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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case018 サントリー
2001.09.19東京第10回 事例報告−2

サントリーが取組む "e-marketing"

サントリー株式会社
情報化推進部部長(e-marketing担当) 小浜 力氏
http://www.suntory.co.jp/

はじめに

 本日は当社のe-marketingの一端をご紹介させていただきます。なお私は77年の入社以来ほとんどマーケティング部門を担当してきました。90年に設立された「情報化推進部」もIT時代を睨んだマーケティング部と見ることも出来ます。
 ご参考までに現在、私が関わっているe-business関連の主な業務は以下のとおりです。

 ・HPの制作・運営
   {@各部コンテンツの制作支援 A共通コンテンツのプロデュース(ネットキャンペーン、メルマガ)}
 ・システム構築
   {@統合顧客DB、お客様対応サポートシステムの構築・運営統括
    Aアクセスログ分析等効果測定システムの構築}
 ・e-business企画推進
   {@インターネット通販(ワイン、ウイスキー、健康食品、樽ものがたり)Ae-businessモデルのR&D}
 ・他のデジタルメディアの活用検討(携帯電話、デジタル放送、インターネット家電、ゲーム等)
 ・インターネット活用上の対内外的ルール策定
   (著作権、肖像権、適正飲酒ARP、人権、個人情報保護、PL法等)

サントリーホームページの歴史

 1995年9月にホームページを立ち上げました。今後の新しいコミュニケーションを考えて行こうということでした。01年3月には1230万ページヴューにまで至っています。男女比では6対4、ワイン・カクテル・食品などでは女性のウエイトが高くなっています。年代別では20〜30代が75%と主力です。20才未満のエントリー層と40才以上のお客様を増やしていくのはこれからの課題でもあります。
 一方、メディアメトリクス社の調査ではこの1月にリーチ10%、52位、また日経BPのウェブブランドランキングでは18位とまずまずの健闘ぶりです。

 ここに至るまでの経緯を簡単に振り返って見ます。

  第1期(黎明期、95.9〜98.4)

 広報中心の内容に、辞書的にお酒の情報提供を付加したような内容でした。

  第2期(胎動期、98.5〜99.9)

 酒税法改正を機に内容の整理をしました。この時から事業部と情報化推進部が中心になり、お客様相談室・広報部・宣伝部の有志が集い「インターネット委員会」という非公式な組織を中心に活動することになりました。またこの時点で既にコンテンツも5,000ページほどに増加していましたので、検索機能もアップさせました。企業HPの定型が出来た段階と言えます。

  第3期(活動期、99.9〜00.10)

 HPというのはとにかくたくさんの人が集まって来なければ意味がありません。そこで「面白い、役に立つ、また来たくなる!」を目指して、大改定を行いました。いわば車内吊り広告のようなインターフェースで、できるだけ「企業HPらしくないもの」を狙いました。また役員会議での正式稟議を経て情報化推進部に専任のチームを結成しました。

  第3.5期(00.11〜現在)

 前期のトップページの改定で人気を博していた”多チャンネル方式”を継承しつつ、新着情報を強化しました。メニューの統廃合も行い今日に至っています。

 運営体制については、コンテンツ・プロモーションの企画は当社・サンモアテック・サントリーショッピングクラブ、HP制作はサンモアテック、サーバー運用・システム開発はサンモアテック、プロモーション事務局運営はサントリーショッピングクラブなど、グループ企業との積極的な協業体制を築いております。因みに私どものe-marketingグループは7名の陣容です。

コンテンツのご紹介

 既にご覧いただいているかもしれませんが、コンテンツの意図するところを等を交えて簡単にご紹介いたします。コンテンツをその性格から分類すると @月刊Webマガジン的なもの Aコミュニティ的なもの B企業広報 CECサイト に分けられます。いくつか見てまいりましょう。

  Whisky on the Web
 ウイスキーはコア層の300〜400万人でその需要のほとんどを支えています。しかし加齢化し若い世代のエントリーも減少化傾向にあります。そこで若い人も含めたファン層を取り込もうと始めた企画です。会員10数万人に月2回のメルマガ発行に加え、Webでも「私のウィスキー・ストーリー」というテーマで会員の方からウイスキーとの「出会い」「転機」「今後のお付き合い」という一連のテーマでエッセイを募集し載せています。マーケティングの面で非常に参考になる表現や発見が多くありました。

  e-wine by Suntory
  00年11月にそれまで連携していなかった情報提供と通販を融合させました。サイトを見てその商品が気に入れば直ぐ買えるような設計にしました。最近では例えば2000年のボルドーのヴィンテージものを予約受付し、2003年春に届くという企画などWebならではの企画は評判が良いようです。

