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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case008 ローソン
2000.11.21東京第5回 事例報告−2

コンビニエンス業界の"Clicks & Mortar"戦略

株式会社ローソン・イープランニング 代表取締役副社長 青木輝夫氏
http://www.lawson.co.jp/

はじめに

 ローソンは今年4月設立25周年を迎えました。いろいろなことをしてきましたが、直近の動きではネットやeコマースで取り上げられることが目立ちます。去年から今年の春までは株価も上がっていましたが、ここへ来て見直しをされているようです。そうした中でCVSとしてのローソンが考えているネットビジネス戦略について、出来てること出来てないこともあるわけですが、若干お話ししてみたいと思います。

B2C事業の動向とCVS業界の現状

 アマゾンに代表されるようなB2C事業が、赤字でありながら長期的な視点でマーケットからは評価されてきたのですが、本年4月頃から収益重視の動きが出てきました。V/Cの投資もASPやB2B2C、B2Bなどへシフトしており、ますますB2Cでの収益の上げかたが問われだしてきました。B2Bでも淘汰が進み、流通業界でもアメリカの2大マーケトプレイスが日本へ上陸する動きがあります。またB2Cは価格競争が激しく、それが収益の足を引っ張るわけですが、やはりブランド確立しないといけないという方向になっています。
 ところでCVS各社の直近の売上高の指標は、幸い前年プラスで推移していますが、これは店舗数の増加分に負うところでして既存店ベースではほとんど横這いないしマイナスです。また商業統計で3万7000店(MCR統計で5万2000店)と言われていますが上位集中が進んでいます。主要数社で60%とも。それと扱い商品が大分変わってきました。食品・日用品の利便性から始まったCVSが、収納代行、ゲームソフト、ATM、携帯電話等々、サービス関連比重が高まっています。そして業態間競争へとドンドン入ってきています。外食もiモード登場で立派な競合になってしまう。
 取り扱い内容の変化を象徴するものとして特に収納代行についてみますと、ローソンの場合毎日20万人の方々が年間8400万件の利用で約6400億円のお取り扱いをさせていただいております。収納代行金額が店舗の日商を上回る店もあります。そして収納代行の約半分は通信料です。電気や水道は多少遅れても止められないが、通信は即停止のシステムのためです。特に伸びているのは通販の決済で2桁成長です。借入金の返済も対象になります。

日本型eコマースの特性要因

 ところで日本型のeコマースの特徴を私なりに整理しますと、第1に日本のCVSは生活拠点インフラだという点があげられると思います。全国5万店、365日、ほぼ24時間稼動している、これはもうインフラそのものです。機能として決済・情報・配送の拠点です。お客さまに見えるインフラとして店舗があり、それを支えるインフラが情報ネットワークと物流ネットワークとなっています。
 その点、CVS発祥のアメリカとは大分違います。弁当やおにぎりに当たるものもなく、セルフのガソリンスタンドとの併設ですからレジへ支払いに行ってついでにタバコやガムを買うスタイルが多い。日本のように一人暮らしの人が冷蔵庫代わりに利用するというような発展はしてこなかった。
 日本型というとき、もう一つの特徴はインターネット接続携帯電話の急速な普及です。10月にローソン・NTTドコモ・松下電器・三菱商事の4社で「i-Cconvenience」という会社を作った時点で1420万台、もう直ぐ1500万台という状況です。主にeメールに使われる以外に、情報サービスの利用が増えています。公式サイトで1000ちょっと、非公式サイトは20000と膨大な数になります。たとえばバンダイさんのキャラクターは既に数百万人の会員とか。仮に100万人が200円×12ヶ月としたら数十億のビジネスになってしまう。今後JAVAとかブロードバンドによってセキュリティ向上などサービスの広がりが促進されます。
 またゲーム機の発達・普及も日本型の特徴として大きいと思います。これもネットワークの重要な要素になるからです。
 以上3点ともネットワークとITということになり、日本型のeコマースを特徴づけるものと考えます。ローソンでは第3次情報システム計画として店舗周りの業務刷新に525億円のほかネットビジネスのインフラとして162億円、合計687億円の投資をしてゆきます。
 もう一つ、お客には見えないのですが大変重要なのが物流システムです。今のところCVSではローソンだけですが常温の商品が年中無休24時間即日配送体制が出来ています。それも常温・チルド・フローズンと温度帯別も行っています。逆に言うと他社より非効率ですが、ネットビジネスということになってきますと、iモードでの注文など個人別にピッキングされたものが即、店へ届くので、相性が良くなるともいえます。また、全国130箇所以上の物流センターがありまして、47都道府県に店舗展開しているのはローソンだけですが、セブンイレブンさんの28都道府県への集中出店に比べると、これも一見非効率ですがこれからは生かせるかも知れません。

