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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case021 松下電工・ウェルナビ
2001.11.21東京第11回 事例報告−1

ITによる健康支援、”ウェルナビ”

松下電工株式会社 DNAプロジェクトマネージャー 大木香一郎氏
http://www.diet-agent.com/

はじめに

 本日は当社の事業の内、電機分社がはじめた新しい取り組みについてお話いたします。電機分社はもともと「美・健・快・楽」という4つのドメインで商品展開を図ってきました。老若男女を問わずウエルネスライフに貢献する目的でした。
 しかし市場の変化に対応するためには、特に高齢者対応事業の必要性が高まり、97年頃からその構想の具体化が始まりました。本日ご紹介する「ウェルナビ」もその発展段階の途上に位置します。

情報ソリューション事業への進化

 97年に始めたのが「ナイスエイジフリー(NAF)」です。いわゆる「依存型生活」支援で、現在では介護に特化した事業になっています。
 一方、IT時代の到来で、会社全体として情報ソリューション事業への進化という方向が提示され、今年の3月” Smart Solution by NAIS ”という新企業スローガンができました。これまでのモノや人に加えて情報によるソリューションを事業化しようとするものです。そこでわれわれとしては同じ高齢者でも「元気老人」向きに捉えてみようということで「ダイナミックライフ」という点に着目しました。これは先のNAFに対して「自律型生活」支援になります。
 ご存知のように国は「健康日本21」を展開中です。9つのテーマの推進によって生活習慣病の改善、強いては医療費の低減を目標としています。私どももこの流れの中で、栄養・運動・休養に貢献する事業を目指しています。ターゲットを団塊世代から現エルダー(50〜65歳)に置き、ここに積極的に関わっていく事業ということで「ダイナミックライフ事業」と名づけています。
 グラフで申しますと、縦軸の“活力度”は横軸の年齢とともに低減して行きますが、現在の“ジェントロジー曲線”は“元気年齢曲線”との間にどうしても落差が出来てしまいます。特に55歳からの落差が65歳以降、急激な落ち込みに移行するという傾向がありますので、私どもは「75歳で65歳の元気年齢!」をキープしましょうとPPK運動の一環としてこの事業を位置付けております。
 つまり「ご自身の元気年齢に気づいて、“鍛える”ことと“体質を活性化する”ことで、趣味・旅行・グルメ・スポーツなど“もっと人生を楽しみ”ましょう」というのがダイナミックライフ事業のコンセプトです。
 ご覧いただいている機器は私どもの開発した“ジョーバ”(生活体力機器の一種)です。欧米では古くから「乗馬療法」といって一般化されているようですが、「背筋をスッキリさせ姿勢を正しくさせ、楽に腹筋・背筋を強化し、足腰をも強化して軽快なフットワークが得られる」機器です。2000万円ものサラブレッドを2頭調達し実験を重ねて開発しました。製品は20万円です。若い被験者でも毎日10分1週間で30%の筋力向上になるという優れものです。またこれは“バランスエクサ”(スポーツ体力機器の一種)です。床に接する部分が湾曲している自転車式機器で、高い効果が得られるものです。
 これらは“鍛える”ものですが、一方、当社では早くから睡眠の研究で先行しておりました関係上、特に高齢者に見られる夜昼逆転症状の緩和に効果のある照射機器なども商品化しておりました。
 またインターネットやCD-ROMによる「元気年齢診断サービス」も行っております。日常の動作や体力を入力しますと、元気年齢と体力の判定が出て、75歳までのお勧めメニュー、器具、使い方ガイドなどが提示されるものです。筑波大学のご協力でソフト開発しました。またこうしたことをリアルの面でもサポートするために、ショールームの一角にコーナーを設けて機器やソフトの相談も承っております。
 このようにまだまだハード中心ですがダイナミックライフ事業に着手しております。

