション事業(PMF=プラネット・マーケティング・フェア、PMFネット)です(「プラネットのシステム概念図」参照)。

 大変入り込んでいて理解しにくい図ですが、要は古いシステムにも対応させながら新しいシステムへの移行も出来るようにしている分、複雑になり維持も大変な仕組みになっています。技術進化のスピードにもかかわらず、少しずつ進化していく、これがわが国の流通の現実です。

EDI事業

 EDIの内容をご説明する前に、わが国の流通におけるEDIの現状について少し触れてみます。私どもの化粧品・日用品の業界は約1000社のメーカー、同じく約1000社の卸店・販社、それに各小売業とから成っています。メーカー・卸間では業界VANが整ってきており、標準化されたやり取りが出来るようになってきました。データ種も今、18種ほどがあります。なお、我々の他にファイネット(加工食品)、JD-NET(医薬品)、菓子VANなど各業界毎のVANがあり、まだまだ縦割り業界の壁が厚いのもわが国の特徴です。技術進化が早いですし卸業界自体の合併・廃業も盛んになり、もうVANの時代じゃないという声も聞かれます。また問題は卸・小売間です。ここには先述しましたが、プライベートVANと地域VANが混在し、一部N対Nはありますが多くは1対Nです。しかもデータ種は1ないし2種に限られ、逆に仕様の数が1500種以上にもなるといわれ、標準化はされておらず、とてもEDI環境には遠いという現状です。

 そうした状況下でメーカー・卸間の基幹EDIは決済の一歩手前までのほとんどのデータ交換が可能になっています。情報交換そのものはインテックを経由しますからプラネットは中身を見ることは出来ませんが、接続交渉やコンサルティング、通信ニーズの調整などスムーズな運用の役割を果たしています。最も重要なことは発注データの100%オンライン化です。卸店さんによってはそのために「P端発注機」などの方法で補完したり、メディア交換(CPU→FAX)したりして、なんとかオンライン化を進めています。それはメーカーさんも同様でして、224社もあるといろいろおありです。P&Gさんは100%、ライオンさんで90%、大手メーカーさんは80%、全体で60%のところまで来ています。

 このような発注データは様々な業務の効率化を生みますが、もう一つ「販売データ=卸から販売店に納品した日々の売上実績データ」がありますが、これがメーカーさんにとっては大変重要になります。現在300の卸店を通じて、30万店の販売店の情報がリアルに把握できます。メーカーさんにとっては、これによって小売店の販売動向、エリアマーケティングの計画・成果、商品動向新製品の取扱い状況などの実態が掴めます。今日のデータが少なくとも1日後には分かります。

 なお参加メーカーさんもどんどん増えていますが、異業種(電池・管球やペットフード、荒物、家庭用品)や他業界VANメンバー(非公開)、など拡がりを見せています。卸は統合化・廃業で数は減っていますがデータ量は減っていません。

 一方、資材EDIですが、資材というのは業界云々にあまり関係なく共通の形でデータ交換が可能ですので、我々の構築したシステムが使えます。実際我々の業界以外のグリコさんやはごろもフーズさんなどにも積極的にご利用いただいています。(資材EDIに関しては詳しくは資料をご参照ください。)

 いずれにしましても資材サプライヤー・メーカー・卸までは何とか繋がったのですが、問題は小売との関係です。一部、メーカー・小売の直取引が始まっていますが、それが主流になるかは別にして、1対1になってはメーカーもたまりませんので、我々もその対策として研究に着手しています。

データベース事業

 卸の営業は小売店さんへの提案に商品現物やメーカーカタログを使っていますが、これを業界としてサポートしようとして作ったのが商品データベースシステムです。300社、27000アイテムの登録・改廃を元に、3D画像、テキストなどで自由にダウンロードしての利用が可能になりました。卸店も小売店もそれで棚割り計画、チラシ作り、eビジネス、商品登録マスターなどに活用できます。流通コードセンターのJICFSにも連動しています。なお棚割りでは主要なソフト(APOLLO,Store Manager,SPACEMAN ,棚サイエンス、棚POWER)にコンバート可能です。この商品DBを上手く利用することにより、従来各企業個別に行っていた商品情報作成の作業が大幅に軽減され、業界全体では大きなコスト削減につながるはずです。



 もう一つが取引先データベースです。当業界の大きな特徴の一つですが、化粧品・日用品を取扱っている全国30万店の小売店にプラネットとして業界共通のコードを付番しています。この標準コードを基に、メーカーはEDIデータとつき合せて様々な分析が出来るのです。地図情報とマッチングさせた分析も可能でエリアマーケティングの検討資料にも使われています。ただしコードメンテには社員が5名毎日掛かりきりです。各企業からの問い合わせや直接小売店に確認、新しい小売店にコードをつけるとか大変な作業です。でも他業界には真似できない大変高い価値をもっていると自負しております。

