フランスさんと、恋人になれたのは、一月前のこと。

ずっと思い焦がれていた人に、好きだ、なんて言われるなんて、夢かと思ったけれど、夢じゃなくて。
うれしかったのは事実。でも、今は、本当に夢だったんじゃないかって、ちょっと疑ってる。

だって、つきあい始める前と、扱いがまったく変わってないんだ!

こうやって、フランスさんの家のソファに座っていても、ほら。
「なんか作ってこようか。」
ちょっと待ってな、と、額にキス。
歩いていく彼を見送って、はあぁ、とため息。
子供の頃と、何にも変わらない、キス。
「…やっぱり、夢だったのかな…?」
そんなことはない、と思う。フランスさんだって、俺のかわいいカナダって…子供の頃の呼び名から小さなが抜けただけだけど…
気づいてしまって、ため息。

…僕が変、なのかな?
キス、して欲しいって思ってしまう。唇に。
額や頬には、してくれる。なのに、口には、してくれたことはない。一度も。
…これで、恋人、なんて言えるのかな…

「どうした?カナダ。」
深刻そうな顔して、と言われて、顔を上げる。
いつのまにか戻ってきたフランスさんが、顔をのぞき込んでいた。
悩み事か、と聞かれて、ちょっと、と笑ってみせると、彼は、頬を手で撫で、あんまり無理するなよ、と、鼻の頭に小鳥のようなキス。

だからそれが悩みの種なんですけど!
少しむっとして、頬に当てられた手を掴む。

「カナダ?」
「ねえ、フランスさん。僕はいつまで、あなたの『かわいい小さなカナダ』なんですか?」
まっすぐに見上げると、少しひるんだように、体を引いて、引き戻そうとされたフランスさんの手をぎゅ、と握って、手のひらにキスをする。
少しだけ舐めてみると、甘い味がした。

次の瞬間、がばっと勢いよく抱きしめられて、息が詰まった。
「ふ、フランスさ、」
耳元で、深い深いため息。
「まさかカナにそんなこと言われるとは…」
お兄さんちょっとショックかも、という言葉に、悪いことしたのかな、と不安になると、少しだけ体を離された。
間近にある、美しい青い瞳。
じっと見つめられて、なんだか居心地が悪くなって、何か言おうと口を開けた瞬間。

唇をふさがれて、目を見開いた。

けれど、中を舐め尽くすような動きに、すぐにぎゅう、と目を閉じて。
散々舐められて、息が苦しくてフランスさんを押し返して、その腕の力まで抜けきったところで、ようやっと放してくれた。
やっとのことで入ってくる空気を、必死で取り込む。

「あー…やっぱダメか…」
「な、何が、」
顔を上げると、唇を指先で撫でられた。
慈しむような、でもどこか、熱っぽい表情に、思わずのどを鳴らす。

「絶対美味しいから、我慢してたのに、なぁ?」
カナダのせい、って、だから何が?
困惑していると、眼鏡を外された。それから、手をとって、手のひらに、キス。
「味見なんかしたら、全部食べ尽くしたくなるから、我慢してたんだぞ?」
ぬる、と、手のひらを舐められて、ソファに押し倒されて…って、あれ?

「でも、ごちそうに私を食べて、なんて言われたら、食べるしか、ないよな?」
なあ、カナダ。真上で微笑むフランスさんに、かあ、と体が熱くなった。


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3000hitリクエストより
ちま様からのリクエストで「なかなかキスしてくれない仏におねだりする加」でした。こ、こんな感じでしょうか…?
加が書いてて楽しかったです。かわいいかんじがでてるといいなあ、と思います。

少しでも気に入っていただけるとうれしいです
リクエストありがとうございました!







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カナダとつきあい始めて一月半。
現在記録更新中。
何のかって?
…恋人と深い関係、になるまでの時間!

半月前、初めてキスを交わしたとき、襲いかかったのが少々まずかったらしい。
(ちなみに何もしていない。真っ赤になって泣きそうになってるカナダは本当に可愛くて食べてしまいたかったけれど。)
腰に腕を回したりすると、過敏に反応するようになったカナダのガードはなかなか固くて、ついでにアメリカとかイギリスとか邪魔なやつが出てきたりして半月が過ぎてしまった。

けれど、そろそろ、俺の理性も限界!
書き終わった手紙の封を閉じる。

今度家に泊まりにおいで。ただし、来るなら、俺に抱かれる覚悟を決めて来ること。

そう書いた手紙を、カナダに送る。真面目なカナダのことだから、返事は返ってくるだろう。


真面目だがのんびりなカナダからの返事は、一週間後。電話で、小さな小さな声で、あ、明日、行きます、というものだった。
…年柄にもなく、浮かれて、叫んでしまった。

そして迎えた翌日。
天気は快晴。
用意は万端。(すぎるくらいだ。)
まあでも、カナダのことだから、来るのは早くて昼だろう、と構えていると、チャイムが来客を知らせた。
まさか誰か邪魔しに来た訳じゃないだろうな、と出て行くと。

