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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case009 レゾナンス
2000.11.21東京第5回 事例報告−1

"Early Adopter Marketing"、「ジャミンシティ」

株式会社レゾナンス 代表取締役社長 近藤正純ロバート氏
http://www.resonance.co.jp/

はじめに

 ”レゾナンス”は「共鳴」と訳されます。出版兼マーケティング会社です。
 これからの時代、マーケティングは「共鳴」ということが重要になってくると認識しています。弊社もそのことを世の中に提唱して行きたいと考えています。いわば「共鳴のモデル」「レゾナンス・モデル」がつくれればいいなと、いろいろ取り組んでいるところです。

事業コンセプトの誕生

 少し会社と私に触れさせていただきます。
 会社は98年に設立しました。いま50人ぐらいでやっています。ほとんどがいわゆる大企業を10年くらい経験した人間ですが、出版の経験者はほんの僅かというユニークな出版社です。因みに「楽天」の三木谷さんは興銀の同期でよく会って語り合っています。
 97年の末に私は興銀をやめました。きっかけは94年から96年にアメリカへ留学させていただいた時の、仲間内の会話にありました。「お前はどうして銀行員をやっているのか?」「夢は何だ?」とかいう質問に全く答えられなかったのです。88年に興銀に入行しましたが、入れれば幸せになるだろうくらいにしか考えていませんでしたから。ちょうどその頃、祖父(一目山人:当時、株の神様とも言われた人)の書いた「一目均衡表」に出会い、その中にある考え方の基本的な哲学に惹かれ、その現代版を書いてみたいと思うようになっていました。つまり作家になろうと!
 早速、人事部長に思いを明かし退社したいと言ったら、「君も疲れてるね、少し休暇をとりなさい」で相手にされませんでした。当時、人事制度改革専担で上司の支店長などに給与が下がる説明に明け暮れ、「お前に言われる筋合いではない」などのやり取りでまいっていたことは事実です。そんなこんなで3ヵ月後に辞めました。
 さて、祖父の本の現代版の企画書をつくり、出版社を20社ほど廻りましたが全く取り上げられません。大分悩みました。そこで気付いたのが自分で出版社をつくることでした。それが「レゾナンス出版」です。
 本だから紙が要るだろうと紙問屋に行く、印刷するのに印刷会社に行き「取次の口座はあるか?」と知らないことを聞かれる、など初めてのことばかりでした。しかし皆さんから教えられながら今日まで来れた次第です。
 最初300万円の有限会社で始めましたが、資金はすぐ足りなくなります。そこで考えたのが「ブックファンド」でした。1口500万円で投資家を募り4000万円集め4冊出版しました。収益の一部を投資家にお返しする匿名組合ですが、実はこのことが一躍話題を呼びました。日本はおろか世界的でも出版業界のファンドは初めてだったそうです。98年当時は出版業界も金融締め付けに悩んでいたこともあり、特に中小出版社の方々100社くらいからどっと問い合わせが来ました。それがきっかけで私ども、単に出版社をやるのではなく「出版社をお手伝いする会社」になろうというコンセプトが生まれました。もともと銀行とか証券会社のあまりクリエイティブなほうではない集団ですから、むしろ出版社やその周りにいるクリエイティブな方々のお手伝い役をして行く方向が見えてきたわけです。

新マーケティングへの発展、3つのヒント

 私どもが「resonance、共鳴」によるビジネスモデルを目指すきっかけになった主なヒントを3つほどお話いたします。
 一つはメディアとコンテンツの融合です。今年2000年の幕開けのAOLによるTW買収に象徴される動きです。しかしこの兆候は既にマーサ・スチュアートとシャロン・パトリックの出会いによって90年初頭に現実化しています。TWの雑誌の一編集長に過ぎなかったマーサ・スチュアートのカリスマ性を、雑誌にとどまらないクロスメディアによってビジネスにしようともちかけたのがコンサルタントのシャロン・パトリックでした。結果は雑誌「マーサ・スチュアート」の読者990万人、書籍850万部、テレビ番組ではエミー賞受賞、新聞連載233紙、ラジオ270局、インターネット会員100万人、そして関連ビジネスを含めて1000億円の事業にしています。
 私どものレゾナンスモデルもこれに習い3C(コンテンツ、コマース、コミュニティ)の展開を試みています。


