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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case017 カゴメ
2001.07.18東京第9回 事例報告−1

情報力を活用した営業革新、カゴメSFAの場合

カゴメ株式会社
営業推進部営業推進グループ課長 宮地雅典氏
http://www.kagome.co.jp/

はじめに

 今日は当社が取り組んできました営業革新の経緯と展開の一端をお話しさせていただきます。ご参考にしていただければ幸です。

カゴメという会社、営業革新の背景

 当社の創業は1899年(明治32年)となっています。わが国で初めてトマト栽培に成功した年です。現在、事業内容は調味食品、保存食品、飲料、その他の食品の製造と、青果物の仕入れ・生産・販売となっています。約1,200億円の売上、1,300名の従業員です。83年に5年で1000億円達成という多角化を柱としたスカイ計画をスタートさせ成功しました。その余勢で88年ニュー・スカイ計画に移行しますが売上低迷・利益半減にあい、92年利益重視のカゴメ101計画へと移行しました。しかし前半は利益は回復しましたが後半息切れします。この間、93年に業界に先駆けて取引制度の改定、建値制度の廃止など打ち出しました結果、価格が家庭用で20%、業務用で30%前後も下落しました。98年初めて一族外の社長誕生を機に新・創業計画を打ち出し、今日に至っています。つまり「トマトと野菜」というコア・コンピタンスに集中したミッション経営の革新です。そういう捉え方から例えば野菜飲料を牛乳のように国民健康飲料にしていくとか、学給・産給への参入、マクドナルドさんや宅配さんとのコラボレーションなど新たな成長機会がどんどん拡がって参ります。

 営業革新への取り組みも重要課題の一つでした。95年頃から既にスローガンとして「商品本位から商談本位へ」など掲げていましたが、営業は何をするものかの定義は未確立でした。96年に業界では早かったようですが営業パーソンには1人1台ノートパソコンが配布され、それまでもやっていた「情報カード」のメール化がシステム化されました(カゴメール)。その活用促進の狙いもあり「カゴメ営業大学」を開設し、eラーニングや期末テストも実施しました。それら基本的な情報リテラシーを前提に、97年本支店共同のPJTとしてカゴメ流のSFA構築に着手しました。詳しくは後述しますが、先ずカゴメール・ネットワークの効率化のためにATLAS(アトラス=Advanced Technology Leading Advanced Sales)という営業が使い易いbox(仕組み)を作りました。続いて98年にはノーツ型を改めWeb型イントラネットであるKAGOMEDIA(カゴメディア)に移行し、全社での情報共有を実現しました。現在はKAGOMEDIA2001にバージョンアップしていますが、要は140ほどに分類したサブシステムに自由にアクセスできるものです。その上で99年8月からカゴメSFAを導入し、営業活動のプロセスマネジメントが実現することになりました。2000年にはデジタルダッシュボードを使ったインターネット・ポータル型のシステムを構築し、よりユーザーフレンドリーの向上に努めております。

SFA構築の基本ステップ

 ATLASは営業パーソンの訪問計画から訪問活動(商談)、報告など一連の流れに沿って情報支援する仕組みです。3つのパッケージから成っています。ATLAS1は戦略支援パッケージでマネジメントプロセスを支援するものです。ここにはSFA(定性系DB)、KOA(定量系DB)、全社売上・経費実績進捗などが入っています。ATLAS2は商談支援パッケージでマーケティングのプロセスを支援するもので、商品情報、市場情報、商談情報、プロモーション情報などが入っています。ATLAS3は業務支援パッケージでオペレーションプロセスに関するものが入っています。決済処理系、物流処理系、総務処理系などです。
 ご多分に漏れず、当社のこれまでの営業管理は

 ・取引先(顧客)の評価基準は個人任せであった
 ・営業活動の設計や内容も個別で、共有も分析も不十分だった
 ・支援するマネジメントの仕組みも確立してない
 ・営業パーソンの成果評価も定量・結果主義

という状況でした。営業の高度化・標準化を目指す限りは少なくとも

 ・商談先評価基準による評価と適切な営業資源配分(計画訪問、目標設定、販促投資)
 ・計画的活動と活動プロセス情報の共有
 ・定量結果より定性プロセスの自他管理

という、マネジメントのパラダイムシフトが不可欠でした。個人任せの営業活動を組織的にマネジメントすることで提案営業の高度化を図らない限り、新・創業の実現はあり得ないという危機感がありました。