「…おはようございます。」

…まさかのカナダ本人だった。

「…おはよう、早かったんだな。」
そう声をかけると、カナダは、顔を上げないまま、眠れなくて、とそう呟いた。
鞄を白くなるまで力を入れて掴んだ両手が、細かく震えているのに、気づく。
カナダなりに、決心はしてきてくれたのだろう。
それでも、怖くて。不安で。
この一週間、悩みに悩んだんだろう。
胸を愛しさが満たして、ほう、とため息。
「…どこか、出掛けるか?」
「え、」
「デートしよう。」
そう言って、着替えてくるから、荷物おいといて、と家の中に招き入れる。
外の方が、カナダの気も紛れるだろう。映画か、ただ公園を歩くのでもいい。

「…すみません」
またうつむいてしまったカナダの額に、仕方ない子だなぁとキスをする。
「カナダ、謝るとこじゃないだろ?」
「…はい。」
「それに、ごちそうは後の楽しみにしといた方が、おいしいし。」
「!!」
ぼん、と音がしそうな勢いで真っ赤になったカナダに、笑うと、からかわないでください!と怒られた。
…本心、なんだけど。それは言わないでおこう。

楽しみなことがあると、時間の流れは遅く感じるものだ。
けれど、カナダと散歩をして、昼食を食べて、映画を見て、とりあえず一緒にいたら、長い一日にも飽きない。まあ、カナダがのんびりさんだから、ただ公園を歩くのにも寄り道したりふらっといなくなったりですごい時間がかかるとか、食事を食べる姿がかわいくてかわいくて仕方がないとか、映画を見てぼろぼろ涙を流すカナダをなだめるのに時間がかかったとか、そんな理由があるのも事実だが、ただカナダと一緒にいるだけで、幸せだと感じるから、というのも大きな理由だろう。

ちなみに今は、夕食も終わって。
へそを曲げてしまったカナダをなだめているところだ。…ちょっとからかいすぎた。
「カーナ、」
「もうフランスさんなんか知りません!」
聞く耳を持たないカナダを後ろから抱き寄せ、ごめんなさい、と素直に謝る。

すると、ようやくカナダが、…反省してるなら、いいです、とこっちを向いてくれて。
ほっとしながら、ところでカナダ、と本題を切り出す。
「今日、覚悟して来いって言ったの覚えてる?」
途端に固まる体。
だけれど、今度ばかりは、話を逸らすわけにはいかない。
…けれど、あまりにかちこちな様子に苦笑して、時間の猶予はあげようか、と、シャワー、浴びてくるか?と声をかける。
こくん、とうなずいたのを見て、離しがたい手を、離した。

風呂上がりのカナダを寝室に行かせ、自分も風呂に入る。
「…は」
思わず笑いがこみ上げてくる。百戦錬磨のお兄さんが、緊張、してるなんて。
「…優しく、してあげたいけど…」
できるのか、と自問しても、答えは出なかった。


寝室に入ると、大きめのクッションを抱えたカナダの後ろ姿。
足音にさえ、体を竦める彼に、苦笑して、足を止める。
「…やめとくか?」
怖いんだろ。そう尋ねると、彼は、何も言わなくて。
「今ならまだ引き返せる。…でも、今が最後のチャンスだ。」
どうする?そう尋ねて答えを待つ。

しばらくの沈黙の後、カナダは、フランス、さん、は?と、小さな声で問われた。
「ん?」
「フランスさんは、どうしたいですか?」
小さいけれど、はっきりと問われて、カナダの背中を見た。
それから、腕を伸ばして、その体を強く強く抱き寄せる。
「すっっっっっごくしたい。」
本音を包み隠さず伝えると、腕の中のからだが、かっと熱くなって。

少しの沈黙の後、やっぱり無理か、と、だいぶぐらついた理性を貼り直して、カナダの湯上がりで暖かく、いいにおいのする体を離す。
と、バスローブの端を、くん、と引っ張られた。
見れば、真っ赤な顔したカナダが、じっと見上げてきて。
「…僕だって、おんなじ気持ちです」
ちょっと、怖いけど、なんて言葉が頭の上を素通りして、なあ、ちょっと待ってそれってつまり。
「…いい、の?」

こくん、とうなずかれて、それでも耐えられるほど強靭な理性は持ち合わせていなかった。

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3000hitリクエストより「仏加でなかなか初夜に踏み出せない二人」でした
…あれ?最後踏み出した…?
思いの外長くなっちゃってびっくりです!
あ、ちなみに時間軸的に「アリスの憂鬱」の続きだったりします。半月後。
でも書きたいことは全部詰め込んだ感じです。どきどきしてる兄ちゃんとかかちんこちんの加とか!