ローソンのeビジネスへの取り組み

 次にローソンのeビジネスの取り組みに触れてみます。

 97・9 ロッピー誕生。店頭マルチメディアKIOSK
 98・3 ロッピー全店配置完了
 99・11 @LAWSONオープン。インターネット店舗
 00・2 econtext。店頭決済開始
 00・5 ローソン・イープランニング発足。Eビジネス企画会社
 00・5 モバイルE-KIOSKプロジェクト開始。i-mode活用
 00・5 econtext。店頭商品引渡開始
 00・11 i-Convenience社設立。店舗・携帯連動

 ロッピー(ローソンオンラインショッピング)のコンテンツにはチケットをはじめいろいろと広がってきています。ゲームもポケモンのキングが60万本とか、行列で回線が繋がらなくなるほどでした。因みに昨年日本のB2Cの市場規模が3360億円といわれていますが、ロッピーは単体で340億円、今年は420億円の売上です。比較はともかく一応評価しています。ただこれには毎月100万部発行している無料配布の雑誌が貢献しています。しかもロッピー売上の相当部分が実はチケットでして、雑誌によるプロモーションが効果を発揮しています。ぴあさんが500億円程といいますから、ロッピーはそこそこの地位になります。発券までしますからいわば全国7600店はプレイガイドの発券場所ということです。また旅行商品も売れてます。例の「お気楽とんぼ」ですが、当日限りシティホテルに格安で泊まれるというもの。何故かと言うと客は安く確実にリザベーションでき、ホテルは確実な空き室対策、店舗も確実な収入と、皆がWIN-WIN-WINだからです。数十億円の単位の売上です。利益率はチケットや旅行は高くはありませんが、魅力的なコンテンツが如何に重要かということです。
 またecontextは@LAWSON以外のサイトとローソン店舗以外のロケーション、つまり入り口と出口を拡大してシナジー効果を上げているところです。入り口で200サイト、出口はローソンとGS、他のCVS等合せて20000もあれば郵便局に並ぶので先ず先ずかなと思います。最近提携したサイトには”HMV”とかISPの”ZERO”など、またネット以外のリアル企業にもコールセンターで受注した後にcontextの仕組みをご利用いただけるようにしています。
 i-Convenienceはロッピーの弱点解決から発想しました。店頭でゆっくり検索など出来ない点を携帯電話にやらせてはどうかと始めました。低回転商品、高単価商品、エリア特性に合わないので在庫してない商品など、店になくてもお客様は携帯で注文でき翌日には手に入るので双方にとって好都合です。また音楽配信など各店に機器を導入する前に物流センターで受ければ、中2,3日とサービスレベルは多少落ちても対応できます。需要が採算に合うようになったら各店に導入すればよい。更にプリントの需要にも便利です。お金を払ってでもプリントアウトしたいニーズ、たとえば株のチャートや会社情報、メールの添付資料のプリント、新聞のプリント等々、いろんな使い方が考えられます。そしてブルートゥースなどの搭載やICカードなどの搭載で決済が携帯のボタンを押すだけで済んでしまうことも考えられます。
 これらのサービスは来年の春頃には本格展開に入り、2002年頃にはローソンにおける”eコマース&eサービス”の一応の形が出来ていると考えております。

