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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case022 アイスタイル
2002.01.23東京第12回 事例報告−1

顧客支援サービス新時代、”@cosme”の場合

株式会社アイスタイル 代表取締役 吉松徹郎氏
http://www.cosme.net/

はじめに

 今回、「顧客インタラクションによる集客研究」というテーマの、ひとつの事例としてお話の機会を戴きました。@conme(アットコスメ)というサイトに集まる人々はあくまでコミュニティであり、私どもの顧客というわけではありません。ただこのコミュニティのもつ価値に関心がある企業をはじめとした方々に、サービスを提供することで私どものビジネスが成り立っています。そういう視点で聞いていただければ幸いです。

アイスタイルという会社、@cosmeとは

 99年7月に設立、12月に化粧品ポータルの@cosmeをオープン、00年4月に株式会社にしました。資本金1億1,544万円、25名の会社です。出資企業はネットイヤーグループ、八ッチェリーベンチャーパートナーズ、ヤフージャパン、東京総研などです。
 業務内容はインターネットを応用したビジネスの企画・開発・展開、化粧品メーカーのインターネットを利用した調査・マーケティングサービスの提供です。
 そもそもこのビジネスをなぜ始めたか?それはインターネットが出てきて生活シーンが変わるということを強く感じたからです。普通、会社にはビジョンがあってそれに従う形でストラテジーやプロセス決定していきますが、そもそもその背景には何かしら会社が存在するシーンがある筈です。しかしそのシーン自体が変化してきているのではないでしょうか。例えば車が出てきて生活シーンが大きく変化したように、インターネットの出現は事業ビジョンを根底から覆すのではないかと考えられます。新しいシーンはこれまで個々の会社が考えているビジョンでは済まないのではないか。インターネットによって新たに生まれてきている生活シーンから事業のビジョンを見直すべきではないのか。そう考えて、このビジネスを立ち上げるに至りました。

 さて@cosmeは化粧品専門のコミュニティ・サイトです。インターネットでは一般にポータルサイトといってYahoo!さんのようなものが先行していますが、訪れる人の中には何かしら目的をハッキリ持っている人も多い筈です。それなら化粧品に特化したポータルがあってもよいのではということで@cosmeを立ち上げました。
 いま月間約1300万PV(ページビュー)、訪問者が月間約30万人に達し、なお続伸中です。また化粧品関係の雑誌で20万部が一応の目安といわれていますから、この点でも@cosmeはある程度支持され媒体価値も得られたのかなとみています。
 私どものサイトへの訪問者は「自分と同じニーズの他人を知りたい」という真剣な目的で訪問して来る方々です。これが私どものサイトです。例えば20代の方がある化粧品を使っているとして他の人はどうなのかなということを知りたいとか、あるいはこんな悩みがあるんだが同じことで困っている人はどうしているのだろうか等々のニーズで訪問してきます。これを或る特定のメーカーのサイトへ行くと、例えば「・・・はよく効きます」というような答えしか得られません。訪問者は実際に使っている人、使ってみたけどこうなのよ、ということが知りたいのに、です。また例えば化粧水なら、自分は何を使って良かった悪かったという書き込みがあります。それぞれ商品名とか年齢とかが入っていますから訪問者は自分に近いところを幾つか参考に出来るわけです。ついでに他の商品についてのことも分かり、購買のヒントにしたりも出来ているようです。

 現在、30万人が見に来る人々、その内会員数がWebとiモード合わせて約12万人です。全て自主的に登録いただいた方々で、いわゆるアメなし(=キャンペーンなどで誘導したりはしていない)の方ばかりです。参考までにその内訳を言いますと、7万人がC2C=通常の会員(書き込みする会員)、6万人がB2C=いわゆるオプトイン許容者、4万人がC2B=アンケートなどOKという人々です。そしてこの方達の化粧品の使用経歴や評価が分かっている点が特徴です。私たちにとってはC2Bの4万人が核で、この拡充に注力しています。
 因みに当社の主要なお取引先には主要な化粧品メーカーさん、主要なトイレタリーメーカーさんがございます。皆さん、@cosmeのもつコミュニティの価値に対する期待の現われかと存じます。

