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初めに、変、だな、と思ったのは、衣装合わせのとき。
ドイツが本当にかっこよくて駆けて行って、抱きついて。ここまではいつもどおり。
だけど。
『…おまえの姉はあれでいいのか…。』
その言葉に、なんだか胸の中がドロドロしたもので満たされた。

姉ちゃんの衣装がすごいのは知ってた。うわーすごいすごい綺麗美人、と着替えてすぐにきゃあきゃあと大騒ぎしたから。その後、2人で部屋の外に出て。
「…見せもんじゃねえっつーの。」
不機嫌そうな声に、すぐ気づいた。みんな姉ちゃん見てる。…当たり前か。姉ちゃんほんと美人だもん。黒と紫の、このエロティックなドレス、ほんとに似合ってるもん。そう思ってたら走ってきたスペイン兄ちゃんにタックルされる勢いでろおまあのおおおおっで抱きつかれて真っ赤になって照れてたけど。

姉ちゃんは魅力的で美人。俺はかわいいって言われる。それが、嫌だと思ったことはなかったし、姉ちゃんを褒められるのも素直にうれしかったし。

なのに、このときだけは嫌だった。ドイツに姉ちゃん見ていてほしくなくて、なのに、その目は、他の人たちと同じで姉ちゃんに釘付けで、思わずその腕にしがみついた。
嫌だよ、ドイツ、やだ。見ないで。姉ちゃんなんか見ないで。俺以外見ないで。お願い!

こんな気持ち初めてで、どうしていいのかわからなかった。ぎゅうぎゅう、と抱きついて、困った声で呼んでくるドイツに、答えることもできなくて。



ねえこれって何?と着替えの手伝いをしてくれた日本に聞いたら、ああ、それは。と答えが返ってきた。
日本はすごい。俺が知らないこと何でも知ってるし、知らないことでも、ちゃんと調べて答えてくれる。(俺が知らなさすぎなんだって、ドイツは言ってたけど。)

「やきもち、ですね。」
「やきもち?」
そうです。とうなずかれた。やきもち、やきもちかあ…
「ドイツさんをとられたくなかったのでしょう?」
「…そ、うかも…。」
「本当にドイツさんが大好きなんですねえ…。」
「うん。ドイツ大好き!」
優しいしかっこいいし。なんだかんだ言いながら、それでもずっと一緒にいてくれるし!俺の大好きな友達だ。
えへへ、と笑ったら、ほんとに、ですか?と聞かれた。
「え?」
「それは、好き、ですか?…友達としての?」
聞かれて、う?と首をかしげる。

「ドイツと俺は友達だよ?」
「…ならいいんですけど。」
俺が脱いだドレスをハンガーにかける日本に、え、何、何、と不安になってしまう。
「友達、じゃなかったら、何?」
「そうですね…。」
日本は、小さく笑った。

「好きな人、じゃないですか?」
好きなひと。つぶやく。好きな人?ドイツが?


頭の中によぎったのは、さっきのドイツ。白騎士の格好で、飛びついた俺を軽々と抱きとめてくれた、男の人。

考えたら、胸がきゅう、となった。頬が火照る。心臓がどきどきする。胸がいっぱいになって、息がうまく吸えなくなった。え、何、何、これ?

「にほん、」
「はい?」
「苦しい。」
「はいっ!?」

どきどきする。くらくらする。ドイツのこと考えただけで。ねえこれ何?
日本に感じたとおりに言ったら、ああ、それは。と小さく笑われた。

「それはね、恋、だと思いますよ。」

どきん、とまた心臓が高鳴った。






ぎゅう、とドイツに抱きついて、そのまま動けなくなった。
寂しい。ドイツがいなくちゃ寂しい。一緒に居てほしいのに。
前からずっと思ってた。本当は。
けど、好きって自覚してからというもの、もう本当に離れたくなくって。
練習終わるのが寂しくて仕方がない。
もっと隣にいたいのに。もっとそばにいたいのに。何でこう一緒に居る時間は早く終わっていっちゃうんだろう?

「おい、イタリア。帰るぞ。」
帰りたくなんかないのに。もっと一緒にいたいのに。
どうしてそんな意地悪言うの?

「…また明日も会えるだろう?明日も練習だ。」
…わかってる、わかってる。このままじゃドイツを困らせるだけだ。わかってる。…わかってる、けどぉ…
別れたくないよう。もっともっと一緒にいたいよう。すりすりと擦り寄ったら、ため息がもれた。
……ドイツ困ってる…。

今日も、ドイツの作業を隣でずっとずっと待ってた。ドイツが早く帰れ、って言ってたのわかってたんだけど。女の子なんだから。夜遅くになるんじゃない。そう言われたけど。…だってドイツと一緒にいたいんだもん…。

「ほら、明日は金曜だぞ、一限から授業だろう?もう遅刻できないんじゃなかったのか?」
…授業よりドイツだもん。ぎゅう、としがみつく。
……でも、そろそろ、だめだよね。帰らないと。…姉ちゃんも心配するだろうし…。
また明日も会えるんだから。自分に言い聞かせて、手から、力を抜いて。ごめんね。じゃあまた明日。そう言おうと、よし、と心に決めて。

「…うち泊まるか?」

小さく言われた言葉に、大慌てで顔を上げた。
…今なんて?
いや、その、と視線を逸らすドイツに、あ。ダメだ。このままじゃ前言撤回される、と気がついて、声を上げる。

「と、泊まる、泊まる!ドイツんちお泊り!」
にこにこにこと笑ってみせる。
「やったー!久しぶりだよねドイツんち!」
「……ああ、そうだな…。」
ため息。でもいいって言ったもんドイツいいって言ったもん!
うきうきとその腕を引っ張って、ドイツの家へと向かった。


半年前くらいかな?最後にお泊り行ったの。俺がご飯つくってー、トランプしてー、テスト前にわかんないとこ泣きついて教えてもらってー、一緒に寝てー。
あははは、と遊んで、楽しかったなあ。ホントに久しぶり!とりにいってないから、お泊りセットはおいたままだし!

「俺ご飯作るね!」
何がいいかな、と冷蔵庫をのぞく。おー。相変わらず整理されてて綺麗な冷蔵庫…ぐっちゃぐちゃのうちと大違いだ。あ。俺の好きなアイスー!食べてもいいかな?
何かドイツが言った気がして、何?と顔を上げる。
「なんでもない。」
そう言ってため息なんてつくから、なんだろ?と首をかしげた。

わはーとドイツのベッドにダイブ!ドイツのベッドは大きい。二人でも十分寝れるくらい!…ドイツは、最初嫌がるけど、いつもなんだかんだ言って、一緒に寝てくれる(最初下着だけで飛び込もうとしたら怒られた。本気で怒られた。だから仕方ないから、Tシャツとジャージは着た。)
「…イタリア…俺は床で。」
「やだ」
即答したら、深いため息。だけど、隣に寝てくれるとことか、本当に優しいよねドイツ!俺だいすき!
「おやすみー。」
「…おやすみ。」
そう頭を撫でられたら、すぐに眠たくなってしまって、もうちょっとおしゃべりしたいのに、と思いながら、重いまぶたに負けて、目を閉じた。



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