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衣装あわせ。…は、なんとなく恥ずかしい。
役に入り込んでる本番は、そんなに気にならないんだけど、素でドレス、とか着るとなんか。いたたまれなくて。

「…うっわ。」
着る前からわかる、きわどい位置まで入ったスリットに思わず呟いた。
黒のハイヒールに、真っ黒なドレス。ところどころに紫の刺繍が入っている。というかそれよりなにより。…片側に、容赦なく、太股上まで、というかこれ、まずいだろってほど入った、スリット。胸元も大きく開いている。…見せるのが目的みたいな、服だ。

「ごめんね、ロマーノちゃん。実は装飾間に合わなくて…ほんとは胸のとこ紫のレースでもうちょい隠して、スリットにもフリルつけるから、もうちょっと露出度は下がるんだけど…」
今日だけ我慢して、というハンガリーの言葉に、うなずく。彼女が連日遅くまで作業したり、大荷物を家に持って帰って仕上げてきたりしていることを知っているから。

…それにいてもすごいけど…。
着てみると、本気で危うかった。…いやけど、仕方ない、か。
「うわああ!姉ちゃん綺麗!」
そう声を上げて近づいてきた妹に抱きつかれて、危うく倒れかけた。
「っ!馬鹿!」
「ご、ごめん…でもほんとに綺麗…それで完成?」
「いや。…てかこれで舞台に立つのはちょっと…」
「ヴェ〜、そだね…」
そう言うヴェネチアーノの方は、しっかりと完成しているようだ。

白いドレスは、ほわほわしたこいつによく似合っている。
「ちょっとヒールあるんだな」
「そうなんだよね〜歩きづらい…」
「結構走り回るんだから、もっと低いのにしてもらったらどうだ?」
つまづいたりこけたり。こいつには、かなり可能性の高いことだ。
「そうだね、ハンガリーさんに言ってみる。」
そんな話をしながら、外にでる。

…とたんに突き刺さるような、視線。
「…見せもんじゃねぇっつーの…」
思わずぼやいて、男共をにらむ。すぐにそらされる視線。
ふん、と口をへの字にしたら、名前を呼ばれた。
そっちに視線を向けた瞬間、がっばあああと抱きつかれた!
「!!なっ」
「ロマーノーーーっ!!かーええーー!」
スペインだ。そう思った途端に顔が真っ赤になった。スペインに見られた!

「も、ちょっうわ、わ、わー!」
「なんだよこのやろーっ!」
「か、かわ、かーわーえーー!この子俺のー!誰がなんと言おうと俺のー!!」
ぎゃいぎゃいと耳元で叫ばれて、辟易しながら耳を遠ざける。…うるさい。鼓膜が破れる。
…でも、…ちょっとうれしい。
彼がこうやって素直に褒めてくれるのは、本当だから。嘘じゃない。心のそこからそう思ってる、証拠だから。

「も、あかんて!こんな格好でお客さんの前なんか出されへん!」
「…まだ完成じゃないって、もうちょい隠れるって。」
「そうなん?じゃあまあ…」
ええかなあ。そう言って、抱きしめていた腕が離れた。
真剣な顔。なんだ、とどき、としてしまう。

「ところでロマーノ」
「な、なんだよちくしょー…」
「公演終わったら、この格好で俺とえろいことし」
全部言い終わる前にふざけんな!と足を振り上げて蹴った。

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