@cosmeの事業としてのコンセプト

 以上でご理解いただけたと存じますが、@cosmeというのは極言すると、インターネットを通じて多くの化粧品に興味が高いユーザーが集まってくる「仕組み」ということができます。
 これを事業として展開するに当たっての考え方に触れてみたいと思います。まず背景に2つの点があると思っています。1つは商品の多様化です。ライフスタイルの多様化によってユーザーの動向予測が大変、複雑化し、どういうマーケティングをしたらよいか見えにくくなってしまったこと。もう1つはユーザーとの接点の多様化です。従来のTV、新聞、雑誌等の行き詰まり、一方ではインターネットや携帯電話が出てきて、より効果的な伝達方法があるのではないかという疑問が湧いてきた。結局、ユーザー把握の高度化、複雑化が急速に進行してしまったことにどう対応すればよいのかが問われています。

 こうした状況に対して最近、盛んに言われているのがCRMとかone to one です。しかし私どもはCRMやone to oneには限界があると考えています。何故か?第1の理由は構造的な限界です。つまりユーザー獲得には膨大なコストが掛かりますし、その分析だ、そのためのシステムだと更にコストが掛かります。一体、どれだけ掛けたらキリがあるのか分かりません。第2の理由は運用面での限界です。CRMでよく言われているクロスセリングや節目需要ですが、企業における現状のような独占体制、組織変革の難しさの中で果たして多様な商材やサービスが提供可能なのか、とても無理というのが趨勢ではないでしょうか。つまりトータルコストが高過ぎ、費用対効果が不明確というのが、CRMをやってきた担当者ほどジレンマをお感じになっているのではないでしょうか。

 よく使う図で縦軸に商品単価、横軸に購入頻度をとり各商品をプロットしてみます。住宅や車のように高単価・低頻度商品とドリンクや化粧品や本など低価格・高頻度商品とは明らかにポジションが違います。前者なら顧客と接する頻度が低いために顧客データの獲得コストがかかります。そうならば例えばメール屋さんからリストを買ってDMでもジャンジャンやった方が安くて効果が出るのかもしれません。逆に後者の場合は低価格帯であるためone to oneのコストはかけられません。

 そこで私どもは “CmRM” (Community Relationship Management)ということを主張しています。つまり「将来顧客の共有化・共同マネジメント化」という考え方です。
 各メーカー様が囲い込もうとしているユーザーは実はほとんど一緒なのに、それぞれが自社の顧客データが欲しくて何度もいろいろな調査をしたりしています。ユーザーにとっては何度も聞かれて煩わしいとか、何に使われるか分からないとかむしろ迷惑がってるのが実情です。だったら誰かがそこのところを代行してしまった方がよいのではないか。それが私どもの“CmRM”です。
 とはいってもどうしても自社独自の顧客情報が必要な場合もあります。そういう場合、私どもは下図を示してお話します。いわゆる2−8の論理です。

 A社にとって価値ある情報、B社に対して競争力にする情報こそが重要で、何でもかんでも全てを知ろうとすることは無駄じゃないのかということです。その上で情報の質は各社それぞれ決めればよいことです。CRMを否定しているわけではありませんが、共有情報は共有し、競争にするところだけ独自の追及をすればよいのでは。マスマーケティングとCRMの間を繋ぐコンセプトとして私どもの考える“CmRM”をお勧めしているわけです。

