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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case006 ツタヤオンライン
2000.10.04東京第4回 事例報告−2

ネット時代の顧客創造と流通マーケティング

株式会社ツタヤオンライン
経営戦略グループ統括マネジャー 宮 崇 氏
http://www.tsutaya.co.jp/

はじめに

 本日はほぼ以下の流れでお話させていただく。

  1.TSUTAYAについて
  2.TSUTAYAのマーケティング
  3.TSUTAYA Onlineについて
  4.クリックス&モルタル
  5.iモード
  6.TSUTAYA Onlineのマーケティング
  7.販促、Iモード通販
  8.今後の課題

マルチパッケージストア " TSUTAYA"

 TSUTAYAは現在全国1000店舗、1340万人の会員を要している。20代が中心で27%、中でも21歳は3人に1人がTSUTAYAの会員である。ビデオ・CDレンタル中心から本、ゲームに進出し、いわゆるマルチパッケージストアとなっている。セルも拡大している。商品別の地位はレンタルが1099億円で業界でも圧倒的にNo.1だが、本やCD、ゲームの販売でも実はTSUTAYAは上位のランキングに入ってきている。
 ちなみに日本の映画館人口が年間1億5000万人。ビデオレンタルがTSUTAYAだけでも2億本とかなりな数となっている。

TSUTAYAのマーケティング

 現在、本部に集められる全国のTSUTAYAのPOSデータは1日300万トランザクション以上。セルもポイント制などで固定化しており、それも含めて誰が何時、何処で何をいくらで利用したかが分かる。以前は分析に速くて1〜2週間かかったがいまはデータウェアハウスで数日で把握できる。
 レンタル・クラスターの例だが、商品別、新盤・吹き替え盤別、アーチスト別などの違いも取れる。たとえば小柳ゆきの新盤がレンタル開始時先ず10代、20代が中心となって広がっていき、ブレークした後は年配がついてくるなど手にとるように分かる。
 店別にも顧客特性が明確になる。三軒茶屋では層も広くしかも男性が多くMDもマルチパッケージストア展開が合うが、渋谷では女性で若い層なのでMDもしぼるとかする。また大阪東香里お店だと年配者が多いという違いがある。
 こうしたデータベースをエリアマーケティングに応用してチェーン店オーナーの手助けをしたり、出店戦略にも活用する。会員分布を見るとレンタル商圏よりセルの商圏は広いという事実から、商品、在庫などの効率化と売上拡大策を考える。

ツタヤオンライン

 98秋に新橋店オープンに先立ちお客にサービス要望調査を実施した。予想されたことだがオンラインによる情報提供などのニーズが高く出た。当時一般のネット活用が10%前後の頃、当店顧客では36%と約3倍、新橋という立地特性や20代という年代特性を割り引いても約2倍。これは無視できないというトップ判断で99年4月にプロジェクトを発足、7月サイト立ち上げとなった。
 懸念は”カニバリ”だった。しかしネットユーザー対象に調査してみると、ネットで見つけた商品をすぐクリックして注文するかというと92%は店へ行くと答えていた。理由は送料がかかるとか見て確かめたいとかであった。残り8%はもともと店舗を利用しない、あるいは近くにないという人々ということが分かった。

クリックス&モルタル

 ご存知のチャールズ・シュワブ社が始めて使った概念だが、店舗とネットの両方の良さを融合することが狙いである。単にお互いのサービスを補完するだけでなく、融合によってそれぞれの良さをより一層引き出すことができる。先行企業の例を見ても、そのことが益々実証されてきており、むしろアメリカよりも日本に適したモデルとも言われだしている。
 99年4月にツタヤオンラインを設立し19名でスタートした。先ずWebから始め、8月iモード、12月Iモード通販と、いわゆるネット系プラットフォームで開始した。
 当社のサイトを少しご説明する。アクセスしていただくと左側に登録会員へのお勧めやメリットなどのオプションがある。メインは新作情報が中心である。面白いのは各作品ごとの掲示板の効果である。たとえば映画は劇場から半年後にビデオ発売になるが、劇場で見た人の感想をみて自分もとなる率が極めて多いということ。掲示板や店での口コミ効果の威力に驚く。ゲームでも夏にやった「ぼくのなつやすみ」などすごかった。1970年代後半の夏という設定のせいか、30代以上の方たちに相当インパクトがあり、こういうのは事前に商業ベースでの宣伝販促ではなかなか予測がつかない。それがネットでは起こる、掲示板の威力である。また「シュワルツネッカー」などキーワード検索ではクロスアイテム検索で本や他のアイテムに波及することが多く、利用機会を促進している。CDとかの括りでなく「浜崎あゆみ」という括りが意外な効果をもたらしている。
 また店の検索、自分の店の在庫検索利用も多い。リアルタイムとはいかなく1―2日のラグがあるが、それでも利用価値があり利用者の方には好評だ。また利用は店か通販かどちらでもお客が選択できるようになっている。

