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僕が独立するってこと。
言われたのは、一週間前。決まっちゃったことは仕方ないよな、って彼は諦めたように笑って言った。

…ねえ、僕がそばにいなくなることは、あなたにとってその程度のことなんですか。…なんて聞く勇気のない僕は、わかりました、と言うしかなくて。

一週間、処理やら何やらに忙殺されて、気づいたらもう、この家を出ていくのは明日、に迫っていた。

「…やだなあ…」
なんて言ったって、フランスさんの言うとおり、決まったものは仕方ない。…よなあ…。
…いきなりでびっくりはしたけれど、この生活はこれで、楽しかった。
まるでかつて、彼と一緒に過ごした月日をもう一度やり直すように。
朝起きておはようございますって言って、夜寝るときにおやすみって言われて。
そんな日々が楽しくないわけがなく、とても、…とてもきらきらしていた。一日一日が、過ぎていくのがとても早く感じて、もっと一緒に。
…一緒に、いたくて。

ため息。…それでも、決まったことは仕方ない。
それなら、もうちょっと前向きに考えてみよう。例えば、そう、例えば。
彼といて楽しかった、本当に。なら、その感謝の気持ちを伝えるのはどうだろう?
「…お世話になったし、うん。」
それはいいかもしれない。問題は方法だけど…
そうだ、フランスさんに教えてもらったケーキを作ろうか。最後、だし。パーティーみたいにして。二人だけど。

「うん、うん。」
考えてると楽しくなってきた!
フランスさん忙しいみたいだから、今日も帰り早くはないだろうし。
「そうと決まれば買い出し!」
よし!と気合いを入れて、ベッドから起き上がった。


材料は揃えた。なので気合いを入れて、作り始める。
まずは小麦粉をふるいにかけて、それから。
フランスさんがいない状態でお菓子作るのはまだちょっと不安だったけれど。
でも、ちゃんと覚えてる。彼がどういう風に作ってたか、ここは注意しないといけないんだぞー。歌うようにそう言う声。
…それはついこの間、も、ずっと昔も、同じ、姿。
「…ほんとに、変わらないなあ…。」
つぶやいて、泡立て器を危うく落としそうになって、集中しよう、と反省した。


「ええっと、」
次は、砂糖、と入れようとして、ふと手を止めた。
…そういえば、僕好みの味しか作ったことないけど、フランスさんの好みって…?

「どうしよう、かな…」


「メイプルシロップ入れたら、おいしいかも。」
「…ちょっと甘さ控えめで…。」