2023.03.21; 05.10    人為的地球温暖化は“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”<イチオシ    地球温暖化の研究に関する驚くべき真実<オススメ

IPCC第6次評価報告書 統合報告書 政策決定者向け要約 日本語訳
以下の日本語訳は、2023年3月20日に発表された統合報告書の政策決定者向け要約
機械翻訳し、それを修正したものです。
2023.03.21-04.03; 05.02 井上雅夫
(訳注11)IPCC第6次報告書 翻訳対決:機械翻訳を修正した版 v.s.省庁版 <New
(訳注10)間違いに気付かない執筆チームが作成したIPCC第6次報告書は信用できる?
(訳注9)気候変動(地球温暖化)の科学は「条約や協定と密接に絡み合った科学」
(訳注8)観測値(科学)を軽視するIPCC第6次評価報告書
(訳注7)適応を追加しない場合の影響の図は意味がない?
(訳注6)気候モデルが生成した赤や緑の地球
(訳注5)気候モデルは、地表を8.5W/m2で加熱すれば、温暖化が4℃を超えると予測する
(訳注4)2020年に生まれた赤ちゃんが70歳になると灼熱地獄?
(訳注3)IPCCは人為的気候変動の悪影響は強まると言うけれど、気候関連死者数は激減
(訳注2)IPCCと国連気候変動枠組条約
(訳注1)IPCC第6評価報告書について
 目  次
統合報告書
 目 次
 はじめに
 A. 現状と傾向
  A.1 観測された温暖化とその原因
  A.2 観察された変化と影響
   図SPM.1 人為的な気候変動による悪影響は今後も強まるでしょう
  A.3 適応の現在の進捗状況とギャップと課題
 ボックスSPM.1 AR6統合報告書におけるシナリオとモデル化された経路の使用
   ボックスSPM.1 表 1: AR6の作業部会報告書(WGI〜WGIII)において考慮されたシナリオとモデル化された経路の説明と関係
  A.4 現在の緩和の進捗状況、ギャップ、および課題
 B.将来の気候変動、リスク、および長期的な応答
  B.1 将来の気候変動
   図SPM.2 地球温暖化が進むごとに、平均的な気候と極端な気候の地域的な変化がより広範かつ顕著になります
  B.2 気候変動の影響と気候関連のリスク
   図SPM.3 将来の気候変動は、自然と人間のシステム全体への影響の深刻さを増し、地域差を拡大すると予測されています
   図SPM.4 温暖化が進むごとにリスクは増大しています
  B.3 不可避、不可逆的、または突然の変化の可能性とリスク
  B.4 より温暖な世界における適応オプションとその限界
  B.5 カーボンバジェットと正味ゼロ排出量
  B.6 緩和経路
   表XX:2019年からの温室効果ガスとCO2排出削減量、中央値および5〜95パーセンタイル
   図SPM.5 温暖化を1.5℃と2℃に抑えるには、急速で大幅な、そしてほとんどの場合即時の温室効果ガス排出削減が必要です
  B.7 オーバーシュート:温暖化レベルを超えて戻ること
 C. 短期的な応答
  C.1 短期的な統合された気候行動の緊急性
   図SPM.6 気候に強靱な開発を可能にする機会の窓は急速に狭まっています
  C.2 短期的な行動の利点
   図SPM.7 気候行動を拡大する機会は多数あります
  C.3 システム全体の緩和と適応のオプション
  C.4 持続可能な開発との相乗効果とトレードオフ
  C.5 公平性と包括性
  C.6 ガバナンスとポリシー
  C.7 金融、技術、国際協力
(訳注)
 (訳注1)IPCC第6次評価報告書について (23.04.04)
 (訳注2)IPCCと国連気候変動枠組条約 (23.04.06)
 (訳注3)IPCCは人為的気候変動の悪影響は強まると言うけれど、気候関連死者数は激減 (23.04.08)
 (訳注4)2020年に生まれた赤ちゃんが70歳になると灼熱地獄? (23.04.10)
 (訳注5)気候モデルは、地表を8.5W/m2で加熱すれば、温暖化が4℃を超えると予測する (23.04.12)
 (訳注6)気候モデルが生成した赤や緑の地球 (23.04.14)
 (訳注7)適応を追加しない場合の影響の図は意味がない? (23.04.16)
 (訳注8)観測値(科学)を軽視するIPCC第6次評価報告書 (23.04.18)
 (訳注9)気候変動(地球温暖化)の科学は「条約や協定と密接に絡み合った科学」 (23.04.20)
 (訳注10)間違いに気付かない執筆チームが作成したIPCC第6次報告書は信用できる? (23.04.22)
 (訳注11)IPCC第6次報告書 翻訳対決:機械翻訳を修正した版 v.s.省庁版 (23.05.02) <New



IPCC第6次評価報告書(AR6)
統合報告書

政策決定者向け要約

中核執筆チーム: Hoesung Lee(議長)、Katherine Calvin(米国)、Dipak Dasgupta(インド/米国)、Gerhard Krinner(フランス/ドイツ)、Aditi Mukherji(インド)、Peter Thorne(アイルランド/英国)、Christopher Triso(南アフリカ)、José Romero(スイス)、Paulina Aldunce(チリ)、Ko Barrett(USA)、Gabriel Blanco(アルゼンチン)、William WL Cheung(カナダ)、Sarah L. Connors(フランス/英国)、Fatima Denton(ガンビア)、Aïda Diongue-Niang(セネガル)、David Dodman(ジャマイカ/英国/オランダ)、Matthias Garschagen(ドイツ)、Oliver Geden(ドイツ)、Bronwyn Hayward(ニュージーランド)、ChristopherJones(英国)、Frank Jotzo(オーストラリア)、Thelma Krug(ブラジル)、Rodel Lasco(フィリピン)、June-Yi Lee(韓国)、Valerie Masson-Delmotte(フランス)、Malte Meinshausen(オーストラリア/ドイツ)、 Katja Mintenbeck(ドイツ)、Abdalah Mokssit(モロッコ)、Friederike EL Otto(英国/ドイツ)、Minal Pathak(インド)、Anna Pirani(イタリア)、Elvira Poloczanska(英国/オーストラリア)、Hans-Otto Portner(ドイツ)、 Aromar Revi(インド)、Debra C. Roberts(南アフリカ)、Joashree Roy(インド/タイ)、Alex C. Ruane(米国)、Jim Skea(英国)、Priyadarshi R. Shukla(インド)、Raphael Slade(英国) 、Aimée Slangen(オランダ)、Youba Sokona(マリ)、Anna A. Sörensson(アルゼンチン)、Melinda Tignor(米国/ドイツ)、Detlef van Vuuren(オランダ)、Yi-Ming Wei(中国)、 Harald Winkler(南アフリカ)、Panmao Zhai(中国)、Zinta Zommers(ラトビア)

拡張執筆チーム: Jean-Charles Hourcade(フランス)、Francis X. Johnson(タイ/スウェーデン)、Shonali Pachauri(オーストリア/インド)、Nicholas P. Simpson(南アフリカ/ジンバブエ)、Chandni Singh(インド)、Adelle Thomas(バハマ)、Edmond Totin(ベナン)

寄稿者: Andrés Alegria(ドイツ/ホンジュラス), Kyle Armor(米国)、Birgit Bednar-Friedl(オーストリア)、Kornelis Blok(オランダ) Guéladio Cissé(スイス/モーリタニア/フランス)、Frank Dentener(EU/ オランダ)、Siri Eriksen(ノルウェー)、Erich FischerAndrés(スイス)、Gregory Garner(米国)、Céline Guivarch(フランス)、Marjolijn Haasnoot(オランダ)、Gerrit Hansen(ドイツ)、Matthias Hauser(スイス)、Ed Hawkins(英国)、Tim Hermans(オランダ)、Robert Kopp(米国)、Noëmie Leprince-Ringuet(フランス)、Debora Ley(メキシコ/グアテマラ)、Jared Lewis(オーストラリア/ニュージーランド)、Chloé Ludden(ドイツ/フランス)、Zebedee Nicholls(オーストラリア)、Leila Niamir(イラン/オランダ/オーストリア)、Shreya Some(インド/タイ)、Sophie Szopa(フランス)、Blair Trewin(オーストラリア)、Kaj-Ivar van der Wijst(オランダ)、Gundula Winter(オランダ/ドイツ)、Maximilian Witting(ドイツ)

査読編集者: Paola Arias(コロンビア)、Mercedes Bustamante(ブラジル)、Ismail Elgizouli(スーダン)、Gregory Flato(カナダ)、Mark Howden(オーストラリア)、Carlos Mendez(ベネズエラ)、Joy Pereira(マレーシア)、Ramón PichsMadruga(キューバ)、Steven K Rose(USA)、Yamina Saheb(アルジェリア/フランス)、Roberto Sánchez(メキシコ)、Diana Ürge-Vorsatz(ハンガリー)、Cunde Xiao(中国)、Noureddine Yassaa(アルジェリア)

科学運営委員会: Hoesung Lee(議長、IPCC)、Amjad Abdulla(モルディブ)、Edvin Aldrian(インドネシア)、Ko Barrett(米国)、Eduardo Calvo(ペルー)、Carlo Carraro(イタリア)、Fatima Driouech(モロッコ)、Andreas Fischlin(スイス)、Jan Fuglestvedt(ノルウェー)、Diriba Korecha Dadi(エチオピア)、Thelma Krug(ブラジル)、Nagmeldin G.E. Mahmoud(スーダン)、Valérie Masson-Delmotte(フランス)、Carlos Méndez(ベネズエラ)、Joy Jacqueline Pereira(マレーシア)、Ramón Pichs-Madruga(キューバ)、Hans-Otto Pörtner(ドイツ)、Andy Reisinger(ニュージーランド)、Debra Roberts(南アフリカ)、Sergey Semenov(ロシア連邦)、Priyadarshi Shukla(インド)、Jim Skea(英国)、Youba Sokona(マリ)、Kiyoto Tanabe(日本)  、Muhammad Tariq(パキスタン)、Diana Ürge-Vorsatz(ハンガリー)、Carolina Vera(アルゼンチン)、Pius Yanda(タンザニア連合共和国)、Noureddine Yassaa(アルジェリア)、Taha M. Zatari(サウジアラビア)、Panmao Zhai(中国)

ビジュアルコンセプトと情報デザイン: Arlene Birt(米国)、Meeyoung Ha(韓国)

原稿作成日:
2023年3月19日

注: TSU コンパイル済みバージョン



目 次 
はじめに
A. 現状と傾向
ボックスSPM.1 シナリオと経路
B. 将来の気候変動、リスク、および長期的な応答
C. 短期的な応答


この政策決定者向け要約(SPM) で引用されている情報源

この報告書に含まれる資料の参照先は、各段落の終わりの中括弧 { } で示されています。

政策決定者向けの要約では、参照は統合報告書のより長い報告書のセクション、図、表、およびボックスの番号、または政策決定者向け要約自体の他のセクション(丸括弧内) を参照しています。


この統合報告書で引用されているその他の IPCC 報告書:
AR5 第5次評価報告書



はじめに


このIPCC第6次評価報告書(AR6)(訳注1)の統合報告書(SYR)は、気候変動、その広範な影響とリスク、および気候変動の緩和と適応に関する知識の現状をまとめたものです。3つの作業部会[1]からの貢献に基づく第6次評価報告書(AR6)と、3つの特別報告書[2]の主要な調査結果を統合しています。政策決定者向けの要約(SPM)は、3つの部分(SPM.A 現状と傾向、SPM.B 将来の気候変動、リスク、および長期的な応答、SPM.C 短期的な応答)で構成されています[3]

この報告書は、気候、生態系、生物多様性、および人間社会の相互依存性;多様な形態の知識の価値;ならびに、気候変動への適応、緩和、生態系の健全性、人間の幸福、持続可能な開発の間の密接なつながりを認め、また気候変動アクションに関与する主体の多様化を反映しています。

科学的理解に基づいて、重要な調査結果は事実の記述として定式化されているか、IPCCで調整された言語を使用して評価された信頼レベルに関連付けられています[4]。 



A. 現状と傾向

観測された温暖化とその原因

A.1 人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく(訳注2)、1850〜1900年を基準とした世界平均気温は2011〜2020年に1.1℃の温暖化に達しました。世界全体の温室効果ガス排出量は増加し続けており、その過去および現在進行中の寄与は、地域間、国家間および国内、個人間で不均衡な、持続可能でないエネルギー利用、土地利用と土地利用変化、生活様式および消費と生産のパターンによります(確信度が高い)。{2.1、図 2.1、図 2.2}

A.1.1 世界平均気温は、2011〜2020年に1850〜1900年よりも1.09℃ [0.95℃〜1.20℃] [5]高く[6] 、陸上の上昇(1.59℃[1.3℃〜1.83℃])の方が海上 (0.88℃[0.68℃〜1.01℃])よりも高い。21世紀の最初の20年間(2001〜2020 年)の世界平均気温は、1850〜1900年よりも0.99[0.84〜1.10]℃高かった。世界平均気温は、1970年以降、少なくとも過去2000年間、他のどの50年間よりも急速に上昇しています(確信度が高い)。{2.1.1、図 2.1}

