−3日目−
列車はゆっくりと札幌駅を出発します。ゆったりとしたシート。車内アナウンスがひとしきり行き先だの各停車駅の時間だのをご案内した後、おもむろに「レディースエンジェントルメン」と続きます。なんか新幹線みたい。そして「まもなくポイント通過のため揺れます」などとおっしゃる。なんというか北海道の鉄道って親切なんだ〜、などと感心していたんですが、旭川まで一時間半近くあるのにこの列車、行けども行けどもほとんどカーブしないんですわ。やっぱ北海道は広い。ウチらの住んでる辺りじゃ、住宅地密集地の間を縫うように列車が走るから、それはもう曲がる曲がる揺れる揺れる、初めての頃はやたら気分が悪くなったもんですが、この列車は快適そのもの。窓の外には一面の水田が広がります。ずーっと地平線が見えるよ〜(感動〜)! そして唐突に長〜いトンネル!ところどころ途切れつつも五分は続いたでしょうか、旭川に到着です。 旭川は盆地で、動物園は山の中腹にあります。それで、駅からまた車で30分ほど行かねばなりません。バスもあるにはありますが一刻も早く着きたいのでここはタクシーに乗ることに。タクシーの運ちゃんといかにもお上りさん的会話をしていると運ちゃん曰く「今日は暑いし登るのも大変じゃろ」。え?登るぅ!? これがTVで情報つまみ食いしかしてなかった観光客の如何にもな反応。「山だからね、坂ばっかりだよ」と運ちゃんは事も無げ。いやぁ、聞いといて良かったと後でつくづく思うのでした。 それにしてもリサーチしてる時から思ってたんですが、この動物園安すぎ。これだけ全国的に有名になって海外からもお客が押し寄せてるのに、大人580円中学生以下無料な入場料を上げようとはしません。その上入場券の動物も何種類があるらしく、全部集めたくなったらどーすんだよ〜!?というジレンマな世界。可愛らしいシロクマのオブジェが迎えてくれてまずは定番「もぐもぐタイム」の確認です。ほっきょくぐま館とぺんぎん館にはパッと見でも判る長蛇の列ができてます。これはちょっと…ということでまずはあざらし館からまいりましょう。
そして何故か、岸辺をイメージしたプール端の向こう陰に小さな囲いがあって、そこにはどう見ても猛禽と思しき鳥が一羽。囲いには屋根もなく、でも猛禽はじっと止まり木に止まっているのです。この謎な光景はもぐもぐタイムで解明されます。あの猛禽は、アザラシが生活する近辺に同じように生息するタカの一種で、でもケガをしているのを捕獲されたものなのだとか。だから屋根が無くても飛ばないし、でもアザラシの近くという環境が丁度暮らしていた環境と似ているので一緒のスペースに居てる、ということらしいのです。 アザラシのもぐもぐタイムには、同じようにケガで保護されて一緒に飼われているカモメ達もやってきます。アザラシ達がひとしきり食べ終わったころ、係員から餌を投げてもらってるんですが、これがまた楽しい動きをしてくれます。基本的に投げられるとダイレクトキャッチするカモメくん、でも時には取り落としたりして、するとそれを「あ、砂が付いちゃった!」とばかり水辺まで持ってってわざわざ洗って食べるんですよ。ところが水辺にはアザラシがやってくる。カモメはそのアザラシが来ない隙を縫ってそそっと洗うのです。いやぁなんというか、アザラシよりよっぽど見てて楽しい。一粒で二度美味しいとは正にこの事でしょう。アザラシの住んでいる環境と、ケガをする鳥達にも思いをはせて欲しいというのがもともとの考えなんでしょうけれど、これこそ他では絶対見られない姿だなぁと思った次第。
