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「仕方ない。手伝ってやるか。」
呟いて、立ち上がる。
ふんふーんとか歌ってるスペインの隣に座って、トマトを手にとり、籠に入れてあったはさみでぱちんと軸を切る。…綺麗な赤だ。

「お?手伝ってくれる?」
「…ちょっとだけ。」
そう言って手を動かしていたら、頭の上になにか乗せられた。
…スペインのかぶってた麦藁帽子、だ。ちらと隣を見ると、スペインは頭にタオルを巻いているところだった。

「太陽の威力舐めたら危ないで〜。…ロマーノ用もいるなあ。」
さらりと、独り言のように呟くときに出る、言葉。…少しうれしくなりながら、もうひとつ、トマトを取る。
「どれもこれもおいしそうにできてる…あ。ロマーノ何が好き?」
「…トマト、」
「お。わかってるな!やっぱトマトが一番!!」
トマトーああトマトーって…何だよその歌…

「ださ。」
「……おまえほんっまかわいくないなあ…。」
…ふん。ほっとけ。ちくしょー。
むっとして籠の中から一番おいしそうなのを選んで口に運ぶ。大きいトマトだ。…うまい。
「あああ!それ俺が食べようと思ってたのに」
「早いもの勝ちだこのやろー。」
少しすっとして、その甘酸っぱい味を堪能していると、ぬ、と目の前に横顔が現れてぎょっとした。
そのまま大きな口を開けて、トマトにかぶりつく。

「うまい!」
近すぎる距離のままで、無邪気に笑うから、顔が赤くなった。一瞬、息がつまる。
「ん?ロマーノ?」
「っ、」
何も言えなくなって、口をぱくぱくさせていたら、スペインがいきなり噴き出した。

「っ、な、何だよ!」
「ロマーノトマトみたい〜」
「!」
一瞬どきり、とした。懐かしさが胸に広がって。……けどこの馬鹿があはははは!と余りに笑いころげるからむかっとした気持ちにすぐ取って代わる。
あかん、苦しいとか言ってるその背中をべちんとひっぱたいた。
「笑うなこのやろー!」
「ご、ごめんごめん…」
そう言いながらまだ笑うから、ふん、と立ち上がる。ずかずかと家へ戻れば、ごめんてー、とくすくすと笑いながら追いかけてくる気配。

「お詫びに今日の夕飯は親分が作ったる!」
言われて、ワインつけろよ、このやろーと言ったらしゃーないなあ。と声が返ってきた。だったらまあ、許してやってもいいか。速度を緩めると、隣を歩く、自分より大きな体。腕に野菜のたっぷり入った籠を持った彼が、メニューの案を言い並べていく。変わらない、その横顔に。
…なんだか少し、うれしくなった。

スペインが料理しにいくのを見送っていると、ふと手の中に何かあるのに気がついた。
手を開けば、小さな金属のかけら。
「…これ、」

『鍵のかけら』を手に入れた!

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