A.1.2 1850〜1900年から2010〜2019年[7]までの人為的な世界平均気温上昇の可能性の高い範囲は、0.8℃〜1.3℃であり、最良の推定値は1.07℃です。この期間中、十分に混合された温室効果ガス (GHG) が1.0℃〜2.0℃の温暖化に寄与し[8]、他の人間の要因(主にエアロゾル)が0.0℃〜0.8℃の冷却に寄与した可能性があり、自然(太陽と火山)の要因が世界平均温度を-0.1℃〜+0.1℃変化させ、内部変動により-0.2℃〜+0.2℃変化させました。{2.1.1、図 2.1}

A.1.3 1750年頃から、よく混合されたGHG濃度の観測された増加が、この期間の人間活動によるGHG排出が原因であることは疑う余地がありません。1850年から2019年までの過去の累積正味CO2排出量は2400±240GtCO2であり、その半分以上(58%)は1850年から1989年の間に発生し、約42%は1990年から2019年の間に発生しました(確信度が高い)。2019年には、大気中のCO2濃度(410ppm)は、少なくとも200万年のどの時点よりも高く(確信度が高い)、メタン(1866ppb)と亜酸化窒素(332ppb)の濃度は、少なくとも800,000年間のどの時点よりも高かった(非常に高い信頼度)。{2.1.1、図 2.1}

A.1.4 世界の正味の人為起源GHG排出量は、2019年には 59±6.6 GtCO2換算[9]と推定されており、2010年よりも約2%(6.5GtCO2換算)高く、1990年よりも54%(21 GtCO2換算)高い。化石燃料の燃焼および工業プロセスからのCO2(CO2-FFI)で発生する温室効果ガス総排出量の最大のシェアと増加があり、次にメタンが続き、最も高い相対増加は1990年の低いレベルから始まったフッ素化ガス(F-ガス)で発生した。2010年から2019年の平均年間GHG排出量は、過去31年間のどの10年間よりも高く、2010年から2019年までの増加率(1.3%/年)は2000年から2009年の間(2.1%/年)よりも低かった。2019年には、世界のGHG排出量の約79%がエネルギー、産業、運輸、建築の各部門から、22%[10]が農業、林業、およびその他の土地利用(AFOLU)からのものでした。GDPのエネルギー原単位とエネルギーの炭素原単位の改善によるCO2-FFIの排出削減量は、産業、エネルギー供給、輸送、農業、建物における世界的な活動レベルの上昇による排出量の増加よりも少ない。(確信度が高い){2.1.1}

A.1.5 CO2排出量の過去の寄与は、総量の点で地域間で大幅に異なるだけでなく、CO2-FFIへの寄与と、土地利用、土地利用の変化、林業からの純CO2排出量(CO2-LULUCF)でも大幅に異なります。2019年には、世界人口の約35%が1人あたり9tCO2換算(CO2-LULUCFを除く)以上を排出する国[11]に住んでおり、41%が3tCO2未満の国に住んでいます;後者のかなりの割合が、最新のエネルギーサービスへのアクセスを欠いています。後発開発途上国(LDCs)と小島嶼開発途上国(SIDS)の1人あたりの排出量(それぞれ1.7tCO2換算と4.6tCO2換算)は、CO2-LULUCFを除く世界平均(6.9tCO2換算)よりはるかに低い。1人あたりの排出量が最も多い10%の世帯が、世界の消費ベースの家庭GHG排出量の34〜45%を占め、下位50%が13〜15%を占めています。(確信度が高い){2.1.1,図2.2}

観察された変化と影響

A.2 大気、海洋、雪氷圏、および生物圏に広範かつ急速な変化が生じています。人間が引き起こした気候変動は、すでに世界中のあらゆる地域で多くの天候や極端な気候に影響を与えています。これは、自然と人々への広範な悪影響と関連する損失と損害をもたらしました(確信度が高い)。現在の気候変動にこれまで最も寄与していない脆弱なコミュニティは、不均衡に影響を受けています(確信度が高い)。{2.1、表2.1、図2.2および2.3}(図SPM.1

A.2.1 人間の影響が大気、海洋、および陸地を暖めたことは疑う余地がありません。世界の平均海面水位は、1901年から2018年の間に0.20[0.15〜0.25]m上昇しました。海面水位の上昇率は、1901年から1971年の間は1.3[0.6〜2.1]mm/年で、2006年から2018年の間は3.7[3.2〜4.2]mm/年にさらに増加しました(確信度が高い)。少なくとも1971以来、人間の影響がこれらの増加の主な要因であった可能性が非常に高い。熱波、豪雨、干ばつ、熱帯低気圧などの極端現象の観察された変化の証拠、および特に人間の影響によるものであることの証拠は、AR5以降さらに強化されています。人間の影響により、1950年代以降、熱波と干ばつが同時に発生する頻度の増加など、極端な事象が複合的に発生する可能性が高まっていいます(確信度が高い)。{2.1.2、表2.1、図2.3、図3.4}(図SPM.1

A.2.2 約33億から36億の人々が、気候変動に対して非常に脆弱な環境で生活しています。人間と生態系の脆弱性は相互に依存しています。かなりの開発制約がある地域や人々は、気候災害に対して高い脆弱性を持っています。天候と気候の極端な現象の増加により、何百万人もの人々が深刻な食料不安[12]と水の安全保障の低下にさらされており、アフリカ、アジア、中南米、LDCs、小島嶼や北極圏において、そして世界的に、先住民族、小規模な食料生産者、低所得世帯に関して、多くの場所やコミュニティで、最大の悪影響が観察されています。2010年から2020年の間に、洪水、干ばつ、暴風雨による人の死亡率は、脆弱性の非常に低い地域と比較して、脆弱性の高い地域で15倍高かった(確信度が高い)。訳注3{2.1.2、4.4}(図SPM.1

A.2.3 気候変動は、陸上、淡水、雪氷圏、沿岸および外洋の生態系において、かなりの損害を引き起こし、ますます不可逆的な損失を引き起こしています(確信度が高い)。何百もの種の局地的な損失が、極端な暑さの規模の拡大によって引き起こされており(確信度が高い)、陸上および海洋で記録された大量死の事象が発生しています(確信度が非常に高い)。一部の生態系への影響は、氷河の後退に起因する水文学的変化の影響、または一部の山の変化(確信度が中程度)や永久凍土の融解による北極の生態系への影響(確信度が高い)など、不可逆的なものに近づいています。{2.1.2、図2.3}(図SPM.1

A.2.4 気候変動は食料安全保障を低下させ、水の安全保障に影響を与え、持続可能な開発目標を達成するための努力を妨げています(確信度が高い)。全体的な農業生産性は上昇しましたが、気候変動は過去50年間に世界的にこの成長を鈍化させており(確信度が中程度)、関連する負の影響は主に中緯度および低緯度地域にあり、一部の高緯度地域には正の影響があります(確信度が高い)。海洋の温暖化と海洋の酸性化は、一部の海洋地域で漁業や貝類の養殖による食料生産に悪影響を及ぼしています(確信度が高い)。現在、世界人口の約半数が、気候要因と非気候要因の組み合わせにより、少なくとも1年の一部で深刻な水不足を経験しています(確信度が中程度)。{2.1.2、図2.3}(図SPM.1

A.2.5 すべての地域で、極端な暑さのイベントの増加により、人間の死亡率と罹患率が増加しています(確信度が非常に高い)。気候関連の食品媒介性および水媒介性疾患の発生(確信度が非常に高い)およびベクター媒介性疾患の発生率(確信度が高い)が増加しています。評価された地域では、気温の上昇(確信度が高い)、極端な出来事によるトラウマ(確信度が非常に高い)、生計と文化の喪失(確信度が高い)に関連するメンタルヘルスの課題がいくつかあります。気候と異常気象により、アフリカ、アジア、北米で避難がますます進んでいます(確信度が高い)、また中南米(確信度が中程度)、カリブ海および南太平洋の小さな島国は、人口規模が小さいことに比べて不釣り合いに影響を受けています(確信度が高い)。{2.1.2、図2.3}(図SPM.1

A.2.6 気候変動は、自然と人々に対して、システム、地域、部門にわたって不均衡に分布する広範囲にわたる悪影響とそれに関連する損失と損害[13]を引き起こしています。気候変動による経済的損害は、農業、林業、漁業、エネルギー、観光など、気候にさらされる分野で検出されています。個人の生活は、例えば、家屋やインフラの破壊、財産や収入の喪失、人間の健康や食料安全保障の喪失などを通じて影響を受け、ジェンダーや社会的公平性に悪影響を及ぼしています。(確信度が高い){2.1.2}(図SPM.1

A.2.7 都市部では、観測された気候変動が人間の健康、生活、主要なインフラに悪影響を及ぼしています。極端な暑さが都市で強まっています。輸送、水、衛生、エネルギーシステムを含む都市インフラは、極端な現象およびゆっくりと発生する事象[14]によって危険にさらされており、その結果、経済的損失、サービスの中断、幸福への悪影響が生じています。観察された悪影響は、経済的および社会的に疎外された都市住民に集中しています。(確信度が高い){2.1.2}
on_co2_7_/6s_f1.jpg
図 SPM.1: (a)気候変動はすでに、人間のシステムに広範な影響とそれに関連する損失と損害を引き起こし、世界中の陸上、淡水、海洋の生態系を変えています。物理的な水の利用可能性には、地下水、水質、水の需要など、さまざまな水源から利用できる水のバランスが含まれます。グローバルなメンタルヘルスと避難の評価は、評価された地域のみを反映しています。信頼水準は、観測された気候変動への影響の帰属の評価を反映しています。(b)観測された影響は、図示されている選択された気候影響要因など、人間の影響に起因するものを含む物理的な気候変動に関連しています。信頼度と可能性のレベルは、観測された気候影響要因の人間の影響への帰属の評価を反映しています。(c)観測された(1900〜2020年)および予測された(2021〜2100年)世界平均気温の変化(1850〜1900年と比較して)。これらは気候条件と影響の変化に関連しており、代表的な3世代(1950年生まれ、1980年生まれ、2020年生まれ)の生涯に沿って、気候がすでにどのように変化し、今後変化するかを示しています。世界平均気温の変化の将来予測(2021〜2100年)は、非常に低い(SSP1-1.9)、低い(SSP1-2.6)、中間(SSP2-4.5)、高い(SSP3-7.0)、および非常に高い(SSP5-8.5)GHG排出シナリオについて示されています。年間の世界平均気温の変化は、「気候ストライプ」として表され、将来の予測は、人間が引き起こした長期的な傾向と、自然変動による継続的な変調を示しています(ここでは、過去の自然変動の観測レベルを使用して表されています)。世代別アイコンの色は、各年の世界平均気温のストライプに対応しており、将来のアイコンのセグメントは、将来の可能性のある経験の違いを示しています。訳注4{2.1、 2.1.2、図2.1、表2.1、図2.3、クロスセクションボックス2、 3.1、 図3.3、 4.1、 4.3}(ボックスSPM.1

適応現在の進捗状況とギャップと課題

A.3 適応の計画と実施は、すべての部門と地域で進捗しており、利点とさまざまな有効性が文献化されています。進捗にもかかわらず、適応ギャップが存在し、現在の実施率では拡大し続けるでしょう。一部の生態系や地域では、適応の越えることが困難な限界と当面の限界に達しています。一部の部門や地域では適応の失敗が起こっています。適応のための現在の世界的な資金フローは、特に発展途上国において、適応オプションの実施を制約するものであり、不十分です(確信度が高い)。{2.2、2.3}

A.3.1 適応の計画と実施の進捗は、すべての部門と地域で観察され、複数の利益を生み出しています(確信度が非常に高い)。気候への影響とリスクに対する一般市民と政治家の意識が高まる結果、少なくとも170の国と多くの都市で気候政策と計画プロセスに適応が組み込まれました(確信度が高い)。{2.2.3}

A.3.2 気候リスク[16]の軽減における適応の有効性[15]は、特定の状況、部門、および地域について文献化されています(確信度が高い)。効果的な適応オプションの例としては次のものを含みます:品種の改善、農場での水の管理と貯留、土壌水分の保全、灌漑、混農林業、コミュニティベースの適応、農業における農場および景観レベルの多様化、持続可能な土地管理アプローチ、アグロエコロジーの原則の利用、および自然のプロセスで機能する実践やその他のアプローチ(確信度が高い)。都市の緑化、湿地の復元、上流の森林生態系などの生態系ベースの適応[17]アプローチは、洪水のリスクと都市の暑さを軽減するのに効果的でした(確信度が高い)。早期警報システムなどの非構造物対策と堤防などの構造物対策を組み合わせることで、内陸洪水の場合に失われる人命が減少しました(確信度が中程度)。災害リスク管理、早期警報システム、気候サービス、社会的セーフティネットなどの適応オプションは、複数の部門にわたって広く適用可能です(確信度が高い)。{2.2.3}

A.3.3 観察された適応反応のほとんどは断片的で、漸進的[18]であり、部門固有であり、地域間で不均等に分布しています。進捗にもかかわらず、適応ギャップは部門や地域全体に存在し、現在の実施レベルでは引き続き拡大し、低所得層の間で適応ギャップが最大になります。(確信度が高い){2.3.2}

A.3.4 さまざまな部門や地域で適応の失敗の証拠が増えています(確信度が高い)。適応の失敗は、特に疎外された脆弱なグループに悪影響を及ぼします(確信度が高い)。{2.3.2}