“ウェルナビ”ビジネスモデル化の背景

 以上のような経緯の中で、IT活用によるヘルスケアビジネスの考えが生まれてきました。それがe-ウェルネスライフ事業です。
 事業を考えるにあたっていわゆる健康ポータルサイトをいろいろ研究しました。ソネットさんの“元気でvivre”など有名ですが、おしなべて集客という第1ステージまではよいのですが、お金を出してという第2ステージになるとうまく回らない。つまり不特定多数を相手にしたB to Cでは事業にならないという判断をしました。ただし、お金を払ってでも健康になりたいという人がいるということも確認できました。
 また厚生労働省のデータでは寝たきりになる60%の人は糖尿病が原因で起こる何らかの合併症だそうです。介護予防という観点からも私どもの事業のターゲットは糖尿病や肥満という明らかなニーズをもった人々ということに絞られました。しかも糖尿病690万人のうち医者にかかっている人250万人をメインとし、徐々に裾野を拡大できればと考えました。
 このビジネスモデルは基本的にはITを活用した情報サービスですが、リアルの部分の必要性も感じておりまして試行しております。要は利用者(患者、予備軍)と松下電工とかかりつけの医師との連携を具体化し、行動療法理論に則った食事療法の習慣化をサポートするモデルです。「24週間継続したら習慣化する」という考え方から、その間のさまざまなサポートを展開して参ります。

“ウェルナビ”の特徴

 ウェルナビはITの活用によって可能ないくつかの特徴をもっています。
 第1は、モバイルということ。普通の体験入院後のリバウンドが3ヶ月で50%となかなか続けられないという状況を如何に克服するか。カメラ付きPDAで食事の画像を送るだけでいい、家からでも外からでも何時でも簡単に出来る点が特徴です。しかも奥様にも参画してもらうためにハンドヘルドPCも導入しています。なお送信データとしてバーコード式とか音声とかも検討しましたが、本人の使いやすさ、こちらの分析のしやすさから画像に決まりました。デジカメ案も出ましたが食事の度に物々しすぎるというので没になりました。
 第2は、かなり専門的なコンサルを受けられること。一般に通院していては月1回、3分前後のやり取り、しかも薬物投与になり勝ちです。ウェルナビではかなり密な内容と頻度でバーチャル行動療法が受けられます。
 第3は、在宅の栄養士の活用ができるということ。いま全国で72万人が登録されています。この方たちに1件いくらで請けていただいています。我々の開発したソフトをお貸ししています。極端にはインドや中国でもよいのですが、食は国の文化というので国内にしています。つまり安いコストで丁寧なコンサルを可能に出来る特徴をもっています。

 ここで少し「行動療法」ということに触れてみます。これはアメリカで開発された理論および実践プログラムで、いろいろな分野で応用されているようです。つまり「自ら気づいて主体的に取り組む療法」です。普通、患者は、症状の軽・重、自己管理意識の低・高という2軸のグラフで見ると、ぐるぐる回っているそうです。従って管理意識を高め軽い症状を自ら維持できるのをサポートすることが重要なのです。また、これまでの療法、特に食事療法はどちらかというと「・・・はダメ」「・・・はよくない」式でどうしてよいのかわからないという嫌いがありました。
 私どもは千里病院の石井先生の協力を得て今回のプログラムを開発しました。
 先ずは「24週の食生活改善プログラム」の作成・確認です。食事データを送信戴くと分析結果をお返しして確認いただき、“行動療法プログラム”により反省と目標設定をしてもらいます。それに基づき24週間の食生活改善プログラムが組まれます。これは3つのステージに分けられます。第1段階(4週間)はとにかく栄養素やエネルギーなどを意識した生活に慣れること、第2段階(8週間)は食べる量とカロリーを知ること、第3段階(12週間)は自分で判断して正しい食生活が出来ることをそれぞれ目標に、画像を送ったり進度のチェックをして貰います。
 この間、画像の送らない日は“栄養クイズ”のやり取りで食材や料理の知識向上に役立てて貰ったり、食生活のためのウンチク集をお届けします。食べる前に食べたいものの栄養計算もPDAで出来るようにしてあります。
 また、生体情報管理として、自分の血糖値・血圧・体重・歩数を入力すれば体調管理もできるようになっています。
 この間、毎月1回レポートをお届けして、ひとりひとりの進捗に合わせたアドバイスをさせていただいております。
 なお費用ですが入会金18,000円、利用料が月15,000円×6ヶ月で90,000円です。端末(PDA、ハンドヘルドPC)のレンタル料も含まれています。