ほっきょくぐま館の売りは、シロクマの水中ダイブとクマの足下に位置する半円の透明ドームから人間が顔を出して眺める、というヤツ。しかし中にはいると会場整理のおばちゃま方が「止まらないで止まらないで」とせき立てて、じっと眺めていられる雰囲気じゃぁありません。これはもう観光客大増加の弊害なんでしょうけれど、もちょっとゆっくり見られたらと思わないでもありません。それでも水槽を眺めつつぐるっと一周しながら登る構造で、徐々に目線の変わる位置から泳ぐシロクマくんを見ることができます。残念ながらダイブはしてくれませんでしたけど。 次に頭出しドームの列に並んでみます。ここでもおばちゃまが「40分待ちです。クマは寝てます。ドーム付近にはあまり来ません」とTV映像の如きを期待している向きにやたら警告を発しています。でもせっかくここまで来たのだし40分くらいは覚悟いたしましょうとて横をふと見ると、“車いすやお年寄りの方専用”との表示が。そこには黒くて長いパイプが天井を突き抜けているのです。じつはこれ、潜望鏡タイプの頭出しドームなんです。階段の登れない人用に、下から覗くだけで同じ光景が見られるというサービス。良く考えたら簡単なアイディアですよね。それを思いつくか思いつかないかという違いだけ。やっぱり凄いなと思った一幕でした。順番待つこと15分、あっさり番が回ってきましたよ。おばちゃまの警告のたまもの? で、結局シロクマは見えたのかというと、見えましたけどちょっと向こうで寝てました。肉球とお腹がこっち向いてましたよ。ノシノシやってこなくても充分満足です。
ま、このドーム型オリが売りなんですけどね。やたら映像で見たとおりの細かい網から覗くヒョウの肉球。やっぱり可愛いですよ。誰でもぷにぷにしたくなりますわなこれは。というか、うんと背の高い人なら、肩車された子供なら充分届く高さなんですよ。そこに注意書きが付いてます。「さわられると動物たちはこの場所がきらいになってしまいます。さわらないでね。」て…。この張り紙一枚だけでつんつんして怪我する悪い子がひとりも発生しないのなら、これはホントに動物園側の勝利でしょう。なんというか、みんなに暗黙のマナーを守らせてしまうところがまた凄いなぁと。
そしてここでも上の方の水槽が良いのです。相変わらずぐるぐる回って登って行くんですが、壁面がずっとガラス張りって感じなんでペンギンがガラス一枚のすぐ向こうに居るんですよ。日本人てのは無類のペンギン好きで、北半球の国々で一番ペンギンが多いのは日本だという話もあるくらい、どんな動物園にも水族館にもペンギンだけは必ず居るんだそうな。確かにあちこちで見ますよね。でもこんなに間近で見るのって、未だかつて無かったかも。おかげで水かきのある特徴的な足には、もちょっと上に何の役に立つのかもうひとつの小さな指がある、というのも発見しました。指にはしっかり爪もついてます。くちばしもけっこう鋭そう。ペンギンて肉食なんだなぁ…というのを改めて。向こうの方では立ったまま抱卵しているペンギンも居ます。足の上のお腹の羽毛がモコッと盛り上がってるの。いやぁ、たまりません。もぐもぐしてなくても大満足でした。 出てくるともう既にお昼どき。とりあえずこちらも もぐもぐタイムに、というのはここでのお約束のギャグ。園内にはちょこちょこと食べるところもあるんですが、なにぶん不案内。それで入り口すぐの所にあった食堂に行くことに。当然それなりに待つのは待ったけど、行ったのが平日だったせいかそんなに無茶苦茶にはなってませんでした。簡単にラーメンなどすすって、さぁさっさと出発ですよ。なにせ帰りの列車が押さえてあります。それに遅れるわけにはいきません。
