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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case013 ミサワホーム
2001.03.22東京第7回 事例報告−2

ミサワホームのネット営業、その戦略と実際

ミサワホーム株式会社 営業企画部次長 佐野幸男氏
http://www.misawa.co.jp/

はじめに

 ネットがもたらすバラ色の世界はそう簡単ではないというのが最近ではないでしょうか。アメリカでもネットの企業が店舗を持つ動きが出ています。
 私どもネットに遅れた住宅業界ですが、3,4年前から検討はしていました。本腰を入れてみようかというので1年前に担当を命じられ、乗り出すことにしました。しかし販売ということではなく、あくまで「集客」の手段という位置付けを貫いてみようというのが私どもの戦略でした。ここが他社さんと違う点かと思われます。

ネットで出来ること、出来ないこと

 私どもはインターネットを始めるに当たってその特性を整理検討してみました。

◎ネットに向いていること ●ネットに向いていないこと(営業でできる)
不特定多数に安く早く情報を提供する Face to faceの安心感
特定者と双方向に安く早く情報のやりとり 感性、ニュアンスの伝達
時間、距離の制約を取除ける 絵(写真)情報の伝達
変更、訂正を即時にできる ブランドの構築
データベースマーケティング 人物確認、与信
定常業務の効率化、自動化 隠れた要望の確認(潜在意識)
関連情報の入手 金銭の授受
マッチング(お客と営業の) 実物の確認
匿名相談 クレームの解決
クレーム受付 笑顔の同封
この指とまれ 100人100様の対応
*技術の進歩と機能毎の役割 (例)
・電話による伝達 ・手紙による伝達
・TVの歌番組 ・コンサート会場

 例えば電話が現れて手紙が無くなったり、TVが出来て会場のコンサートが無くなったわけではない。ネットも手段の一つとして取り入れることを考えました。

 *不特定多数に安く早く情報を提供する
 これはネットに最適です。メールなら1通も100万通も一緒です。住宅のTV広告は1回10〜30億円かかり、チラシは1枚6円(制作3円、折込3円)としてもたとえば静岡県だけのカバーで600万円、全国だとすぐに3億円かかります。またネットは早い。チラシなどあれこれして1ヶ月もかかってしまうが、ネットは最新の情報が届けられます。修正も簡単。

 *特定者と双方向に安く早く情報のやりとり
 展示場や現場見学会など年間30万人のお客さまと接します。常に約200万人位の蓄積があります。この方々とのやりとりにはネットがやはり最適です。

   *時間、距離の制約を取除ける
 キーマンである奥様方への最適な電話時間帯は夜の7時から9時位に限られます。その点メールなら好きな時に読んでもらえます。営業マンも制約時間が無くなる。場所的にも人口10万人以下で店舗展開できていなかったところのカバーも可能です。海外からでもこの1年で13件も帰国者と契約できました。全てメールです。

 *変更、訂正を即時にできる
 これは重要ですね。但しご担当される方は相当の権限を貰ってやることをお勧めします。でなければネットはやっていられません。私は計画内容、人、予算、決定権等々、一括で決済をとってから担当しました。ネットでは日々変更、訂正、決定が要求されますし、あちこちお伺いや調整を待っていたら進みません。だいたい自社のホームページを見る社員は少ない!ともかく臨機応変、即断即決こそネットの特性です。

 *データベースマーケティング
 これは便利ですね。来場した時や葉書で戴いた内容が残念ながらデータベースになっていません。ネットで戴いたものは全て自動的にデータベースになります。私どもは頻繁にやりとりしますから、貴重な情報がストックされます。例えば最初にネットでの住宅購入意向を聞きますと95%はノーです。心配だとか対面が安心とかの答えです。では企画住宅など決まった商品ならどうかと聞くと、自由に作りたいという方が70%以上です。こんな風にやりとりしながらマーケティングが出来ます。因みに住宅をネットで購入してもいいという方が50%を越えたら私どももネットでの販売を考える積もりです。なお余談ですが、何十万人にメールを送りますと、送ってる最中にもう返事がどんどん入って来る。暇な方が多いというかネットのすごさを感じております。

