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21世紀、草創期のWebマーケティング事例集

case005 ソニー
2000.07.19東京第3回 事例報告−1

eカンパニーのビジネスモデルと事業変革

ソニー株式会社 渉外グループ主席(産業政策担当) 森本博行氏

http://www.sony.jp/

IT革命の構造理解

 IT革命を理解するには、産業革命と対比させてみるとわかり易い。
 1770年代に蒸気エンジンが発明され、その50年後に鉄道、100年後に飛行機や輸送船、そして150年後に自動車を中心とした工業社会が完成した。初めは動力としての機能が中心だったものが移動としての役割を担って行った。「距離が短くなる」方向に加速した。
 これに対して1940年代にコンピュータが生まれて、その50年後の1990年代にはインターネットの普及が実現している。初めは計算とか分析とか労働を軽減するものとしての役割だったものが、eメールとか「距離を短くする」ものとしての効用に変わってきている。今後50年とか100年とかでどのように変わって行くのかはっきりと言える人はいない。  ただ大きな流れとして、たとえば

  ・脱工業化社会(ダニエル・ベル)
  ・情報化社会 (アルビン・トフラー)
  ・知識社会  (ピーター・ドラッカー)

と言われている。
 その具体的な現われとして、ビジネスモデルが大きく変わってゆくことは確かだろう。たとえば1991年に初めて商用インターネットが開始され、多くのネットベンチャーが台頭する。さまざまな新しいビジネスモデルを生み出すが、一方ではそれらを模倣した大企業の反撃も加速する。たとえばアマゾンの先行事例を真似ながらもバーンズアンドノーブルは独自のビジネスモデルで企業の革新を遂げようとしている。アメリカにおける大企業の復活やビジネスモデルの大規模化に火をつけている。

1920年体制の終焉

 ところで20世紀の経営パラダイムは何だったのだろうか。石油生産における費用と生産効率に代表されるように、それは「規模の経済」だった。

  ・標準化部品の大量生産
  ・大量販売のマス・マーケティング、流通網構築
  ・これらを可能にする分権化された大組織

と言える。非特定多数を対象とした経営パラダイム。
 またGMが1920年代から築き上げて成功してきたブランド別の事業組織を最近、地域別組織に変えようとしている。8000からなるディーラー網にも整備の波が押し寄せている。ビューイック、シボレー、ポンティアックなどブランド別事業の経営効率にバラツキガ生じてきていることもさることながら、オートバイテルのようなネット販売業者の成功の煽りを食らっていることが理由である。メ−カーや車種にかかわらず全車種・全米で購入出来る仕組みをもつオートバイテルは年間150万台を扱うとされ、GMとの効率の差は歴然としている。まさに1920年体制の終焉の象徴である。

価値創造の新しい展開

 では21世紀、どのような経営パラダイムが支配するのだろうか。未だ明確にはみえていないが、いくつかのデータから探ってみたい。
 これは1998年のフォーチュン・グローバル500社の内、エレクトロニクス企業の日米比較(純利益率)だが、米国上位13企業のほとんどが黒字に対して、日本はキャノン、ソニー、リコー、松下、シャープのみがかろうじて黒字に過ぎない。しかも利益水準は1995年〜1998年、米国の7.5、7.3、8.4、6.3に対して日本は1.3、1.6、0.9、-0.5という低推移である。
 また1999年の主要企業の収益性を見てみると、自動車ではGM3.4、DA-C3.8、トヨタ3.2、エレクトロニクスではIBM8.8、DELL6.7、ソニー1.8である。
 これら収益性の差は何に起因するのか。一般的には

  ・法人税率
  ・会計処理
  ・価格戦略
  ・コーポレートガバナンス
  ・ビジネスモデル

の違いが挙げられるが、もっとも大きいのはビジネスモデルを新たに構築し得たかどうかに懸かっていることが分かってきた。
 ビジネスモデルは大別して2つある。複数の事業がそれぞれに顧客に対してビジネスを行い、事業間の収益バランスの連関性で全体的な経営を図って行くモデル(バリューチェーン型)と、原料から部品・製造・物流・販売がそれぞれ独立企業のまま連携して効率を上げていくモデル(サプライチェーン型)がある。前者の典型がたとえばディズニーで、キャラクターからランド、物販、旅行代理店などと広げていくもの。後者の典型がご存知デルコンピュータのデル・モデルである。顧客からの注文を直ちにベンダーや流通業者と共有して、在庫5日間という驚異的効率経営によって収益を確保している。
 IBMも1991年〜1993年大赤字に陥る。2500億円の売上減、12兆円の損失、12万人の人員削減を迫られた。ルイス・ガースナーが行った事業変革はビジネスモデルの変更だった。技術を持った人々を活かして顧客のビジネスをサポートするサービス業、アウトソーシング企業になることだった。”IBM means Services”というスローガンの下、”e-Business”へ急転回して行く。果たしてIBMの業績は1997年〜1999年、事業別の売上構成比はハードウェアが46.7%から42.0%へ、サービスは32.1%から36.9%へ変化し、利益構成比ではハードウェアが45.0%から17.8%へ、サービスが28.0%から44.8%へと逆転した。その結果全体の売上も回復させ利益率も8.8%と10年前の水準を達成した。
 このようにIBMのビジネスモデルは変化している。これを顧客との接触頻度と収益性(NPBT)の2軸で見るとよりはっきりする。顧客との接触頻度の高いサービスやソフトウェアがサイズや収益性をもたらすことがあきらかである。製品が核ではあるがサービスとの組み合わせによってこそ全体の収益が確保できるのである。
 GEも今やハードウエアの企業ではない。収益は9.6%と高いが、事業別の収益構成比では金融が28.5%で最大であり、修理保全サービスの10.1%と合せると3割近くがサービスとなる。中核のエアクラフトエンジンの収益構成比はは13.5%に過ぎない。GEのビジネスモデルも顧客との接触頻度の高い事業が高収益をもたらす構造にシフトしてきている。
 IBMやGEの例が示すように、もはや製品を作ること或いは作っていく過程が収益を生むのではなく、その後のサービスや付帯業務が収益をもたらすことを理解すべきである。