  CLUB MALTS
  01年1月に立ち上げました。これまでのマイレージ・キャンペーンはコストが掛かるし可変的でもないという反省から生まれた企画です。後でまた触れます。

  Web Night Bar
  カクテルは300種類、そのベースも多くて商品を認知していただくことは難しいものです。そこで今日の気分でレシピを決めたらこの検索機能を使って商品にたどり着けるような設計にしてあります。

  グッディ(健康食品)
 健康食品は情報提供と販売と言う関連の部分では薬事法の関係で訴求の仕方が難しいのですが、Webサイトとメルマガを連携させる形で取り組んでいます。

  サントリーグルメガイド
 飲食店情報です。グループの店200店程度から始めましたが、今度、商品のプロモーション参加を条件にして大幅に参加店数を増やしています。あまりコストの掛からない営業の武器として、徐々に活用されています。

  花とおしゃべりONLINE
  当社が販売しているのは切花でなく苗です。主にホームセンターに直送しています。お客様は品種・色・時期別に店の検索が出来、育て方などの情報も得られます。4月から11月まで長期なインタラクションをもてる商品で、Webマーケティングという観点では今後いろいろな可能性をもっています。

  Suntory Land for Family
 小学生向けの環境教育素材です。このサイトは子供の視線で捉えたリサイクルです。ビール工場を見学の後、ホームルームで議論した結果を多摩美術大学の学生さんたちに表現して貰ったものです。ゼミナールでの卒業制作とのタイアップという形で行いました。昨年、消費者教育支援センターで優秀賞をいただきました。

  サントリーCMワールド
 もともとサントリーはCMへの問い合わせが多い会社です。その抑制策としてディスクロージャーしてしまおうというので始めました。著作権や肖像権で制約はありますが、アーカイブ的な意味があることと、お客様相談室の業務軽減という目的から続けています。

  デジタルおまけ
 製品毎にばらばらにあったスクリーンセーバーや壁紙などデジタルおまけ的なものをまとめたところ、たくさんのアクセスが発生しました。CMの場合と同様、いろいろ制約があります。しかし集客力、プロモーション間の相乗効果という点で新しい試みと位置付けています。

今までの経験から分かってきたこと

 以上、ここ2,3年間、いろいろWebを試みてきていくつかの知見が得られたと思っております。未だこれからですが一応整理すると以下の7点になるようです。

  1.人が集まるコンテンツでなければ!(面白い、役に立つ、また来たくなる)
  2.プロモーションの告知・集客には有効
  3.顧客情報のデータベース化は必須
  4.顧客対応が大事
  5.情報システムインフラ整備は重要(キャンペーン後の処理・対応の的確性)
  6.全社巻き込み、グループ協業(ネットでワーク!)
  7.他に任せず「自分で考え苦労する」こと

  [プロモーションにおけるWebの有効性]

 「ウイスキー膳」の5,000名モニターにネットだけで4万人の応募がありました。「マグナムドライ」の1万名モニターにはネットで10万人でした。やはり「マグナムドライ」のVAIO/AIBOオープン懸賞では全応募200万人中40万人がネット応募で、しかも2ヶ月期間の初め3週間でそこまでいってしまいました。とにかく早い!ただしこれらの例はマスとの連動があるからこそと言えます。「モルツ」の1万人モニターの時、応募全数38万人中8万人がネットでしたが、前日に新聞が入った翌日に約2万人がネット応募というのでもそれは実証されています。  また多くの商品は大々的な宣伝・販促をかけられないというのが実情です。このような商品群にとってはWebでの告知はきわめて有効といえます。例えば「LILLET(アペリティフワイン)」など殆ど知られていないような商品でも、Web Night Barで紹介すると1週間で15,000人のアクセスです!その声を編集して営業に提供することで一つのツールが出来るわけです。これをオフで行うとすれば相当大きなコストが掛かる筈です。

 それから他の企業とのアライアンスもネットだと簡単に可能だという例です。紀文食品さんの鍋物用の食材商品と当社の季節限定発泡酒の「冬道楽」を同時期にHP上で訴求し合ったり、「おせち料理」と「ワイン」をそれぞれのサイト上の会員にメルマガでご紹介したりしました。ただしリスト交換は個人情報保護の観点からご法度ですので、当社ならワインのお客様にだけ、紀文さんは紀文さんのお客さまにだけご案内するわけです。要するにメールコンテンツのアライアンスです。勿論、いずれも通販の仕組みを持っていないと集客・売上という点では意味がないのですが。