 *定常業務の効率化、自動化
 ネットによる定常業務の効率化は言うまでもありません。また自動化ですが資料請求への返答などで大変な作業も瞬時に出来てしまいます。

 *マッチング
 お建てになったお客さまに何故ミサワホームを選んだかを聞きますと、以前は「営業マンが良かったから」というのが1番に来ました。性能とか間取りとかがその後にきます。ものの売買とはいっても家は請負業ですから人が介在するのは当然かもしれません。従ってどういう営業が担当するかで結果が大きく違ってきます。例えばお客さまが和室を1つ欲しいと言われた時、はいとそのまま聞いて変更プランを持っていく営業と、お使いになりたい目的を聞いてやりとりして「それならちょっと割高ですがきちんとしたこういう和室がいいですね」とすすめて喜ばれる営業との違いです。また内装材などでも優れた営業はずかずか入り込んで先ず、風呂とトイレを見て、キレイ好きか無頓着かを見極めて、フローリングがいいかクッションがいいかを提案します。無頓着なお客さまの言われるままにフローリングにすると、後で決まってクレームが来ます。
 これまではお客さまは営業マンを選べなかった。たまたま展示場にいた、たまたま資料請求で担当だったとかですね。営業を替えてくれとは余り言われないのが日本のお客さまで、ただ黙って去ってしまわれる。これが怖い。ありがたいことにネットになってから苦情が入るようになりました。はじめは受身でしたが、今では積極的に対応することに決め、即替えることにしています。
 ホームページをご覧下さい。本社のページから各販売会社のページに入れます。これは東北ミサワホームですがここで営業マンの紹介ページがあります。お客さまは人物紹介や写真を見て、よさそうな人ねと言ってクリックするとメールが送れます。今、全国1500人分が出来ています。またこれは千葉ミサワホームの開発・設計者の紹介です。作品の写真も見ながらお客さまはクリックできます。間もなく全国120名の設計者が紹介されます。
 クラブでホステスを指名できるのに、生涯一度の買物に営業を指名出来なかった、それがネットだと出来る。

 *匿名相談
 これは営業に煩わされたくない人、気が弱い人、でも家が欲しい人、結局変な営業に捕まって言い成りの家を買わされてしまって悔やむ人。つまり可哀想な人、結構多いのです。実験してみると匿名ならとご相談があり契約までいくケースが確実にあります。ただ、今はスタッフが少ないので却って迷惑をかけてはいけないと、もう少し体制を整えて本格化する予定です。

 *クレーム受付
 良くないことはすぐ入りますね。また先日TVで石原知事が住宅会社がぼろ儲けしてる分値段を下げれば2,3割安くなるとか暴言を吐いたらしく、メールで即入ってきて分かりました。粗利益26.1%のことらしいのですが、直ちにQ&Aを作って全営業に通達しました。お客さまにも即回答しました。24時間以内にしないとアウトです。

 *この指止まれ方式
 これは「100人100様の対応」の対極にあることです。マーケットは広いですから、こういう人だけ集まれといえば何百人と集まるのがインターネットです。それで商売が出来るわけです。特徴を分けて使うべきでしょう。

 では、インターネット向きでないことに少し触れてみます。先ず「face to face」、やはり大きな買物ですから顔の要素は大きい。また「感性、ニュアンス」はメールのやりとりでは掴み切れません。それと「絵・写真情報」はアナログ回線の方が22%もいるので時間が掛かり途中でやめられちゃう。しかし住宅には写真が不可欠です。次に「ブランド構築」もネットでは難しい。また「人物確認、与信」ですが、例えばクレジット番号をネットで送るのは、単にお客さまが不安というだけでなく受ける私どもも金額が大きいだけに心配です。未だネットでは避けた方がよいと判断しています。また「隠れた要望の確認」こそ住宅請負業の役目ですし、「金銭授受」「実物確認」もやはり人でないといけません。「クレーム処理」はメールでなく営業がすぐ走らねばなりません。居酒屋の和民さんでも「4.この店はもう来ない!」に印がついたら24時間以内にお詫びに行くそうです。

 縷々お話ししましたが、元々営業がいない企業ならいざ知らず、全てをネットでと考えるのはおかしい、営業を使い分けるという視点でこそネットも活かせると思います。営業のいない松井証券さんと営業を抱えている野村證券さんと、同じネットを取り入れるにしても違いがあるわけです。私ども4000名の営業マンに向いていることをやって貰う方が話は早いわけです。