が、途中に気になるモノが。さる山です。それも見たところ、今しも もぐもぐタイムが始まるところ。オランウータンまでまだちょ〜っとは時間がある、ということでお猿さんも見ていくことにします。しかしね、お猿はヤバいんですよ。見てると飽きません。えさ箱をガチャガチャやってかき集めて食べてるのを見てると時間を忘れます。時間を… … オランウータンが始まっちゃうよ! 後ろ髪引かれる思いでさる山を離脱。しっかり時間が取れなかったせいで、蜂蜜ペロペロを見損なった、というのに気づくのは帰宅してからのこと。ちょっと残念でした。 と言うのはともかく、へろへろになりながらおらんうーたん館を目指します。既に人だかりができた中、飼育員のお兄ちゃんが「ちょっと早いけど始めます」と出てきました。そしてその後が長かった…。今日は正規の飼育員さんがお休みなんで僕がピンチヒッターなんですうまくできるかなぁ…などと言いつつ、オランウータンの暮らしぶり、力が強いこと、お食事の内容のこと、延々説明が続きます。その後子供達を交えてのオランウータンとの綱引き。これも失敗してみたりして、でも近くの人以外は見えなかったりで、いい加減炎天下あの有名な綱渡りはどこへやら、飽きてばらばらと帰っていく人が続出です。 そして飼育員さんは言うのです。「これでもぐもぐタイムを終わります」。て、確かに夕方オリに入ってもらうため一日のメインディッシュは閉園してからとは言ってた、昼間はおやつ程度とも言ってた、さっきの綱引きのバナナで終わりですか…と流石に落胆しかけた時声が続きます。「それではオランウータンの綱渡りを見て帰って下さい」。わぅ!これは最後まで頑張って見た人だけのご褒美かよ! いやぁ、オランウータンの綱渡りは聞きしにまさる迫力でした。これは実物見ないと実感できません。なにせ高い。その柱の上にでっかいオランウータンがゆっくりゆっくり悠然と登っていきます。そしてふっと止まる。こちらを見下ろす。まるで歌舞伎のミエを切るかの如く。そしてまた悠然と登りだす。綱渡りもゆっくりゆっくり、でも微塵のためらいもない。なんとも言えない風格漂う素晴らしい風景。オランウータンは途中何度かミエを切り、橋の反対側のおやつを一口で平らげて、再びゆうゆうと戻っていきました。もぐもぐタイム開始から既に30分以上。どうなってるんですか、この動物園てば!
と行きかけた道すがら、クモザルとかいうお猿の凄まじい叫び声が聞こえてきます。もう興奮しまくり。ひたすら吼えまくり。なにがそんなに気に入らないのか、頭上にバスケットゴールを組み合わせたみたいな場所から今にも落ちんばかりに身を乗り出して真下の観光客めがけて(?)吼えたてます。 でもな、ちょっと待ってや? クモザルだって動物園の子。観光客を見るたびにそない威嚇しまくってたら飼育員もなんとかしてるでしょう。そもそも相手はお客じゃないのでは? とふと後ろを見ると…。なんとしたことか、今年の夏オープン予定、でもまだギリギリ残念開いていなかった新アトラクション“チンパンジーの森”の外からでも見える遊具に、なんと数頭のチンパンジーが出ているではありませんか。そして周辺には大きなマイクとカメラを持った類人猿もとえ報道の人達の姿が。オープンまであと僅か、今日も今日とて報道陣にお披露目していたんですねぇ。 これはラッキーですよ。タイミング的に諦めていたチンパンジーの森。それが外からとはいえ遊び回っているのをしっかり見られたんですから。報道陣様々です。が、クモザルにはちっとも嬉しい話じゃなかったみたい。たぶん今までこの辺りじゃ自分が一番高い位置に居られたんですよ(クモザルからオランウータンは見えませんしね)。それがいきなり目の前に同じお猿が、それも大量に、どう見ても自分より上の位置に! そりゃぁ威嚇するわけだ。クモザルくん、報道陣が帰ってチンパンジーも裏に戻されるまで吼え続けてたのと違うかなぁ。あの森が正式オープンした今、彼がどんな風にストレス発散してるのかいささか心配なのでした。 そしてその、お客達も辟易するほどの頭上の喧噪もなんのその、クモザルの下では地上最大のネズミ カピバラが数匹、のんびりうとうとしてました。君達には聞こえてないのかね。聞こえても気にならないのかね。元々の生息地ではやっぱり同じ環境の上と下で暮らしてるらしいしねぇ。なんとも不思議な風景なのでした。