 コンテンツは、カリスマ系雑誌35誌とその編集長やクリエーターでありショップ350店の店長であり、それぞれが人を含めたカリスマになるわけです。これらをインターネットを含めたクロスメディアによってプロデュースしていきます。35誌を束ねたり神宮前の美容院50、カフェ50、トラベル15、その他ショップを束ねたり、これまでになかったことばかりです。
 コマースはこれらカリスマの熱い思いを込めたグッズやプレミアム商品を取り上げていきます。
 一番大事なのがコミュニティ、つまり読者です。カリスマ誌1誌あたりせいぜい3万人と小さいのですが、束ねると100万人になります。すごいパワーを秘めています。
 一方、環境の変化も私どものビジネスに追い風になってきていると認識しております。3兆5000億円と言われる市場は年々縮小傾向でして、4000社という出版社も減少の一途です。「ブックオフ」さんの店頭に立ってみればお分かりの通り、時代は新本と言えども低価格で流通する傾向に拍車がかかっています。再販撤廃もまじかに迫っているといわれますが、これまでの出版の仕方、流通の仕方では立ち行かないことは明らかです。コンテンツがただになる時代に、新たなビジネスモデルが求められているのです。
 今話題のB2Cも未だしっかりした”3C”をもっているところはありません。たとえば楽天はコマース中心のモデルです。コマース一本槍はいづれ低価格競争に行き着き、しかもサイトに定着させるための広告等の費用は嵩む一方ですから体質が弱まります。またコミュニティのみというのもあります。何かで仲間を募って広告を貰おうというモデルですが、コンテンツが揃わなければ盛り上がりに欠けます。これら1つのCだけの限界は、結局、ロイヤリティをもつほどの質の高いコンテンツを、あまりにもコストが高いために要することが出来ないところにあります。
 翻って出版業界を見てみますと、これはもうコンテンツの宝庫です。クラスマガジンの編集長やクリエーターはそれこそ命かけて貧乏ものともせずいいものを生み出しています。3Cのうち一番コストが要るコンテンツの山を抱えているようなものです。しかし彼らも相変わらずコンテンツだけを売っていこうとしているところに限界があったのです。たとえば雑誌「鉄道ファン」は1部1000円が5万部売れてもしれてますが、記事に触発された読者は高価な鉄道プラモデルや英国SLの旅、それを撮るカメラや着て行く服だとかドンドン買うわけです。あるいは釣りキチのおじさんはジャケットがぼろになったらファッション雑誌でなく手近かな釣りマガジンを開いて電話注文で買ってしまう。つまり編集長たちのカリスマから逃げない100万人の読者たちが、膨大な財布を持って控えていると考えることによって、はじめて3Cモデルの可能性が見えてくるのです。
 さらにBS放送などメディアチャネルが増加してきますと、コンテンツがありコミュニティも持っている出版業界こそ空前のビジネスチャンスにあると確信しています。活字不況などとは言っていられません。

”感動伝達訓練”に感動

 レゾナンス・モデルの2つ目のヒントは「沖縄アクターズスクール」との出会いです。恩師の島田晴雄先生の縁で沖縄へ出かけ、校長のマキノ正幸氏と12〜3歳の少女たちに会いました。
 そこでリハーサルをみせてもらった時の感動は強烈でした。開始直前になると100人からの少女たちは震えだし、いざ曲がスタートするとものすごくパワー全開していく。なんだか分からないのですが20秒もしないうちに私は鼻水たらして泣いているんですね。横を見たらマキノ校長も同じでした。これって何なんだ!その後、「オンリーワン」になって出版されるのですが、結局、少女たちはエンタテイメントがほんとに好きで、その思いをとにかく人に伝えたいという、その訓練だけをやっているのがアクターズスクールなんだということが分かりました。感動が感動を呼び、その輪が広がっていく、そういう熱い思いによるムーブメントこそ「共鳴」のマーケティング、私たちのモデルのヒントになっています。
 そして3つ目のヒントはサンタフェ研究所のウインスロー・ファラル教授との出会いです。彼は複雑系のマーケティングの研究者で「How to fit.」の著者ですが、彼に会って話していたら、「そうだ、これからは要素分解型ではなくてレゾナンス型のマーケティングなのだ」ということを強調していました。すぐに彼の著書「ヒットエコノミー」の日本での出版権を買い、発売しました。タイタニックやエイズウイルスの急激なヒットを複雑系のモデルで斬り、しかも「人造消費者」というシュミレーションできる分析モデルを提示しているものです。