プラットフォーム事業

 まずCRPですが、アメリカのウォルマートとP&Gさんが開発し、IBMさんが買い取って日本へ持ち込んだものです。これからの新しい商品供給のあり方として、滋賀県の平和堂さんと10社が取組んでいます。納品率など確かに成果は出たのですが、ソフト利用にコストが掛かり、メーカーとして必ずしもメリットを出せていないのが現状です。日本では欧米のように小売業の寡占化は進んでおらず、大手小売業といえども1メーカーさんにしたらシェアが小さいですし、物量も纏まりません。CRPのメリットを出しにくい環境にもあります。

 次に昨年の春からテスト的に始めたサービスが「シングルポータル」です。ラクーンさんのお話にもありましたが、メーカーは営業の効率化、得意先の絞込みをすすめていますが、結果、得意先への情報過疎を憂慮しています。そこでB2Cの情報サイトだけでなくB2Bの情報サイトを開設する動きにあります。このことはユーザーつまり小売店にしたら各メーカー毎にそれぞれ沢山のIDやパスワードを持たねばならず、使い勝手の良くない状況が予想されます。そこに着目してプラネットがポータル(玄関)を作ったらどうかとしたわけです。一つのIDとパスワードでアクセス出来て、希望のメーカーサイトにログイン出来る仕組みです。勿論、誰でも自由にではなくユーザー情報管理、セキュリティ、アクセス制限、などをプラネットで管理することになります。

 初めこのサービスは業界シングルポータルと言っていましたが、使うのは主に卸店や小売店のバイヤーだろうというので「バイヤーズネット」とネーミングし直しました。大きく4つのサービスを提供することを考えています。@商品を探す、Aトレンドを読む、B協働を生む、C利益を創る、と題しています。

 @商品の検索は、先ほど来お話してきました商品データベースとそれに関連した情報をキャッチして、棚割りやチラシ印刷、POPなどに活用しやすくします。

 Aトレンド市場はまさしくトレンド感覚の醸成に役立つようにと、業界紙誌とタイインでビジネス情報を提供したり、TVや雑誌特集に敏感な消費者のウォッチ情報の提供、また歳時記、話題の人々のインタビュー記事などをお知らせします。

 B協働、つまりメーカーやベンダーが提供する新商品、キャンペーンやプロモーションを大いに活用しましょうというための情報提供です。小林製薬さんは商品アイテムが多く改廃も盛んなメーカーですが、自社の営業だけでは商品にかかわる情報を充分伝えきれずに機会ロスが起きないようにという狙いから参加しました。花王さんは販社が長い間蓄積してきた店頭づくりのノウハウやカテゴリーマネジメントのノウハウを生かしたい、P&Gさんは卸や小売を絞り込んでいますので更に情報連携を密にしたい、合理的なチャネルづくりをしたいなど、メーカーさんそれぞれの課題をもって参加されています。

 C利益を創る、つまりバイイング業務やMD業務を効率化するための、バイヤー専用のページ「バイヤーズルーム」を作ってしまおうというものです。既に60社ほどの小売自身が独自のB2Bサイトを立ち上げはじめており、特に大手ドラッグストアーが盛んですが、いずれ各メーカーに使用料としてコストを要求してくるかもしれない、それに先手を打っておこうという意図もありました。

コンベンション事業

 PMF(Planet Marketing Fair)は唯一リアルな共同展示会サービスです。今年で3回目を終えました。毎回20000人ほどの参加を得て盛況でしたが、反省の時期にも来ております。一方、PMFネットはそのバーチャル版の展示会で、ネット上で新製品を中心とした商品情報、CM情報、キャンペーン情報の確認など、時間、距離、場所を問わず閲覧することが可能な展示会です。

流通のIT化と今後の課題

 ざっとで恐縮ですがプラネットの事業とその現状をお話いたしました。業界インフラの運営に関わっている立場からこれからの課題を挙げてみます。

 第1に最も重要な点として標準化があげられます。これからは、どんなに素晴らしいシステムでも外部とのインターフェースが作れないと意味がありません。現在の小売業のシステムなどは殆ど独自の仕様です。結果としてベンダーは個別対応と言う大きな犠牲を払っています。これでは意味がありません。今後グローバルな標準化が進もうとしています。

 第2にユーザー環境をキチンと把握することが重要です。システムレベルが進んでいるところ、遅れているところも含めての流通全体の効率化のためにどう対応するかという認識が重要です。

 第3は安定・安全・安心のデータセンターであること。プラネットは幸い事故なしです。第4は営業力、営業体制。情報リテラシーは勿論、共通システムづくりの認識力、コンサル力、フォローなどが問われます。

 最後にいつも将来のヴィジョンを提唱し続けること。例えば98年には「業界サプライチェーン構想」として、日雑市場規模2兆7千億円、年間40億個の商品梱を1000メーカーから30万の小売店に最も低コストで効率的に配荷する最適シミュレーションの結果、250億円規模の物流センター114箇所あれば良いとぶち上げたら、半信半疑が今では現実味を帯びてきています。

 創立以来、業務効率化ネットワークを提唱してきましたが、今後はマーケティング・ネットワークを標榜し、プラネット自身の変身を目指さなければなりません。ご清聴ありがとございました。(文責:事務局)
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