チンパンジーの近く、工事してない端っこだけ見たフクロウ、探し回ってあまりに小さいから見失ってたハ虫類舎、鳥達、巨大な角持つワピチなる鹿、今は茶色いほっきょくギツネと別に立たないレッサーパンダ、触れるヘビと触れるモルモットと勝手にもぐもぐしてるヤギと。行きしのタクシーの運ちゃんも言ってたけど、別に珍しい動物なんかひとつも居てません。でもはっきり言って時間が足りない。とにかく次なんかあるとは思えないからとりあえず駆け足で全部回ろうと思うのだけど、広いわ坂道だわ足は痛いわもうへとへと。ワシタカ舎前のベンチにへたり込むと思わず寝こけそうになりました。 それにしてもこんな場所だからこそ、園内にはお年寄りや身体がしんどい人のための車が走り回ってます。そんな車のためでしょうか、表にあるほとんどの階段にスロープが併設されていたんじゃないかと思います。こんなところも心配りな、でも小さいことでもきっとコロンブスの卵なんだろうなぁと、つくづくと。 というわけでぼちぼち戻る時間です。まだまだ見落とした場所もありました。もぐもぐが見られなかった所も沢山。それでも昼前から夕方まで、ツアーの方々なんかだと園内一時間半だとか聞くのを思えばゆったり見て回れた方でしょう。最後に主に水鳥が放し飼いされてるととりの森を抜けてお終いです。 帰りは再びタクシー。その運ちゃんとまたも盛り上がります。素朴な疑問、入園料を上げないのかなぁ、近辺にホテルとか作らないのかなぁ、もっともっと便利にしようとか考えないんだろうか? それへ運ちゃん曰く、旭川の人はそんなことはしませんよ、もうこれ以上自然を壊して欲しくない、便利になる必要もない、ホテルなんか作ったって結局採算は合わないし、高速道路も新幹線も要らないよ、でも動物園が楽しかったんなら今度は是非冬にいらっしゃい、シロクマは元気だし、ペンギンは気が向いた連中だけが気ままにのたのた散歩してるし、違った姿が沢山見られるよ〜、まぁオランウータンは出てこないけどね、東京から動物園だけでたっぷりまるまる二日見に来る人も居たよ、年間パスポートは2回で元が取れるしね、でもこないだ乗せた二人連れは詰まらなかったって言ってたなぁ、大阪の人だったけどもう来なくて良いって言ってやったさ、とか、とか。 もうね、ホント誘惑されますよ。勢いでうっかりまた冬に来ちゃいそうな勢い…て、冬はそれどころじゃない…ハズ。でも冗談にはとてもできそうにないくらい楽しくてもっともっと時間が欲しい一日でした。帰りの運ちゃんが言ってたとおり、近辺に泊まって丸二日くらいびっちりで回らないと物足りな感が消えないんじゃないかと思いましたよ。
やっと札幌到着です。本日の夕飯は、かねてから計画通りジンギスカン。定番の某ビール園へ。ここへ来るのはン十年ぶりですが、流石に最近ではシステムができあがっています。受付情報と空席情報がちゃんと連動しているらしく、席が空けば受付番号で案内してくれます。今日は一日歩き回ってやっと落ち着いて座った感じ。ビールと羊とお野菜と、グラタンやらポテトやら北海道内で全てまかなえるんじゃないかと思える食材の数々を満喫いたします。 さて、唐突ですが、昨今の北海道では謎の“daNpa(だんぱ)”なる道限定生物がハヤリなのだそう。これ、パンダの白黒が反転したキャラクター。反転してるから“だんぱ”。何が発祥なのかは知らないですが、お土産物屋さんには必ずグッズが置いてある、というかそもそもホテルの売店の入り口にど〜んとバカでっかいヌイグルミが鎮座ましてましたよ。それにしても妙なキャラですわ。最初はどうせネタキャラって目でしか見てなかったんですが、なんかあちこちで見るほどに可愛く見えてくる。結局気がついたらストラップだのTシャツだの軍手だの買い込んでおりました(笑)。 こうして動物づくしな一日が無事終了しました。明日はもう北海道ともお別れです。 |