FMGネット   caseインデックス

21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case024 ラクーン
2002.03.27東京第13回 事例報告−1

ITを用いた新たな流通への提案

株式会社ラクーン 代表取締役 小方 功氏
http://www.raccoon.ne.jp/

はじめに

 今日はマーケティングご専門の方々のお集まりと伺っております。私のお話が一般の理論や常識に合わないところが多分にあると存じます。その辺、どうかご配慮いただいてお聞きいただければと存じます。
 ただ、これまでの日本の卸流通のままでは時代にそぐわなくなる、新たな革新が必要だし、それが可能でもあるという信念でやってまいりました。ご参考になれば幸いです。

自己紹介、創業のアイデンティティ

 私は北海道大学で工学部に席を置き商業エンジニアという領域を学びました。しばらくは都市計画とかの仕事に関係していましたが、29歳で「何か自分でしてみたい」という思いから1年間、中国へ留学し、その後対中国貿易の商社を始めました。どんな商売でもよかったわけですが、40歳ぐらいまではいろいろ試行錯誤してみようと決めていました。100万円でスタートし、少し儲かると次々と新しいビジネスモデルに挑戦して、今の形まで参りました。この間、何十というモデルを描きました。そのためにデータ集めや分析をやり、調査もやり流通やメーカーを研究する機会に恵まれ、それが大変こやしになったことは確かです。

 しかしどんなに良いと思った商品でも、ほとんどの卸店からは相手にして貰えませんでした。東南アジアとか様々なアメリカの通販業者から実際に商品を買って、その製造元を調べたりとかいろいろ研究して自信を持って話を持って行ってもだめでした。お得意先が1万店だ2万店だとおっしゃるなら、どうか直にバイヤーに会わせて欲しいと思うことが度々でした。
 そうこうしている時にITの波がやってきました。私も経営者のはしくれとして勉強はしていましたが、この潮流は本物だ、間違いなく5年ないし10年以内に卸流通を激変させるものだと直感しました。ただ先例がありません。98年5月に「インターネットによるオンライン激安問屋」を開設しましたが、進んでるというより変わってるということで各方面から注目されました。日経さん(日経インターネットアワード2000)から賞をいただきましたのもそういうことではないでしょうか。現在、資本金4億6千万円、近々あと2億円増資します。また、2月には私どもが本来目指していた「Super Delivery」をスタートしました。2年間の「激安問屋」でつくった顧客基盤がそれを可能にしました。

 以上の流れを踏まえてこれからのお話をご理解いただければと存じます。

「オンライン激安問屋」の存在意義

 570社のメーカーさんにご利用いただいております。過剰在庫という性格上、全て守秘義務で契約しています。内100社は上場会社様です。小売店は14000店です。
 このビジネスモデルでの実証すべき課題は

  1.企業が在庫処分をアウトソーシングするか?
  2.小売店がネットで仕入れるか?

の2つでした。

 98年時点では誰もが疑問視していました。個人がクレジットカードをネットで使うのさえ普及は難しいと言われていました。私は実績で証明するしかありませんでした。
 先ず第1の命題。これは私どものサービスを「販売側企業が在庫処分をアウトソーシングするネットワーク」であると定義しました。定価で売れれば過剰在庫とは言いません。しかし現実に発生しますから従来だと現金問屋とかバッタ屋で安く現金化します。しかも営業費も物流費も平常どうり掛かりますから益々利益に食い込みます。それと1回毎に不定期の取引になりますから不確定要素の多い解決策にならざるを得ません。現金問屋にしても売れるかどうか分からないものをそう、いつでもというわけにはいかないでしょう。