アイスタイルの事業特性

 次にアイスタイルの事業についてお話いたします。先ほどまではコンセプトをご説明しましたが、果たして事業として成り立つのかということです。

 アイスタイルの基本的な目的は3つです。先ずはコミュニティを形成・メンテナンスをすること。次はユーザーとのコンタクト媒体・ツールを構築すること。最後がユーザープロフィルの一元化です。お陰さまで目的どうりに実現してきています。さて一見、これだけ量・質ともユーザーが見えてきたら自分でユーザー相手のビジネスが出来るのではないかと思われますが、私どもはそれをしません。このコミュニティを調査やプロモーション実験に活用するメーカー企業さまこそが私どものお客様だと自己規定しています。
 第3者であるアイスタイルだからこそ出来るコミュニティ運営、顧客情報の質的価値にお金を払うのは企業さんです。例えば資生堂さんなら今までは商品がどこでいくつ売れたかまでしか掴めなかったのが、アイスタイルをつかうと誰、何、使用状況、評価、他社品比較、新たなニーズ等々、桁違いの情報が得られます。ここに私ども第3者の意義があると確信しております。

 ところでアイスタイルはサイトを作っているというより「cosmeの道」を作っていると自称しています。普通はインターネットという大きな空間に店を出してからメールを出すとかバナーをやって顧客を呼び込んでいます。でも本当は逆じゃないのか。私たちは先ず道を作ってしまうのが先だと考えています。cosmeの道を作ってしまえば、後はそこに看板をつけるもよし店を出すもよし、アンケートするのにもスムーズにやれます。しかも通るたびにデータとして人の動きが蓄えられてゆきます。それが貯まるほど、お店はこうした方がいいですよとか、看板はこんな風に出しましょうよとか、自然に効果的な答えが見えてきます。

 ではユーザーのデータを持つことの事業的な価値とはどういうことなのか。(図参照)

 この図はアイスタイルの事業構造をモデル化したものです。縦にユーザーの価値(Traffic/Data/Money)、横に業界の流れ(ここでは仮にメーカー、卸、小売、・・・としていますが)を置いて、化粧品コミュニティが何処でどんな価値を持ち得るかを整理してみました。よくコミュニティはビジネスになりにくいといわれていますが、そうでもありません。
 例えばメーカーなら見てもらいたい知ってもらいたいというところ(トラフィック)、商品開発や販売戦略のための情報が欲しい(データ)、直販は出来ないが支援策やアフィリエイトしたい(マネー)など、私どもにとっては全て事業機会として顕在化しています。卸でも動向把握にレポートが要りますし、小売店側もクリック&モルタルで活かせます。C2Cでもフリーマーケットという可能性があります。
 私どもはこれらの全てにわたって市場規模と競合関係を分析しております。例えば広告業界は6兆円といわれていますが化粧品でいくら、その内インターネットでどのくらいとか、また卸はお金を出すだろうか、等。勿論、事業としてやるやらない、優先順位とかの評価もしています。例えばフリーマーケットはやりません。既に強力なYahooジャパンさんが存在するからです。こうした検討の結果、アイスタイルとしての事業構想を立てています。私どもはそれを「鏡餅モデル」と呼んでいます(図参照)。

 広告は立ち上がっていますが、マーケティングや調査事業は3月から、販売支援その他は準備中とかこれからですが、要は複数事業の展開で企業価値の最大化をめざしています。お陰さまで売り上げが1億数千万円、黒字で推移しております。なお、広告ですが、私どもは広告事業ではなく「ソリューション事業」と呼んでいます。何故かというと私たちは媒体を売っているのではなく、あくまでユーザーと企業様の新しい関係構築のお手伝いをしているのだと認識しているからです。