A.3.5 現在、一部の低地沿岸地域に沿った小規模農家や世帯は、財政、ガバナンス、制度および政策上の制約(確信度が高い)に起因して、適応に対する当面の限界を経験しています(確信度が中程度)。いくつかの熱帯、沿岸、極地、山地の生態系は越えることが困難な適応限界に達しています(確信度が高い)。効果的な適応があっても、当面の限界や越えることが困難な限界に到達する前であっても、適応によってすべての損失と損害が防げるわけではありません(確信度が高い)。{2.3.2}

A.3.6 適応への主な障壁は、限られた資源、民間部門と市民の関与の欠如、不十分な資金動員(研究資金を含む)、気候リテラシーの低さ、政治的コミットメントの欠如、限られた研究、および/または適応科学の理解の遅さと低さ、および危機感の低さです。適応の推定費用と適応に割り当てられた資金との間には格差が広がっています(確信度が高い)。適応資金は主に公共の資金源から提供されており、追跡調査されたグローバルな気候資金のごく一部が適応を対象としており、圧倒的多数が緩和を対象としていました(確信度が非常に高い)。AR5以降、世界の追跡された気候資金は増加傾向を示していますが、現在の適応のための世界的な資金の流れは、公的および民間の資金源からのものを含め、不十分であり、特に発展途上国における適応オプションの実施を制約しています(確信度が高い)。気候への悪影響は、損失と損害を被り、国家の経済成長を阻害することにより、財源の利用可能性を低下させ、それにより、特に開発途上国と後発開発途上国にとって、適応のための財政的制約をさらに増大させる可能性があります(確信度が中程度)。{2.3.2;2.3.3}

ボックスSPM.1 AR6統合報告書におけるシナリオとモデル化された経路の使用

モデル化されたシナリオと経路[19]は、将来の排出量、気候変動、関連する影響とリスク、および可能な緩和と適応戦略を調査するために使用され、社会経済的変数と緩和オプションを含むさまざまな仮定に基づいています。これらは定量的な予測であり、予言でも予想でもありません。費用対効果の高いアプローチに基 づくものを含む、世界全体のモデル化された排出経路には、地域によって異なる仮定と結果が含まれており、これらの仮定を注意深く認識して評価する必要があります。ほとんどは、世界的な公平性、環境正義、または地域内の所得分配について明確な仮定を立てていません。IPCCは、この報告書で評価された文献のシナリオの根底にある仮定に関して中立であり、すべての可能な未来をカバーしているわけではありません。[20]{クロスセクションボックス2}

WGIは、文献に見られる気候変動の人為的要因の将来の発展の可能性の範囲をカバーする共有社会経済経路(SSP)[21]に基づく5つの例示的なシナリオに対する気候応答を評価しました。高および非常に高いGHG排出量のシナリオ(SSP3-7.0およびSSP5-8.5[22])では、CO2排出量がそれぞれ2100年および2050年までに現在のレベルの約2倍になります。中間GHG排出シナリオ(SSP2-4.5)では、CO2排出量が今世紀半ばまで現在のレベルにとどまる。非常に低いおよび低いGHG排出シナリオ(SSP1-1.9およびSSP1-2.6)では、CO2排出量はそれぞれ2050年と2070年頃に正味ゼロに減少し、その後、さまざまなレベルの正味の負のCO2排出量が続きます。さらに、WGIとWGIIは、地域の気候変動、影響、およびリスクを評価するために、代表的な濃度経路(RCP)[23]を使用しました。WGIIIでは、多数の世界全体のモデル化された排出経路が評価され、そのうち1202の経路が21世紀の地球温暖化の評価に基づいて分類されました。カテゴリーの範囲は、オーバーシュートがまったくないか限定的である可能性が50%を超える(この報告書では>50%と記されている)温暖化を1.5℃に抑える経路(C1)から4℃を超える経路(C8)にまで及びます。(ボックスSPM.1、表1)。{クロスセクションボックス2}

1850〜1900年と比較した地球温暖化レベル (GWL)は、気候変動および関連する影響とリスクの評価を統合するために使用されます。これは、特定のGWLでの多くの変数の変化のパターンが、考慮されるすべてのシナリオに共通であり、そのレベルが到達したタイミングとは無関係であるためです。{クロスセクションボックス2}

ボックスSPM.1 表 1: AR6の作業部会報告書(WGI〜WGIII)において考慮されたシナリオとモデル化された経路の説明と関係。{クロスセクションボックス2}訳注5
on_co2_7_/6s_t1.jpg
* SSPx-yについては脚注[21]参照
** RCPyについては脚注[23]参照
*** 限定的なオーバーシュートとは、地球温暖化が1.5℃を超えて最大約0.1℃まで上昇すること、高いオーバーシュートとは0.1℃〜0.3℃まで上昇することを指し、どちらの場合も最大数十年続く。

現在の緩和の進捗状況、ギャップ、および課題

A.4 緩和に対処するポリシーと法律は、AR5以降、一貫して拡大してきました。2021年10月までに発表された国が決定する貢献(NDC)が示唆する2030年の世界のGHG排出量では、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高く、温暖化を2℃未満に抑えることを難しくしています。実施された政策からの予測排出量とNDCからの予測排出量の間にはギャップがあり、資金フローはすべての部門と地域で気候目標を達成するために必要なレベルに達していません。(確信度が高い){2.2、2.3、図2.5、表2.2}

A.4.1 UNFCCC(訳注:国連気候変動枠組条約)訳注2、京都議定書、およびパリ協定は、国家の野心の向上を後押ししています。UNFCCCの下で採択され、世界中ほぼすべてが参加するパリ協定は、特に緩和に関連して、国および地方レベルでの政策策定と目標設定、および気候変動対策と支援の透明性の向上につながっています(中程度の確信度)。多くの規制上および経済上の手段がすでにうまく展開されています(確信度が高い)。多くの国では、政策によってエネルギー効率が向上し、森林伐採率が低下し、技術の導入が加速され、排出が回避され、場合によっては排出が削減または除去された(確信度が高い)。複数の証拠は、緩和政策が世界全体での排出量の削減を数GtCO2換算/年[24]に導いたことを示唆しています(確信度が中程度)。少なくとも18カ国が、生産ベースのGHGと消費ベースのCO2の絶対削減を10年以上にわたって維持しています[25]。これらの削減は、世界の排出量の増加を部分的に相殺したに過ぎない(確信度が高い)。{2.2.1、2.2.2}

A.4.2 いくつかの緩和オプション、特に太陽エネルギー、風力エネルギー、都市システムの電化、都市のグリーンインフラ、エネルギー効率、需要側の管理、森林および作物/草地管理の改善、食品の廃棄とロスの削減は、ますます費用対効果が高くなり、技術的に実行可能になりつつあり、一般に公衆によって支持されています。2010年から2019年にかけて、太陽エネルギー(85%)、風力エネルギー(55%)、およびリチウムイオン電池(85%)の単価が持続的に低下し、それらの展開が、地域によって大きく異なりますが、大幅に増加しました(例:太陽光では10倍以上、電気自動車(EV)の場合は100倍以上)。コストを削減し、導入を促進する政策手段の組み合わせには、公共の研究開発、実証およびパイロットプロジェクトへの資金提供、規模を達成するための補助金などのデマンドプル手段が含まれます。排出量の多いシステムを維持することは、一部の地域や部門では、低排出システムへの移行よりも費用がかかる場合があります。(確信度が高い){2.2.2、図2.4}

4.3 COP26の前に発表されたNDC[26]の実施に関連する2030年の世界のGHG排出量と、即時の行動を想定する、温暖化を1.5℃(>50%)に抑える(オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートあり)または温暖化を2℃(>67%)に抑えるモデル化された緩和経路に関連する2030年の世界のGHG排出量の間に、かなりの「排出量ギャップ」が存在します(確信度が高い)。これにより、21世紀中に温暖化が1.5℃を超える可能性が高くなります(確信度が高い)。即時の行動を想定する、温暖化を1.5℃(>50%)に抑える(オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートあり)または温暖化を2℃(>67%)に抑える世界全体のモデル化された緩和経路は、これから10年間の世界全体のGHG排出量の大幅な削減を意味します(確信度が高い)(SPMボックス1、表1、B.6)[27]。COP26の前に発表された2030年までのNDCと一致し、その後は野心的な増加がないと想定するモデル化された経路は、より高い排出量となり、2100年までに地球温暖化の中央値が2.8[2.1〜3.4]℃になります(確信度が中程度)。多くの国が、20世紀半ば頃までにGHGの正味ゼロまたはCO2の正味ゼロを達成する意向を表明していますが、その誓約は範囲と具体性に関して国によって異なり、それらを実現するための政策は現在のところ限られています。{2.3.1、表2.2、図2.5;表3.1;4.1}

A.4.4 政策の適用範囲は部門間で不均一です(確信度が高い)。2020年末までに実施される政策は、2030年の世界のGHG排出量がNDCによって示唆される排出量よりも高くなると予測されており、「実施ギャップ」があります(確信度が高い)。政策を強化しなければ、地球温暖化は2100年までに3.2[2.2〜3.5]℃と予測されています(確信度が中程度)。{2.2.2、2.3.1、3.1.1、図2.5}(ボックスSPM.1図 SPM.5

A.4.5 低排出技術の採用は、ほとんどの開発途上国、特に後発開発途上国では、資金、技術の開発と移転、能力が限られていることなどにより遅れをとっています(確信度が中程度)。過去10年間で気候変動資金フローの規模は増加し、資金調達チャネルは拡大しましたが、増加は2018年以降減速しています(確信度が高い)。資金の流れは、地域や部門によって不均一に発展した(確信度が高い)。化石燃料への官民の資金の流れは、気候への適応と緩和への資金の流れよりも依然として大きい(確信度が高い)。追跡された気候資金の圧倒的多数は緩和に向けられているが、それにもかかわらず、すべての部門と地域で温暖化を2℃未満または1.5℃に抑えるのに必要なレベルには達していない(C7.2を参照)(確信度が非常に高い)。2018年、先進国から開発途上国への公的および公的に動員された民間の気候資金フローは、意味のある緩和行動と実施の透明性という文脈で、2020年までに年間1,000億米ドルを動員するというUNFCCCおよびパリ協定の下での共同目標を下回っていました(確信度が中程度).{2.2.2、2.3.1、2.3.3}



B.将来の気候変動、リスク、および長期的な応答

将来の気候変動

B.1 継続的な温室効果ガスの排出は、地球温暖化の増加につながり、考慮されたシナリオとモデル化された経路では、近い将来に1.5℃に達するという最良の推定値があります。地球温暖化が進むごとに、複数の同時発生的な危険が激化します(確信度が高い)。温室効果ガス排出量の大幅かつ急速かつ持続的な削減は、約20年以内に地球温暖化の認識可能な減速につながり、また数年以内に大気組成の認識可能な変化につながります(確信度が高い)。{クロスセクションボックス1および2、3.1、3.3、表3.1、図3.1、4.3}(図SPM.2ボックスSPM.1

B.1.1 地球温暖化[28]は、ほぼすべての考慮されたシナリオとモデル化された経路における累積CO2排出量の増加が主な原因で、近い将来(2021年から2040年)も進み続けるでしょう。短期的には、温室効果ガス排出量が非常に少ないシナリオ(SSP1-1.9)では、地球温暖化は1.5℃に達しない可能性が高く、排出量が多いシナリオでは1.5℃を超える可能性が高い、または非常に高い可能性があります。考慮されたシナリオとモデル化された経路では、地球温暖化のレベルが1.5℃に達する時間の最良の見積もりは近い将来です[29]。いくつかのシナリオとモデル化された経路では、地球温暖化は21世紀の終わりまでに1.5℃未満まで低下します(B.7を参照)。GHG排出シナリオに対する評価された気候応答による2081年から2100年の温暖化の最良の推定値の範囲は、非常に低いGHG排出シナリオ(SSP1-1.9)の1.4℃から、中程度のGHG排出シナリオの2.7℃(SSP2-4.5)、非常に高いGHG排出シナリオ(SSP5-8.5)[30]の4.4℃にわたり、AR5の対応するシナリオよりも不確実性の範囲は狭い[31]。{クロスセクションボックス1および2、3.1.1、3.3.4、表3.1、4.3}(ボックスSPM.1

B.1.2 対照的なGHG排出シナリオ(SSP1-1.9とSSP1-2.6対SSP3-7.0とSSP5-8.5)の間の世界平均気温の傾向の識別可能な違いは、約20年以内に自然変動[32]から現れ始めるでしょう。これらの対照的なシナリオの下では、対象を絞った大気汚染管理と強力かつ持続的なメタン排出削減の組み合わせにより、GHG濃度については数年以内に、大気質の改善についてはより早く、識別可能な効果が現れるでしょう。大気汚染物質排出量の目標削減は、GHG排出量のみの削減と比較して、数年以内に大気質のより迅速な改善につながりますが、長期的には、大気汚染物質とGHG排出量を削減する努力を組み合わせたシナリオでは、さらなる改善が予測されています[33]。 (確信度が高い){3.1.1}(ボックスSPM.1