iモード

 次にiモードだが、中心は情報提供である。画面のサイズに制限があるので「ランキング中心」としている。試聴が可能で、ダウンロードもでき、説明も見られて、決まれば店舗で買うかオンラインかを選んでと、一気通貫のアクションができるようにしている。
 さて各種数字だが、この9月末現在で87万人の会員となっている。毎月コンスタントに10万人の会員獲得に成功している。理由は、会員更新時の促進で毎月100万通のDMを出すがここに相乗りで勧誘できること、また毎月200万部のフリーペーパーでの告知、その他チラシとかポスターなど、マス媒体以外の方法でアプロ−チできるのが強みである。普通のネット業者の10分の1のコスト、1人あたり約数百円で会員獲得できているのではないか。
 TSUTAYAは何故「i」モードに乗り出したのか。Iモードは20代、Jスカイになると10代後半、Webだと30代と、どうもそれぞれに違いがありそうだ。どうなのかとういことで実は実験をしてみた。昨年の11月30日、金曜日午後3時から30分という制限で3万名の会員にアンケートを発信してみた。景品は携帯電話用のストラップでたいしたものではないのになんと1900名、約6%が回答してきた。反応の早さに驚いた。しかも質問の一つに「いま何処から返信していますか」と尋ねたところ、なんと「仕事中」が34%でトップだったのに2度びっくり!ちなみに「自宅」29%、「学校」15%、その他電車とか「屋外」20%だった。もうこの時点で我々は「i」モードのすごさを実感し、Iモードへの経営資源の投下を確認した。Iモードは決してWebの補完ではなく、それぞれが特徴をもっている。
 月に200万台ペースでブラウザフォンが増えており、8月末で1700万人に達している。一方、インターネットは8月末で2400万人といわれるが、ブラウザフォンの普及スピードからみて逆転は年内だろうというのが大方のの予想である。
 当社の予測でも2001年3月にブラウザホンは3300万台になる。仮に携帯電話の50%までがブラウザフォンで占められるとしたら、現在、携帯電話を6000万台とすると2−3年で少なくても4000−5000万台になるだろう。
 この急速に立ち上がる市場でポジションを確立したいというのが当社の経営判断だ。
 お蔭様で2月以来、NTTドコモのチケットとエンタテインメントの2つのジャンルで当社はアクセス数No.1を維持している。

TSUTAYA Onlineのマーケティング

 TSUTAYAのマーケティングはこれまで"AIDMA"(アイドマ)の最後のA、つまり顕在化したアクションしか見られないマーケティングだった。それがネットになって、"AIDMA"が通して見えるようになった。在庫検索した後 店へ行ったか、店でどうしたか、ちゃんと照合できるのがクリックス&モルタルの本来の意味である。その分析と読みによって対策がいろいろ出しやすくなった。未だ登録会員の60%位しか把握されていないが、それでも当社のマーケティングにとっては大変な変わりようだ。
 例として一般客と会員とに関して、ネット展開以前と以後の購入額の差をみると約1.6倍−3倍の伸びとなって現れた。なぜだろう? 恐らく一般客は事前の情報もないままに週末ぶらりとTSUTAYAへ行ってみるのに対して、会員は事前にメールで特定の情報を得ているのでアクションが誘発されるからだと思われる。どんな商品 についてもその効果が出ているが、特に音楽系は毎月新譜があったり先行試聴ができるせいか一般客と会員の差が極端に出ている。
 これはレンタルだけでなくセルでも登録会員の方が高い伸びとなっている。
 また各店からその店の会員に毎週メールの中でその店のPR文挿入されて配信される仕組みを持っているが、通常日に比べキャンペーン時の来店率は一般客の152%に対し会員は185%と高率となる。こういう差もネット導入の結果といえる。
 また販促の実験ということで99年秋、1本無料のオンラインクーポンを試してみた。直営3店舗268人に配布したところ68人が使用した。来店しての使用率25%と驚異的な結果となったが、それだけだなくこの人たちの客単価が7%もアップした。これはいけると判断し、5月から6月に配布3−4万人、回収が7%という結果を得た。半額にしたにもかかわらず高率だったといえよう。客単価も当然アップしたが、面白いことに新作レンタル半額でやったクーポンなのに新作よりは旧作のアップ率が大きかったり、CDセルや本、ゲームなどのついで買いも増える傾向にあることだ。非常に効果的な販促といえる。
 また旧作レンタル半額クーポンなども実施し、5月からの累計でこの間約50万件以上の利用者があった。
 こうした結果、TSUTAYA全体として半年間でどういう成果だったか。会員全体は入会前に比べて7.3%の購買額アップしている。面白いのはヘビーな会員の方よりもレギュラー、ライト会員の方の方が販促効果が大きかったことだ。