eコマースのさまざまなモデルと可能性

 ここまではローソンがやってきたeコマースをお話しましたが、これからの可能性も含めてeコマース全般の考え方、先行事例などについて触れてみます。
 ゴールドマンサックス証券の整理によるとeコマースのビジネスモデルには@シナジー追求型、A新市場創造型、B販売チャネル拡大型、の3つの類型があります。
 シナジー追求という点では、ローソンはMMK(マルチメディアキオスク)での販売とその活用としてのWebやiモード・情報家電との連動で日販を上げようとしています。そのためにATMやPOSなど店舗の情報武装に力を入れてきています。
 新市場創造ということでは、am/pmさんや西友さんが始めたネットグローサー事業があります。アメリカでは10年近く前からオンライン・スーパーとしてさまざまなモデルが登場してきました。Peapod、Streamline、Netgrocer、Webvanなど。それぞれ有店舗か無店舗か、自社物流か3PLか、時間指定か定期型かの組み合わせで特長が違うモデルですが、各々粗利益率やオペレーション効率、利便性や専用ボックス問題、温度管理や差別化、あるいは物流投資コストなどの課題も多く、全て順調とはいかないようです。日本でも大前さんが始めたWebvan方式はそこそこの立ち上がりと聞いていますが、ネットグローサー・モデルの評価はこれからですが、いづれにしても”自宅に届ける”というモデルはあり得るなと考えています。
 次に販売チャネル拡大型ですが、これをCVS業態にとってのWeb戦略と考えると中々難しいものがあります。例えばセブンドリームさんは総合サイトを目指すということで店数を一杯もっていますが、本にせよCDにせよそれぞれ強いところがある中でどうなんだという課題疑問もあるわけですが、編集ということに力を注いでいらっしゃる。費用対効果の重たい仕組みで、ローソンには難しい。またファミマさんはニールセンのネットレイティングでも4番目くらいの人気サイトですが、無料誌を発行して店の会員登録を促し、近くの店舗で買うと店の売上に繋がるというインセンティブが付くという特徴をもっています。これはこれで新しい試みです。

Clicks & Mortarモデル

 ところで、ネットビジネスにおける小売業という視点では、最近、Clicks & Mortarというモデルが話題になっています。これまでの単なるMortarと比較してみますと、確かに新しい可能性が見えてきます。

"Clicks & Mortar"モデル比較
ビジネスモデル Mortar型 Clicks & Mortar型
●商品知識 チラシ・店舗 カタログ、TV、Web、e-mail
(会員制の有無)
●商品選択 店舗・陳列
●発注・確認 セルフピッキング Web、携帯電話、PDA ★在庫確認
●決済・方法 現金・クレジット Net、代引き、CVS
●商品授受 主に持ち帰り 宅配・留置 ★不在時対応
●クレーム処理 電話・店舗 Call Center(店舗)返品
上表のような整理ができますが、お客さまにとって特に告知(認知)・選択の選択肢が増えること、在庫確認がリアルタイムにできること、決済の簡便性、不在時対応などがメリットになります。事業側にとってはリスク、たとえば注文していてもピックアップに来ないなど、特にWebは携帯電話に比較して個人認証には弱いですから注意が要ります。
 とにかくClicks & Mortarでは如何に顧客の利便性にフィットできるか、コストの優位性を築けるかの2点がポイントになるでしょう。

「マチのほっとステーション」を目指して

 以上のことをまとめますと、インターネット・リテ−リングでの成功には@IT、AMarketing/Merchandising、BOperation/Process,CFollow-Throughの4つの要件があると思います。昨年のイー・クリスマスでのトイザラズの例はオペレーション問題ですが、このモデルの最重要課題は何と言ってもマーケティングとマーチャンダイジングです。ターゲット顧客に商品・サービスを知っていただくこと、そのための認知と選択への利便性づくりが決め手になります。それ以外は習熟で解決できます。
 その点を付言しますと、インターネット革命の本質はこれまでの商品中心主義(Product Centric)から顧客中心主義(Customer Centric)=商品・サービス・情報の組合せを要請されるようになった点にあると言えます。だからこそ顧客に価値をもたらす企業提携を、素早く実現する必要があると思います。残念ながら日本型eコマースを考える以前の問題でもあるわけですが、わが国の多くの企業は顧客から考えるマーケティングにはお金をつかわな過ぎました。広告費6兆円に対して調査業界が僅か3000億円前後と、如何に商品ありきだったことか。
 われわれローソンもその原則を踏まえていろいろ挑戦してまいりたいと考えています。勝ち組みの要件として第1に事業ドメイン、何が強みかをはっきりさせる必要があります。これがないと提携パートナーも集まりません。第2に先に動いてアドバンテージを執る、スピードです。あとWin-Winのパートナーシップ、顧客に価値ある利便性のコンテンツ、オープンで参加しやすいプラットフォームづくりなどが挙げられます。

 また組織戦略としては、@LAWSONとロッピーは本体と統合しており、ローソンチケット、econtext、i-Convenienceは分社化して別会社としております。
 「いつでも、どこでも、なんでも」「顧客に継続的な取引の意志を持っていただける」企業を目指して、その具体的なものとしてのClicks & Mortar型ビジネスを実現したいと努力しております。(文責:事務局)



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