ネットによる”ミサワ流”集客方法と成果

 さてひたすら「集客」に徹しようとして始めたものですから、受注だ決済だとか難しい仕組みはありません。専門のシステム屋も関わらせてはおりません。
 先ずお手元の資料をいくつかご覧下さい。「インターネット利用者の推移」は集客から販売への頃合を計るのに見つづけています。NRCの「視聴率ランキング」は流行っているネット媒体を知るのに見ます。同じく「メディアの属性分析」では住宅対象に合ったセグメントを見極めています。BizTechの「読者プロフィール」で年収の高いところに目を付けています。当然「医者」が多いのですが彼らはメールなんか読まないという配慮も必要ですが。日経BPの「インターネット・アクティブユーザー調査」は、四半期に1回の当社独自の詳細調査と対比して活用しています。
 この1年あれこれ試して来ました。分かったことは自分たちで当たってみないと何も分からないということです。メールなど早くも食傷気味ですね。お客の特性を研究しながらやってきた私なりの集客に触れてみます。
 結論からお話します。昨年(平成12年)上期の資料取得数が19,156件(前年比8.5倍)、契約棟数が750棟(前年比12.5倍)でした。下期は資料取得と契約の間のタイムラグ(早くて2、3ヶ月)もあり、そう伸びませんで、通期で資料取得数33,000件から34,000件(全件数の約25%)、契約棟数1,300棟の予想です。ただ展示場だと1件当たりの資料代は建物等のコストも入れると3万円、ネットでは1千円ですから費用対効果は相当なもの、ざっと10億円にもなりますね。
 上期2-3月にやった「1000万円キャンペーン」だけで6,865件で293棟、契約率4.3%と好調でした。展示場での契約率と同等の水準です。ということはネットでも客数は集めれば集めただけのことがあると分かりました。1,000万円は当選者1名でしたが、次は主婦に受けそうな「旅行券(複数当選)」で7,513件、次が事務職狙いで「パソコン(複数当選)」で5,029件、以下「ガーデングッズ」「インテリア照明」等々、ものが日常品になるほど減ってゆきましたね。契約率ですが、これはどのフックの場合でもほとんど変化無く4%前後という発見をしました。今後はやはり大き目のキャンペーンで大集客すべきかなと考えています。またごく最近「チャンス・イット」というサイトにも乗せてみました。1週間で2,300件位が見込めます。
 ところで契約率の高さは、資料取得のお客さまをWeb上で区分けしておりまして、営業マンが行く意味のありそうな方にだけ訪問できるような仕掛にしていることにあるようです。つまり「直接会って話がしたい」と「最寄のミサワホームから直接お届けする」にチェックを付けた方だけ、約3分の1。「e-mailでのみの情報提供希望」(3分の1)と「一切の連絡は不要」(3分の1)とにチェックした方には訪問させていません。
 またページの作り方ですが、キャンペーンなどの告知を初めに目立つようにするとか、お客さまの記入項目を出来るだけ少なくするとかの工夫も重要です。アンケートの項目が少ないほど資料請求数が確実に増る傾向です。
 以上のようなキャンペーン・タイプの他に「楽天」などへリンクをはることもしています。住宅を売る気はありませんが、楽天が店の分類に使っている「カテゴリー」のいろんなところにミサワホームの製品を出すのです。例えば「家電」には”カットキー”という知る人ぞ知る商品がありますし、「介護」には”電動車椅子”があります。「家具」はお手のものという具合。それらの商品も売る気はありませんから高い値段にしています。要は何処でクリックしてもミサワホームへ飛んでくるようにして置く。月間たった5万円で何ページでもOK。1億ページヴューという媒体にタダ同然で宣伝できるのです。「Yahoo!」でも同様にやる予定です。

 新規営業だけでなく入居者への囲い込みを狙った工夫もしています。それ専用の「ミサワメディアネット」もあります。月に2,3回はサイト訪問しますので、役立つ情報を頻繁に提供しています。こういうコミュニティーコーナーが大事です。

 また「Cat!Project」はお客とやりとりしながら商品開発しようというマーケティングの一環です。同じ犬でも大型と小型では家の造りはちがうものですね。当社にもお客さまにも大変良い結果になっていますが、ちょっと手間がかかるのでしばらく休止しますが、いづれ再開します。

おわりに

 ネットの集客を活かすためには先にも触れましたがマッチング率の向上が大切です。資料送付した1ヵ月後に自動的にメ-ルを出し、進捗を見ています。問題営業の変更は断固として実行させています。ここの妥協は販売会社自体の利益にもなりませんから当然です。
 また社員教育も必要です。これもタイムリーな情報を毎週1回は営業にメールで流します。金利変動など2.55%が4月から2.4%に変更になるからこうしなさいとか。営業から直接の相談も入ってくるようになり、ネットの良さを活用しています。もう1200から1300名がアドレス登録できました。
 また販売会社のホームページ運営レベルや営業マンの対応力の向上が課題となっています。特にホームページのレベルは相当低いので早急の課題です。
 今後ポータルとしての「ミサワメディアネット」の充実も考えています。ご静聴ありがとございました。(文責:事務局)
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