B.1.3 継続的な排出は、すべての主要な気候システム構成要素にさらに影響を与えます。地球温暖化がさらに進むごとに、極端な変化はますます大きくなり続けます。 継続する地球温暖化は、その変動性、地球規模のモンスーンによる降水量、非常に多雨および非常に乾燥した天候、気候事象および季節を含む、地球規模の水循環をさらに激化させると予測されています(確信度が高い)。CO2排出量が増加するシナリオでは、自然界の陸地と海洋の炭素吸収源が占める割合は、これらの排出量の中で減少すると予測されています(確信度が高い)。その他に予測される変化には、ほぼすべての雪氷圏要素[34]の面積および/または体積のさらなる減少(確信度が高い)、世界平均海面水位のさらなる上昇(ほぼ確実)、増加する海洋の酸性化(ほぼ確実)と脱酸素化(確信度が高い)が含まれます。 {3.1.1、3.3.1、図3.4}(図SPM.2

B.1.4 さらなる温暖化に伴い、すべての地域で気候影響要因の同時多発的な変化がますます経験されると予測されています。複合的な熱波と干ばつは、複数の場所で同時に発生することを含め、より頻繁になると予測されています(確信度が高い)。相対的な海面上昇により、現在の100年に1度の極端な海面イベントが、検討されているすべてのシナリオの下で、2100年までに全潮位計の半数以上で少なくとも毎年発生すると予測されています(確信度が高い)。その他に予測される地域的変化には、熱帯低気圧および/または温帯低気圧の激化(確信度が中程度)、乾燥度および火災気象の増加(中程度から中程度)が含まれます(確信度が高い)。{3.1.1、3.1.3}

B.1.5 自然変動は、100年規模の地球温暖化にはほとんど影響を与えずに、予測される変化を弱めるか増幅するかのいずれかで、人間が引き起こした気候変動を変化し続けるでしょう(確信度が高い)。これらの変化は、適応計画において、特に地域規模で短期的に考慮することが重要です。大規模な爆発的な火山噴火が発生すると[35]、世界平均気温と降水量が1〜3年間減少することにより、人為的な気候変動が一時的かつ部分的に隠蔽されでしょう(確信度が中程度)。 {4.3}
on_co2_7_/6S_f2.jpg
図SPM.2:1850〜1900年と比較して1.5℃、2℃、3℃、および4℃の地球温暖化レベルにおける年間最高気温、年間平均全カラム土壌水分、および年間最多1日降水量の予測される変化訳注6予測される(a)年間最高気温の変化(℃)、(b)年平均全カラム土壌水分の変化(標準偏差)、(c)年間最多1日降水量の変化(%)。図は、CMIP6マルチモデルの中央値の変化を示しています。図(b)と(c)において、乾燥地域での大きな正の相対変化は、小さな絶対変化に対応している可能性があります。図(b)では、単位は1850〜1900年の土壌水分の年々変動の標準偏差です。標準偏差は、干ばつの深刻度を特徴付ける際に広く使用されている指標です。平均土壌水分の予測される1標準偏差の減少は、1850〜1900年の間に6年ごとに約1回発生した干ばつに典型的な土壌水分条件に対応します。WGI Interactive Atlas(https://interactive-atlas.ipcc.ch/)は、この図に示されている地球温暖化レベルにわらる気候システムの追加の変化を調査するために使用できます。{図3.1、クロスセクションボックス2}

気候変動の影響と気候関連のリスク

B.2 将来のどの温暖化レベルにおいても、多くの気候関連リスクはAR5で評価されたものよりも高く、予測される長期的な影響は現在観察されているものより最大で数倍高い(確信度が高い)。気候変動によるリスクと予測される悪影響、および関連する損失と損害は、地球温暖化が進むたびに増大します(確信度が非常に高い)。気候リスクと気候以外のリスクはますます相互作用し、より複雑で管理が困難な複合的連鎖的リスクを生み出します(確信度が高い)。{クロスセクションボックス2、3.1、4.3、図3.3、図4.3}(図SPM.3図SPM.4

B.2.1 近い将来、世界のすべての地域が気候ハザードのさらなる増加に直面すると予測され(地域とハザードに応じて、確信度が中から高)、生態系と人間に対する複数のリスクが増加します(確信度が非常に高い)。近い将来に予想されるハザードおよび関連するリスクには、熱に関連する人間の死亡率および罹患率の増加(確信度が高い)、食品媒介性、水媒介性、およびベクター媒介性疾患(確信度が高い)、メンタルヘルスの課題[36](確信度が非常に高い)、沿岸およびその他の低地の都市や地域での洪水(確信度が高い)、陸上、淡水、および海洋の生態系における生物多様性の損失(生態系に応じて、中程度から非常に高い確信度)、および一部の地域での食料生産の減少(確信度が高い)が含まれます。雪氷圏に関連した洪水、地滑り、および水の利用可能性の変化は、ほとんどの山岳地域の人々、インフラ、および経済に深刻な結果をもたらす可能性があります(確信度が高い)。予測される大雨の頻度と強度の増加(確信度が高い)により、降雨によって発生する局地的な洪水が増加します(確信度が中程度)。{図3.2、図3.3、4.3、図4.3}(図SPM.3図SPM.4

B.2.2 気候変動によるリスクと予測される悪影響、および関連する損失と被害は、地球温暖化が進むたびに拡大します(確信度が非常に高い)。それらは1.5℃の地球温暖化では現在よりも高く、2℃ではさらに高い(確信度が高い)。観察された影響の最近の証拠、改善されたプロセスの理解、および適応の限界を含む人間と自然のシステムの暴露と脆弱性に関する新しい知識により、グローバルな総リスクレベル[37](懸念の理由[38])は、AR5と比較して、より低いレベルの地球温暖化で高いから非常に高いになると評価されています(確信度が高い)。避けられない海面上昇(B.3も参照)により、沿岸生態系、人およびインフ ラに対するリスクは2100年以降も増加し続けでしょう(確信度が高い)。{3.1.2、3.1.3、図3.4、図4.3}(図SPM.3図SPM.4

B.2.3 さらなる温暖化に伴い、気候変動リスクはますます複雑になり、管理がより困難になります。複数の気候的および非気候的リスク要因が相互に作用し、全体的なリスクを複合化し、部門や地域全体に連鎖するリスクをもたらします。例えば、気候に起因する食糧不安と供給の不安定性は、地球温暖化の進行に伴い増加すると予測されており、都市の拡大と食糧生産の間の土地をめぐる競合、パンデミックと紛争など、気候以外のリスク要因と相互作用しています。(確信度が高い){3.1.2、4.3、図4.3}

B.2.4 任意の温暖化レベルについて、リスクのレベルは、人間と生態系の脆弱性と暴露の傾向にも依存します。気候災害への将来の暴露は、移住、不平等の拡大、都市化などの社会経済的発展の傾向により、世界的に増加しています。人間の脆弱性は非公式居住地と急速に成長している小規模な居住地に集中しています。農村地域では、気候に敏感な生活への依存度が高いため、脆弱性が高まります。生態系の脆弱性は、持続不可能な消費と生産の過去、現在、そして未来のパターン、人口学的圧力の増大、土地、海洋、水の継続的な持続不可能な利用と管理によって強く影響を受けるでしょう。生態系とそのサービスの喪失は、基本的なニーズを満たすために、生態系に直接依存している先住民族や地域社会を中心に、世界中の人々に連鎖的かつ長期的な影響を及ぼします。(確信度が高い){クロスセクションボックス2、図1c、3.1.2、4.3}
on_co2_7_/6s_f3.jpg
図SPM.3:1850〜1900年の レベルと比較した、さまざまな地球温暖化レベル(GWL)での自然および人間のシステムに対する気候変動の予測されるリスクと影響訳注7。地図に示されている予測されるリスクと影響は、追加の適応なしで各影響指標を予測するために使用された地球システムと影響モデルのさまざまなサブセットからの出力に基づいています。WGIIは、これらの予測と追加の証拠を使用して、人間と自然のシステムへの影響のさらなる評価を提供します。(a)潜在的に危険な温度条件にさらされた評価された種の割合によって示される種の喪失のリスク。これは、1.5℃、2℃、3℃、および4℃のGWLで、各種が経験した過去(1850年から2005年)の推定最大年間平均気温を超える条件によって定義されます。気温の基礎となる予測は、地球システムモデルからのものであり、北極などの生態系に影響を与える極端なイベントは考慮されていません。(b)過去の期間(1991〜2005年)、ならびに1.7℃〜2.3℃(平均=1.9℃;13の気候モデル)、2.4℃〜3.1℃(2.7℃;16の気候モデル)、および4.2℃〜5.4℃(4.7℃;15の気候モデル)のGWLにおける地表気温および湿度条件から死亡のリスクをもたらす高熱状態に人口が暴露される年間日数によって示される、人間の健康へのリスク。RCP2.6、RCP4.5、およびRCP8.5における2081〜2100年までのGWLの四分位範囲。提示された指数は、WGIおよびWGIIの評価に含まれる多くの指数に見られる共通の特徴と一致しています。(c)食料生産に関する影響:(c1)1.6℃〜2.4℃(2.0℃)、3.3℃〜4.8℃(4.1℃)、および 3.9℃〜6.0℃(4.9℃)の予測されたGWLでの1986-2005年と比較した2080-2099 年のトウモロコシ収量の変化。Agricultural Model Intercomparisonand Improvement Project(AgMIP)およびInter-Sectoral Impact Model Intercomparison Project(ISIMIP)からの5つの地球システムモデルからのバイアス調整された出力によってそれぞれ駆動される、12の作物モデルのアンサンブルからの収量の変化の中央値。地図には、現在の耕作地域(>10ha)の1986〜2005年と比較した2080〜2099年が描かれており、SSP1-2.6、SSP3-7.0、およびSSP5-8.5それぞれに対応する将来の地球温暖化レベルの範囲と共に示しています。ハッチングは、気候・作物モデルコンビネーションの<70%が影響の兆候と一致する地域を示します。(c2)0.9℃〜2.0℃(1.5℃)および3.4℃〜5.2℃(4.3℃)の予測GWLでの1986〜2005年と比較した2081〜2099年の最大漁獲可能量の変化。 RCP2.6およびRCP8.5に基づく2081〜2100年までのGWL。ハッチングは、2つの気候漁業モデルが変化の方向で一致しない場所を示しています。収穫量の少ない地域での大きな相対的変化は、小さな絶対的変化に対応している可能性があります。南極の生物多様性と漁業は、データの制限により分析されませんでした。食料安全保障は、ここに示されていない作物や漁業の不作によっても影響を受けます。{3.1.2、図3.2、クロスセクションボックス2}(ボックスSPM.1
on_co2_7_/6s_f4.jpg
図SPM.4:評価された気候の結果と、関連する世界的および地域的な気候リスクのサブセット訳注8燃えさし(訳注:図に示された下から上に向けて白、黄、赤と色が変わる縦棒)は、文献に基づく専門家の意見に基づいています。図(a):左-1850〜1900 年を基準とした世界平均気温の変化(℃)。これらの変化は、CMIP6モデルのシミュレーションに、シミュレーションによる過去の温暖化に基づく観測上の制約を課し、気候感度の最新の評価も合わせて得られた。低いおよび高いGHG排出量シナリオ(SSP1-2.6およびSSP3-7.0)の可能性が非常に高い範囲が示されています(クロスセクションボックス2)。-グローバルな懸念の理由(RFC)、AR6(太い燃えさし)とAR5(細い燃えさし)の評価を比較。リスクの移行は、科学的理解が更新されたことにより、全般的に気温が低い方向にシフトしています(訳注:図(a)右でAR5よりAR6の方が赤の領域が下に下がっている)。RFCごとに図が示されていますが、適応が少ないかまったくないことを前提としています。AR5とAR6の間で中リスクから高リスクへの遷移の中間点を線で結びます。図(b):陸と海の生態系に関する選択された地球規模のリスク。適応が低いかまったくない場合の地球温暖化レベルによるリスクの一般的な増加を示しています。図(c):左-1900年を基準としたセンチメートル単位の世界平均海面水位の変化。過去の変化(黒)は、1992年より前は潮位計で観測され、その後は高度計で観測されています。2100年までの将来の変化(色付きの線と陰影)は、CMIP、氷床、および氷河モデルのエミュレーションに基づく観測上の制約と一致するように評価され、SSP1-2.6およびSSP3-7.0の可能性のある範囲が示されています。-SROCC ベースライン期間(1986〜2005年)に関する2つの対応シナリオの下での、平均海面と極端な海面の変化による2100年の4つの例示的な沿岸地域の沿岸洪水、侵食、および塩類化の複合リスクの評価。この評価は、平均海面上昇によって直接引き起こされるものを超えた極端な海面の変化を考慮していません;危険極端な海面の他の変化が考慮された場合、リスクレベルは上昇する可能性があります(例えば、サイクロンの強度の変化による)。「対応なしから少しの対応」(訳注:図(c)右の「r」)は、今日の取り組みを表しています(つまり、さらなる重大な行動や新しいタイプの行動はありません)。 「最大の潜在的な対応」(訳注:図(c)右の「R」)は、最大限に、したがって今日と比較して最小限の財政的、社会的、政治的障壁を想定する、かなりの追加の努力を実施する対応の組み合わせを表します(この文脈では「今日」は2019年を指します)。評価基準には、曝露と脆弱性、沿岸の危険、現場での対応、および計画された移転が含まれます。計画的移転とは、管理された退却または再定住を指します。ここでは、適応の代わりに応答という用語が使用されています。これは、後退などの一部の応答が適応と見なされる場合と見なされない場合があるためです。図(d): さまざまな社会経済的経路の下で選択されたリスク。開発戦略と適応への課題がリスクにどのように影響するかを示しています。左-適応効果の3つのシナリオの下での熱に敏感な人間の健康の結果。この図は、3つのSSPシナリオでの2100年の気温変化の範囲内で最も近い整数℃で切り捨てられています。右-気候変動と社会経済発展のパターンによる食料安全保障に関連するリスク。食料安全保障へのリスクには、飢餓の危険にさらされている人口を含む食料への入手可能性とアクセス、食料価格の上昇、子供の低体重に起因する障害調整生存年数の増加が含まれます。リスクは、対象を絞った緩和および適応政策の影響を除いて、対照的な2つの社会経済的経路(SSP1およびSSP3)について評価されます。{図3.3}(ボックスSPM.1