 次は「CLUB MALT’S」のキャンペーンでのオフとオンとの連動例です。従来は年何回かの期間限定で、ポイントシールの枚数に応じた景品の提供でした。これだとそんなに飲めない人は一定期間にポイントをたくさん集めることが難しいのでジャンパーが貰えないなど不満が残りました。そこで「いつでも応募、いつでも景品交換」にし、そのためには会員になっていただき月2回のメールで魅力的な「モルツ通信(Web上)」の更新をおしらせし、ご自身もWebやケータイでポイント確認が出来るという仕組みにしました。スタート9ヶ月で30万人の会員です。ジャンパーなどの景品もWebならではのオプションが可能で好評です。私どもとしても先にも触れました通信や応募者管理などのインフラコストの相当な削減になり、何よりもかなり密度の濃い顧客データベースが出来上がっています。そのレヴューと活用は今後の課題ですが楽しみでもあります。ただ2週に1度の「モルツ通信」は大変です。クリエイティブの枯渇との勝負です。

 「CLUB MALT’S」がマス商品の例とすれば「無頼派」は小さいが面白い実験の成功例です。ウイスキーで若年層をという大きな課題への取り組みで98年の10月に製品化しましたが「金無いしネットしかないな」というので始めました。HPへは誰でもアクセスしそれなりの楽しみ方が出来ます(”GUEST”ページ)が、もっと楽しみたい人(”VIP”ページ)はボトルを買って首掛けに記載したパスワードが要る仕掛けです。VIPページに入ると次々にゲームにチャレンジでき豪華景品までたどり着けるとか、ユーザー同士の掲示板が利用できたりギャンブルコーナーでマネーを貯めて賞品が貰えたりします。開設2週間で5万人以上が会員になりました。まさに「ヴァイラル(ウィルス)・マーケティング=口コミ」の威力ですね。アクセス数は月間10〜15万PV、B-MAIL利用者数は年間5万人。またHP訪問者の8割が20〜30代、購入者の6割がやはり20〜30代となっています。なお取扱店促進のための「無頼派小僧」作戦で定番化チェーンが開拓できたり、携帯電話のi-モードの実験ではキャンペーンが6時間で定員に達してケータイの影響力の大きさにびっくりしたりと、やってよかったと評価しています。

 ところでインターネットプロモーションについて、とかく効果とか対費用効果の見えにくさ、母集団の偏り、調査とプロモーションの混同などが取り沙汰されがちですが、要は割り切りだと考えています。少なくともマスキャンペーンよりは確実に反応が把握できますし、かつ安く早く簡単です。情報配信のコストはDMの10〜100分の1、自社HPが媒体としての役割も果たすので宣伝のための宣伝が要らず、チャンスイットのような専門サイトも利用できる、何よりも顧客データが一元管理出来るなど、前向きに考えれば利点は明白です。

  [ネットでは顧客対応が極めて重要]

 e-mailでのお問い合わせには「電話のような迅速さ、手紙のような慎重さ」が原則です。また対応結果は「公にされる」という認識で対処することです。勿論、蓄積し易いという特性もあります。また平成15年施行予定の個人情報保護法案に向けて「サントリーのプライバシーポリシー」をこの4月に社内規定として制定しました。

  [顧客データベースの活用]

 やっとデータが集められるようになった段階です。未だメルマガの送付先リストと簡単な分析程度に活かしているに過ぎません。なお先述しましたお客様対応については、データベースとの連動を意図して「eHarmoniCS」というe-mailによる問い合わせ対応システムを構築しました。00年3月から稼動させ、月間800件、キャンペーン時は10,000件以上の対応をしています。ネット上での信頼の醸成に大きく貢献しています。

  [情報システムインフラ、全社・グループの協働]

 いくつかのプロモーションやコミュニケーションを経験し、小さな実験を積み重ねることで、ネット上のお客様の行動特性を把握し、早め早めの準備とキャパシティプランニングが大切です。応募用汎用CGIプログラム、アクセス分析システム、顧客データベース、顧客サポートシステム、メール配信システムなどインフラ整備がキーになります。   また、活動を進めるに当っては自らがまず苦労をすることで経験とノウハウを蓄積していくことが重要と考えています。サントリーでは自社のノウハウづくりという点からも、グループ企業との協働を第一義的に考えていますし、社内の関連部署を啓蒙して連携強化していくといったことが極めて重要な要素になってくるのではないでしょうか。

今後の展開について

 ITバブル崩壊といった状況やB2Cへの風あたりなど、世の中の環境も含めていろいろ課題はあります。先ず少しでもお金になるように、「e-wine」などe-businessへの挑戦です。またパソコンとは違ったコミュニケーション特性を持つ携帯電話での可能性へのチャレンジがあります。幸い当社にはそれ向きの商品がたくさんありそうです。いずれにせよクリック&モルタルによる効果追及と従来の媒体コストも含めたトータルなマーケティングコストのリダクションといったことに、如何にWebが貢献できるかと言うことを実績をつくりつつ実証していくということが我々のミッションと考えています。ご静聴ありがとうございました。(文責:事務局)
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