ドイツの様子がおかしい。 こないだ泊まりにいってからだ。…作業が忙しいのも知ってるんだけど。なんか。 いつもなら、少しの休憩時間とか、授業の合間とか、会ってハグして、遊んだり怒られたりしたの、に。 なんで、なんだろう。一回も会わない。 …まるでドイツが、俺のこと避けてるみたいに。 練習のときも、練習の話以外はしてくれなくて。ハグしようとしても、避けられる、し。 「…俺、ドイツに嫌われたのかなあ…。」 お昼ごはんのコロッケをつつきながらしょぼん、と呟いたら、いきなりなんだよヴェネチアーノ、と前から声がした。姉ちゃんだ。 「いきなりじゃがいもの話なんかしやがって…飯がまずくなるからやめろ。」 「もう!姉ちゃんはどうしてそんなにドイツのこと嫌いなの?」 何故か姉ちゃんは、ドイツが嫌いだ。俺がドイツと仲良くするのもいやみたい。膨れたら、ふん、とそっぽを向いた。 「…口の端にソースついてる。」 「っ、それで!何したんだよおまえ。」 慌てて拭き取ってそう言われて、え。と固まる。 「え。って。…理由もなしに嫌われないだろ。…どうせまたおまえが変なことやらかしたんだろ?」 話してみろ、そう言われて、え、変なこと、と思い返してみるけれど、心当たりがない。 「えー…?」 「思いつかないの?」 姉ちゃんの隣に、ハンガリーさんが座る。うん。とうなずいてみせて。 「いつから、ドイツさんの様子が変なんですか?」 かと、とトレイを置いて隣に座った日本の言葉に、えっと、と考える。 「…こないだ泊まりにいったとき?」 「……そ、そのときに、何かしませんでした?」 「えー?別にいつもどおりだよー?ご飯食べて一緒に寝て。」 「いっ……!!?」 がったん!と音を立てて姉ちゃんが立ち上がった。 「?ヴェ?何ー?」 「………い、イタリア、くん?まさか…ドイツさんと、一緒のベッドで寝たんですか?」 「??うん〜。」 普通にうなずいたら、おまえええっ!と姉ちゃんに怒鳴られた。 「な、何、何〜!?」 「あいつと一緒に…って、おまえ!何にもされてないだろうな!?」 「へ?い、一緒にならんで寝ただけだけど…。」 だってドイツのムキムキあったかいから、と言ったら、隣から日本の深いため息。それからあちゃーとハンガリーさんの声。 「…イタちゃん…たぶん、それがドイツの様子がおかしい原因よ…。」 「え?そ、そうなの?何で?」 「普通男女で同じベッドで寝たりしねーよ!」 「え!?でも俺ドイツとよくするよ。」 「だからそれがおかしいっつーの!」 そうなの?と日本の方を見たら、まあ、友人同士で、は珍しいでしょうね…と困った顔。 「だめよー?イタちゃん。ちゃんと自分の身を守ろうって思わなきゃ。男はみんな狼なんだから。」 ハンガリーさんに言われて、首を傾げる。 「オオカミ?…みんな?」 頭に浮かんだのは、オオカミの耳とか尻尾とかついたドイツ。…似合うかも。 「そう!だから、一緒に寝たりしちゃだめなの。わかった?」 「…オーストリアさんも、オオカミ?」 似合わないなあ、と思ったから言ってみたら、え、あ、う、と顔を赤くしたハンガリーさんが、オーストリアさんは別!と叫んだ。 「そうなの?」 「そうなの!」 「私がどうかしました?」 声に、かちん、とハンガリーさんが固まる。 「あー。オーストリアさん。お疲れ様ですー。」 「お疲れ様です。…ハンガリー?どうしました?」 「あ、う、な、なんでもないです…。」 顔を真っ赤にしてしまったハンガリーさんに首をかしげていたら、さっきの話は、女の子だけの秘密にしましょう、と日本に言われたから、うん。とうなずいた。 それから、ドイツはまたいつもどおりに戻った。 いつもみたいに抱きついたら受け止めてくれるし、仕方ないなって頭撫でてくれるし。 …でも、俺の方が、それじゃだめみたいだった。 もっと強く抱きしめて。離さないで。…キスして。額とか頬とか、唇とか。 ねえ、ドイツ。俺をドイツの『特別』にしてよ。 そう思っちゃうと、なんだか物足りなくて、そんな気持ちを押し隠して笑った。 …たまにドイツが心配そうに、つらそうにこっち見てたから、うまく誤魔化せてなかったのかもしれないけど。 それでも、一度練習に入ってしまえば、ひまわり姫と白騎士としてならちゃんと一緒にいられた。優しく手を取られたりすると、どきっとするのが、もう俺なのか姫なのか、わかんなくなってたけど。どきどきする。ふわふわする。姫、と甘い声で言われたら、もう心臓がおかしくなりそうで! ……ひとつだけ、言われないセリフ。 『あなたを愛しているから。』 …言われたい。心の底からそう思う。ドイツが、それを言う、ただ一人、になるのはできないかもしれないけど。 だったら、言われたい。ひまわり姫として、でいい、から。 「…愛してる、かあ…。」 ドイツは、どんな風に言うんだろう。言われたい。言って欲しい。たった一度でいいから…! 夢にまで、見るようになっちゃった。普通の姿の、そうじゃないときは、白騎士の衣装のドイツが出てきて、俺に向かって笑って。 …あいしてる、って。言ってくれるんだけど。 声が聞こえない。唇の動きで、なんて言ってるのかわかるけど。でも。聞こえなくて。 言って欲しい。聞きたい。ドイツの口から。 そう思うのに、最近は、そのセリフ飛ばしてシーンが進むのが普通になっちゃって。 ねえ、言って?一度でいいから。お願い。 そう思って見つめる背中が、手が届きそうなのに、遠く感じて。 次へ 前へ メニューへ |