不可避、不可逆的、または突然の変化の可能性とリスク

B.3 将来の変化の中には、不可避および/または不可逆的なものもありますが、大幅で迅速かつ持続的な世界全体の温室効果ガス排出削減によって抑制できます。急激な変化や不可逆的な変化の可能性は、地球温暖化レベルが高くなるにつれて増加します。同様に、可能性は低いが潜在的に非常に大きな悪影響に伴う結果が生じる可能性は、地球温暖化レベルが高くなるにつれて増加します。(確信度が高い){3.1}

B.3.1 世界平均気温を抑えても、数十年またはそれ以上のタイムスケールの反応を示す気候システム構成要素の継続的な変化を防ぐことはできません(確信度が高い)。海洋深部の温暖化と氷床の融解が続くため、海面上昇は何世紀から何千年もの間避けられず、海面上昇は何千年も続きます(確信度が高い)。しかし、大幅かつ迅速かつ持続的なGHG排出量の削減は、さらなる海面上昇の加速と予測される長期的な海面上昇を抑制するでしょう。1995〜2014年と比較すると、SSP1-1.9GHG排出シナリオの下での世界平均海面上昇は、2050年までに0.15〜0.23m、2100年までに0.28〜0.55mです。一方、SSP5-8.5 GHG排出量シナリオでは、2050年までに0.20〜0.29m、2100年までに0.63〜1.01mになります(確信度が中程度)。今後2000年の間に、温暖化が1.5℃に抑えられた場合、地球の平均海面は約2〜3m上昇し、2℃に抑えられた場合、2〜6m上昇します(確信度が低い)。 {3.1.3、図393.4}(ボックスSPM.1

B.3.2 ティッピングポイントに達したときに引き起こされる変化を含む、気候システムの突然のおよび/または不可逆的な変化の可能性と影響は、地球温暖化が進むにつれて増加します(確信度が高い)。温暖化レベルが上昇するにつれて、森林(確信度が中程度)、サンゴ礁(確信度が非常に高い)、および北極地域(確信度が高い)を含む生態系における種の絶滅または生物多様性の不可逆的喪失のリスクも高まります。2℃から3℃の間の温暖化レベルが持続すると、グリーンランドと西南極の氷床は数千年にわたってほぼ完全かつ不可逆的に失われ、数メートルの海面上昇を引き起こします(限られた証拠)。氷の質量損失の確率と速度は、世界平均気温が高くなるにつれて増加します(確信度が高い)。{3.1.2、3.1.3}

B.3.3 可能性は低いが潜在的に非常に大きな影響を伴う結果が生じる確率は、地球温暖化レベルが高くなるにつれて増加します(確信度が高い)。世界平均海面水位は可能性の高い範囲を超えて上昇し、GHG排出量が非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)では2100年までに2mに近づき、2300年までに15mを超える(確信度が低い)ことも、氷床プロセスに関連する大きな不確実性により、除外することはできません。大西洋子午線反転循環が2100年より前に突然崩壊することはないという確信度は中程度ですが、もし崩壊すれば、地域の気象パターンが急激に変化し、生態系や人間活動に大きな影響を与える可能性が非常に高くなります。{3.1.3}(ボックスSPM.1

より温暖な世界における適応オプションとその限界

B.4 現在実現可能で効果的な適応オプションは、地球温暖化の進行に伴い制約され、効果が低下します。地球温暖化の進行に伴い、損失と損害が増加し、さらに人間と自然のシステムが適応限界に達します。適応の失敗は、適応行動の柔軟で複数の部門にわたる包摂的かつ長期的な計画と実施によって回避でき、多くの部門とシステムにをもたらします。(確信度が高い){3.2、4.1、4.2、4.3}

B.4.1 生態系ベースのオプションやほとんどの水関連のオプションを含む適応の有効性は、温暖化の進行とともに低下します。オプションの実現可能性と有効性は、気候リスクに基づいて対応を区別し、システムを横断し、社会的不公平に対処する、統合されたマルチ部門ソリューションによって向上します。多くの場合、適応オプションの実装には長い時間がかかるため、長期的な計画が効率を高めます。(確信度が高い){3.2、図3.4、4.1、4.2}

B.4.2 さらなる地球温暖化により、脆弱な集団に強く集中する適応の限界と損失と被害は、回避することがますます困難になります(確信度が高い)。地球温暖化が1.5℃を超えると、淡水資源が限られていることにより、小さな島々や、氷河と融雪に依存する地域に越えることが困難な適応限界をもたらす可能性があります(確信度が中程度)。そのレベルを超えると、一部の温水サンゴ礁、沿岸の湿地、熱帯雨林、極地や山の生態系などの生態系は越えることが困難な適応限界に達するか、それを超えてしまい、その結果、一部の生態系に基づく適応策もその効果を失います(高い信頼性)。{2.3.2、3.2、4.3}

B.4.3 部門とリスクを個別にかつ短期的な利益に焦点を当てた行動は、長期的には適応の失敗につながり、脆弱性、暴露、および変更が困難なリスクのロックインを生み出すことがよくあります。たとえば、護岸は短期的には人や資産への影響を効果的に軽減しますが、長期的な適応計画に組み込まれない限り、長期的にはロックインを引き起こし、気候リスクへの暴露を増加させる可能性があります。適応に失敗する対応は、特に先住民族や周縁化されたグループの既存の不平等を悪化させ、生態系と生物多様性の強靱性を低下させる可能性があります。適応の失敗は、柔軟性があり、複数の部門にまたがり、包摂的で長期的な適応行動の計画と実施によって回避でき、多くの部門とシステムにをもたらします。(確信度が高い){2.3.2、3.2}

カーボンバジェットと正味ゼロ排出量

B.5 人間が原因の地球温暖化を抑制するには、CO2排出量を正味ゼロにする必要があります。CO2排出量の正味ゼロに達するまでの累積炭素排出量と、これから10年間の温室効果ガス排出削減レベルによって、温暖化を1.5℃または2℃に抑えることができるかどうかが大きく決まります(確信度が高い)。追加の削減がなければ、既存の化石燃料インフラから予測されるCO2排出量は、1.5℃の残余カーボンバジェット(50%)を超えます(確信度が高い)。{2.3、3.1、3.3、表3.1}

B.5.1 物理科学の観点から、人為的な地球温暖化を特定のレベルに抑えるには、累積的なCO2排出量を抑制し、少なくとも正味ゼロのCO2排出量に到達するとともに、他の温室効果ガス排出量を大幅に削減する必要があります。GHG排出量の正味ゼロに到達するには、主に、CO2、メタン、およびその他のGHG排出量の大幅な削減が必要であり、CO2排出量の正味マイナスを意味します[39]。正味マイナスのCO2排出量を達成するには、二酸化炭素除去(CDR)が必要になります(B.6を参照)。温室効果ガスの正味ゼロ排出量が維持されれば、世界平均気温はより早くピークに達したあとに徐々に低下すると予測されています。(確信度が高い){3.1.1、3.3.1、3.3.2、3.3.3、表3.1、クロスセクションボックス1}

B.5.2 人間の活動によって排出される1000GtCO2ごとに、世界平均気温は0.45℃(最良の推定値、可能性の高い範囲は0.27〜0.63℃)上昇します。2020年の初めからの残余カーボンバジェットの最良の推定値は、地球温暖化を1.5℃に抑える可能性が50%の場合は500GtCO2であり、温暖化を2℃に抑える可能性が67%の場合は1150GtCO2です[40]。非CO2排出量の削減が強ければ強いほど、一定の残余カーボンバジェットに対して結果として気温が低くなるか、同じレベルの温度変化に対して残余カーボンバジェットが大きくなります[41]。{3.3.1}

B.5.3 2020年から2030年までの年間CO2排出量が平均して2019年と同じレベルにとどまる場合、結果として生じる累積排出量は、1.5℃の残余カーボンバジェット(50%)をほぼ使い果たし、2℃の残余カーボンバジェット(67%)の3分の1以上を使い果たすことになります。既存の化石燃料インフラからの追加の削減なしの将来のCO2排出量の推定[42]は、温暖化を1.5℃に抑えるための残余カーボンバジェット(50%)をすでに超えています(確信度が高い)。既存および計画中の化石燃料インフラの寿命の間の予測される将来の累積CO2排出量は、過去の運用パターンが維持され、追加の削減なし[43]である場合、83%の可能性で2℃に温暖化を抑えるための残余カーボンバジェットにほぼ等しい[44](高い確信度)。{2.3.1、3.3.1、図3.5}

B.5.4 中央推定のみに基づくと、1850〜2019年の過去の累積正味CO2排出量は、地球温暖化を1.5℃に抑える確率が50%の場合、総カーボンバジェットから約4/5[45]に達し(中央推定は約2900GtCO2)、地球温暖化を2℃に抑える確率が67%の場合、総カーボンバジェットの約2/3(中央推定値は約3550GtCO2)に達します。{3.3.1、図3.5}

緩和経路

B.6 オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5℃(>50%)に抑えるすべての世界全体のモデル化された経路、および温暖化を2℃(>67%)に抑えるすべての世界全体のモデル化された経路は、迅速で大幅に、ほとんどの場合、この10年間で、すべての部門で温室効果ガス排出量を直ちに削減することを含みます。これらの経路カテゴリーでは、世界のCO2排出量正味ゼロにそれぞれ2050年代初頭と2070年代初頭に到達します。(信頼度が高い){3.3、3.4、4.1、4.5、表3.1}(図SPM.5ボックスSPM.1

B.6.1 世界全体のモデル化された経路は、温暖化をさまざまなレベルに抑えるための情報を提供します。これらの経路、特に部門別および地域的側面は、ボックスSPM.1で説明されている仮定に依存します。オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5℃(>50%)に抑えるまたは温暖化を2℃(>67%)に抑える世界全体のモデル化された経路は、大幅で迅速な、そしてほとんどの場合即時のGHG排出削減によって特徴付けられます。オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5C(>50%)に抑える経路は、2050年代初頭にCO2排出量正味ゼロに達し、その後正味マイナスのCO2排出量が続きます。GHG排出量正味ゼロに到達する経路は、2070年代頃にそうなります。温暖化を2℃(>67%)に抑える経路は、2070年代初頭にCO2排出量正味ゼロに到達します。オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5℃(>50%)に抑える、および温暖化を2℃(>67%)に抑える、そして即時のアクションを起こす世界全体のモデル化された経路で は、世界のGHG排出量は、2020年から遅くとも2025年までの間に、ピークに達すると予測されています。(確信度が高い) {3.3.2、3.3.4、4.1、表3.1、図3.6}(表XX

表XX:2019年からの温室効果ガスとCO2排出削減量、中央値および5〜95パーセンタイル{3.3.1;4.1;表3.1;図2.5;ボックスSPM1}

 

 

2019年の排出レベルからの削減量 (%)

 

 

 

2030

2035

2040

2050

オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5℃ (>50%) に抑える

GHG

43 [34-60]

60 [49-77]

69 [58-90]

84 [73-98]

CO2 

48 [36-69]

65 [50-96]

80 [61-109]

99 [79-119]

温暖化を 2℃(>67%) に抑える

GHG

21 [1-42]

35 [22-55]

46 [34-63]

64 [53-77]

CO2 

22 [1-44]

37 [21-59]

51 [36-70]

73 [55-90]


B.6.2
CO2またはGHG排出量の正味ゼロに到達するには、主にCO2の総排出量の大幅かつ迅速な削減と、CO2以外のGHG排出量の大幅な削減が必要です(確信度が高い)。たとえば、オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5℃(>50%)に抑えるモデル化された経路では、世界のメタン排出量は2019年と比較して2030年までに34[21〜57]%削減されます。残留GHG排出量(例えば、農業、航空、海運、および産業プロセスからの排出量の一部)が残っており、CO2またはGHG排出量の正味ゼロを達成するために、二酸化炭素除去(CDR)手法の導入によって相殺する必要があります(確信度が高い)。その結果、正味ゼロCO2は、正味ゼロGHGよりも早く達成されます(確信度が高い)。{3.3.2、3.3.3、 表3.1、図3.5}(図SPM.5

