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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case011 資生堂
2000.01.25東京第6回 事例報告−1

ウェブ上の”個客”獲得戦略

株式会社 資生堂
宣伝部デジタルメディアクリエイション室部長 岩城陸奥氏
http://www.shiseido.co.jp/

ホームページ公開の経緯

 当社のホームページ開設は、他の企業さんより少し早かったようですが、直接のきっかけは95年1月17日の阪神淡路大震災でした。電話も繋がらないのに、翌日には市内の状況が画像になってインターネットで届くことに驚きました。
 当社は膨大な宣伝費を使ったり800万の花椿会員を組織化したりなど、コミュニケーションには相当力を入れてきましたが、もしかしたらインターネットも重要なコミュニケーション手段になるのではないかと気が付きました。
 またその当時、既に現組織の前身のコンピュータデザイン室でいろいろやっていましたので、リソースはかなり揃っていたこともありました。
 95年4月にホームページプロジェクトを開始しました。慶応のSFCに1人送り込んで勉強させたりもして、10月にホームページの公開に至りました。
 アクセス件数は96年12月からしかデータがありませんが、どんどん伸びて2000年10月には約4500万、ページビューにして600万をこえるまでになっています。ヤフーのような1億を越えるサイトは別として、ホンダさんが900万、キリンさんが400万ページビューといわれていますから、メーカー単独のものとしては多い方かもしれません。しかも当社の場合”女性”が中心ということを考えると、男性中心の両社さんと違い、それなりの評価をいただいているのかなと思われます。

ホームページの構成について

 ここで少し実際のホームページの構成をご説明します。まさしく我々の「集客」の始まりです。
 トップページは大きく3つに分けています。画面左側が「定番コーナー」、そりより広い右側が、バナーとは言ってませんがいくつか新しく訴求したいアイコンコーナー、そして底辺部となっています。
 定番コーナーのメインは「+W+M」という会員用の入り口です。会員登録していただくと当面は自動的にIDとパスワードが発行されています。後で自分で変えることもできます。
 会員が受けられるサービスに特徴を持たせています。例えば「ビューティノート」という冊子のプレゼント、また「ナチュラル」というサンプルプレゼント、「サイバードア」はゲームができる、「ザ・ギンザ」発の通信販売が出来るなどです。これらのどのサービスから入った会員なのかなど全て分かります。一度登録すればいちいち名前や住所など面倒な手間がかからないようにしてあるのも人気の要因です。昨日あたりで133,000人の会員に達したようです。約80%が女性です。インターネットの会員制としては独特な地位を占めていると評価しています。
 それから「サイバードア」はマルチメディアの実験ページです。当初は女性ということでパソコンのヘビーユーザーは少なかったので、ネットスケープ1.0などをかなりあとまでサポートしていました。今はブラウザも進歩しましたので、「サイバードア」はむしろへビーユーザー獲得のためのページと位置付けています。この人たちもいずれは化粧品に関心をもってくれるだろうとの想いです。
 また「お肌のお天気情報」も独特のものだと思っています。化粧品そのものの情報はいくらでもあるのですが、商品周りの情報となると意外に苦労します。これは紫外線情報、乾燥情報、美容情報の3つの情報から成っています。ニュージーランド上空に新たなオゾンホールが発生したとか、紫外線への関心が高まっていますし、当社商品にもそれ向けのがありますので取り上げています。
 紫外線情報は”只今の紫外線量””紫外線予報””過去の紫外線量”の3つあります。”只今”のはリアルタイムのもの、”予報”は気象庁から買っているデータに基づいています、気象庁の予報が外れれば外れます。これらは極めて狭いエリアまで絞り込めるのが特徴です。余談ですが天気情報は5KM四方までだと無料、2KM四方だと有料なんですね。なお”只今”のデータは国内と世界各地の資生堂の各出先の屋上に計器がありまして、そこからリアルタイムで取り込んでいます。ハワイのホノルルへいこうとしたら直ぐ調べられるわけです。
 なおデータは学術的にも使えるレベルですので、世界的に拡充して、ネットワークのよさを発揮させる計画が進んでいます。
 一方、アイコンコーナーですが、ここは長くても1週間で替えています。ヤフーの社長さんも言ってますが、更新頻度がやはりアクセス数を左右するようです。  また、「個客」を集めるということでいろんな仕掛をしていますが、一つご紹介したいのがメーキャップコーナーです。メーキャップの仕方が分からないと言う方が案外多いので,それに対するページです。IDとパスワードで入れて、自分の顔の条件をいれて診断をして、好きなイメージをいれるとある形が出てきます。我々には実際どんな顔かは分かりませんが、ある程度の「個客」情報が把握できます。因みに日本の女性が一番なりたいイメージは「エレガント」というようなことが分かります。外人だと「アグレッシブ」。