 ところが私どものネットワークでは、数ある小売店の中でそれが欲しいというところが必ずと言って良いくらい現れる。不思議なものです。それには私どもでの工夫があります。たとえばワイシャツ、ブルーだけ2000枚では引き取るところはありませんが、白と縞を合わせて20枚をセットにして200店に、というようなアレンジです。ここがこれまでの在庫処分屋との違いです。570社もあるといろんなことが出来ます。いまどき小売店さんはセールで集客したいですから、いろいろな組み合わせでの特徴を出したい、そのニーズを汲んだアソートなども可能です。だから私どもではそういうことをこまめにする倉庫が必要でした。これには今後、こういう風に手を汚すところは減ってゆくだろうという読みもありました。

 また、私どもの仕組みが販売側企業様に受け入れられたのは「利害が一致した仕組み」にしたところが大であったと評価しています。つまりメーカーさんと私どもの間ではマージンを固定したことです。ややこしい駆け引きをやったりせず、私どもは売り先探しに集中する。売れた分の10%とか20%とか明確にし、売れ行きによってお互いに儲かったり損したりもはっきりしています。勿論、どの地域でどの位の価格だったらという情報は分かっていますから、そんなに狂ったりしませんが。そうして仕入れた商品をインターネットで流します。価格も取引条件も全てクリアーにしています。売れたかどうかもわかります。その結果、売れた分のマージンが私どもへ入ってくるという仕組みです。

 ただ、ここへ来るまではいろいろ試行錯誤がありました。はじめは2社のメーカーさんに拝みこんで商品を回して貰い、それも30万円で仕入れて売って30万円の赤字になるというようなスタートでした。仕組みの構築もいろいろ自分でつくり込みながらの悪戦苦闘でした。1年目くらいでやっと黒字になるようになり、このビジネス・コンセプトが受け入れられる実感を持ちました。あるメーカーさんが在庫処分の会社と組んで生き返ったという話がテレビで放映されたのもその頃です。あいにくNHKだったのでうちの名前が出なかった!

「在庫マーケット」の特性

 ところで一般のプロパー・マーケットと在庫のマーケットとは何処が違うのか、私なりに仮説を立ててみました。プロパー・マーケットは例えばアスクルさんですが、顧客を維持するために多数の品揃え(多メーカー取引)、在庫最少化ですから多頻度受発注が必要、従ってEDIシステムやらデジタルピッキング・センターやら多頻度配送インフラが不可欠になります。少なくても30億円以上の投資が必要になります。トヨタのカンバン方式もこのパターンになるでしょうか。とても私がやれるような事業ではありません。そこで逆を考えてみました。つまり「多対1」ではなく「1対多」はないのか。企業の在庫をアウトソースして、小分けして、多数の小売店の主としてワゴンセール需要(「3枚1000円」とか)を満たすこと。資金は1億円で出来る。これが在庫マーケットではないか。これ以外に選択の余地はありませんでした。

 現在570社の内100社は全在庫の年間引取契約を結んでいます。小売店も口コミで増え続け間もなく20000店になります。小売店が短期間に増えたのにはわけがあります。こんなに手軽にインターネットで仕入れが出来るサイトは未だ他にないからです。変にe-Marketplaceとかサイバー何とか言わずに、「普通の通販」と変わらず、手続きや制約条件の煩わしさもないシンプルな仕組みだったからです。

 また釈迦に説法かも知れませんが、通販のポイントは@顧客獲得単価とAリピート率です。前者は一般的にハウスリストで12000円から13000円、アウトサイドリストで2000円から3000円です。これを賄うには圧倒的な話題性か膨大な広告費かしかありません。楽天さんかアスクルさんか、です。しかし楽天さんを追ったネットプライスさんもアスクルさんを追ったカウネットさんも広告費に頼らざるを得ず、しかも効果は少なく苦戦しています。つまりモデルそのもののインパクトの強さが私どもは幸いしています。次にリピート率ですが、B2CとB2Bの決定的な違いがこれです。私どもでは毎日、注文してくるバイヤーがいますし、5000店がアクティブユーザー、内半分がリピーターです。たとえ1回2000円の利益でも年に20回となるとカタログ代とかも要りませんしこれは儲かります。

