二章 … 発端 …

僕、ケンカをしたんだ。生まれて初めて人を殴った。最初は何が何だか全然わかんなくて僕はいっぱい殴られた。こののままだったら僕の負けなのかなと思ったら、一回だけ殴ってた。そこで先生に止められた。僕は泣かなかった。

先生がイサム君に聞いたら、イサム君はチーちゃんと遊びたかったみたいなんだ。でも、僕のほうがチーちゃんと仲が良いから悔しかったみたい。イサム君のほうがお友だちいっぱいいるのに…それに、みんで遊べばいいと思うんだけど…

その日お家に帰ったら、ママがいるんでビックリしちゃった。いつもならまだお仕事の時間なのに、なんで今ここにいるんだろう。

「ママのオフィスに先生から電話があったの。ユウちゃん、イサム君とケンカしたんですって。何でそんなことをしたの、今までユウちゃんそんなことしたことなかったじゃないの。先生やイサム君の御両親に謝ったり、ママ、ものすごく恥ずかしかったのよ。」

僕はこのときとっても不思議だったんだ。だから僕は一生懸命考えた。なんで先に殴ってきたイサム君にママが謝るんだろう。なんで僕のケガのことを心配してくんないんだろう。なんで…

「ユウちゃん! 黙ってないで何とか言いなさい。ママはもう悲しいわ。」

ママはこの時泣いていた。僕はイッパイ殴られても泣かなかったのに、ママは泣いてる。僕が泣くと怒るママが僕の前で泣いてる。

ママの涙を見ていたら、何だか僕まで悲しくなってきて、我慢したんだけど我慢できなくなっちゃって、涙が溢れてきたんだ。僕が泣いているのを見るとママはもっと怒り出した。解っていたはずなのに、泣けばママが怒るってことは、何で僕は泣いちゃったんだろう。

ママはパパにもお話をしてもらうって言ってたけど、パパはなかなか帰ってこなかったんだ。それで、十時を過ぎたらもう寝なさいって無理やりベッドに入れられたんだけど、今日はなかなか眠れなかった。

だから僕は色んなことを考えた。学校のこと、イサム君のこと、チーちゃんのこと、フィーのこと、パパのこと、ママのこと、そして僕のこと…

そうしていたらパパが帰ってきた。ドタドタって音がしてパパの笑い声が聞こえてきた。次にママの怒った声が聞こえて、それがだんだんと僕の部屋に近づいてきたんだ。僕びっくりしちゃって寝たふりしたんだ。

「なんだ、もう寝てるのか。せっかく俺が褒めてやろうとしたのに、男らしくなったなってよ。」

「やめてよ、あなたは普段この子の面倒なんて見ないから、そうゆうふうに無責任な事が言えるのよ。」

「お前もそうキーキーうるさく騒ぐなよ、こいつも男なんだから喧嘩の一つ位はするさ。こいつの面倒をみるのが嫌なら、最初から産まなけりゃ良かったんだよ。俺はあん時、反対しただろ。それを押し切って産んだんだからな、俺の責任はお前と結婚して毎月しっかり生活費を収める事で果たしてるだろうが。」

「な…何言ってるの。私は今日仕事の途中でこの子の学校に行ったのよ。折角仕事が軌道に乗りかかったこの時期によ。あなたなんてこの子に何にもしてないじゃない。何で私ばっかりがこの子の犠牲になんなきゃならないのよ。」

「ったく…本当にうるせーよ。こいつより仕事のほうがそんなに大事なら、こいつどっかに捨ててくればいいだろう。」

「酷い、そんなこと言うなんて。ちょっとこっちに来て、ここじゃあユウトが起きちゃうから。」

なんか良くわかんなかったけど、パパとママはケンカをしながら僕の部屋を出ていっちゃった。パパとママの足音が階段を降りていくのが聞こえる。でもその間もずっとケンカをしてるみたい。よく聞こえなかったけどパパが怒鳴ってるのと、ママが泣いてるのは解った。

パパがあんなに大きな声を出して怒ってるのも初めて聞いたし、ママの涙も初めて見た。これってやっぱり僕の所為なのかな。そういえば、さっきパパは僕のことを捨てちゃえって言ってた。僕ってパパとママにも嫌われてるのかな。もし本当に捨てられちゃったら僕どうなるんだろう。そんなことを考えてたら怖くなっちゃってさっきよりもっと眠くなくなっちゃった。

こんなに遅くまで起きて、こんなにいっぱい考えるなんて生まれて初めてじゃないかしら。時計を見てみたらもう一時。パパとママはまだケンカをしてるみたい。

これ以上起きてると明日の朝、じゃなくって今日の朝、寝坊しちゃうから僕は布団を頭までかぶって、今まであった楽しいことを思い出すようにした。去年行った海水浴、お正月に行くおじーちゃん家のこと、フィーと公園で遊んだこと、大好きな漫画のこと…

そしたらだんだん眠くなってきた…

パパとママのケンカの声もあんまり聞こえなくなってきた…

やっと眠れそうだ…

なんかいっぱいいろんなことがあったけど、やっと今日が終る…

そうだ、朝になったらパパとママに謝っておこう…

何で僕が悪いのかよくわかんないけど…


捨てられるのは嫌だから…


大好きなパパとママとずっと一緒にいたいから…


ぼくがあやまればいいんなら…



あさになったらあやまろう…




パパとママといられるように…






きらわれないように…








すてられないように…





<< 2 >>

<<<