収益逓増のビジネスモデル

 (1)ビジネスモデルの分類

 米国の大企業に影響を及ぼしたeカンパニーのビジネスモデルを見てみよう。6つのパターンに分けてみる。

  @仲介型モデル

 ネットでの販売は日本の紀伊国屋でもやっているが、アマゾンなどとの大きな違いは「アソシエイツ」の介在であろう。愛読者であり自分もホームページを持ち本の感想から顧客の紹介までしてくれる。仲介が成立すればアマゾンから何かしかの紹介料も入ってくる。供給者にとっては広告から販売、回収、物流まで一式アマゾンが代行してくれるので便利である。アマゾンには10万人のアソシエイツがいるといわれ、いわばねずみ講的な特徴をもっている。玩具のeToy、CDのCD now、化粧品などにもこのモデルが採用されている。こうしたビジネスモデルは「アフィリエイト・プログラム」ともいわれ、集客の輪を広げる手法として普及している。
 日本でもアスクルがこのビジネスモデルで躍進している。エージェント(文具店)が顧客開拓と集金を担当し、アスクルは仲介業者として供給者の業務を代行してしまう。ネット時代だからこそ成り立つ仲介モデルといえる。
 またB to B の分野でも「いい在庫ドットコム」「鋼材ドットコム」、或いは「冷凍ドットコム」など仲介型のビジネスモデルが生まれている。米国でも自動車の3大メ−カーや大手の小売業がネットを通じた仲介型のビジネスに切り替わってきている。

  Aコミュニティ型モデル

 仲介型との大きな違いはお金のやり取りが無い点である。お金は企業が広告料とか販売モールを持ったりで払うのであり、YahooやAOLはお金は出さない。彼らはチャットルームなど賑わいの場を提供したり広告料をもらう立場である。ネット上の不動産屋と言ってよく、駅前の1等地が高いのも似ている。

  B顧客エージェント型モデル

 顧客のほうが情報をもっていて、株の購入を代行したり決済の代行を請け負うモデルである。

  C市場オークション型モデル

 これは売りたいものをもっている顧客がウエブ上に向けて取引をするものである。必ず課金・集金が入ってくる。

  D売り手エージェント型モデル

 先にも出てきた自動車のモデルがこれである。オートバイテルは商品を仕入れたり顧客に販売したりせず、ディーラーに顧客を紹介するだけである。会員制でディーラーを募り、会費と紹介料(見積もり1件いくら)で成り立つモデルである。お金のやり取りには関与しない。

  Eメーカー直販型モデル

 これはメーカーが自分で全てをやってしまうモデルである。PCなどは全てこの形に移行している。基本的には受注生産を志向している。

 以上みてきたさまざまなビジネスモデルに共通している構造的な特徴は

  1 情報の共有が高度になされている
  2 事業機能の連結が進んでいる
  3 自己増殖による拡張、顧客間インタラクションが明確にプログラム化されている

の3点に集約できる。

  (2)IT革命の産業インパクト

 こうした新たなビジネスモデル即ちIT革命は、産業にどのようなインパクトをもたらすだろうか。一つは産業の融合化であり、一つは収益構造の変化である。

  @産業融合(コンバージェンス)

 これによって競争のルールが変わってしまうのである。製品とサービスが融合してしまう、AV機器とIT機器が融合する、或いは光学機器とIT機器が融合する等、これまでの業界通念、これまでの競争概念がまったく意味を成さなくなっていく。  たとえば写真業界。従来はカメラ、レンズ、フィルム、印画紙で、一番儲かるのは印画紙=プリントだったが、デジタルカメラの登場によってインクやトナーに儲けの柱が変わってしまう。キャノンの高収益はその流れに乗っているわけだ。