ビジネスモデルの実像

 取扱商品はアパレル48%、雑貨43%、それと最近増えてきたのが家電で9%。ビデオ2000台位ならあっという間に売れます。既存流通に満足しないバイヤーさんがいるということでしょうか。またあくまで成長企業の連続性としての在庫と捉えていますので、小売店の未引き取り品・シリーズ変更による型落ち品・季節終了による過剰在庫は扱いますが、不良品・中古品・倒産品は扱いません。

 販売方法はトップページからシンプルに通常販売とオークションに入れるようになっています。通常販売の消化率は50〜60%、オークションでは100%です。売上の半分がオークションになってきました。0円から始まりますし、若い不慣れなバイヤーでも電話一本でやり易いので人気があります。何よりもオークションでぼろ儲けしている小売がマスコミに出まくったりしていることもあり、儲かるというのが効いています。不良品は別として、良品の返品は今まで1回もありません。

 仕入れ方法は普通の受発注型仕入と消化型仕入の2つをとっています。消化型は商品をお預かりして検品・アソート・梱包を当方でやり、一気に掲載販売を掛けます。価格相場や地域情勢、小売店の好みなどデータ分析で手にとるように調べてありますから、出きるだけ高く、様々な企画でぶつけます。40000点位の衣料品なら3週間でさばけます。この消化型が売上の半分を占めるようになってきました。特に大手企業様向きのモデルです。既存流通との間で問題が起きないのかと言う方がおられますが、地方の普段取引も無かったような店のことなど、調べるだけでも大変です。570社との間でトラブルは開業以来皆無です。

 それに関連して、時代の流れのポイントということに触れてみます。事業は基本的には成長を持続することが重要ですから、その成長の基盤をどう見るかが大事になってきます。私どもは「都市から地方へ」「大企業から中小企業へ」「製造業から小売業へ」という3点に可能性を置いて見ています。14000店もありますから当然3大都市圏にも得意先はありますが、なんと言っても地方の商店街でご商売の方が中心です。確実に取引額も伸ばしています。佐川さんとか配送料も改善され、当社も全国一律料金を打ち出していますので、そうしたメリットも効いている面もあるでしょう。

 また中小商店のバイヤーは大抵がオーナーです。オークションやっても決断が早い。買うのも失敗も責任は自分です。勿論、結果がよければ次々と企画にチャレンジしてきます。日々の成長が肌で分かるので益々、面白くなる。大手小売業ではそうはいきませんね。
 も一つの流れは成長業態が小売に傾いてきている点です。消費者の日常に接している方が、いろいろな点で読みが正しくなります。それだけ商機にたけてきます。我々もメーカーと一緒になって、いわばマニュファクチュアグループとして小売に対応していく方が正解ではないのか。これをB2B等といわずに「M2R」と言おうと提唱しています(あまり流行りませんが)。

中小小売業における可能性

 いずれにせよ、先述しました第1の仮説「企業が在庫処分をアウトソースするか」は一応、実証できたと評価しています。問題はもう一つの仮説「小売がネットで仕入れるか」です。これは正直、ハードルは低くはありません。しかしいろいろ分析してみると、可能性が見えてきました。

 先ずお取引の小売店に対して弊社の商品ラインアップへの希望を聞いたところ、「在庫品」を抜いて「新製品」がトップに来て驚きました。如何にプロパー商品の流通が滞っていることか!地方ではアウトレット流通が少ない分だけ弊社の利用があったことは分かりますが、それにしても商いの90%を占めるプロパーへの渇望にはびっくりです。
 またお取引小売業の業態ですが、ブティック・衣料品店29%、リサイクル・ディスカウント11%、雑貨・アクセサリー11%、家電9%、時計・眼鏡・宝飾・カメラ5%、あとアパレル雑貨、スポーツ、家具・インテリア、靴・鞄などが2〜4%、その他22%(ギフト、酒、スーパーなど)など、実に多様性に富んでいます。これも可能性の一面だと理解しています。
 更に衣料品に限ってみると、小売総額17.7兆円の内、中小小売業が35%、東京・大阪・愛知を除く地方が60%を占めています(平成10年経済産業省)。決して小さくないマーケットを形成していることが分かります。