「口コミ」ということ

 ここで少し、事業の核になっています口コミということが、どんなものでどうマーケティングに使えるのかということに触れてみたいと思います。

 今、@cosmeには30万件の口コミ情報(ユーザーレヴュー)があります。日常入ってくるのはWebとiモード合わせると年に60万件にもなるペースです。普通のメーカーさんのそれと比べても圧倒的なデータ量だと思います。これらを単に定性的データとしてみるだけではもったいないというので、例えば商品別に口コミ件数及び評価を分析してみます。すると確かにマス宣伝している商品の口コミ件数が多く、そうでないものは少なくなります。しかし商品開発者と話してみるとたとえ件数は低くても狙ったターゲットにピッタリはまってて非常に高い評価が得られているものが多い。逆にターゲットにしていなかった人による評価で全体の評価が悪くなることもある。この事実をもって、ブランド構築をするためにユーザーの期待値を裏切らないようにするのか、それとも所詮マスだから売れた数でよしとするか。それが問われているように思われます。

 @cosmeのユーザー、特に7万人からの口コミ情報はその数倍からの訪問者へ極めて強い影響をもっているだけに、悪い情報の波及力も大きいわけです。ですから私どもが主張しているのは「伝えたい人に伝えたいことをキチンと伝えましょう」ということです。アイスタイルが提案する広告というのは、その意味で「ソリューション」なわけです。
 そうした中でアイスタイルにしか出来ないことが「集める」ということです。私どもの持っているユーザー情報は単にデモグラフィックだけではありません。口コミというのは実は過去の「購買・使用履歴」ですので、何を買っているか、どう評価しているかなどもわかります。ですから例えばサンプリングするにも単に使っていない人にするのではなく、その商品を買っていないけれども評価の高い人にサンプリングするといった操作が可能です。このことはメールを送るにせよグルインのリクルートをするのにも言えます。また或るメーカー様のBという商品に対抗しようとするAという商品を開発するための情報収集としてグルインにかけたい場合も、Bの使用者だけを集めるなど簡単にできてしまいます。逆にリニューアルしたい場合など先行商品の評価でネガティブな人だけを選ぶことも可能です。グルインの質は間違いなく上がります。

 また、マス宣伝をし、サンプル配布をした場合、対象商品のタイアップページのPVは上がりますが評価が下がった例があります。その後、@cosmeだけでサンプリングなどのマーケティングをしたところ、口コミ件数も伸び、評価もグンとアップしました。つまり広告や店頭でサンプリングしただけでは消費者には何も伝わらない、逆に@cosmeでは伝えたい人に伝えたいことが確実に伝わり良い結果を生んだと言えます。
 確かにユーザーは今や能動的な探索手段を手に入れてしまったようです。こちらから言えば「新しい価値伝達フロー」が形成されつつあると言えます。従来のようにTVをはじめHPなど企業の発信するものを受動的に受け入れるのではなく、自ら価値ある情報をとりに行く、あるいは発信する事から購買行動を組み立てていくようです。これはもう不可逆的流れといってよいでしょう。

 ある方が「メーカーは売れて何ぼだからやはり従来のマスマーケティングはやめられないのでは」とおっしゃいます。でもそれで商品の評価を下げたり寿命を短くしたりしたら、それこそトータルなマイナスを生むのではと話したことがあります。マーケティングは確実に変わっていくし、変わらねばと考えています。

今後の課題

 これからの課題をいくつか述べて終わります。
 1つ目はデータ蓄積サイクルの確立です。これまでは購買履歴といっても2次的なものだった。今度、4,000店、間もなく7,000店のお手伝いをすることになりましたので、コード化して直接、いつ誰が何をなど把握できればプロモーションなども緻密に実行出来るようになるでしょう。
 2つ目は意思決定支援ツールの構築です。@cosmeのデータをメーカー以外にユーザー自身にも活用して貰おうというものです。ユーザーは従来のようにカリスマに従うのではなく、自分にピッタリとか自分と同じような人の使う商品を求めています。ユーザーが自身の情報を入れれば入れるほどその精度が上げられる仕組みです。

 以上、アイスタイル、@cosmeをご紹介させていただきました。皆様のこれからのお仕事に何らかのお役に立てれば幸いです。ご清聴ありがとうございました。(文責:事務局)
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