読書雑記 2001.8〜12 |
ライオンハート | 一読して思い浮かんだのは、萩尾望都の「ポーの一族」である。内容的には全く関連性は無いのであるが。でも、2人の男女の謎の邂逅は、非常に不思議でかつロマンティックなものだったと思う。が、視点の転換が激しく、話がいささかに複雑な割に、全体に平板でメリハリに欠ける様に思えて、それが残念だった。 2001.12.3 |
恩田陸 | |
新潮社 | |
かりそめエマノン | 40億年の記憶を持つエマノンシリーズの中編小説。今回エマノンの出生の秘密が語られる。そして、そのエマノンの双子の兄の秘密とは。膨大な記憶を抱えながら、時を場所を移りながらさすらう少女…という設定の割には、いつもあまり重くならないシリーズだが、今回もあっさりとした語り口で終始している。もう少し深く突っ込んで欲しいとも思うのだが…。 2001.11.7 |
梶尾真治 | |
徳間デュアル文庫 | |
冬に来た依頼人 | 祥伝社の400円文庫の一つだったのではないかと思う。400円文庫は今ひとつ外れていて、今度はどうかなぁ…?という危惧があったのだが、それなりの内容はあった様に思う。探偵の男の処に、夫捜しの依頼をしてきたのは、昔の恋人だった…。探偵はその元恋人の身勝手さに辟易しつつ、愛情について考える。愛はやっかいだ。でも、本当の愛は深いのかも…。ただ、もう一人の女性を、もう少し書き込んで欲しかったと思う。 2001.10.31 |
五條瑛 | |
祥伝社文庫 | |
オルガニスト | 第10回日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品である。真の天才とは何か、真の天才の求めるものは何か、真に異なる者とはこういう者なのか…。羨ましがる事すらできない程の孤高。そして、音の聞こえる小説…。読み終えても、暫し呆然と世界に浸っていた。オルガンが聞きたくなった。バッハが聞きたくなった。 2001.10.25 |
山之口洋 | |
新潮文庫 | |
ネバーランド | 木曜組曲が、女5人の思惑物語なら、こちらは男4人の思惑物語である。正月休みの学生寮…という、いつもの場所がちょっと別の空間に変わる場所で、4人の高校生達がそれぞれの過去を振り返り新しい方向性を見つけていく。いささか少女漫画的テイストが鼻に付いて合わない人も居そうだが、くどくなり過ぎない程度に上手く料理していると思う。こういうを読むと、人間関係は良いものだと思うのだが…。 2001.10.17 |
恩田陸 | |
集英社 | |
麦の海に沈む果実 | 恩田陸ならではの、複雑に捻った物語だと思う。そして、これもまた、最後までどうも釈然としない話でもあった。 2001.10.09 |
恩田陸 | |
講談社 | |
民子 | あの一世を風靡した、マルハペットフードの創立十周年記念CMの原作写真集。4話完結のCMは、民子という猫と売れない作家の、しみじみと涙誘う物語だった。浅田氏は、このCMのために、他に2本、計3本の原稿を書いたという。その採用されなかった残りの2本分の原稿も、写真を添えた物語として載せられたこの本は、猫好き、浅田次郎ファンのどちらにもお勧めである。 2001.10.08 |
浅田次郎 | |
角川書店 | |
木曜組曲 | 一人の著名な女流作家の死を巡る、5人の物書きな女性達の、それぞれの思惑。物書き故の妄想と、それを誰かに見せずには居られない欲求。これは恩田陸自身のメタ小説ではないかと勘繰ってしまうくらい、物書きの性に充ち溢れた物語だと思った。重くなりがちな内容を、割とサラッと書いているので読みやすい。 2001.10.04 |
恩田陸 | |
徳間書店 | |
月の裏側 | 何がマジョリティで、何がマイノリティなのか…。自分は誰なのか…。恩田陸作品には、いつも不安にさせられる。が、この作品は、その不安が淡々と続くだけで、最後までカタストロフィーに欠けるのがいささか残念であった。暗示的に出てくる白猫も、もう少し明確な書かれかたをしていると良かったのに…と思う。 2001.10.02 |
恩田陸 | |
幻冬舎 | |
空の名前 | 雲、水、氷、光、風、季節の各章で、天候や季節の変化や情景を伝える日本語を、写真と共に紹介している。雨や雨の季節を表す言葉だけでも、どれだけある事か。知っていたはずの言葉の本当の意味にハッとしたりする。物語を作るときには、必須かもしれないと思うほど、美しい古来からの日本語の数々なのである。 2001.10.01 |
高橋健司 | |
光琳出版社 | |
ブギーポップ・アンバランス ホーリィ&ゴースト |