 また小規模小売業の活力ですが、黒字企業の割合は92年の5割強から2000年の30数%へと落ち込んではいますが、これを新規開業社に限ってみると実に60%近くまでが黒字企業となっています。同じくオーナーの年齢別では29歳以下で66%、30〜44歳で62%と高く、以下高齢化するほど極端に低くなっています。インターネットの利用では、利用者の方が高くなっていますが、これは小規模小売企業のインターネット普及率自体が10%もない状況では何とも言えません。しかし新規開業者に脱サラや若い年代がどんどん入ってきている事態を考慮すると、可能性が高まると見てよいでしょう(国民生活金融公庫総合研究所)。

 更にこんなデータもあります。小売業の開業率ですが平成3年までは5%から年々低下傾向でしたが、それ以降上昇傾向にあり、11年に4.5%まで戻って来ているのです(総務省・事業所企業統計調査)。「小売・開業・補助金」をキーワードにサイトを探すとベンチャー育成の話がごまんと出てきます。市が開業費の半分を持ちますという時代です。一方、資本金規模別の企業の経常利益率データでは1000万円〜1億円未満の小企業では2.4%となり、年々大企業の3%弱に迫りつつあります(財務省、法人企業統計調査)。

 まさしく「新しい小売店・若いオーナー・ネット活用」と「地方・小規模」とは、単に小売自身にとってと同様、メーカーや卸にとってもキーワードではないでしょうか。回収リスク、営業コスト、デリバリー負荷といった理由でのこれまでの常識的な流通政策の見直しは必定です。ITにより弊社のような機能を活用することで、一つの解決の道が見えてきているのではないでしょうか。

 ITに関しては私は常々、FT(Financial Technology)、LT(Logistics Technology)、MT(Marketing Technology)と言っており、前2者は銀行さんや佐川さんなどいろいろやってくれるようになりましたから任せればいい。残るはMTです。成長性を秘めた小規模小売業、売りたいものを売れるときに売れるだけ仕入れる、その権限とパワーをもっている小規模小売のオーナーさん達との新しい営業形態、それが私どもの仕組みだとご理解ください。

進化モデル「Super Delivery」

 新製品や流行商品が欲しいという要望に応える方法として開発したのが「Super Delivery」です。「過剰在庫ではないもの、直送が可能なもの、販路に制約があるもの」、あるいは「PBがあり小ロット配送(直送)が可能なもの」を、私どもの小売店さんに提供していただくものです。プログラム開発は普通4〜5億円のところを自前で5000万円で済ませました。

 「激安問屋」の匿名制に対してこちらは販売元を公開します。小売店側も審査を受けIDとパスワードが無いと利用できません。販売側(出展企業)も買う側も互いに希望する相手とのみ取引ができるのが特徴です。但し出展企業様には「統一された条件での販売」を、また小売店様には「営業は出向かない、ネットでのオーダーが前提、問合せは電話で」という約束ごとをしていただいております。




 仕組みは簡単で、小売店のオーダーを出展企業に伝え、直ちに直送して貰い、弊社から小売店に発送完了報告(請求書)をして代金回収し出展企業に支払います。
 料金体系ですが、出展企業様からは、@初期費用(1部門)\250,000、A掲載料(半年)\3,000/点、Bシステム使用料として売上の10% をいただきます。小売店様からは会費\2,000/月をいただいております。

 2月にスタートして32社が、更に50社ほどが検討中と、利用企業様も増えてきています。「激安問屋」と合わせてご利用いただくことで、企業と小売店を結ぶ新しい機能の問屋としてお役に立てればと願っています。ご清聴ありがとうございました。(文責:事務局)
ページTOPへ