  A収益構造の変化

 それから収益構造が変わってゆく。ここで産業全体としてどこにどれだけ利益があるのか、つまりプロフィットプールの視点でいくつかの産業を見てみよう。  PC産業のプロフィットプールは俗にスマイルカーブといわれる構造になっている。MPU―部品―PC(組立)―周辺機器―サービス−ソフトウェアと分けてみると、確かに利益構成は中間の部品・PC・周辺機器が業者が多い分だけ高くなっているが、利益率では逆に始め(MPU)と後工程(周辺機器・サービス・ソフトウェア)の方が格段に高くなっている。  自動車産業のプロフィットプールも製造と中古車で利益の半分を生み出してはいるが、利益率では3とか2%、新車販売に至っては1%と低率である。それに対して後工程に行くほど高い利益率を確保している。スタンド、修理、パーツ、レンタル、ローン、保険、リースとそれぞれ2、3、4,6,6,10,24%と尻上がりのカーブとなっている。ちなみに1750社のカーディーラー中4割が赤字であり儲からない構造になっている。米国のフォードの収益構造を見ても製造と金融が一緒にならないと儲からない状況を示している。

 (3)新旧ビジネスモデルの比較

 以上のことをまとめたのが下表である。これまでとこれからのビジネスモデルの比較で、われわれのこれからの方向性を確認できればと思う。

 ただ一つ重要なことは、事業変革の意識の共有ということを申し上げたい。たとえばRV車が世の中の趨勢になってゆく中で三菱パジェロがなぜ凋落して行ったのか、或いは麒麟麦酒のシェア脱落が何故これまでになってしまったのか。いずれも自社のバリューポジションの見誤りや情報の経済性を活用したビジネスモデルの構築の遅れを示しているのではないか。事実の共有、意識の共有ということが、いかにビジネスモデルの成否に関わるか改めて教えられよう。

ソニーのビジネスモデルの方向性

 ソニーの売上はここ3年、6兆7000億円前後で横這いである。収益は3.3、2.6、1.8と低減傾向にある。事業別では売上の約65%がエレクトロニクスでAV、テレビ、情報通信、電子部品を含む。他ではゲーム、音楽、映画、保険、その他の事業を展開している。営業利益率はエレクトロニクス2.8、ゲーム17.4、音楽5.0、映画6.9、保険5.3、その他−3.1、全体として5.0というところ(以上1999年度)。利益で見るとソニーはもうエレクトロニクスは半分以下になっている。
 たとえばAV市場は全体として年々シュリンクしているが、それはコンピュータ機器との融合で市場が変化しているからだ。しかも価格競争で儲からなくなってきてもいる。ソニーはかろうじて30%のシェアを維持しているが、決して安泰ではない。これまでソニーの強みであった商品企画力、業界標準力、デバイス、ブランド力などがITの進化で脅威にさらされている。これまで松下や東芝が競争相手だったが、新たにソフトウェア会社やネット業者、デバイス業者、コンピュータ会社などさまざまなところを相手にしなければならなくなっている。
 従ってソニーも事業の変革を迫られれており、既存技術・既存事業から、一つは既存事業を新技術に対応させる方向(AV-IT)、一つは既存技術を新事業に展開する方向(AV-PS)、それと新技術で新事業に挑戦して行く方向(ネットワークやサービス事業)、その4つを可能にする組織モデルの推進に向かっている。

 たとえばPSのビジネスモデルだが、従来の考え方と違うのは機器(PS)とソフトを一緒に販売して行く点である。機器は儲からなくてもそこそこの価格で沢山売れれば、機器1台に付きCDが10枚売れるとすれば十分利益が取れる仕組みを作ろうというモデルである。
 しかし残念ながらこれはパッケ−ジメディアのモデルであって、ネットワーク時代には馴染まなくなるモデルである。デジタル・メディア時代のビジネスモデルに進化していかないといけない。
 それで考えられるのが次のモデルである。ソニーというブランド力を背景に、音楽も映像も機器類もすべてのサービスを束ねるプラットホームを設けるのだ。ここへアクセスすることによって顧客の需要は全て満たせる、高収益のビジネスモデルを構築できるのではないかと考えている。

おわりに

 さて、ビジネスモデルとは何だろうか。それはIT革命をうまく利用して利益を生み出す仕組みである。顧客を増殖し、企業同士を連携させ、収益構造を変えていくものである。
 結局、IT革命がもたらす戦略的なインパクトは、以下のような変革なのだと決めてかかることのようだ。
 一つはモノの所有概念、ヒトの組織概念を変えざるを得ないということ。従来のように企業が何でも内部に取り込んで自前化するのではなく、内外ともモジュール化し、リべニューシェアリングしていくことが重要になってくるということ。
 また市場と価格形成の仕方が変わってくるということ。それはウエブから生まれてくるのであり、いわばウエブ・トレーディング・コミュニティーが出現する。
 そして戦略概念そのものの変革を迫られているということ。従来言われてきた経営資源の戦略的集中というより、むしろ他企業や顧客との相互作用をもたらすビジネスモデルの構築こそが重要なのだ。21世紀のビジネスモデルははわが国に新たな成長と収益を約束するものだと信じている。(文責:事務局)
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