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 読書雑記 2004.1〜12 

海辺のカフカ 上下 なるほど「図書館の水脈」は「海辺のカフカ」のオマージュだったと納得。人と人の出逢いには何か必ず意味があるのだ、というのには共鳴できるものがある。全く違う人生を生きてきた人々が何かに弾かれるように歩みだし、別々だった道がある場所で交差し、その出会いが何かを引き起こし、目的の見えぬまま出発したその結果が、交錯した瞬間未知の目的の達成となる。何かが開き、何かが閉じる。もしかすると自分の人生も、何かを開く、そんな何かに出会うのかもしれない、そんな想いが生れる物語。  2004.11.30
村上春樹
新潮社
エレキング 4(漫画) 薬売り(錠単位)のおいさんが活躍(?)するナンセンス4コマ(?)。のはずが、おいさん最近とみに出番が少ないやうな…。でも41歳学生は恋をしてるし眠れない主婦は悪夢を見せるしあきれす軒の主人は今日も怒ってるしニワトリな監督は首に巻いてるしユーラシア夫妻は花粉を撒き散らしてるし。でも今回のヒットは、なんと言っても「クイズ」。「問題 小学校一年生の太郎くんが二百円を持って深さ50メートルの穴に落ちました」。さて、あなたの答は?解答は本書で(爆)  2004.11.29
大橋ツヨシ
講談社
西遊記 上中下 ご存じ西遊記の児童向け版。妙に理系な編訳者の経歴のせいかすっきり判りやすい文章と、ほとんどのページに描かれた武器や道具やキャラの解説イラストが極めて親切。それにしても、あの三蔵が乗ってた白馬、あんなに性格悪かったとは!猪八戒が黒豚というのも意外なら、沙悟浄は河童じゃなかった、というのもビックリ。そして沙悟浄ってかなりクソ真面目なのね。これも編訳者の知識の裏付け故。巻末にはイラスト入り人物辞典もついて、入門版としてはもってこいの3冊組。  2004.11.26
渡辺仙州 編訳
偕成社
キラシャンドラ 「クリスタル・シンガー」の続編。ヒロインはいきなり星外に出てしまう。こちらとしてはシンガーなんだから歌ってほしい。歌って共鳴してそれを降り払って脱出して…という、まさにクリスタルの残響を聞くような物語が読みたいのだが、どうも作者はそういうのはあまり書きたくないらしい。さっさと星外に出て、そしてクリスタル採掘ギルドの威光を背に、やっぱり鼻持ちならなかったりする。なんぼ救い有り有り物語でも、もう少しじたばたするヒロインを求めたいかも。  2004.11.15
アン・マキャフリイ作
浅羽莢子訳
ハヤカワ文庫
クリスタル・シンガー 何年ぶりかの再読。相変わらず、歌うクリスタルの魅惑とそれにどんどん惹かれて行くヒロインの描写は素敵なもの。自分も共鳴するクリスタルのハーモニーに浸ってみたくなる。絶対音感の世界って、どういう世界なんだろう?それにしても、こんな結末でしたか。あんた全然仕事してないやん!とか思っちまいましたよ。ヒロインは相当に鼻持ちならないヤツなのにそれがあまり気にならないのは、クリスタルの魅惑のせいか。続編でもっときついヤツになるんですが…。  2004.11.9
アン・マキャフリイ作
浅羽莢子訳
ハヤカワ文庫
図書館の水脈 ちょっと物足りなさを感じていた竹内の、これは新機軸かも。「本の紹介」を小説で…という一種メタちっくな手法を上手く処理している。視点は2つ。若い本好きなカップルと、図書館に棲む男。カップルはお互いに本の紹介をし合う。男は本棚で本を見つけ、昔からの読書暦を披露する。その別々だった2組が、ある本を巡って別方向から交錯して行く。軸になるのは村上春樹の「海辺のカフカ」。これのオマージュとなっているので「海辺の〜」を読んでからの方が判りやすいかも。  2004.10.30
竹内真
メディアファクトリー
自転車少年記 4歳のその時から傍らにはずっと自転車があって、何かに挫折しても自転車だけは変わらなくて、一途に一途に自転車を漕ぎ続けて、それによって仲間がどんどん増えて行く…。思わず自転車に乗りたくなる。そういうものが見つけられなかった身には、いろいろとチクチク痛い。でも見つけられなかった…んじゃなくて、気付いていないだけなのかも。4歳で始まった彼の物語が終った年齢分以上の年月などまだまだこれから残っているのだから、今からでも遅くないと思わせてくれる、そんな物語。  2004.10.26
竹内真
新潮社