ブギーポップシリーズ第10作。何の関り合いも無い2人の少年と少女が、ふとした弾みで窃盗・強盗・破壊を繰り返していく。全然違う2人の組合せが、強運を生んでいくのか。アンバランスな存在である事の強さなのか…。ツボキャラの霧間凪が今回は端役なのがちょっと残念。 2001.09.29 |
上遠野浩平 | |
電撃文庫 | |
鏡の中の孤独 | 「鏡の中の少女」の続編。前編から数年後に書かれたせいか、以前のエピソードと今のエピソードが行ったり来たりするのがいささか読みづらかった。が、それより何より、突き付けられる痛みの方がきつい。自分を投影したとき、最後に救われるのかが謎。 2001.09.28 |
スティーブン・レベンクロン 杵渕幸子・森川那智子/共訳 |
|
集英社文庫 | |
鏡の中の少女 | ダンス教室で少女は、レッスンの先生からの言葉をきっかけに拒食症に陥っていく。先生は痩せろと言った、痩せている方が勝ちだ…と、そう思い込んで痩せ続けていく少女はしかし、拒食になった本当に訳に気付いていない。少女がどこに居場所を見出していくのか…、それがどこかで自分と重なってくる瞬間が有る。その病理は、思春期の少女だけではないのだ…と、考えさせられる一作。 2001.09.26 |
スティーブン・レベンクロン 杵渕幸子・森川那智子/共訳 | |
集英社文庫 | |
ディール・メイカー | アニメキャラクターの権利と、企業乗っ取りを巡る攻防戦である。服部真澄の前2作に比べると、舞台がやや狭くなっていたので、読みやすかった。でもやはり、もう少し短くまとめてくれると良いのだけれどなぁと、思わなくも無い。ストイックで謎めいた日本人男性…というキャラがツボになってしまうのは、何の影響か…謎。 2001.09.24 |
服部真澄 | |
祥伝社文庫 | |
象と耳鳴り | 関根パパが主人公の短編集。安楽椅子探偵作品が多いにも関らず、不思議な魅力が満載である。恩田陸という人は、物事の多面性を色々な方法で見せてくれる人でもあるようだ。ただ、悲しいかな、事の真相は何だったのか? という事への解答が無いが悔しい。 2001.09.18 |
恩田陸 | |
祥伝社 | |
こたつ2 こたつの 1しゅうかん |
平仮名あまのさん創作絵本、第2段。こたつの一週間は、どこかで見たような風景。そしてこたつの淡い恋心(?)の行方は?。協力:尾上辰之助 2001.09.09 |
あまのよしたか | |
講談社 | |
こたつ1 こたつと ともだち |
平仮名あまのさん、初の創作絵本。三頭身の変なお化け(?)達の変な日常。絵本ではあるが、子供より大人の方が楽しめると思う。ちょっと可笑しくて、ちょっとほろ苦い…、そんな絵本。協力:夢枕獏 2001.09.09 |
あまのよしたか | |
講談社 | |
光の帝国 | 一種の超能力を持つ一族を描く、短編連作(風)。超能力物ではあるが、一般的な超能力物とは一線を画す。どこまでも穏やかで、優しい物語が続く。そしてどこか不安な余韻を残す。ふと思う。この日常のすぐ隣に、あの一族が居るのではないかと。文庫版の後書きで久美沙織が、大原まり子に勧められた…と書いている。SFである。が、それだけでは終らない。 2001.09.07 |
恩田陸 | |
集英社文庫 | |
puzzle | 1冊で1つの物語なのだが、短編の様にサラっと読めてしまう。奇想天外な設定がなんとも面白いが、「謎」以外の何も無いぞ…と感じるのだった。 2001.09.04 |
恩田陸 | |
祥伝社文庫 | |
不安な童話 | ここで恩田陸は、過去に回帰する。SFとファンタジーとミステリが少しずつスパイスになっているのが、面白いと思う。球形の季節では、自分はどこへ行くのだろう?と思った。不安な童話では、私は誰なのだろう?と思った。自分が絵を描くと、画家の話というのは結構怖い。 2001.09.04 |
恩田陸 | |
祥伝社文庫 | |
球形の季節 | 恩田陸は、閉塞感の中で足掻く者達を描く作家なのだろうか? 命を吹き込まれた噂と、石。その裏側にあるモノは何か…。恩田陸を読んでいると、自分が如何にまだ、思春期から離れていないかが自覚できる。怖い物語である。 2001.09.03 |
恩田陸 | |
新潮文庫 | |
六番目の小夜子 | どこにでもある閉鎖空間で作られていく、ひとつの物語。何かに操られるように、彼らは気がつくと巻込まれている。それは誰の意志なのだろう? 誰の作為なのだろう? 最初から引き込まれて、最後まで頁をめくる手が止められなかった。自分もまた、その物語の一員の様な、そんな気がしてきた。そして、一つの絵が浮かんだ。 2001.09.02 |
恩田陸 | |
新潮文庫 | |
