.


鏡の中の自分を見る。…へえ。少し付け足しただけで、ここまで変わるものなんだ。やっぱり衣装の仕事はすごい。

「綺麗ねぇ…よく似合ってる。」
作りがいがあるわ。と笑うハンガリー。
すごいな、と素直に感想を言う。

衣装合わせの時はなんか、手作りで安っぽい感じすらしたドレスだが、今、こうやって完成品を着せてもらうと、なんだか、高貴な感じがする。鏡に映る自分が、しとやかな貴族のお嬢様みたいな…いや姫なんだけど。しとやかにしては、スリット深すぎるんだけど。
少し足を動かすと、ひらひらしたフリルが動いて、白い自分の足が見える。…なんか、全開に見えた前より、エロい気がするのは気のせいだろうか…

「素足も綺麗なんだけどやっぱりガーターベルトかなぁ…でもいい色見つかってないのよねえ…」
考え込むハンガリーに、髪は?と尋ねる。
「髪飾り製作中。それでちょっとまとめるくらいの予定。」
「わかった。」
「ドレスの方は?動きにくかったりしない?」
「それは大丈夫。…俺着替えないよな?」
「ないわよ。」
「じゃあちょっとファスナー開きづらいのも問題ないし…あ、靴だけ、練習でも使いたい。」
衣装あわせよりさらに高くなったヒールは、履いて慣らしとかないとこけそうだ。

「了解。あんまり壊したり汚したりしないでね。探すの苦労したんだから」
「気をつける。」
壊したり…は大丈夫だと思うんだけど、汚す方は本当に気をつけないと…
よし、とうなずいて、じゃあ脱いでいいか、と聞いたら、どうぞ、と返事。
もぞもぞ、と服を着替えながら、そういえば、と声をかける。
「スペイン知らないか?」
「…え、どうして?」
「練習所にいなかったんだ。買い出しはこないだ行ってたし…」
「…さ、さあ…あ、ほら、授業とかじゃない?集中講義とかとってるみたいだし…」
「……ハンガリー」
着替えを終わらせて、向き直る。なに?と尋ね返す顔がひきつってるのは…なんで、なんだろうな?
「何知ってる?」
「何が?」
じっと見つめたら、にこ、と笑い返された。
「何が?」
…だめだ。これは、何も言う気がない笑顔だ。
仕方ないかとため息をついて、なんでもない、と答える。

…たぶん、何か知ってる。スペインが俺に隠れてこそこそやってる、何かを。
ハンガリーだけじゃない。カナダとフランスも、おそらく、オーストリアも。

…何、してるんだ、あいつ…。
わからない。知らない。…知らされて、ない。俺だけ。知らない。
それが、今。不安で不安で、まるで。

あいつが、俺から離れていく前兆みたいで。

…怖くて、仕方がなかった。

次へ
前へ
メニューへ