こんなかんじですが、少しでも気に入っていただけるとうれしいです。
リクエストありがとうございました!









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※一応、リク部屋のアリスの憂鬱、チェシャ猫の葛藤、帳の眠りねずみの見る夢は、の続きになっています。
単体でも読めるはずですが、よろしかったら、そちらもどうぞ。



さら、と頭をなでられているような気が、した。
うっすらと目を開けると、やはり、間違いではないようだった。誰か、いる。
誰だろう、アメリカ?が、朝からうちに来るわけはない、し。(来たとしても僕をたたき起こしているはずだ。)
「起きたか?」
声を聞いて、ああ、フランスさんだ。と気がついた。
フランスさん、昨日泊まっていったんだっけ?…あ、違う、逆だ。僕が泊まりに来たんだ。
一週間前、手紙が来て、それで。覚悟、決めてこいって…覚悟?
「寝ぼけてるな、カナダ。」

名前を、呼ばれた途端、記憶の中で声がした。
『愛してるよ、カナダ。』
それから、もう何も考えられなくなって、熱くて、痛くて、気持ちよくて、胸がいっぱいで。

「……っ!」
顔が一気に熱くなった。
フランスさんの顔を見る勇気がなくて、大慌てで布団へもぐりこむ。
「あ、お、おい、カナダ?」
カナダ、カナー?呼ばれる名前。それとともに、昨夜の記憶がはっきりと(いやでも最後の方は曖昧だけど)蘇る。
覚悟はしてきた。けど、あんな。だって。
大混乱していると、ぎゅう、と布団ごと抱きしめられた。
「…後悔、してる?」
ごめんな、優しくできなくて、なんて言う声が、少し落ち込んでいるような気がして、後悔なんかしてません、と慌てて顔を出す。
と、にこ、と笑ったフランスさんと目が合った。
「なら、よかった。」
「!!」
はめられた、と気づくの時間はいらなくて。
声を上げようとした瞬間にキスされて、朝から濃厚なキスに言いたかったことも消えてしまった。



「…は、あ…。」
それでも悔しくて、じと、とにらみあげると、ごめん、と額に唇が触れる。
「だって、せっかくの初めての朝なのに、カナダが布団の中にこもるから…。」
「だ、だって!」
「恥ずかしい?」
こくん、とうなずくと、んー、と困ったような顔をした。
な、何かマズイのかな、と思っていると、彼は、弱ったなあと呟いて。
「あれくらい序の口なんだけど。」
「じょ…っ!?」
どうしようかなあと考えこんでいるフランスさんに、何もいえなくなって、真っ赤になって、なんだか涙まででてきた。だって、あれでさえ精一杯だったのに、序の口!?
「え、わっ、な、泣くなよ、カナダ〜。」
冗談だから、ごめん、と抱き寄せられて、ぐず、と鼻をすする。
「ふ、フランスさんの、い、じわる。」
「あー、ごめん。お兄さんが悪かった。」
もう変なこと言わないから、と頭をなでられて、すりよる。
子供の頃から変わらない仕草に、なんだかほっとした。
目尻にたまった涙をぬぐって、フランスさんを見上げる。

「…かわいいな、カナダは。」
俺のかわいいカナダ、という子供の頃からあまり変わっていない呼び名も、やっと素直に受け止められるようになって。
笑うと、フランスさんもゆったり笑って。
彼の髪を風が撫で、太陽の光がきらきら踊って…って、ん?
「今、何時ですか?」
太陽の位置が、朝、と呼ぶには高すぎる気がして尋ねるが、彼は答えてはくれなくて。
「…今日くらい、時間のことなんか忘れて、のんびりしよう。」
もういっかい寝るか?なんて言う彼に、もう眠たくないです、と苦笑して、でも、かといって起きるのももったいない気がして、その裸の(そういえば二人とも裸だ!)体に、そっと抱きつく。
男の人、なかんじのする、しっかりとした体。いつもなら感じる、香水の匂いはしないのに、なんだかいいにおいがする。

「甘えたさんだな?」
「…ダメ、ですか?」
「まさか。大歓迎。」
抱きしめられて、その体温を感じて、なんだか、ああ、幸せってこういうことかな、と思った。


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