B.6.3 CO2およびGHGの正味ゼロ排出量に到達する世界全体のモデル化された緩和経路には、炭素の回収と貯留(CCS)を伴わない化石燃料から再生可能エネルギーまたはCCSを伴う化石燃料のような非常に低炭素またはゼロ炭素のエネルギー源への移行、需要側の対策と効率の改善、非CO2GHG排出量の削減、およびCDR[47]が含まれます。ほとんどの世界全体のモデル化された経路では、土地利用の変化と林業(再植林と森林伐採の削減)、およびエネルギー供給部門は、建物、産業、運輸部門よりも早くCO2排出量の正味ゼロに達します。(確信度が高い){3.3.3、4.1、4.5、Figure4.1} (図SPM.5ボックスSPM.1

B.6.4 緩和オプションは、持続可能な開発の他の側面との相乗効果をもたらすことが多いが、一部のオプションにはトレードオフがある場合もあります。持続可能な開発と、例えば、エネルギー効率や再生可能エネルギーとの間には潜在的な相乗効果があります。同様に、文脈に応じて[48]、再植林、森林管理の改善、土壌炭素隔離、泥炭地の復元、沿岸のブルーカーボン管理などの生物学的CDR手法は、生物多様性と生態系機能、雇用と地域の生活を向上させることができます。しかし、植林やバイオマス作物の生産は、特に大規模に実施され、土地所有が不安定な場合、生物多様性、食料と水の安全保障、地元の生活、先住民族の権利など、社会経済的および環境的に悪影響を与える可能性があります。資源をより効率的に使用することを前提とするモデル化された経路、または世界全体の開発を持続可能性に移行させるモデル化された経路では、CDRへの依存度の低下や土地と生物多様性への圧力などの課題は少なくなります。(確信度が高い) {3.4.1}
on_co2_7_/6s_f5.jpg
図SPM.5:実施された政策と緩和戦略に一致する世界全体の排出経路。図(a)訳9(b)、および(c)は、モデル化された経路における世界のGHG、CO2およびメタン排出量の推移を示し、図(d)は、GHGおよびCO2排出量が正味ゼロに達するタイミングを示しています。色付きの範囲は、ボックスSPM.1で説明されているように、特定のカテゴリーに含まれる世界全体のモデル化された経路の5〜95パーセンタイルを示します。赤色の範囲は、2020年末までに実施された政策を想定した排出経路を示しています。オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5℃(>50%)に抑えるモデル化された経路の範囲は青色(カテゴリーC1)で示され、温暖化を2℃(>67%)に抑える経路では緑色(カテゴリーC3)で示されています。オーバーシュートなしまたは限定的なオーバーシュートで温暖化を1.5℃(>50%)に抑え、今世紀後半に正味ゼロのGHGに到達する世界全体の排出経路は、2070年から2075年の間に達成されます。図(e)は、温暖化を1.5℃に抑えることと一致する例示的な緩和経路(IMP)でCO2排出量が正味ゼロに達した時点でのCO2および非CO2排出源と吸収源の部門別寄与を示しています。例示された緩和経路(IMP)は、純負の排出量への依存(IMP-Neg)(「高オーバーシュート」)、高い資源効率(IMP-LD)、持続可能な開発への注力(IMP-SP)、再生可能エネルギー(IMP-Ren)、最初は緩やかでその後徐々に緩和を強化して温暖化を2℃に抑制(IMP-GS)です。さまざまなIMPのプラス排出量とマイナス排出量を2019年のGHG排出量と比較しています。エネルギー供給 (電力を含む)には、二酸化炭素の回収と貯蔵、および直接空気二酸化炭素回収と貯蔵を伴うバイオエネルギーが含まれます。土地利用変化と林業によるCO2排出量は、多くのモデルがこのカテゴリーの排出量と吸収源を別々に報告しないため、正味の数値としてのみ表示が可能です。{図3.6、4.1} (ボックスSPM.1

オーバーシュート:温暖化レベルを超えて戻ること


B.7 温暖化が1.5℃などの特定のレベルを超えた場合、正味のマイナスの世界全体のCO2排 出量を達成し、維持することによって、温暖化は再び徐々に減少する可能性があります。これには、オーバーシュートのない経路と比較して、二酸化炭素除去の 追加導入が必要となり、実現可能性と持続可能性の懸念が大きくなります。オーバーシュートは、人間と自然のシステムに対する悪影響、一部の不可逆的なリス ク、および追加のリスクを伴い、これらはすべて、オーバーシュートの大きさと期間とともに増大します。(確信度が高い){3.1、3.3、3.4、表 3.1、図3.6}

B.7.1 1.5℃(> 50%)に抑える最も野心的な世界全体のモデル化された経路のなかでも、2100年までに地球温暖化を一時的にこのレベルを超えることがない経路はごく一部のみです。残留CO2排出量よりも大きい年間CDR率で、正味マイナスの世界CO2排出量を達成し、維持することは、再び温暖化レベルを徐々に低下させるでしょう(確信度が高い)。このオーバーシュートの期間中に発生する悪影響、および山火事の増加、樹木の大量死、泥炭地の乾燥、永久凍土の融解、自然の土地の炭素吸収源の弱体化、温室効果ガスの放出の増加などのフィードバックメカニズムを介して追加の温暖化を引き起こす悪影響は、戻ることをより難しくするでしょう(確信度中)。{3.3.2、3.3.4、表3.1、図3.6}(ボックスSPM.1

B.7.2 オーバーシュートの規模が大きく、期間が長ければ長いほど、より多くの生態系と社会が、より大きく、より広範な気候影響要因の変化にさらされ、多くの自然と人間のシステムに対するリスクが増大します。オーバーシュートのない経路と比較して、社会はインフラ、低地の沿岸集落、および関連する生計に対してより高いリスクに直面するでしょう。1.5℃を超えると、極地、山岳地帯、沿岸の生態系など、強靱性の低い特定の生態系に不可逆的な悪影響がもたらされ、氷床や氷河の融解、または海面上昇の加速と増大によって影響を受けます。(高い信頼度){3.1.2、3.3.4}

B.7.3 オーバーシュートが大きければ大きいほど、2100年までに1.5℃に戻るには、より多くの正味マイナスのCO2排出量が必要になります。正味ゼロのCO2排出量への移行を早め、メタンなどの非CO2排出量をより迅速に削減することで、ピークを抑制することになります。温暖化レベルを下げ、正味マイナスのCO2排出量の要件を減らすことにより、実現可能性と持続可能性への懸念、および大規模なCDR展開に関連する社会的および環境的リスクが軽減するでしょう。(確信度が高い){3.3.3、3.3.4、3.4.1、表3.1}



C. 短期的な応答

短期的な統合された気候行動の緊急性

C.1 気候変動は、人間の幸福と地球の健康に対する脅威です(確信度が非常に高い)。すべての人にとって住みやすく持続可能な未来を確保する機会の窓が急速に閉ざされています(確信度が非常に高い)。気候に強靱な開発は、適応と緩和を統合して、すべての人のための持続可能な開発を推進し、特に脆弱な地域、部門、グループに対する適切な財源へのアクセスの改善、包摂的なガバナンス、調整された政策など、国際協力の強化によって可能になります(確信度が高い)。この10年間に実施される選択と行動は、現在および数千年にわたって影響を与えるでしょう(確信度が高い)。{3.1、3.3、4.1、4.2、 4.3、4.4、4.7、4.8、4.9、図3.1、図3.3、図4.2}(図SPM.1図SPM.6

C.1.1 観測された悪影響と関連する損失と損害、予測されるリスク、脆弱性と適応限界のレベルと傾向の証拠は、世界的な気候に強靱な開発行動が以前にAR5で評価されたものよりも緊急であることを示しています。気候変動に強靱な開発は、適応とGHG緩和を統合して、すべての人にとって持続可能な開発を推進します。気候に強靱な開発経路は、過去の開発、排出量、気候変動によって制約を受け、特に1.5℃を超える温暖化が進むことに徐々に制約を受けます。(確信度が非常に高い){3.4;3.4.2;4.1}

C.1.2 市民社会および民間部門とともに、地方レベル、国家レベル、および国際レベルでの政府の行動は、持続可能性と気候変動に強靱な開発に向けた開発経路の転換を可能にし、加速する上で重要な役割を果たします(確信度が非常に高い)。政府、市民社会、および民間部門が、リスク削減、公平性、および正義を優先する包摂的な開発の選択を行い、意思決定プロセス、資金、および行動が、ガバナンスレベル、部門、および時間枠全体で統合されている場合に、気候変動に強靱な開発が可能になります(非常に高い確信度)。可能にする条件は、能力に応じて、国、地域、地方の状況と地形によって区別され、次のものが含まれます:政治的な約束と遂行、調整された政策、社会的および国際的協力、生態系管理、包摂的ガバナンス、知識の多様性、技術革新、監視と評価、ならびに特に脆弱な地域、部門およびコミュニティのための適切な財源へのアクセスの改善(確信度が高い)。{3.4;4.2、4.4、4.5、4.7、4.8}(図SPM.6
 
C.1.3 継続的な排出は、すべての主要な気候システム構成要素にさらに影響を及ぼし、多くの変化は100年から1000年という時間スケールで元に戻すことができず、地球温暖化の進行とともに大きくなります。緊急かつ効果的で公平な緩和および適応行動がなければ、気候変動は生態系、生物多様性、現在および将来の世代の生活、健康、幸福をますます脅かしています。(確信度が高い){3.1.3;3.3.3;3.4.1、図3.4;4.1、4.2、4.3、4.4} (図SPM.1図SPM.6)。
on_co2_7_/6s_f6.jpg
図SPM.6: 例示的な開発経路(赤から緑)と関連する結果(右の図)訳注10は、すべての人にとって住みやすく持続可能な未来を確保する機会の窓が急速に狭まっていることを示しています。気候に強靱な開発は、持続可能な開発を支援するために温室効果ガスの緩和と適応策を実施するプロセスです。多様な経路は、政府、民間部門、市民社会の多様な関係者による相互に作用する選択と行動が、気候に強靱な開発を進め、経路を持続可能性に向けてシフトし、排出量の削減と適応を可能にすることを示しています。多様な知識と価値には、文化的価値、先住民の知識、地域の知識、科学的知識が含まれます。干ばつ、洪水、パンデミックなどの気候的および非気候的事象は、気候に強靱な開発が高い経路(緑)よりも、気候に強靱な開発が低い経路(赤から黄色)に、より深刻な衝撃をもたらします。1.5℃の地球温暖化では、一部の人間と自然のシステムの適応と適応能力に限界があり、温暖化が進むごとに、損失と損害が増加します。経済発展のすべての段階にある国によって取られる開発経路は、国や地域によって異なるGHG排出量と緩和の課題と機会に影響を与えます。行動の経路と機会は、以前の行動(または不作為と逃した機会;破線の経路)と、可能にする条件と制約する条件(左の図)によって形作られ、気候リスク、適応の限界、および開発ギャップの文脈で行われます。排出削減が遅れるほど、効果的な適応オプションが少なくなります。{図4.2;3.1;3.2;3.4;4.2;4.4;4.5;4.6;4.9}

短期的な行動の利点

C.2 これから10年間に大幅、迅速かつ持続的に緩和し、適応行動を迅速に実施することで、人間と生態系に予想される損失と損害が減少し(確信度が非常に高い)、特に大気の質と健康に多くのがもたらされます(確信度が高い)。緩和と適応の行動が遅れると、排出量の多いインフラが固定化され、座礁資産とコスト上昇のリスクが高まり、実現可能性が低下し、損失と損害が増加します(確信度が高い)。短期的な行動には、多額の先行投資と潜在的に破壊的な変化が伴いますが、これらはさまざまな有効化政策によって軽減することができます(確信度が高い)。{2.1、2.2、3.1、3.2、3.3、3.4、4.1、 4.2、4、3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8}

C.2.1 これから10年間の大幅、迅速かつ持続的な緩和と適応行動の迅速な実施は、人間と生態系の気候変動に関連する将来の損失と損害を軽減するでしょう(確信度が非常に高い)。適応オプションの実施には長い時間がかかることが多いため、この10年間で適応の実施を加速することが、適応ギャップを埋めるために重要です(確信度が高い)。適応と緩和を統合した総合的で効果的かつ革新的な対応は、相乗効果を利用し、適応と緩和の間のトレードオフを減らすことができます(確信度が高い)。{4.1、4.2、4.3}。

C.2.2 緩和行動の遅れは、地球温暖化をさらに増加させ、損失と損害が増加し、更に多くの人間と自然のシステムが適応限界に達します(確信度が高い)。適応および緩和行動の遅れによる課題には、コストの増大、インフラのロックイン、座礁資産、および適応および緩和オプションの実現可能性と有効性の低下のリスクが含まれます(確信度が高い)。迅速、大幅、かつ持続的な緩和と加速された適応行動がなければ、アフリカ、LDC、SIDS、中南米、アジアおよび北極圏で予測される悪影響を含め、損失と損害は増加し続けるでしょう[49]、そして最も脆弱な住民に偏って影響を与えるでしょう(確信度が高い)。 {2.1.2; 3.1.2、3.2、3.3.1、3.3.3; 4.1、4.2、4.3}(図SPM.3図SPM.4