ブレーメンII 5(漫画) 相変わらずのノリのブレーメンII、でも今回はちょっとギャグ少な目?前回のヘルツォークの話が重くて長かったのの反動か、今回は割とご都合主義に進んでいく2つのお話。でもまぁ、ご都合主義は河原泉の持ち味だから、まぁ良いか!  2004.10.11
河原泉
白泉社
へんないきもの とにかく世の中のへんないきもの60余種を紹介した絵図鑑。リアルなのに微妙に作為あるイラストと、かなりヲタクと思われる筆者のツボった解説がたまらない。へんないきものには大口を開けるのが多い。足のやたら多いのも多い。ほとんど死なないほど生命力の強いのとか、食わないと一瞬で死ぬのとか。そして可愛いいきものにも罠がある。アイアイは悪魔だし、ラッコさんは襟裳の漁師さん達が無反動砲で粉砕したい。火星に行くより深海に行こう!  2004.10.3
早川いくを
バジリコ株式会社
真夏の島の夢 真夏の離島へ缶詰になった演劇青年達と女流エロ作家。互いを上手く利用しようとしているうちに、島の人々の利害の絡んだ大騒動に巻込まれて行く。そして「カレーライフ」に出てきたおでんがここにも!そういう意味では「カレーライフ」と同種の話かも。どちらもモノ作る話だし、どうやって作り上げていくかがポイントになっているし。ただ相変わらず安心して読めてしまうところが、どこまでも「カレーライフ」のインパクトを越える事ができずにいるような。この作家、もう一皮剥けてくれないかなぁ…。  2004.10.2
竹内真
角川春樹事務所
レディ・ジョーカー 上下 某製菓会社社長誘拐事件をモデルにしたらしきミステリー。競馬場に集う男達がいろいろな思いを胸に役割を担って行く。真実を秘めたままの社長、企業戦略を進める重役、それを見守り続ける刑事のそれぞれの思惑の絶妙な描かれ方が、いかにも高村らしいと思う。そして「マークスの山」から「照柿」へその比重の大きくなった合田刑事がますます追い詰められて行く。高村は合田が好きである故に追い詰める、かのように。合田の今後が気になる。  2004.9.25
高村薫
毎日新聞社
照柿 この人は、なんと緻密でリアルな描写をするんだろう。圧倒的に緻密で膨大な取材から出ているリアルさが重苦しさを呼ぶ。灼熱の工場、不条理な板挟み、眠れない日々、それらの重さが彼らを押し潰し些細なひと押しで爆発する。この人の作品は入り込むと出られない。ザーッと読み飛ばしができない。読了後、どっと疲れが来るのだけれど、充足感も大きい。ちなみに照柿というのは、ある温度で溶けた鉄の色。それを見分けた時何が起こるのだろう。  2004.9.9
高村薫
講談社
白狐魔記 洛中の火 白狐魔丸のシリーズ第三弾。話は段々複雑になってきて、歴史や人物相関が解ってないとストーリーも追いづらい感じ。狐は相変わらず必要の無い殺しを嫌い、武士を嫌う。けれど、本当の執念…というものを目の当たりにして、武士の心も理解して行く。仙人の行方と雅姫の行く末が気になる。次でその辺がみんな見えて来るのかなぁ…。  2004.9.3
斉藤洋
偕成社
マークスの山 上下 警察が、必ず所轄同士仲が悪くて手柄の取り合いばかりしているというのがなかったとしたら、日本の警察/刑事小説の何パーセントが無くなっているだろうか?吹雪の山奥の殺人と、暗い山と明るい山が交互に訪れる若者との関係は?動機にちょっと無理があるのが難か。それにしても本庁捜査一課第三強行犯捜査班七係を見ていると、漫画「PS羅生門」とダブってくる。揃いも揃って突き抜けちゃった個性ばっかりの羅生門署とどっかダブる程、七係の個性は立っていると言える。  2004.9.1
高村薫
講談社文庫
南博士はナンダンネン 南博士は本名が南弾年<みなみ たまとし>なので「ナンダンネン」。勉強や研究なんか大嫌いで、遊んでばかりいるのが南博士。そんな博士の大学に奇妙な事件が勃発。ナンダンネンな博士がナンダンネンな方法で解決するのです。どっかで読んだ雰囲気のこの文章、つらつら読んでて思い当たりました。井上ひさしの「ブンとフン」!懐かしいねぇ。ジャンルとしてはナンセンス小説児童書ですよ。  2004.8.29
斉藤洋
くもん出版
