暗夜涼気 満月の章・第弐夜 「閉じられた未来、開かれた扉2」


差し込む月明かりのもと、黒衣の少年が夜空を見上げている。
秋の夜風に少年の黒衣が静かに揺れている。
黒い髪に黒い瞳の少年、そんな何処にでも居る雰囲気の少年だが、
その瞳だけが少年の存在を誇示していた。
それは見る者を射抜き、萎縮させる強烈な意思を秘めた瞳。
・・・そう、孤高の戦士の瞳だ。
「君も来ていたのかぃ?」
少年は月を見上げたままの体勢で言う。
「まね、で〜も意外ね。 進入者の抹殺計画に反対だった、星流が来るなんて!」
何時の間にか、少年の居る廃校の屋上の入り口付近に、長い髪の少女のシルエットがあった。
月明かりの差し込む少年の方へ、少女は歩みよる。
何歩か歩いた所で、少女にも月の明かりが灯り、シルエットにも光が射す。
長い髪の美しい少女が、月を見上げる少年の背後に並んで立つ。
「後悔しているの? それなら・・・」
長い髪の少女は、黒衣の少年の肩に手を置くと優し気に言う。
少年は俯き、否定する様に首を左右に振ると、少女の方へと振り返って笑ってみせる。
「していないっと言えば嘘になるね、でも僕が決めたことだから
少年はそう言うと、また夜空を見上げ始めた。
「辛い戦いになるわね」
少女も遠い夜空に思いをはせる。
やがて来る、決戦の時に向けて・・・
「各班長、状況の報告を
「104a、異常無し、廃校入り口確保
「391d、異常無し、104a援護
「578c、異常無し、廃校裏口確保
「697e、異常無し、578c援護
「101a、屋上に許容範囲内で動体探知、監視、援護良し
「101a、状況を詳しく転送しろ
「101a、了解。」
廃校近くに設置してある指揮車内。
そこには五人の人物が乗っている。
「確認は?」
「許容範囲内ですね、ゴミかなんかが浮遊してるんでしょう
「101a、赤外線、温度、再確認、異常無し
「よし・・・各班、突入
「慎重すぎませんか?」
「そんなことはない、この廃校、ただの廃校と思うなよ
「研究施設ということを聞いていますが・・・
「研究ではない、養成だ

-104a、391d-
影が廃校内に進入していく。
「トラップ、感圧式だ踏むなよ
「国内でこんな場所があるとはな
「なんでも隊長、いぜんここの進入に失敗してるんだってさ
班員たちは喋りながらも一定の間隔を保ち進んでいく。
「それでむきになってんのか?」
「ああ、ちょっと人員使いすぎだよな
「104a、目標扉前、監視カメラ2台あります
「本部了解、少し待ってくれ
「前方二時、動体1視認
「射殺許可は下りてるんだろう?」
「良く見ろまだ子どもだぞ
「廃校に子どもか、ここじゃいかにも不釣り合いだな
「104a、遭遇、戦闘に入る
影が黒衣の少年を静かに待ち構える。
黒衣の少年は悠然とその招きに歩み寄る。
班員たちは一斉に銃を発射する。
プスプスという空気が裂かれる音だけが何十回も発せられる。
「104a、1、削じ・・・・・・
だが黒衣の少年は歩み続ける。
「なんだこいつ!」
「ヒットしてないのか?!」
「している、届いてないだけだよ
「104a?」
黒衣の少年が手を振り下ろす。
ただそれだけの行為のように見て取れた。
だが班員たちは低いうなり声とともに床に倒れていく。
「なんだ?!」
「どうした、104a?」
無線機から困惑した男の声が聞こえてくる。
長い髪の少女は無残にも折り重なった班員達の死体に近づくと、 その側に落ちている小型の無線機を拾い上げる。
「こちらは警視庁・対進入者課・第一特殊能力小隊ANGELの月島 澪警部よ!  この施設は我々警察の監視下にあるわ、あなた達が何処の組織の者かは知らないけど退きなさい。  これは警告よ!」
長い髪の少女は凛とした声で、小型の無線機にそう告げる。
警視庁対進入者課第一特殊能力小隊ANGEL
それは、度重なる悲劇的で不可解な事件に対して、 手をこまねいていた警察が進入者と呼ばれる存在を狩る為に創設した特殊能力部隊である。
構成員は全部で六人。
そして、構成員の平均年齢は16歳と言う、少年・少女の特殊部隊である。
その能力は未知数で、噂ではSIEGの消去者に匹敵するっとも言われている。
「ANGELだと、そんな馬鹿な・・・
ジィッザーザーザ
無線機から聞こえていた男の声が途中で途切れ、代わりに雑音が聞こえてくる。
長い髪の少女が不思議そうな表情を浮かべていると、不意に無線機から通信が入る。
「相変わらず甘いですわね、澪さん。 こちらは状況終了、これより帰還に移りますわ
「・・状況? 桜、何をしたのよ? 今日の捜査からは外れていたはずよ。」
「・・・何をですか、澪さんの甘さの清算ですわ。 ・・・ザッザザー」
そう聞こえたきり、無線機から声が聞こえてくることはなかった。
「桜も来てたんだね、それじゃ・・生存者はいないかも知れないね。
・・・争いでは何も解決しないのにね。
それでも、運命の歯車は動き出してしまっているしね。
そして、この施設には秘密があるのも事実だよ。
僕達も捜査でここに来たんだ、地下の研究施設を調べよう
黒衣の少年の言葉に、長い髪の少女は黙って頷いた。
二人は寄り添う様にして、研究施設のある地下への階段を探し始める。
やがて来る世界の危機の為に・・・

「閉じられた未来、開かれた扉3」へ続く・・・

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