仙人の壺 | 中国のちょっと不思議なお話を、絶妙な漫画と軽いエッセイで読ませてくれる。中国における妖怪の扱われ方や、仙人に対する考え方が見えて、興味深い。作者のエッセイがまた、その話を面白おかしく解説してくれて、笑える事しきりである。ものの30分で読めるが、損した気分にならない処が良い。 2001.09.01 |
南伸坊 | |
新潮文庫 | |
守宮薄緑 | 花村萬月の作品は、どこか切ない。そして、どこかしらすえた臭いがする。生々しいが心地好い…そんなアンビバレンツな気分にさせられる。女を見る目の優しさと残酷さ…その奇妙な同居が最大の魅力のように思える。でも、あの男達が幸せなのかは、良く解らない…。 2001.09.01 |
花村萬月 | |
新潮文庫 | |
三月は深き紅の淵を | メタ小説は苦手なのだが、そこそこ楽しめた。描写がイメージを励起するのか、時に絵を描きたくなる衝動に駆られる場面が多々。悲しいような切ないような、そんな風景に惹かれた。松江、出雲大社は、何時か行ってみたい場所だけれど、少し怖くなったかも… 2001.08.31 |
恩田陸 | |
講談社文庫 | |
R.P.G. | 宮部はそんなに読む方では無いが、こんな作風だったかな?とは感じた。ネットネタなのだが、どこかズレている感じが拭えない。人それぞれなのだろうけれど、今ひとつ消化不良に思えた。これが私だけの感覚なのか、興味のある所である。 2001.08.29 |
宮部みゆき | |
集英社文庫 | |
プラチナ・ビーズ | 北朝鮮を廻るスパイ小説である。知らなくてはならない事は何か、知らなくて良い事は何か、足るを知り、現実を見、何をせねばならないのかを、改めて考えさせられた。夢を見るのには基礎が要る。足元を固めてこそ飛躍できる。そしてもう一つ、満天の星の中に流れる星を見つけるには、一点を凝視してはならない…という事。視線を固めず、天上全てを同時に見渡さなければ、流れる星は見落としてしまう。ぼーっと、しかし確実に見つける決意で見る事、それが何より肝心なのだ。 2001.08.22 |
五條瑛 | |
集英社文庫 | |
ルー=ガルー 忌避すべき狼 |
人を殺すのはリアルだ。端末とモニタの中だけの世界とは違う、リアルな夢。与えられたモノに繋がって安住しているだけでは、リアルな夢は見られない。子供に戻りたいと思った。目覚めたいとも思った。今、まさに端末に繋がっている私、だから故に。ノリが悪かった。最初の2/3までは…。しかし…戦士達が頭角を現わすと、途端にノリノリになるのは、京極のパターンなのかもしれない。 2001.08.19 |
京極夏彦 | |
徳間書店 | |
宙都 美しき民の伝説第一之書 |
炎都、禍都、遥都に続く京都大震災シリーズ。京都のローカルな地名がバンバン出て来る、ひょうきんな天狗の個性が光るなど、柴田ならでは…という感が強かったこのシリーズだが、ここに来て、どうも魔界水滸伝してしまっているのは何故であろうか…。このジャンル、なかなか新しい目線、新鮮な設定…というのが作れないモノなのかなぁ…と、ちょっと残念なのである。 2001.08.14 |
柴田よしき | |
トクマ・ノベルス | |
西の魔女が死んだ | 児童書のハズなのだが、児童書とは思えない。学校に馴染めない少女は、西の魔女の元で、魔女の修行を積む。魔女の修行とは、意志の力を持つ事、全てを自分で決める事、決めた事をやり遂げる事。そして、見たいと思わないモノを見ない様になる事。魔女になれるか、なりたいかは別として、そんな事を教えてくれる魔女は大切にしたいと思う。誰しも、会えると良いね。 2001.08.10 |
梨木香歩 | |
新潮文庫 | |
自傷する少女 | 母親から過度の期待を受ける少女は、ストレスの中で“真っ白”になり、そこへ行ききってしまわないように、自らに切り付ける。経験者にすら上手く説明の出来ない感覚を、経験した事の無い人間にも理解させてしまう力は、物書き故の力だろう。決して実感はできなくても、何故?の問いの回答の一つは見えてくる。それは多分、知らなくて良いという物では無いのだと思うのだ。 2001.08.09 |
スティーブン・レベンクロン 杵渕幸子・森川那智子/共訳 | |
集英社文庫 | |
タンポポ・ハウスのできるまで | 赤瀬川源平氏の“ニラハウス”を設計した、建築探偵藤森氏の自宅建設である。氏は、洞窟に住む事、植物を寄生させる事を目指し、床と壁に生乾きの板を張り、屋根にタンポポを植え、タンポポ・ハウスを建設する。オークといのは樫ではなくミズナラである、というのを初めて知った。そしてもう一つ、文を書く脳はすぐに疲れる、図面を描く脳はなかなか疲れないという氏の発見が興味深い。 2001.08.07 |
藤森照信 | |
朝日文庫 |