 SFAの構築に当たって先ず必要なことは、市場の区分と営業のタイプ区分を定義することです。前者は大きく家庭用市場と業務用市場、家庭用は食品・飲料・生鮮野菜・冷凍食品・通販の5つのビジネスユニットに、業務用はそれ1つでビジネスユニットですが顧客は外食用と総菜用とに2区分します。また通販以外の家庭用では顧客をSM・CVS・百貨店・卸流通・新市場の5ビジネスに区分しています。標準化とか効率化を考えてゆくときのガイドラインを作るには、こうした区分の考えが有効になってくるからです。次に顧客(得意先)の分類・評価も重要になります。基本的にはこれまでの取引評価軸1本から、得意先の販売力(潜在能力)軸を加味した2軸で得意先を評価し直します。この時、特に得意先については単に潜在能力だけでなく、要請とかニーズとか考え方の強調性なども把握することが大事です。営業パーソンだけでなくスタッフ自らのリサーチも求められています。このようにして「行くべきところへ行く、やるべきことをやる、しかもすばやくやる」ガイドラインが確かなものになっていくのです。コールポイントもガイドラインの一つではありますが、数が多いだけでは成果に繋がらないのも事実です。

 ここで営業活動ガイドラインの例を申し上げます。たとえば「ビジネスチャンス」として「アイテム導入商談」の機会が来たら、「目的」として「アイテムが導入され定番化されること」が決まり、その「成功のポイント」には「a.得意先のスケジュールに合わせたサンプルや情報の提供・CMを含む販促提案」が示され、そのまた「具体的な営業行動」として「1.販売情報提供 2.新商品プレゼン設定 3.商品プレゼン」が示唆されます。同様に成功のポイント「b.新しい棚割提案」には「4.現状把握 5.棚割提案1次 6.状況確認 7.棚割り提案2次」という具体的営業行動のガイドが示されています。以下「c.アイテム導入の合意」には「8.アイテム合意 9.初回数量決定」、「d.商品を店頭に並べる」には「10.棚割作業提示」、「e.回転率を把握し次の販促提案」には「11.導入状況確認 12.回転状況の報告」となっています。実際にはこの先もっと詳しくやり方や成功のノウハウ、企画書ツールやデータの所在などが示されています。こうしたものがATLAS1の「カゴメSFA」の「営業活動データベース」に収納されているわけです。

 ですから営業パーソンの評価についても「定量―定性」軸と「アウトプット(結果)−プロセス」軸の2軸で評価指標を明確に区分するようにしているのです。つまりこれまでの定量・結果指標(売上、拡売費、配送費、利益、売上高生産性)以外に、定性・結果指標(取組度、お客様満足度など)や定性・プロセス指標(企画提案、提案企画採用度、業務精度)、あるいは定量・プロセス指標(取扱店率×取扱店当たり販売量、外訪回数・時間、企画別売上)を見た業績評価や営業資源の配分をしていこうとしています。四半期ごとにマネジャーと個別に検討会議を持ち、次期の目標設定シートに反映させています。

SFAの活用例 〜“籠ノ目君の一日”

 以上でお話しましたカゴメSFAの基本的な枠組みを整理する意味で、営業パーソンのSFAの活用事例をちょっとご紹介します。ポータルは8パターンほど用意してありますが、そのなかから営業パーソンの「籠ノ目君の一日」編です。

 * KAGOMEDIAのポータル画面
 出社して先ず開く。メールのチェック。他の項目として情報カード、今月の予定、通達、全社ニュース、営業掲示板、慶弔、旅費精算が見えています。

 * 旅費精算〜PENシステムメインメニュー画面
 PC内で昨日の旅費精算。事業所にATMも置いてます。
 ついでに通達に目を通す。

 * カレンダー画面
 「営業活動」のカレンダーで本日は4件の訪問予定。得意先をクリックして商談内容確認、すると「新商品の導入商談」とある。進捗を確認するため次へ。

 * CP別商談進捗一覧画面
 得意先別の活動ガイドラインが示されている。定番採用決定まで間近と分かる。でもこの先どう進めるか、新人などのために用意されているガイドラインへ。

 * 営業活動ガイドラインB画面
 ここで「アイテム導入商談」を参照する。なるほど・・
 新製品導入商談の提案書をつくろう!雛型は?

