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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case012 リコー
2001.03.22東京第7回 事例報告−1

オンサイトとWebの統合マーケティングの具現化

株式会社 リコー 販売事業本部
E事業部マーケティング室ポータル企画グループリーダー 花井 厚氏
http://www.netricoh.com/

はじめに

 簡単に自己紹介させていただきます。86年入社して2年ほどOA機器の販売をした後、ほぼずっと「新設」された部門の立上げに関わってきました。87年・大手営業教育プログラム開発、90年・他社攻略支援部門、92年・大型複写機販売部門のマーケティング開発・推進、97年・インターネットサービス立上げ、98年・新規事業開発室でのインターネットサービスの企画開発、99年・それが名称変更されたE事業推進センターでネットリコーの開発立上げ、と言う次第です。00年からE事業部に名称変更され現在に至っています。
 組織名が表していますが、当社ははじめインターネットを新規事業ととらえていましたが、試行錯誤を経てむしろ本業の再構築だと言うことがわかり、歴史や伝統のよい部分、悪い部分を抱えながらの革新だと言う認識で”e”でなく大文字の"E"にこだわりを込めております。
 また異業種が集まるある研究会で座長を勤められている旭化成の山本社長が「たとえば当社の住宅事業も初めはトップが事業の設計図や海図を描き、さんざん試行錯誤の上で80年代までに形をつくってきた。それがこれまでのビジネスモデルだった。しかしITやらインターネット時代になって、誰が新たなビジネスモデルをつくるのか、ITをどのように取り込んだら良いのか。トップは部長クラスがそれを描くべきだと考え、部長たちに言わせると社長はじめトップだと言う。お金はあるのにどう使えばいいのか、どこがCRMとかBPRとかSCMとかに取り組んだらいいのか、歴史ある会社にとっては取り組みにくい問題だ。どうも社内に「ヘソ」がない状況だ。」とおっしゃってましたが、まさしく私どもも同感で、今日のお話もどこまでご参考になるかわかりませんが、ご理解賜りたく存じます。

リコーの事業概要と経営課題

 リコーの事業ユニットは3つです。法人オフィス向けにOA機器販売や保守をする事業、デジタルカメラなどコンシューマ製品を扱うパーソナル事業、それとチップやデバイス、化成品等部品の事業です。今日は法人向け事業についてお話します。
 この事業は複写機を売りその保守・メンテを基本にしたビジネスモデルです。さらにそこからオフィスの様々な問題に対するソリューションまで関わって行こうと、提案営業を目指してきました。しかしご多分に漏れず営業所では壁にグラフが張られ毎日、毎月の数字の追い込みがありますから「箱(機器)」売りが優先してしまいます。社内用語で”一升マス現象”と言いますがどうしても時間がかかる提案営業は二の次になります。教育したりツールを開発したりしましたが、結局、営業に時間をつくってやらないと不可能だとなり、ズーと課題になっていました。
 また、リコーの強みとして47販社、4700店のディーラ−網、26,500人のセールスマン、更にアフター面では950拠点、9,300人のサービスエンジニアなど相当なパワーとなってきましたが、これは諸刃の剣で、一旦ことあれば人件費が大きく経営を圧迫する体制でもありました。
 こうした課題への有効な解決策は、3年ほど前までは見つからず暗中模索でした。転換のキッカケになったのは”CSS”という複写機と電話回線とを結んだシステムでした。インターネットに入っていく参考モデルにもなりました。
 複写機、例えば処理能力が毎分60枚機は1台が1時間に約3〜4万円を稼ぎます(紙、トナー、保守サービス含む)。つまり故障で1時間止まるとリコーは収入をそれだけ失い、お客さまは会議が出来ないとか目に見えないマイナスを蒙ります。ダウンによるロスタイムを如何に無くすかが重要なのですが、定期点検で廻っていてもなかなかタイムリーにはいきません。このCSSではどの複写機が何時頃おかしくなりそうかというアラームが自動的にセンターに入るようになっており、サービスマンが明日以降のスケジュールに巡回を組み込めるようフィードバックしています。このシステムの維持には年間数億円かかっていますが、お客さまとのWIN-WIN関係づくりという点で充分機能しているモデルと評価しております。因みにリコーの複写機は国内で120万台稼動しており、その約35〜37%がCSSに接続されています。
 ところで私どもの複写機事業は本体(機器)を売ると保守が100%、トナーのような専用消耗品が90%、用紙のような汎用消耗品は70%程度の需要がついてきます。その点は100万円の車が売れても保険、修理、ガソリン等計400万円の派生需要が他社に流出してしまう事業とは根本的に違います。この事業を支える仕組みは、機器の保守を行うため常に最新の状況にアップデートされている顧客データベース、緊急性に即応できる物流、法人顧客向けの掛売りを基本とした請求・回収方法の3つです。物流は現在250拠点、将来は60拠点まで合理化する計画です。請求・回収業務も一時はアウトソーシングも検討しましたが自前化する方が有利だと判断しました。従来はコストと捉えていたものが、E事業ではむしろ強みになることが分かってきました。

