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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case016 ホンダ
2001.07.18東京第9回 事例報告−2

Webマーケティングの可能性、ホンダの場合

本田技研工業株式会社
四輪営業統括部販売部ホームページ企画課課長 渡辺春樹氏
http://www.honda.co.jp/

はじめに

 この7月12日の日経流通新聞の「パワーサイト2001」で私どものホームページが五つ星をいただきました。詳しくは紙面をご覧下さい。外部評価はともかく、今日は私どもの考え方、やり方の一端をお話してご参考に供したいと存じます。

ホンダ、ウェブ・マーケティングの背景

 昔、車の購入きっかけは「セールスに勧められて」が過半数を占め、「自分で捜し求めて」といういわゆるプル型は少数派でした。これが80年代半ば頃には拮抗し、最近では完全に逆転してしまいました。勿論これは若い世代での傾向ですが、高年令層でも若干遅れて同じような傾向に移行しつつあります。この結果、従来主流であった訪問販売の手法が、TVを中心としたマスメディアで呼び込んで店頭で座売りをするというホンダが70年代に提案したやり方に変わりました。ここ10年くらいはどこも同じようなやり方で、当然、効果という点でも曲がり角に来ているのも事実です。
 そういう中でどうやっていこうかという模索は各社共通した課題ですが、こと当社に関してはリアルにしろネットにしろ20〜30歳という強いところを更に強くしようという「相乗効果」の方向を選択しています。顧客特性から「補完効果」の道を選んで成功している会社もあり、そうしたシチュエーションの違いをご認識いただいて話を聞いていただければと存じます。
 ところで車における顧客とのコミュニケーション・チャネルは従来、ディーラーやセールスマン、サービスマンを通してのもの、専門雑誌等ジャーナリストを通してのもの、それとマスメディアを通した宣伝、の3つの方法に依っていました。それぞれ莫大なお金をかけてやっているのですが、それらのメディアの価値は信じられているほどは高くないと思われることがあります。インターネットの普及に伴ってその疑問は更に深まっています。
 特に最近、購入時で利用するメディアとして1位の「自動車専門誌」に迫る2位として「インターネット」が浮上しています。従来のマスメディア群が実際の購入検討にはほとんど役に立っていないことが分かっています。その費用を少し回してでもインターネットでいろいろ実験してみる価値はありそうです。

情報生成エンジン、“NCプロジェクト”

 それでは次に、最新にして魅力ある情報をどのように生成していくかについて、私どものやり方をお話いたします。

 私どもではNC(ネットワーク・コミュニケーション)プロジェクトという体制を組んでおります。専任5名のウェブマスターと各事業部や課から1〜2名計40名ほどのバーチャルスタッフ(正式人事発令)とにより成っています。そのほかゴーストスタッフ(非発令)が30名、外部制作会社40〜50社を含めると、総勢約400名ほどがNCプロジェクトに関わっております。
 ホンダのウェブサイトのコンセプトは基本は「連邦制」でありまして、ウェブサイトというお皿の上に各部門がそれぞれのお客様に対して自由な料理で情報サービスして下さいという姿勢です。営業ならユーザーや潜在顧客やファン層、IRなら投資家や株主、人事なら学生や企業人、あるいは取引先とか従業員というように、ひっくるめてホンダに関心のある人々、いわゆるステークホルダーに対して、従来型コミュニケーションの効率を格段にアップすることを目的としています。
 ただ勝手にとはいってもお客様が情報を探しずらいとか、右と左で食い違っているとかの調整が必要ですのでウェブマスターがあり、ここが最終的にボタンを押さないと外部への公開ができないようにはなっています。いずれにせよ各部門の予算と人手でやりますので大変安上がりになっています。毎日20回位の更新があり、全部見るのは大変ですが、それだけに惹きつけるものがあるとも言えます。また部門別にデータを社内公開しておりまして、社内競争という意味で刺激にもなっています。