C.2.3 気候変動対策の加速は、ももたらすことができます(C.4も参照)。多くの緩和行動は、大気汚染の低減、アクティブモビリティ(ウォーキング、サイクリングなど)、持続可能な健康的な食事への移行を通じて、健康に利益をもたらします。メタン排出量を強力かつ急速かつ持続的に削減することで、地球表面のオゾンを減少させることで、短期的な温暖化を抑制し、大気の質を改善することができます(確信度が高い)。適応は、農業生産性、イノベーション、健康と幸福、食料安全保障、生計、生物多様性保全の改善など、複数の追加の利益を生み出すことができます(確信度が非常に高い)。{4.2、4.5.4、 4.5.5、4.6}

C.2.4 費用便益分析は、気候変動によるすべての回避された損害を表す能力に依然として限界があります(確信度が高い)。緩和行動から生じる大気質改善による人間の健康への経済的利益は、緩和コストと同程度であり、さらに大きくなる可能性があります(確信度が中程度)。潜在的な損害を回避することによるすべての利益を考慮しなくても、地球温暖化を2℃に抑えることによる世界的な経済的および社会的利益は、評価された文献のほとんどで緩和のコストを上回っています(確信度が中程度)[50]。排出量が早期にピークに達する、より迅速な気候変動緩和は、を増加させ、長期的には実現可能性のリスクとコストを減らしますが、より多くの先行投資が必要になります(確信度が高い)。{3.4.1、4.2}

C.2.5 野心的な緩和経路は、既存の経済構造に大規模な、時には破壊的な変化をもたらし、国内および国間の分配に重大な結果をもたらします。気候変動対策を加速するために、これらの変化の悪影響は、財政、金融、制度、規制の改革によって、また(i)持続可能な低排出成長の経路をサポートする、 各国の状況に合致した経済全体のパッケージ;(ii)気候変動に強靱なセーフティネットと社会的保護;(iii)特に発展途上国における、低排出インフラと技術のための資金へのアクセスの改善をとおして、気候変動対策をマクロ経済政策と統合することによって、緩和することができます。(確信度が高い){4.2、4.4、4.7、4.8.1}
on_co2_7_/6s_f7.jpg
図SPM.7:気候変動対策を拡大するための複数の機会。図(a) 異なるシステム間で選択された緩和と適応のオプションを提示します。図(a)の左側は、短期的に最大1.5℃の地球温暖化まで、世界全体での多次元的な実現可能性について評価された気候応答と適応オプションを示しています。1.5℃を超える文献は限られているため、より高いレベルの温暖化での実現可能性は変化する可能性があり、現在のところ確実に評価することはできません。ここでは、適応に加えて対応という用語が使用されています。これは、移住、移転、再定住などの対応が適応と見なされる場合と考慮されない場合があるためです。 森林ベースの適応には、持続可能な森林管理、森林の保全と復元、再植林と植林が含まれます。 WASHとは、水、トイレ、衛生状態を指します。 実行可能性の6つの次元(経済、技術、制度、社会、環境および地球物理学)を使用して、気候応答と適応オプションの潜在的な実現可能性を、緩和との相乗効果とともに計算しました。潜在的な実現可能性と実現可能性の次元について、図は高、中、低の実現可能性を示しています。緩和との相乗効果は、高、中、低で識別されます。

図(a)の右側は、選択された緩和オプションの概要と、2030年におけるそれらの推定コストと可能性を示しています。コストは、参照技術と比較して計算された回避されたGHG排出量の正味生涯割引金銭コストです。 相対的な可能性とコストは場所、状況、時間、および2030年より長期間であること、によって異なります。可能性 (横軸)は、AR6シナリオデータベースからの現在(2019年頃)の政策参照シナリオからなる排出ベースラインと比較したコストカテゴリー(色付きバーセグメント) に分類された正味のGHG排出削減量 (削減された排出量および/または強化された吸収源の合計)です。 可能性はオプションごとに個別に評価され、付加的なものではありません。医療システムの緩和オプションは、主に居住地とインフラ(効率的な医療施設など)に含まれており、個別に特定することはできません。 産業における燃料転換とは、電気、水素、バイオエネルギー、天然ガスへの転換を指します。段階的な色の変化は、不確実性またはコンテキストへの依存度が高いため、コストカテゴリーへの内訳が不確実であることを示します。 合計の可能性の不確実性は典型的には25〜50%です。

図(b) 2050年の需要側の緩和オプションの指標となる可能性を示しています。可能性は、世界のすべての地域を代表する約500のボトムアップ研究に基づいて推定されています。ベースライン(白いバー)は、2020年まで各国政府が発表した政策と一致する2つのシナリオ(IEA-STEPSおよびIP_ModAct)の2050年の部門別平均GHG排出量によって提供されます。緑色の矢印は、需要側の排出削減の可能性を表します。 可能性の範囲は、文献で報告されている最高の可能性と最低の可能性を示す点を結ぶ線で示されます。 食料は、社会文化的要因とインフラの使用、および食料需要の変化によって可能になる土地利用パターンの変化の需要側の可能性を示しています。需要側の対策と最終用途サービス提供の新しい方法により、最終用途部門(建物、陸上輸送、食料)における世界のGHG排出量を、ベースラインシナリオと比較して2050年までに40〜70%削減できますが、一部の地域や社会経済グループでは追加のエネルギーとリソースが必要です。最後の行は、他の部門における需要側の緩和オプションが電力需要全体にどのように影響するかを示しています。 濃い灰色のバーは、他の部門での電化の増加により、2050年のベースラインを超えると予測される電力需要の増加を示しています。ボトムアップ評価に基づくと、この予測される電力需要の増加は、産業、陸上輸送、および建物での電力使用に影響を与える社会文化的要因およびインフラの使用の領域における需要側の緩和オプションによって回避できます(緑色の矢印)。{図4.4}

システム全体の緩和と適応のオプション

C.3 大幅かつ持続的な排出削減を達成し、すべての人にとって住みやすく持続可能な未来を確保するには、すべての部門とシステムにわたる迅速かつ広範囲にわたる移行が必要です。これらのシステム移行には、緩和および適応オプションの幅広いポートフォリオの大幅な拡大が含まれます。緩和と適応のための実行可能で効果的かつ低コストのオプションは、システムや地域によって異なりますが、すでに利用可能です。(確信度が高い){4.1、4.5、4.6}(図SPM.7

C.3.1 迅速かつ大幅な排出削減と気候変動への変革的適応を達成するために必要な体系的な変化は、規模の点では前例のないものですが、速度の点では必ずしもそうではありません(確信度が中程度)。システムの移行には以下が含まれます;低排出またはゼロ排出技術の導入;インフラの設計とアクセス、社会文化的および行動の変化、および技術の効率の向上と採用による需要の削減と変化;社会的保護、気候サービスまたはその他のサービス;ならびに生態系の保護と復元(確信度が高い)。緩和と適応のための実行可能で効果的かつ低コストのオプションはすでに利用可能です(確信度が高い)。短期的な、緩和と適応オプションの利用可能性、実現可能性、潜在力は、システムと地域によって異なります(確信度が非常に高い)。{4.1、4.5.1〜4.5.6}(図SPM.7
 
エネルギーシステム

C.3.2 正味ゼロCO2エネルギーシステムは以下を伴います:化石燃料使用全体の大幅な削減、削減されていない化石燃料の使用の最小化[51]、および残りの化石燃料システムでの炭素の回収と貯蔵;正味のCO2を排出しない電力システム;広範な電化;電化の影響を受けにくい用途における代替エネルギー担体;エネルギーの節約と効率;およびエネルギーシステム全体でのより大きな統合(確信度が高い)。20米ドル/tCO2換算 未満のコストでの排出量削減に大きく貢献するのは、太陽エネルギーと風力エネルギー、エネルギー効率の改善、およびメタン排出量の削減(炭鉱、石油とガス、廃棄物)です(確信度が中程度)。インフラの強靱化、信頼性の高い電力システム、および既存および新規のエネルギー生成システムの効率的な水利用をサポートする実行可能な適応オプションがあります(確信度が非常に高い)。エネルギー生成の多様化(例:風力、太陽光、小規模水力発電による)および需要側の管理(例:貯蔵およびエネルギー効率の改善)は、エネルギーの信頼性を高め、気候変動に対する脆弱性を軽減することができます(確信度が高い)。 気候に対応するエネルギー市場、現在および予測される気候変動に応じたエネルギー資産の設計基準の更新、スマートグリッド技術、堅牢な送電システム、および供給不足に対応する能力の向上は、中長期的に実現可能性が高く、緩和策のもあります(非常に高い確信度)。{4.5.1}(図SPM.7

産業と運輸

C.3.3 産業のGHG排出量の削減には、需要管理、エネルギーと材料の効率、循環型材料フロー、および削減技術と生産プロセスの変革的変化を含むすべての緩和オプションを促進するための、バリューチェーン全体にわたる調整された行動が必要です(確信度が高い)。運輸においては、持続可能なバイオ燃料、低排出水素、および派生物(アンモニアおよび合成燃料を含む)は、船舶、航空、および重量物の陸上輸送からのCO2排出の緩和をサポートできますが、生産プロセスの改善とコスト削減が必要です(確信度が中程度)。持続可能なバイオ燃料は、短期および中期的に、陸上輸送に追加の緩和効果をもたらすことができます(中程度の確信度)。低GHG排出量の電気を動力源とする電気自動車は、ライフサイクルベースで陸上輸送におけるGHG排出量を削減する大きな可能性を秘めています(確信度が高い)。バッテリー技術の進歩は、大型トラックの電化を促進し、従来の電気鉄道システムを補完する可能性があります(確信度が中程度)。バッテリー生産の環境フットプリントと重要な鉱物に関する懸念の高まりは、材料と供給の多様化戦略、エネルギーと材料の効率の改善、および循環型の材料の流れによって対処することができます(確信度が中程度)。{4.5.2、4.5.3}(図SPM.7

都市、集落、インフラ

C.3.4 大幅な排出削減を達成し、気候に強靱な開発を進めるためには、都市システムが不可欠です (確信度が高い)。都市における重要な適応と緩和の要素には次のものが含まれます:集落とインフラの設計と計画における気候変動の影響とリスクの考慮 (気候サービスなどによるもの) ;コンパクトな都市形態、仕事と住宅のコロケーションを実現するための土地利用計画;公共交通機関とアクティブモビリティ(徒歩や自転車など)のサポート;建物の効率的な設計、建設、改造、および使用;エネルギーと材料の消費の削減と変更;充足性[52];材料の代替;および低排出源と組み合わせた電化 (確信度が高い)。緩和、適応、人間の健康と幸福、生態系サービス、および低所得コミュニティの脆弱性の軽減に利益をもたらす都市への移行は、物理的、自然的、および社会的インフラへの統合的なアプローチを採用する包摂的な長期計画によって促進されます (確信度が高い)。グリーン/ナチュラルおよびブルーのインフラは、炭素の吸収と貯蔵をサポートし、単独で、またはグレーのインフラと組み合わせて、熱波、洪水、豪雨、干ばつなどの極端なイベントによるエネルギー使用とリスクを削減しながら、健康、幸福、生活のを生み出します(確信度が中程度)。{4.5.3}

C.3.5 多くの農業、林業、およびその他の土地利用(AFOLU)オプションは、ほとんどの地域で短期的に拡大できる適応および緩和の利点を提供します。森林やその他の生態系の保全、改善された管理、復元は、経済的な緩和の可能性を最大の割合で提供します。生態系の復元、再植林、植林は、土地に対する要求が競合するため、トレードオフにつながる可能性があります。トレードオフを最小限に抑えるには、食料安全保障を含む複数の目的を達成するための統合されたアプローチが必要です。需要側の対策(持続可能な健康的な食事への移行[53]および食品のロス/廃棄の削減)と持続可能な農業の強化は、生態系の変更やメタンと亜酸化窒素の排出を減らし、再植林と生態系の復元のために土地を解放することができます。持続的に調達された農林産物(長寿命の木材製品を含む)は、他の部門のGHG集約型製品の代わりに使用できます。効果的な適応オプションには、品種改良、混農林業、コミュニティベースの適応、農場と景観の多様化、および都市農業が含まれます。これらのAFOLU対応オプションには、生物物理学的、社会経済的、およびその他の可能にする要因の統合が必要です。高炭素生態系(泥炭地、湿地、放牧地、マングローブ、森林など)の保全などのいくつかの選択肢は、すぐに利益をもたらしますが、高炭素生態系の復元などの他の選択肢は、測定可能な結果を出すには数十年かかります。{4.5.4}(図SPM.7

C.3.6 生物多様性と生態系サービスの強靱性を地球規模で維持することは、現在、自然に近い生態系を含む、地球の陸地、淡水域、海洋域の約30%から50%を効果的かつ公平に保護することにかかっています(確信度が高い)。陸上、淡水、沿岸および海洋の生態系の保全、保護および復元は、気候変動の避けられない影響に適応するための的を絞った管理とともに、気候変動に対する生物多様性および生態系サービスの脆弱性を低減し(確信度が高い)、沿岸侵食および洪水を低減し(確信度が高い)、地球温暖化が抑えられれば、炭素の吸収と貯留が増加する可能性があります(確信度が中程度)。乱獲または枯渇した漁業を再建することで、気候変動による漁業への負の影響が軽減され(確信度が中程度)、食料安全保障、生物多様性、人間の健康と幸福が支えられます(確信度が高い)。土地の回復は、生態系サービスの強化による相乗効果により、気候変動の緩和と適応に貢献し、経済的にプラスの利益と、貧困の削減と生計の向上のためのをもたらします(確信度が高い)。先住民族および地域社会との協力および包摂的な意思決定、ならびに先住民族の固有の権利の認識は、森林およびその他の生態系全体にわたる適応および緩和の成功に不可欠です(確信度が高い)。{4.5.4、4.6}(図SPM.7