発信基地ジャミンシティのコンテンツ実力

 以上3点がヒントになって、私どもが目指すマーケティング=レゾナンスモデルを提唱するに至っているわけです。いくつか具体例をお話しいたします。
 たとえば携帯電話のiモードの普及戦略、次世代携帯の導入戦略、新しい飲料の普及戦略、オートバイの導入戦略、あるいは来春封切りの映画のプロモーションなど、これまでのマーケティング手法でないやりかたでやってみようということで、各スポンサーと取り組んでいます。
 どちらも業界トップクラスの企業のマーケティング専門の方々ですが、共通した悩みはTVCMも新聞・雑誌も相当な広告をしていながら購買にはほとんど結びつかないということのようです。どうもこれまでの認知イコール購買行動というのは成り立たないということです。
 私どものジャミンシティには日本のカリスマ系50誌といわれるうち35誌が参加していますが、ここで取り上げられたものが1年くらいして広まって行く傾向にあります。iモードの時は11誌と組み、それぞれの裏表紙をジャックしました。ただしデザインは全く自由に編集者に任せ、これぞオレの考えるiモードだというものをつくってもらいました。しかもお互い競って貰おうと同時期、同期間続けました。編集者、クリエーター、カメラマンなど総がかりで燃えまくりと言う状況でした。また青山ブックセンターとか若者文化に敏感な人の集まる大手書店に協力を仰ぎ、11の作品を展示して裏表紙コンテストをやりました。書店での広告など考えられもしなかったことがやれましたし、マスコミもとりあげるので更に話題が広がるはで、結果的にiモードのかっこよさみたいなものが伝わり、渋谷界隈で低かった普及率に弾みがつき、今では一人勝ちとなっています。次は次世代携帯をやろうと計画中です。動画の配信とかですが、これをいきなりマス広告で機能訴求やるのではなく、やはりそれを持つことの意味、かっこよさというものから入ろうと考えています。
 また来年発売予定の女性向けゲームの例ですが、これをCMやる前に渋谷周辺の美容院から導入してみようという計画を進めています。今20-30の店長と話をしていますが、実は神宮前あたりの美容院には日本中から毎週同業者の方々がチェックに来て、バシバシ写真を撮って帰り、2〜3週後にはもう同じような什器を入れる美容院が全国あちこちに登場するといわれています。そうした発信基地で発売前のゲ−ムを経験し、新しい設備としていち早くとりいれてくれる。それをまた本にしたりして開発者の思いをじっくりと伝えて行く、そんなマーケティングをと考えています。

開発人間の”熱き種火”を消すな!

 いろいろお話しましたが、ポイントは2つです。
 一つは「熱い思い」ということ。特に若い世代の人々は何で買っているかというと、身近な人、憧れの人とかが、「これはこういうストーリーを持って作られていてここがこうだからいいんだよ、お前もどうだ」と薦められて買うことが多いということ。そのストーリーの種火になるようなものが無いと、そもそも始まらないわけですが、開発者、マーケター、代理店、クリエーターと分断された仕組みの中では種火が何処かへ消えてしまっているようです。
 2つ目は、しかも全く重要なことは単に熱ければいいのではなく、とことんこだわった開発者というのは企業人でなくユーザーにまで突き抜けてしまっていることが多いのですが、それこそが本当の種火なのだということです。たとえばあるバイクの開発担当者が、バイクのステップの音とそれを蹴った時の速さに何ヶ月懸かったとかの話をしてくれます。これはもうユーザー側ですね。
 最近、私どもがご一緒する企業さんはそのことに充分気付いておらるようでして、実際の取組では先ず開発者の方とクリエーターを直に会わせることからスタートします。その上で種火をどのように伝えて行くのか、私どもが持つ素材をつかってどう増幅させていくのか、企業さんと議論しながら作りこんでいるところです。
 次の課題は、カリスマから始まる一連の反応ステップ、つまり共鳴のチェーンを実際のデータで検証することです。その構造をもとに新たなインタラクションを何処でどう起こせばよいかということを掴めるようにしてゆきたいと考えています。

まとめ

 企業と消費者が対峙するパラダイムから、企業が消費者のコミュニティと具体的にインタラクションするパラダイムへ、マーケティングは変わりつつあります。私どもが提唱するEAM(アーリー・アダプター・マーケティング)はアメリカでは日常化していますが、日本では、しかも3C統合という明確なコンセプトのもとで展開されるケ−スはなかったと思います。出版社から始まり、出版社をサポートする会社になり、いままた出版社以外の企業様のマーケティングをサポートする会社へと事業が広がってきていますが、レゾナンス・モデル、共鳴・共創モデルを求める限り必然かもしれません。
 今後、ご来場の皆様とも新しいマーケティングをご一緒できる機会があれば嬉しく思います。ご静聴ありがとうございました。(文責:事務局)
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