ホンダのホームページを見ているのは誰か

 ではどんな人がどれだけホンダのホームページにアクセスしているのかを見てみます。
 先ず平日のアクセス数を97年5月20日と2001年4月6日とで比較してみますと(各24時間)、97年はオフィスでの昼休みと帰る前とにピークが来ていますが、2001年はオフィスの昼休みと自宅にピークが来ています。最近は自宅がトップに移っています。しかも単位が4,000人台から40,000人台ですからこの4年間で約10倍に拡大していると言えます。新製品があるときは当然多くなります。
 性別では95%が男性です。女性も20%位になる時もありますが、懸賞が懸かっている時でして車は売れません。職業では会社員が70%で、技術系と文系が半々、文系がここ2〜3年増えてきました。年齢では20代、30代が40%強で中心ではありますが99年頃から顕著なのは40代の増加です。約15%を超えるようになりました。
 また見に来ている人はホンダのお客様かどうかというと、実に50%がホンダのお客様で、残り半分が他社のお客様です。ホームページのCSI(総合満足度)、再閲覧意向ともに何年も95以上%となっており、まずまずの評判かなと評価しております。

24時間365日の顧客接点メディアの誕生

 以上、バックグラウンド的なことに触れてきましたが、では一体何をしているのか少し具体的にお話いたします。
 インターネットで出来ることという観点から、私どもはホンダのホームページの進化を以下のようなロードマップで捉えています。つまり「eメディア→eコマース→eCRM→eブランディング」という流れです。勿論、前工程が出来ないと後工程へは進めませんが、先の工程もあれこれ手掛けながら前工程も同時進行させなければならない局面も多々あることは事実です。当面のゴールを年間で1500万人のサイト訪問者、新車販売台数の10%貢献(現在は3.7%)、100万人のコミュニティというところに設定しております。2001年はやっと第3フェーズのeCRM =優良顧客コミュニティの形成の入り口にたどり着いたというところです。ですから今日はここまでのところを若干お話いたします。
 先ずeメディアとしての集客力ですが、先にも触れましたが96年のスタート時の40万人が昨年820万人、今年は1,000万人はいくでしょうからまあ評価してよいでしょう。勿論複数回のカウントですからピュアな1,000万人ではありません。
 またネットのよいところは費用対効果がはっきり取れることで、98年のHR-V発売時の実験では、Yahooのトップページに3日間のバナーを張ったところ13,676人のアクセス、内282人が資料請求、内実際の購入者が35人(12.4%)でした。費用は50万円ですから安いか高いか、我々は高い(低効率)と判断しました。当時のYahooの訪問者はホンダの75倍程でしたし、ホンダ独自のページからの資料請求者はYahooの倍もあったことなどと合わせて考えると、そう判断せざるをえません。
 更にネットだと「24時間365日の顧客接点」が可能であり、様々な展開が可能となるという利点があります。そのためにはとにかく多くの人に訪問してもらうこと、そのためには何をしたらよいのかが問題になります。
 古くて新しい事実なのですが、お客様調査をして出てくる要望のトップ3は昔も今も「商品についての情報」「何処に販売店があるのか」「カタログが欲しい」で変っていません。マーケティングの4Pで言うと「プロダクト」「プレイス」「プロモーション」です(プライスは要望では高くないのでちょっとパスしていますが)。例えば販売店の地図検索は電話問い合わせの72倍、資料請求は電話の18倍という飛躍的な伸びです。電話は数十人の人間が必要でしたがネットではそれが全く要りません。またお客様の考えていることがリアルタイムに分かるので、次のアクションに即、反映出来るのもネットの利点です。

ネットの役割は“販売貢献”

