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………楽しそうだなー……
「仕事しなくていいのかよ…?」
「これも立派な仕事!!」
言い訳くさいそれを聞きながら、日陰で彼の背中を眺める。
昨日から書類が、仕事がって閉じこもってたのはどこのどいつだ。終わってないくせに。まったく…。
現実逃避に近いであろう収穫作業をするスペインを見る。…後でどうなってもしらねーぞ。

「やっぱり野菜は収穫が一番楽しいよな!」
むこうを向いた顔はきっと、満面の笑顔だ。こいつはいつもそうだから。収穫のときは、いや、植物達の世話をしているときはいつも。元気に育つんやで、って声をかけながら、丁寧に世話を焼く。楽しそうに。
そして、笑顔でとってもらった野菜も、それがうれしいのかとても美味しそうで。
…いいなあ。その笑顔をこっちにも向けてくれたら、

……いや。いやいやいやいや。
変なこと考えた。馬鹿じゃないのか。熱い頬と耳は、さんさんと降り注ぐ太陽のせいということにして、後ろ姿から視線を逸らし、遠くを見る。…いい天気だ。遠くまで広がる青空と、緑の大地。
スペイン、だな。やっぱり。太陽の王国。その美しく豊かな大地は、間違いなく。
たとえ彼が、自分にあったことがない、『別の』スペインであっても。
一緒に暮らしだして少し経った。やっぱり俺は不器用だけど、昔よりはましだ。……と思う。おそらく。きっと。失敗した後の、隠し方も、片付け方も知ったからかもしれないけれど。
で、あいつの方は少しずつ、距離を詰めてくれてきているようで。…言葉は、まだ外向きのときのほうが多いけど。
視線を戻す。ふんふん、と調子を付けて鼻歌を歌いながら収穫を続けるスペインの後姿。


「仕方ない。手伝ってやるか。」
「…なんか、冷たい飲み物でも作ってやるか。」