 * ATLAS目次画面
 ここでATLAS2の「提案書フォームDB」「市場動向」「データ」をクリック
 * 提案フロー画面、データ画面
 ここから商談のネタ、ポイントを掴む
 * 提案営業実践事例一覧画面、参考資料画面
 これは全国の成功事例を検索した結果、いくつも例があるのが分かる。(毎年、提案営業コンテストをして優秀者は海外研修があります。毎年300本くらいの提案書が登録されます。)

 * 自分がExcelで作った提案書画面
 以上のネタを参考に切り貼りもして、わずか10分でしあげられた!お得意先のニーズは営業パーソンが一番分かっているので、そこに訴えるコツは自分で工夫している。

 * アカデミー講座画面
 アカデミー講座(前の営業大学)の内容も借用しったせいか、提案がばっちりと成功!(全国提案営業コンクールにノミネートできるぞ!)

 * 情報カード画面
 モバイルでSFAに進捗を入力。また情報カードにも今回の成功事例を全国の営業担当向けに報告。

 * 情報カード画面、アイテム調査画面
 別の個店で山積みした写真を全国営業に見てもらうため情報カードに記入・添付。また定番調査もしたので、アイテム調査画面にも入力する。

 * 情報カード画面
 その店から野菜系飲料の最適関連陳列商品は何かの宿題。誰か教えて、と情報カードに入力。即、本社の部長から適任者紹介の頼もしい情報提供あり!

 * 情報カード画面
 部長紹介の担当者から実践成功例の報告あり。次回の商談でぜひ使おうと思う。Thankメール。

 ごらんの通りです。営業活動ガイドラインとともに情報カードもかなり活用されています。また検索機能も重要ですので情報区分にはいろいろ工夫しています。

食品業界のトレンドと営業活動の変化

 ここで少し食品業界のトレンドに触れ、営業活動を変えていく枠組みをご理解いただければと存じます。
 大きな流れはミール・ソリューションの展開です。これは元々、アメリカの食品スーパーが外食・中食産業の脅威と消費者の行動変化に対応すべく提唱した概念です。「毎日の食事の解決」の提供方法を変えようとして、デリ部門の強化や食品売場の再編成を行う一連の動きです。わが国でも数年前から重要視されるようになり、メーカーも流通もこぞってその具体化に向かっています。

 特に食品スーパーでは顧客のもとめる

  ・今晩のおかずが目に浮かぶ売場づくり
  ・今日のおかずのヒントが探しやすい売場づくり
  ・今すぐ食べたい物が揃った売場づくり
  ・時間をかけずに商品を見つけ易い売場づくり

のために売場と品揃えに多くの挑戦がされています。

 例えば売場ですがこれまでは「業態別・素材別・容器別」だったものを「メニュー別・用途別・ターゲット別」の方向へ、またフロアレイアウトも「生鮮・惣菜・加食」から「朝食・昼食・夕食」の方向へと変わっていくものと思われます。従ってメーカーも「食材提供→売場提案→食卓提案→生活提案」へ、つまりハード提案からソフト提案の知識と技術が求められます。

 当然、我々の商談スタイルも変わっていきます。当社では情報発信基地として展開している「カゴメ・キッチンスタジオ」を営業が有効活用するモデルを開発しております。呼び込み商談と言いますが、10〜20分がせいぜいの本部商談に代えここでバイヤーさんとじっくりと打合せを行います。特に新製品発売時期は積極的に活用します。全体説明、メニュー体験(試食でなく本格的に)、プロモーション提案、売場提案など、ワインも飲みながら3時間くらいと効果的です。

CS向上への取り組み

 提案営業活動の高度化のためには、得意先における満足度を知ることが不可欠です。昨年から2つのプログラムを発足しました。一つは「得意先ヒアリング」の手法で、得意先のバイヤー以上の部長さん役員さんクラスに面接し、カゴメの組織的な課題を発見する仕組みです。昨年は50企業ほどから始めました。もう一つは「営業力診断」プログラムです。得意先には郵送・留置き手法で、営業担当者の営業力・顧客満足度・営業担当の意識などを評価して貰います。1回約1000名位の回収があります。
 社内上司・同僚からの営業デザイン力の評価を実施します。また営業本人の自己認識も提出して貰います。この3つの視点から多面的に営業活動を把握するプログラムです。ただこれは営業の業績評価にはリンクしないというルールで行っています。
 以上の診断結果を個人の育成やマーケティング・営業戦略、提案活動のシナリオや教育体系・研修設計などに活用しています。

 カゴメSFAは開発に2年かかりましたが、実践・展開していきながら新たなスキルも生まれますし、CS活動からの知見も得て、益々、情報提供・提案型営業の高度化に向け邁進しております。ご清聴ありがとうございました。(文責:事務局)
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