 次に商売のところですが、当社は基本的にネットで車を売ろうとはしていません。車庫証明やナンバー登録や決済、納車など様々な付帯業務があり、それぞれ得意なところにやってもらえばよい、いわゆるクリック&モルタルを志向しています。それとよく言われるお客さまデータを蓄積してがんじがらめに迫っていくやりかたに疑問をもっていることもあります。お客様はある程度自由に泳がせて、自ら選んでいただくことが重要だと考えております。ですからネットの役割はいかに販売に貢献できるかという点で評価されるべきだと自己規定しております。
 その点、車の場合、買う気になった人のカタログ請求率は極めて高く、その人々が実際買ったかどうかの率がかなり有効な目安になります。毎年、カタログ請求者の30,000人調査で追跡していますが、98年から徐々にアップし2,000年には3.7%までになりました。この数字が高いか低いか、参考としてアメリカでの状況と比較します。J.D.パワー社の2000年調査では、「ネットでの車の情報収集者率」/「ネットでの車の購入者率(ホンダは購入貢献率)」はアメリカが54%/4.7%に対して、ホンダは41%/3.7%ですから、似たようものだと判断しています。従来のマスメディアに代わってネットは重要なメディアの地位を占めつつあることが明瞭になったことは確かです。

優良顧客コミュニティづくりへの試み

 さてネットでの集客、そして車購入への貢献ということを見てきましたが、買った顧客あるいは潜在顧客に対してネットでは何が出来るか、何をすべきかについて触れたいと存じます。S2000という車の例でお話します。
 98年9月にプロト発売、99年4月正式発売した車ですが、ホームページとメールマガジンの連携で進めてきました。発表と同時にメール会員登録者を募りメルマガを月2回届けています。現在3万人強です。商品情報、特にメンテナンス情報がうけています。メールの満足度は75%、購入者、予約検討中、全く購入意向なしの3層とも全てが「継続希望95%」となっており、やめるにやめられずという状況です。またこのメール会員の内S2000の購入者の割合を時系列で調べていますが、この5月では36.2%となり、実に12,000人が購入しています。つまり2年半少々の継続したコミュニケーションが「買いたい人」を購入者にしていく力をもっていることが証明されていると言えます。また発売当初は雑誌を一番のメディアとして利用しますが、半年、1年と経つと雑誌も取り上げなくなり、お客は困る、結局、ホンダの独自メディアが頼りになるという構図も見えてきます。またS2000の非購入者ですが、80%が他のホンダ車のユーザーという結果で、これも大切なお客様です。

 ただ注意しなければいけないこともいろいろ分かってきました。例えば顧客は自分の関心のある、狭い範囲にしか反応しないということです。いろいろな会員の重複関係を調べてみると、90%がそれぞれ単独会員というのが実態です。つまり顧客の求めるものが如何にニッチであるかということです。またホームページと電子メールの連携は重要ですが、アドレスが毎回数%前後変わりますのでメンテが大変です。それとコンテンツ、これがなかなか大変かつ重要です。一期一会で全力投球してないとすぐに逃げられます。ユニークなコンテンツこそ競争力のコアだと痛感しています。

次世代マーケティングに向けて

 お客さまが24時間365日アクセスできるホームページのアクセスログは言わば「足跡」です。それはお客様の「関心」ですから、その分析がマーケティングの財産になります。3万人調査など以前は3億円掛かったものが300万円で済んでしまいます。しかもほとんどリアルタイムに出来ますから、対策も立てやすくなっています。昨年1年間で1億以上という膨大な足跡を残してくれましたが、これをどう生かすかです。
 例えばステップワゴンの訪問者が何に関心をもってクリックを続けていくかを追跡したことがあります。アクセサリーとかオプションとかいろいろあるわけですが、パワードアとかリアカメラとか我々の予想では低いと思っていたものに多くの関心が寄せられ、驚かされたりしました。
 またホームページへの訪問者がどんなことに関心を持ち、何%が購入者になるかなども、あるパターンが予測できるようにもなりました。
 このように精度の高いマーケティングが低コストで可能になる時代になったことは確かですが、だからと言ってクッキーを設定して事細かに追跡するというようなことは避けるべきだと考えています。そうした土足マーケティングやパーミッションは既にもう古いのじゃないでしょうか。賢く鋭敏な顧客には嫌われる傾向が出ています。我々はカタログ請求者をディーラーに回すなどはしませんし、統計的な分析から得られる範囲でも十分マーケティングには生かせるものがあると考えています。情報とデータ更新の洪水から意味を汲み取れるマシンは未だありませんが、顧客理解に近道は無く創造と提案こそが必要ではないのかと実感している次第です。ご清聴ありがとうございました。(文責:事務局)
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