Eのインパクト

 ご存知のように今やインターネットの普及についてはその勢いを疑う人はほとんどいません。例えば通産省とアクセンチュアの共同予測ではBtoB市場全体に占めるEのウエイトは98年―1.5%が03年―11.2%、05年―19.1%です。私どもに関係するMRO(メンテナンス&リペア・オペレーション)市場に限ってはそれが4%,18%、36%と急速な勢いで高まると予測されています。

 また、Eの時代は中抜きが起こると言われてきましたが、それは逆で中抜きは起こらずにむしろ”新たな仲介業者が現れる”と認識しております。車に於けるオートバイテルはその典型です。1段階増えており、低マージンながら圧倒的ボリュームを扱うビジネスモデルで成功するようになっています。我々の業界でも充分ありうることです。リコーの旧来のチャネルより安く提供できる仕組みが現れようとしています。どう対応するか、安閑とはしていられない状況にあることは確かです。しかもお客様自身が新たな仲介者、競争者となる例もでてきています。

 一方、2年前に全国5,000のお客様にアンケートをとったのですが、その中で新しい事実に驚きました。リコーの訪問販売に対するface to face のニーズは55%、逆に45%が対面でなく電話やWebでも良いという結果だったのです。この平均値は余り意味が無く、むしろ営業の各プロセス毎の数字に注目すべきでしょう。つまり営業だけ電話だけWebだけと言うのではなく組合せとウエイトの置き方が重要だと言うことが分かります。

 このように販売の核のところにインターネットを使おうという構想が固まりつつあった頃、経営トップから営業をもっと付加価値のある仕事にシフトするのか、あるいは減らすのか方向を出せという宿題が出ていました。“人を愛す”という経営理念から人には手をつけないできていますがITの本質は合理化です。そこでいろいろ計算したところ、営業一人当りが5年後に6倍の生産性を上げてないといけないという結果がでました。東京リコーのソリューション型営業部門で半年間データをとってみたら、訪問準備とかオペレーションとかになんと56%の工数がかかっていました。ソリューション型への移行を目指せば目指すほど、まさにインターネットによるてこ入れが不可欠なことが判明したのです。
 なお、複写機の販売という視点を変えて、中小事業所市場でのビジネスという視点に立つと、いろいろな競争者が現れています。かれらが積極的にインターネットによるモデルを導入してきますと、今までのように人間関係でごり押し出来たやり方では通用しなくなってゆきます。お客さまがクリック一つで業者を選ぶ時代が目前に迫ってきています。

インターネット事業への取組経緯

 次にリコーとして始めて取り組んだインターネット事業を3つご紹介して、そこから学んだことをお話してみます。
 まず97年10月に”nextlink”という中小企業の経営者向け情報提供サービスを始めました。当時、中小企業でインターネットを理解している経営者は極少数だったことや、会費一律1万円でも自分の欲しい情報が限られるということでうまくいきませんでした。中には「建設入札データベース」など人気なものもありました。教訓は「お客に受け入れられない通信販売的アプローチ」はダメということ、「田んぼの中の自動販売機状態」のむなしさでした。
 次はやはり97年10月に”photonet”という一般コンシューマー向けのネットアルバム・サービスを立ち上げました。アメリカで先行していたピクチャービジョン社のライセンスを受けてスタートしたASPです。他社もライセンスをうけて同じサービスをスタートしましたが、会員数に大差がつき、インターネットのように顔が見えないサービスほどお客に浸透している歴史あるブランドほど有利であることを認識しました。
 次に99年3月にコンシューマー製品に限った販売サイトを立ち上げました。一番参考になったのはお客様がデジタルカメラを買うにあたって「ここで買ったものはいつもうちに来ている営業マンの売上になるのですか」という質問が来たことです。「営業マンから買うと、壊れたらすぐに取りに来てくれるし、使い方が分からなければ教えてもらえるといったサポートが受けられるから」ということです。それでここで買ったらそういうことはないと言うと、営業の見積もりのほうが5,000円高いけれど、営業マンから買うということでした。この代表的な例から、お客さまとの接点を解決するEが重要だということを学びました。