インターネット普及の背景

 既に2000万人のユーザーがいるといわれるインターネットです。以前は我々は皆、活動場面はアナログで動いていました。つまりアナログドメインでしたが、インターネットになりますと全てがデジタルなアプリケーションで立ち上がってくる。アナログかデジタルかなどという認識を飛び越えて、全てがデジタルドメインとしてあたりまえの活動が要求されてきています。
 従ってビジネスにおいても、ネットビジネス・オンライン販売・メディアデザイン・アプリケーション等々、「新規産業」を創出しますし、「既存産業」でも効率化・経営革新・新規ビジネスを促します。好き嫌いでなく時代の流れでしょう。
 当然、コミュニケ−ションにも大きな変化をもたらします。これまではマスコミュニケーション、つまり一方的に知らせるコミュニケーションでした。これがパーソナルコミュニケーション、つまり納得してもらうコミュニケーションに変わっていきます。
 現在はマスとパーソナルのせめぎ合いの状況にあるとも言えるでしょう。メーカーがユーザーに直接コミュニケートしたり、あるいはユーザー同士がメーカーも中抜きで繋がったりということが簡単に出来てしまいます。また媒体間のせめぎ合いも激しく動いています。
 いずれにせよ「知らせるから納得してもらう」方向がますます重要になってきます。「今年は白が流行ります」といっても、もうついて来ません。環境・資源問題なども背景にありますし、しっかりとした価値判断をして行動する傾向がはっきりしてきています。一層、納得してもらうことが大切な状況になってきていると理解すべきでしょう。

インターネットはターゲティングメディア

 インターネットって何だろう。はじめの頃、よく議論になったものです。ある人は宣伝といい、ある人は広報という。或いはダイレクトコミュニケーションだ、Eコマースだ、といろいろでした。既存の概念で言うからそうなるのですね。しかしだんだん分かってきたことは、それら全部をひっくるめたものがインターネットなのだということです。どれか部分ではない。
 それとインターネットも変化してきました。インターネットそのもの変化と言うより、インターネットに対する我々の意識の変化と言ったほうが正しい。つまりはじめは告知メディアと考えた。だからテレビコマーシャルをホームページに乗っけたりしました。わざわざ長い時間かけてダウンロードさせるとは何事かと苦情が来て当然でしたね。次が広告メディアと捉えて、購入促進のためにプロモーションしたりサンプリングをしました。そして現在はターゲティングメディアという捉え方に変わってきています。
 「闇夜に鉄砲」がマスならインターネットは「相手が弾の前に立ってくれる」ものだ、というのが当社の福原の口癖ですが、ターゲティングメディアの意味を言い得て妙と言えます。  ターゲティングメディアとは何か。われわれは以下のように捉えています。

  1.誰にコミュニケーションするのか?
       +W+Mでどんな人かが分かります。
  2.何をコミュニケーションするのか?
       見てるものも分かります。
  3.いつコミュニケーションするのか?
       昼か夜かなど分かります。
  4.どのくらいコミュニケーションするのか?
      1Pか10Pか、詳細か、滞在時間が分かる。
  5.返事はほしいのか?
  6.相手は何を期待しているのか?
        サンプルか情報か。
  7.あなたは何を期待しているのか?
        発信側自体、それがはっきりしているか。