iモード通販の現状

 なぜTSUTAYAが通販をするか。それは一口で言えば潜在需要の掘り起こしである。たとえばCDなど月間約7−8000種類の商品が出る中で店舗に置けるのは2割程度しかない。お客にしてみれば店舗だろうがネットだろうが関係なく、商品や付加価値サービスを使い分ければよいわけで、それを満たすためにも通販は欠かせない機能である。うちはネットだから全てネットで買えとか、店舗だから店舗で全て買えとかの売り手の勝手な枠付けは通用しない。CRMの論理に反することだ。
 通販実績は3月立ち上がり3500万円ぐらいから9月で5500万円まで来ている。

今後の課題

 一つめの課題はクリックス&モルタルということで、これをどううまく展開すべきかが課題である。
 それには2つの局面がある。一つはニーズを喚起すること。商品や情報でお客の購入意向をいかに引き出すか、その気にさせること。もう一つはTSUTAYAの店へきてもらうこと。これが最も大事な点である。買う気を途中で止められたり他社の店舗に行かれたら意味がない。
 そこで当社では「TOMAS(トーマス)」で消費喚起をし、来店促進では効果実証済みのオンライン・クーポンを中心にやっていこうとしている。
 TOMAS=TSUTAYA Online My Agent Systemは言わばエンターテインメントのエージェントを構築してしまおうというものである。これまではたとえば映画に詳しい店員とお客さんがやりとりしながら消費を喚起しているケースがが多かったのだが、それを1000店全部で実行するのは大変なのでネットでやってしまおうというものである。コンテンツ、つまり作品をお客の嗜好性の言葉で様々な要素(因子)にセグメントすると同時に、お客の方もデモグラフィックとか嗜好性でセグメントして、そのマッチングをしてみようというのが基本的な考え方である。今、作品の因子が800位あり、一つの作品を30−40位で表すようになっている。
 たとえば「プリティウーマン」なら、登場人物はこう、ストーリーはこうという風に設定する。また同じ戦争映画でも「トラトラトラ!」と「プラトーン」は違う属性に分けられる。どっちも好きという人もいるかもしれないが、一応、作品を分けておく。また「プリティウーマン」は好きだけど「ゴースト」は大嫌いという女性もいるので、これも別のセグメントとなる。
 いずれにしろ先ずわれわれの方が基準を持っておいて、その上でお客さまの嗜好を理解しリコメンドして行くことが大事なようだ。最初の段階では検索という形でお使いいただく。
 さて、二つめの課題は収益基盤の確立である。そのためにiモード広告に注力する。4媒体に次ぐ媒体としてネット広告が浮上してきたが、中でもiモード広告はWebとは違って到達率もアクション率も高いという特性を活かせる。TSUTAYAの顧客資源を活かしたい。
 三つめの課題は技術革新に対する対応で、よりリッチなコンテンツの提供を実現したい。具体的にはJavaの普及が可能にする世界でビデオフォン等、携帯の進化をどう取り込むか。

 最後に今後の事業は企業の論理でなく、ネットワークの本質であるn対n、草の根的増殖のやりとりをサポートする事業モデルで収益を確保していかなければならないことを痛感している。顧客から考えれば機会が無限に広がると日々実感している昨今である。((文責:事務局)
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