 以上の例でもお分かりのとうり、インターネットの向こうに3,000万人のお客がいるというような魔力に惹かれての参入はうまく行きません。また、初めから完璧なプランでスタートしてもダメで、お客さまとの反応を見ながら絶えず変えていくことが重要です。そのためにはログ解析ツールなどがありますが、それをキチンとマーケティングの視点で読みきって対策を繰り出せるかが勝負です。
 更にもっと重要なことは、インターネット事業をやろうとすると必ず自社の営業やチャネルとの軋轢が生じます。当社の場合はトップが「T(トラディショナル)とEの矛盾と軋轢は起きて当然、それでもやれ!」という決断があったので挑戦できました。それと担当する自分の中でも躊躇するものがいろいろあるものです。例えば価格ですが、セールスにとって初めから価格をオープンにしてしまうインターネット方式は馴染みません。でも価格表示の無いインターネットはありえません。やっと慣れましたが、インターネットのオープン性、透明性が企業を変えていく良い例だと思います。
 なお先行するアメリカのインターネット企業から学んだことも沢山あります。アマゾンからはone to oneのリコメンデーション、オートバイテルからは購買支援というエージェントの役割機能、デルからは法人営業におけるマルチチャネル方式による営業の生産性を学びました。(「デルの体制」 営業:AE=アカウント・エグゼクティブとSR=セールス・レプリゼンタティブ。技術:TS=テクニカル・サポートとASG=営業技術。業務:CCC=カスタマー・ケア・セル。以上事務局注記)

ネットリコーのコンセプト

 以上の試行錯誤がどうしてうまくいかなかったか、従ってリコーとしてやるべきインターネットとは何なのか、それを整理したのがこの図です。

 つまり先行した3つのE事業はそれぞれE1~E3だったのですが、問題は本業のE0とは無関係にしかもばらばらに始めたことでした。E0の革新、それとの関連ないしは進化という位置付けでのE1〜E3であるべきだと言うことが分かったわけです。

従ってリコーの取り組むE事業とは、販売構造の改革そのものであり、3つの課題、つまり

  ・誰に:既存顧客から潜在顧客への橋渡し
  ・何を:既存商品から新規商品への橋渡し
  ・どのように提供するか:「あみだくじ」対応=マルチチャネル方式

の同時解決という自己規定に至ったのです。このような経過で"NetRICOH"のコンセプトを決めました。

 因みにお客さまはどのチャネルからでも、またどの組合せからでもリコーに入れることが大事です。実際、セールスのみ33%、コールセンターのみ4%、電話のみ10%、そして”あみだくじ”が53%という現状です。また受注コストはコールセンターが1件当たり300円強、FAXが100円前後、Webはゼロ円ですから、我々160万社から毎月最低1件の受注がありますので、相当なコストダウンが期待できます。更にセールスの業務も試算では45%減らせるとみています。その分ソリューション営業への余裕が現実のものとなってきます。

"NetRICOH"の実際

 ネットリコーのコンセプトを実現するために、one to oneで提供するビジネスは以下のように4つのレイヤで構成しています。(-SP=サービスプロバイダー)

 00年1月に立ち上げて、3ヶ月で実に800項目ほどの大改造を迫られました。従来からのお客さまの取引履歴が無いとか、全商品が見られないとか、様々な改良が出てきました。また6割位のお客さまは未だインターネット環境に無い方なので、パッケージ化されたサービスも提供しています。

おわりに

 インターネットの出現は千年に1度の大転機、千載一遇のチャンスと言われます。前向きに取り組むべきでしょう。また早くやることです。パテント、開発技術者の取り合い、キラーアプリの先取りなどに遅れてはいけません。それと成果を早く出すこと。今15万事業所まで登録が済みましたが、PDCよりA(アクション)が大事ということ。そしてE事業で最も重要なことは、"if…"でお客の振る舞いから仮説・実証のサイクルを素早く回すマーケティング、暗黙知を形式知にするマーケティングを展開することだと痛感しております。(文責:事務局)
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