“ウェルナビ”のB2Cモデル

 当初考えたビジネスモデルは医療機関に置いたパンフとアンケートで反応のあった患者に対してのB2Cでした。これは私どもが直接には医事行為が出来ないこと、医院が関心を示しても推奨できるエビデンスがなかったことなどで始めは思わしくありませんでした。
 このエビデンスがようやくこの11月の糖尿病学会で発表されました。当社のサービス利用者とそうでない患者の比較実験では、9ヶ月経過で“HbA1c(グリコヘモグロビン)”値が8.1から5.9に激減しているという結果がでました。1ポイントも下げる薬は未だ世界中でもないそうです。ついでに肥満度の値もグーンと減っていたそうです。私どもも被験者に聞いてみましたら、成果のポイントは2つでした。食事の都度、栄養やカロリーへの意識が働くようになったこと、奥さん方の協力度が向上したこと、だそうです。特に朝食・夕食では皿の並べ方まで考えて変わってくるとか!今後はこうした実績を背景にしてB2Cに弾みをつけたいと考えています。
 また、これまでご紹介してきた情報サービスに加えて、リアルなサービスも手がけています。1つは先述しました「N∧iS食生活相談コーナー」で、管理栄養士を常駐させての無料相談です。もう1つは「N∧iS食生活セミナー」です。これは本来、開業医が行うものですが、管理栄養士を常駐させねばならず持ち出しになるという点と、私どものビジネスモデルの一環としてのニーズが合致しまして、開催することにしました。専門医と管理栄養士を講師に、通院患者やビジネスマンを対象に月1回1000円の有料です。好評ですが、それ以上に、当社が糖尿病に真剣に取り組んでいるという医師仲間への評判もたかまっています。

“ウェルナビ”のB2Bモデル

 以上はB2Cの内容ですが、これを切り売りした形のB2Bビジネスモデルも手がけています。
 対象は健康保険組合、企業、病院、自治体(保険所)などです。それぞれの組織構成員の中に血糖値が高いのに働いている人がいたら指導しなければいけないそうです。たとえば保健所は「健康日本21」で厚労省から数値目標を示されていて、その実行に3000万円掛かるなら2000万円は補助しましょうというらしい。ところが体験入院させると1人50万円も掛かる。また企業などでもそういう人を夫婦同伴で合宿指導したりして費用の節約をしているそうです。しかも先にも申し上げましたとおり、いくら体験や合宿しても元の木阿弥の繰り返しが目に見えています。
 そこで私どものPDAと分析・提案プログラムが生かされます。たとえば100人に20台位の割で回し使いしてもらい、画像を送信してもらって分析し、保健婦や産業医に返します。患者や予備軍への指導の効率化が格段に図れます。いわば私どもはASPになるわけです。
 また大阪府ではレストランなどにヘルシーマークの認定をするために240人ほどの管理栄養士を巡回させてメニュウ分析をしているそうですが、その作業効率をアップさせるのにもこのPDAシステムは有効です。先ほどちょっと触れました食生活セミナーも、時給2500円の管理栄養士を使い100人を対象に実施すると52万円掛かるところを、私どもにお任せいただくと18万円のコストダウンになるなど、いろいろなビジネス機会が出てきております。

モデルの進化、企業の進化

 ウェルナビのB2C,B2Bをお話いたしましたが、さらにいろいろな進化モデルを考えております。その1つはECです。ダイエット・エージェント・ドットコムという形で一般の方々にも自分のデジカメで参加できる仕組み、またミールデータ(画像と分析)を食品メーカーさん等に提供して商品開発に活かしていただくなどです。勿論、プライバシー保護法の施行に備えて、たとえば当方のサーバーからのデータは管理栄養士といえども個人は分からなくなっているなど、十分な対応の下での展開となります。
 こうした事業の進化は、もともと自前主義の強かった松下電工にとっては大きな節目となります。いろいろなパートナー企業様との新しい連携で、よい方向での脱・自前主義を推進するためにも、ウェルナビの事業モデルをきっかけにしたく存じます。
 また、情報サービスでお金を戴くという事業は当社としても初めてです。チーム名のDNAはそれ自身、糖尿病に関する用語に由来してはいますが、当社としても新しい事業へ生まれ変わる遺伝子の注入といった気概をも込めて命名しました。ものから売り方を考えるのではなく、売り方からものをつくるというサービス・ビジネスの企業への変身の一歩となればと思っています。
 ご静聴ありがとうございました。(文責:事務局)
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