暗夜涼気 満月の章・第弐夜 「閉じられた未来、開かれた扉

透き通るような夜空に、その存在を誇示するように満月が淡い輝きをみせる。
だが、月の優しき光が地上に降り注ぐことはなかった。
不夜城と呼ぶにふさわしい都市は、人工的な光に彩られ、 もはや、自然の光が求められることもなかった。
人々は、死を司る闇を恐れた! そして、生を司る光だけを求めた!
その結果、人々は自(みずか)ら光を創り、そこに安住の地を求めた。
その行為が世界のバランスを崩すことに気がつかなかったのだろうか?
確かに、闇は死をもたらすが、同時に月の光を映す鏡でもあった。
太陽と月、創造と破壊、生と死、聖と邪
いずれも、片方だけでは存在することのできない、表裏の鏡。
この世界が、表裏の鏡であることに気がついているものは皆無だった。
今、世界の秩序は崩れつつあった。

某国立施設内。
施設内は低く警告が鳴り響き赤い光が点灯している。
男が勢い良く扉を開け部屋に入る。
「状況は!」
「エネルギー流失中です!」
「マニュアルBからCに移行します!」
「エネルギー流失地点にて生命反応感知しました!」
「補足しろ、逃がすな!」
「温度さらに0.5度低下しました!」
「情報を整理しろ、起きている現象は何だ!」
「温度低下!龍脈よりエネルギー流失!」
「待ってください! ・・・・・・・・・止まりました
「なんだ!」
「りゅ、龍脈よりのエネルギー流失、認められません
「・・・・・温度低下おさまりました、気温微かに上昇中
「止まったのか?」
「・・・はい、再確認済みです
「どうなってんだ、またか?」
「また・・・・・ですか?」
「あ、いや・・・こっちの話だ、生命反応は?」
「補足しています
「よし、現時点をもって警戒度三に移行する
「了解しました
「後は頼んだ
「はい
男は部屋を後にする。
この現象は世界中で観測された。
しかし一般報道にこの情報が流れることはなかった。

同刻、某国立施設内、作戦支部。
警戒度一の発令が解除され、幾分かの落ち着きを取り戻した 施設内の一室から複数の男女の話し声が聞こえてくる。
「これを見てくださいよ、ホノカさん」
コンピュターのディスプレイに映る情報群の一部を指差しながら、 青年は上司の女性に小声で話しかける。
「これって、4年前のデーターじゃないか!! こんなものが役に立つのか?」
同じディスプレイを眺める同僚の青年が疑問の声を上げる。
「北斗君、どういう意味なのかしら?」
ホノカと呼ばれた女性が、部下の青年の頭越しにディスプレイを見つめて声をかける。
「このデーターの在処は、実は・・・なんですが、この現象! 実は確認できるだけでも、五回も 起こっています。それも、そのうち2回は、さっきのも含めてまったく同じ場所で起こっています
「ばっ、あぶないわね! あなた、あのファイルにハックをかけたの!!」
「でも、その甲斐はありました! そのときの生存反応によると、今回の生存反応とパターンが ピッタリと一致します、それも誤差は0.00000001以下です
「つまり、この二件は同一の存在の仕業ってことか! しかし、こんなこと聞いてないぞ!!」
「当然ね、あの男が考えそうなことよ、必要なこと意外は何も話さず、 必要なことも全ては話さない
「徹底してますね、しかし、これどうします?」
「北斗君! これはすぐ燃やして灰にした後に、W1処理にかけておいてちょうだい!!」
「ハイ、わかりましたホノカさん」
「如月君! あなたも、このことはエツコはもちろんだけど、サナちゃんにも伏せておくのよ」
「言えませんよ、こんなこと・・・」
「そう、そうね。  さぁて、仕事に戻りましょうか。 いくわよ、二人とも・・・」
散りばめられた真実の欠片、その全てを知る存在(もの)はまだ誰もいない
真実を隠そうとする存在(もの)、真実を暴こうとする存在(もの)!!
現実から逃れようとする存在(もの)、現実とたたかう存在(もの)!!
その全てをのみ込みながら、秩序は崩壊への一途をたどりはじめていく・・・

「閉じられた未来、開かれた扉2」へ続く・・・

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