白狐魔記 蒙古の波 シリーズ第二弾。前作で義経とかに関わってた狐、今回は北条家の兄弟喧嘩に巻込まれてます。人間のことが知りたくて人間に化けて人間と関わって、狐はどんどん賢く、また、化かす力も強くなっていきます。でもやっぱり狐は武士が嫌いです。だから本当に人間味のある人間と関わっていたいのです。今回、狐は化ける動物が自分だけではない事を知ります。人間と関わって、その人間のために画策をする獣にも会います。狐はどこへ行くのでしょう。シリーズはまだ続くのです。  2004.8.29
斉藤洋
偕成社
白狐魔記 源平の風 「ルドルフとイッパイアッテナ」の作者の、狐のお話。ルドルフも結構修業好きだったけれど、この狐は輪をかけた筋金入りの修業好き。人を化かせる狐目指して今日も修業の毎日です。狐は食うために殺すけれど、人間は食わないのにやたら殺す。狐はそんな人間の不思議に迫って、生きる事と殺す事を学んで行く。狐は決して人にはなれないけれど、狐は人を理解して行く。4冊以上のシリーズらしいのでしばらく追いかけてみようかと。  2004.8.26
斉藤洋
偕成社
アンソニー
―はまなす写真館の物語―
アンソニーは古いカメラ。龍平さんはなりたくてなったつもりの無かったはまなす写真館の五代目。でも龍平さんは、アンソニーや不思議なお客さん達から写真館の歴史やご先祖様の事を教えられて、自分が本当にやりたかった事に気付いていきます。今のデジカメなんかは、何でもササッと撮れて失敗したら簡単に捨てれて、本当に撮りたいものを真剣に撮る…というのを忘れてしまってます。でも真剣に撮られた写真て、そこにはいろいろな想いや歴史が刻みこまれているんですよね。幻想的で、でもどこかリアルな素敵な物語でした。  2004.8.22
茂市久美子
あかね書房
パターン・レコグニション 彼はあの完全に酔っぱらった文体を止めたらしい。それがなかなか乗れない原因だったのか。フッテージという単語は未知で、イメージを持ち合わせない。けれど、そこに群がりそれを探究しようとする人々には親近感をおぼえる。その匿名性の繋がりとリアルとの微妙な関係は結構身近だ。どうしようもなく感じる違和感の中で、その手の親近感だけが先へ進む為の力になったのかもしれない。やっぱりギブスンは異質な世界の中でラリっている方が好きだ。それは文字通り幻想に過ぎないと解ってはいても。  2004.8.22
ウィリアム・ギブスン作、朝倉久志訳
角川書店
アダムの呪い 「イヴの七人の娘たち」の続編。ミトコンドリアDNA(MDNA)が女性のみに受け継がれるのに対して、男性のみに受け継がれて行くY染色体。ごく情報量が少ないのにそのほとんどを有効活用しているMDNAに対し、圧倒的に情報量が多いのにその大半がクズ情報だというY染色体は、不安定さに関してもMDNAの比ではないらしい。2つの性で遺伝情報がミックスされる理由は実は、多様性を作って種の繁栄を目指すためではなく自分が生き残りたい遺伝子の陰謀。MDNAとY染色体はずっと戦い続けている。  2004.7.17
ブライアン・サイクス著、大野晶子訳
ソニー・マガジンス
イヴの七人の娘たち ミトコンドリアという一種の寄生体のDNAが母親からしか伝えられない上に、子供の母親が誰かというのはあまり間違えようが無いために、母親のみを辿って過去に遡ることができるという不思議な神秘。確かに、過去の過去を遡って自分のたったひとりの先祖にたどり着く、隣の誰か、隣の大陸の誰か、そのまた海の向こうの誰かと直接的に繋がって今在る自分という事実は、何々の一族という括りよりずっと魅惑的である。  2004.7.11
ブライアン・サイクス著、大野晶子訳
ソニー・マガジンス
清談 佛々堂先生 あの「龍の契り」「鷲の驕り」「ディール・メイカー」の作者と同じ人? と思った程違った作風。今回のはなんと飄々たるものか。佛々堂先生は西方きっての数奇者。諸芸に通じ、美術工芸品の収集家。その先生が毎度ケレンを込めた宴を催す。飄々とした粋で博学な先生の遊びは必ず他人を巻き込んで、巻込まれた人は何がなんだか解らないうちに先生の策にハマってしまう。美術品の知識が若干でもないと解らない部分が多いです。「ひらがな日本美術史」を読んでいて良かったと思いました。佛々堂先生の宴の手の込み方は、一捻りも二捻りもあって、ちょっとしたミステリのよう。謎が解き明かされた時の痛快さ、そのケレンへの憧れ、服部ならではの周到さを感じました。  2004.5.13
服部真澄
講談社
傀儡后 一昔前ならドラッグ小説(読んで酔う小説)と分類していたかもしれない作品。皮膚というのは免疫の最前線だそうです。消化器官というのも、皮膚だと言えば皮膚です。皮膚の小説ってのもあるようで無いような…。牧野修という人は感覚を言葉にするのが巧いのでその辺面白いです。  2004.3.27