 これらを全てコントロールできるのがターゲティングメディアであると考えています。今後変わるかもしれませんが、今のところそう定義してやっています。
 これはもう、テレビなどマスコミなどとは全く違ったメディアです。6兆円と言われるこれまでのマスコミ費用がなんとも信じられなくなりますね。
 ターゲティングメディアとして必要なことは個人情報であり、そのデータベースです。+W+Mの会員制のスタートです。ただ注意が必要なことも分かってきました。CRMということで何でもやって良いかとなると反省点もあります。例えば個人的にアマゾンのメンバーでしたが、あんまり度々案内がくる、しかも私の好みを拡大解釈して案内してくるのでうるさくなって脱会しました。我々も父の日プレゼントなどのメールをした時、父親をなくされたばかりの方からお叱りを戴いたことがあります。CRMは必要ですが、良く考えてやるべきでしょう。

 また、なぜホームページをもつのか、ということもよく考えるべきでしょう。無くても良い場合もある筈です。我々もやりながら分かってきたのですが、マスコミでは伝えきれない”魅力あるコンテンツを載せたい”、それをたくさんの人に見てもらいたい、つまり”集客したい”になり、その人たちの中から何人かでも個人情報をいただきたい、つまり”パーミションをいただきたい”、そのためのホームページなのだということです。

+W+M会員組織

 資生堂のWebサイト「サイバーアイランド」の会員組織は+W+Mメンバーで構成されています。+Wが97年3月、+Mが98年2月に発足、2000年末で122000人になりました。女性が87%、未婚64%・既婚27%、20代58%・30代26%・40代6%、会社員41%・学生25%・主婦14%、といった傾向です。30代、主婦層の伸びが高くなっています。
 また、+Wのメンバー像ですが、「20代(団塊ジュニア)を中心とした、化粧品への関心度が高く資生堂ファンの集団」と出ています。更にこの人たちは

  ・ライフスタイルは、情報が氾濫する中でもしっかりした情報選択ができ、自分らしさのこだわり(個性)をしっかりともっている
  ・購買行動においては、各自が情報を持って必要なチャネルで買う。「情報→店頭で情報の検証」という購買スタイルをもつ。この時点では専門家(BC-=ビューティコンサルタントなど)の情報を求めている。
  ・資生堂(メーカー)との関わり方は、インターネットなどのダイレクトな関係を重視している

といった特性をもっていることが分かってきました。

 +W+M会員組織の戦略的な役割は、コミュニケーションを通じて資生堂のブランド価値を広く伝え、ロイヤルユーザーの獲得と育成を支援するところにあります。そのためにサイバーアイランドの一層の拡充を進めてゆきます。将来はバーチャルカウンセリングなどもここで展開してゆく計画です。
 またこの会員組織は資生堂のデータベースマーケティングの根幹と位置付け、会員の拡充に従いブランド別や地域別のミクロなマーケティングに具体化してゆく計画です。この時は個人用ホームページまでできているでしょう。






 なお、お客さまとの双方向の対話を進めるために、サイバーアイランド以外の施策、たとえばコールセンターやコスメティックガーデン(ショールーム)、SAセミナー(サクセス・エイジング・セミナー)などのデータベースの統合を図る方向を目指しています。

 ところで98年から毎年、白書のための定期調査をしていますが、その経年比較によれば確実に女性のインターネット世界への浸透が急進していること、化粧行動への価値観が鋭くなって来ていることなど、従って当社が目指すインターネット戦略の益々の必要性を確認しております。

おわりに

 以上、当社のWeb戦略の概要をお話しました。
 最後に自戒を込めて

  ・「好かれるホームページ」
  ・「アクセス増加」
  ・「Web運営」

それぞれに、”7つの秘訣”を整理してみました。ご参考いただければ幸いです。
 ご静聴ありがとうございました。(文責:事務局)







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