牧野修
早川書房
邪光 ホラーサスペンス大賞を取った作品らしいですが、そんなに言うほど怖くもありませんでした。「見える」というのは恐ろしい訳で、それは見えない人には決して判らないのでしょう。「見える」故に、知らなくても良いことを知ってしまい、それを何とかする力があれば、使わざるをえない。それが「邪光」であれば尚更に。知識として知っているというのと、体感として知っているということの違いを改めて思う。  2004.3.21
牧村泉
幻冬舎
よみきりもの6 (漫画) よみきりものも既に6冊ですよ。それに、どれ読んでも同じというか…。キャラの見分けつかないのを逆手にとって、世界には同じ顔が何人なんてネタもスゴイというか…。サブタイトル列挙しただけで脱力でっせ〜。「ふやけるお年頃」だの「ぼんよりの連続」だの…。それにしても竹本氏の描く動物は可愛いっすねぇ。りんご食うおサルのキュートさにノックアウトでしたよ。ちなみにタイトル「よみきりもの」は、よみきり と もの の間にハートマーク入ってます。  2004.3.2
竹本泉
エンターブレイン
祇園の教訓
昇る人、昇りきらずに終る人
過去祇園で売上ナンバー1を続けていた芸妓さんが引退してから書いた花柳界のお話。人との接し方とか生活の中での心構えとか、一流の接客業の人から学ぶものは多いです。ただ、幼い頃からそれらを徹底的に叩き込まれ身に付いてる人とそれができないからこーゆーのを思わず読んでしまう人間では根本からして違うので、それが結構凹みます。今更?と思いつつも、何かほんの少しでもヒントになれば…と思ったりします。  2004.2.29
岩崎峰子
幻冬舎
いやげ物 全国津々浦々のお土産物屋には、数限りないお土産物を売っている。その中には、こんなん誰が買うねん!?というものが多々ある。いやげ物とはそーゆー、誰が買うねん!な物件である。これは筆者が全国で集めたいやげ物の図鑑なのだ。いやげ物を売っていそうな店は、いくらでも思い当るが、意外とじっくりとは見ていないもの。うっかり地元のお土産屋を覗いてみたくなった。  2004.2.18
みうらじゅん
メディアファクトリー
黒い仏 「美濃牛」の名探偵 石動戯作、第二弾。いつの間にか謎の助手が付いてますよ。昔々唐に渡った坊さんが持ち帰った(らしい)秘宝を巡るミステリー。あらすじに「賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作」とあって、確かにこれは反則技!こーゆーのをミステリーと言っていいのかすごく謎です。本論と全く関係無く古いロックのネタがやたら出てくる。舞台の福岡のまたやたら具体的な地名が山程。どちらも詳しい人ならもっともっと楽しめるのかも。読後「そうなのかよ!」とか「あーぁ」とか思うけど、やっぱり好きですよ、こーゆーの。  2004.2.3
殊能将之
講談社文庫
どこかで誰かが見ていてくれる
日本一の斬られ役
斬られ斬られて43年、斬られ役一筋、とうとう映画「ラスト・サムライ」にも出演してしまった有名大部屋俳優福本清三氏へのインタビュー。ひとつことを貫いて、その道のプロになる…というのはこういう事かと改めて。映画(芝居)のみならず、何でも脇役が、汚れ役がしっかり固まってないと良いものは作れない。本当に仕事にプライドを持っているんだなぁ、とつくづく思う一作。  2004.1.30
福本清三・小田豊二(聞き書き)
集英社文庫
われらが英雄スクラッフィ 「サルがいなくなった時、英国軍もいなくなる」という言い伝えに悪戦苦闘する、ジブラルタルの軍人達の騒動記。手のかかる子供を愛している担当者と、やっかいものの話は聞きたくない上司、そして腹に一物持つ人物のと、そんな人間達の思惑などまるで関係なく暴れまくるサルの、コメディでハードボイルドな物語。  2004.1.22
ポール・ギャリコ作、山田蘭訳
創元推理文庫
くらのかみ お金持ちの旧家で子供達が遭遇する摩訶不思議な謎。どろどろしい現実とスリルと恐怖。ファンタジーだけどでもしっかりミステリー。大きなお屋敷と、それに連なる「一族」の大人達は、誰が誰なのか家系図見ても判らなくなるけれど、子供達だって同じ様なものだから一緒になって楽しめるのかも。  2004.1.16
小野不由美
講談社