健康と栄養

C.3.7 人間の健康は、食料、インフラ、社会的保護、および水の政策を健康に組み込む、統合された緩和および適応オプションから恩恵を受けます(確信度が非常に高い)。人間の健康と幸福を保護するのに役立つ効果的な適応オプションが存在し、これには以下が含まれます:気候に敏感な病気に関連する公衆衛生プログラムの強化、健康システムの強靱性の向上、生態系の健康の改善、飲料水へのアクセスの改善、水と衛生システムの洪水への曝露の削減、サーベイランスと早期警報システムの改善、ワクチンの開発(確信度が非常に高い)、メンタルヘルスケアへのアクセスの改善、ならびに早期警報・対応システムを含む暑熱健康行動計画(確信度が高い)。食品のロスと廃棄を削減する、またはバランスのとれた持続可能な健康的な食事をサポートする適応戦略は、栄養、健康、生物多様性、およびその他の環境上の利益に貢献します(確信度が高い)。{4.5.5}(図SPM.7

社会、生活、経済

C.3.8 天候と健康保険、社会保障と適応型社会的セーフティネット、緊急金融と準備金、および効果的な緊急時対応計画と組み合わせた早期警報システムへの普遍的なアクセスを含む政策の組み合わせは、人間のシステムの脆弱性と暴露を減らすことができます。災害リスク管理、早期警報システム、気候サービス、およびリスクの分散と共有のアプローチは、部門全体に広く適用できます。能力構築、気候リテラシー、気候サービスやコミュニティアプローチを通じて提供される情報などの教育を増やすことで、リスク認識を高め、行動の変化と計画を加速することができます。(確信度が高い){4.5.6}

持続可能な開発との相乗効果とトレードオフ

C.4 気候変動の影響を緩和し、適応するための迅速かつ公平な行動は、持続可能な開発にとって重要です。緩和と適応の行動は、持続可能な開発目標とのトレードオフよりも相乗効果があります。相乗効果とトレードオフは、状況と実装の規模によって異なります。(確信度が高い){3.4、4.2、4.4、 4.5、4.6、4.9、図4.5}

C.4.1 より広い開発状況に組み込まれた緩和努力によって、排出削減のペース、深さ、および幅を増加させることが可能です(確信度が中程度)。経済発展のあらゆる段階にある国々は、人々の幸福を向上させようと努めており、その開発の優先事項は、さまざまな出発点と状況を反映しています。さまざまな状況には、社会的、経済的、環境的、文化的、政治的状況、資源の賦与、能力、国際環境、および以前の開発が含まれますが、これらに限定されません(確信度が高い)。とりわけ収益と雇用創出のために化石燃料に大きく依存している地域では、持続可能な開発のリスクを軽減するには、経済とエネルギー部門の多様化を促進する政策と、公正な移行の原則、プロセス、および慣行を考慮する必要があります(確信度が高い)。極度の貧困、エネルギー貧困を根絶し、持続可能な開発目標を達成するという文脈で低排出国/地域に適切な生活水準を提供することは、短期的には、世界的な大幅な排出量の増加なしに達成できます(確信度が高い)。{4.4、 4.6、付録I:用語集}

C.4.2 多くの緩和および適応行動は、持続可能な開発目標(SDGs)および持続可能な開発全般と複数の相乗効果をもたらしますが、一部の行動にはトレードオフが生じる可能性もあります。SDGsとの潜在的な相乗効果は、潜在的なトレードオフを上回ります。相乗効果とトレードオフは、変化のペースと大きさ、および気候正義を考慮した不平等を含む開発状況に依存します。トレードオフは、能力構築、資金調達、ガバナンス、技術移転、投資、開発、ジェンダーに関する状況、ならびに先住民族、地域コミュニティ、および脆弱な人々が意味のある形で参加するその他の社会的公平性の考慮を重視することによって、評価して最小限に抑えることができます。(確信度が高い){3.4.1、4.6、図4.5、4.9}

C.4.3 緩和と適応の両方の行動を一緒に実施し、トレードオフを考慮に入れることは、人間の健康と幸福のためのと相乗効果をサポートします。たとえば、クリーンエネルギー源と技術へのアクセスが改善され、特に女性と子供に健康上のメリットがもたらされます。電化と低GHGエネルギーの組み合わせ、およびアクティブモビリティと公共交通機関への移行は、空気の質、健康、雇用を向上させ、エネルギー安全保障を引き出し、公平性を実現することができます。(確信度が高い){4.2、4.5.3、4.5.5、4.6、4.9}

公平性と包摂性

C.5 公平性、気候正義、社会正義、包摂、および公正な移行プロセスを優先することで、適応と野心的な緩和行動、および気候に強靱な開発を実現できます。適応の成果は、気候災害に対する脆弱性が最も高い地域や人々への支援を増やすことで強化されます。気候適応を社会保障プログラムに統合することで、強靱性が向上します。 排出量の多い消費を削減するための多くのオプションが利用可能であり、これには行動やライフスタイルの変化によるものも含まれ、社会福祉のためのも含まれます。(確信度が高い){4.4、4.5}

C.5.1 時間の経過とともに国間の差異が変化し、公平な配分を評価する際の課題があるにもかかわらず、公平性は国連気候レジームの中心的な要素であり続けています。野心的な緩和経路は、経済構造に大規模な、時には破壊的な変化をもたらし、国内および国間の分配に重大な結果をもたらします。国内および国間の分配の結果には、高排出活動から低排出活動への移行中の所得と雇用の移動が含まれます。(確信度が高い){4.4}

C.5.2 公平性、社会正義、気候正義、権利に基づくアプローチ、および包摂性を優先する適応と緩和の行動は、より持続可能な結果につながり、トレードオフを減らし、変革的変化を支援し、気候変動に強靱な開発を促進します。あらゆる規模で、貧困層や脆弱層、社会的セーフティネット、公平性、包摂性、および公正な移行を保護する部門や地域にわたる再分配政策は、より深い社会的野心を実現し、持続可能な開発目標とのトレードオフを解決することができます。公平性に注意を払い、あらゆる規模の意思決定に関連するすべての関係者が幅広く意味のある形で参加することにより、変革的変化への支持を深め拡大する緩和の利益と負担の公平な分かち合いで築かれる社会的信頼を構築することができます。(確信度が高い){4.4}

C.5.3 かなりの開発制約がある地域と人々(33億から36億人)は、気候災害に対して高い脆弱性を持っています(A.2.2を参照)。公平性、包摂性、および権利に基づくアプローチに焦点を当てたアプローチを通じて、国内および地域間で最も脆弱な人々のための適応の成果が強化されます。例えば、性別、民族性、低所得、非公式居住地、障害、年齢、および特に多くの先住民族と地域社会に対する植民地主義などの過去および現在進行中の不平等のパターンなどに関連する不平等と社会的無視によって、脆弱性が深刻化しています。現金給付や公共事業プログラムを含む社会保障プログラムに気候適応を統合することは、特に基本的なサービスやインフラによって支えられている場合、非常に実現可能であり、気候変動に対する強靱性を高めます。都市部の福祉を最大限に向上させるには、資金へのアクセスを優先して、非公式居住地に住む人々を含む低所得者や社会的に無視されたコミュニティの気候リスクを軽減することで達成できます。(確信度が高い)。{4.4、4.5.3、4.5.5、4.5.6}

C.5.4 規制手段、経済手段、および消費ベースのアプローチの設計は、公平性を向上させることができます。社会経済的地位の高い個人は排出量に不釣り合いに寄与しており、排出量削減の可能性が最も高い。社会福祉を向上させながら排出量の多い消費を削減するには、多くの選択肢があります。政策、インフラ、およびテクノロジーによってサポートされる社会文化的オプション、行動およびライフスタイルの変化は、エンドユーザーが低排出集約型の消費に移行するのを支援し、複数のをもたらします。低排出国の人口のかなりの割合が、最新のエネルギーサービスへのアクセスを欠いています。技術開発、移転、能力構築と資金調達は、開発途上国/地域が低排出輸送システムに飛躍または移行するのを支援し、それによって複数のを提供することができます。公平で公正な結果に向けて、さまざまな利害、価値観、世界観を調整するために、関係者が公平で公正かつ包摂的な方法で取り組むとき、気候変動に強靱な開発が進められます。(確信度が高い){2.1、4.4}

ガバナンスとポリシー

C.6 効果的な気候変動対策は、政治的コミットメント、適切に調整されたマルチレベルガバナンス、制度的枠組み、法律、政策と戦略、および資金と技術へのアクセスの強化によって可能になります。明確な目標、複数の政策領域にわたる調整、包摂的なガバナンスプロセスにより、効果的な気候変動対策が促進されます。規制および経済手段は、規模を拡大して広く適用すれば、大幅な排出削減と気候強靱化をサポートできます。気候に強靱な開発は、多様な知識を活用することで恩恵を受けます。(確信度が高い){2.2、4.4、4.5、4.7}

C.6.1 効果的な気候ガバナンスは、緩和と適応を可能にします。効果的なガバナンスは、各国の状況と国際協力の文脈に基づいて、目標と優先順位を設定し、政策の分野や段階にわたって気候変動対策を主流化するための全体的な方向性を提供します。監視と評価、規制の確実性を高め、包摂的で透明性があり公平な意思決定を優先し、資金と技術へのアクセスを改善します(C.7を参照)。(確信度が高い){2.2.2、4.7}

C.6.2 効果的な地域、地方自治体、国家、準国家の機関は、さまざまな利害関係者の間で気候変動対策に関するコンセンサスを構築し、調整を可能にし、戦略設定に情報を提供しますが、適切な制度的能力を必要とします。政策支援は、企業、若者、女性、労働者、メディア、先住民族、地域社会など、市民社会の関係者の影響を受けます。有効性は、社会のさまざまなグループ間の政治的コミットメントとパートナーシップによって強化されます。(確信度が高い){2.2; 4.7}

C.6.3 緩和、適応、リスク管理、および気候変動に強靱な開発のための効果的なマルチレベルガバナンスは、計画と実施、適切なリソースの割り当て、制度的レビュー、および監視と評価における公平性と正義を優先する包摂的な決定プロセスによって可能になります。多くの場合、脆弱性と気候リスクは、性別、民族性、障害、年齢、場所、収入に基づくものなど、状況に応じた不平等に対処するために慎重に設計および実施された法律、政策、参加型プロセス、および介入によって軽減されます。(確信度が高い){4.4、4.7}

C.6.4 規制および経済手段は、規模を拡大してより広く適用すれば、大幅な排出削減をサポートする可能性があります(確信度が高い)。規制手段の使用を拡大し、強化することで、部門別の適用における緩和の成果を向上させることができ、これは各国の状況と一致しています(確信度が高い)。実施された所では、カーボンプライシング手段は低コストの排出削減対策を奨励したが、それ自体では、評価期間中の実勢価格では、さらなる削減に必要な高コストの対策を促進する効果は低かった(確信度が中程度)。炭素税や排出権取引などの炭素価格設定手段の公平性と分配への影響は、収益を使用して低所得世帯を支援するなどのアプローチによって対処できます。化石燃料補助金を撤廃すると、排出量が削減され[54]、公共歳入、マクロ経済、持続可能性のパフォーマンスの改善などの利益が得られます。補助金の撤廃は、特に最も経済的に脆弱なグループに対して、分配に悪影響を与える可能性があり、場合によっては、節約された歳入の再分配などの措置によって緩和することができますが、そのすべては国の状況に依存します(確信度が高い)。公共支出のコミットメント、価格設定改革などの経済全体の政策パッケージは、排出量を削減し、開発経路を持続可能性に向けてシフトしながら、短期的な経済目標を達成することができます(確信度が中程度)。効果的な政策パッケージは、総合的で一貫性があり、目的全体にわたってバランスが取れており、各国の状況に合わせて調整されたものになります(確信度が高い)。{2.2.2、4.7}

C.6.5 多様な知識と文化的価値を活用することで、意味のある形の参加と包摂的関与プロセス(先住民の知識、地域の知識、および科学的知識を含む)は、気候に強靱な開発を促進し、能力を構築し、地域に適切で社会的に受け入れられる解決策を可能にします。(高い信頼度){4.4、4.5.6、4.7}

金融、技術、および国際協力

C.7 資金、技術、および国際協力は、気候変動対策の加速を可能にする重要な要素です。気候目標を達成するには、適応と緩和の両方の資金を何倍にも増やす必要があります。世界の投資ギャップを埋めるのに十分なグローバル資本がありますが、資本を気候変動対策に振り向けるには障壁があります。技術革新システムを強化することは、技術と実践の広範な採用を加速するための鍵です。国際協力の強化は、複数のチャネルを通じて可能です。(確信度が高い){2.3、4.8}

C.7.1 資金の利用可能性とアクセスの改善[55]は、気候変動対策の加速を可能にします(確信度が非常に高い)。ニーズとギャップに対処し、国内外の資金への公平なアクセスを拡大することは、他の支援行動と組み合わせると、適応と緩和を加速し、気候に強靱な開発を可能にするための触媒として機能することができます(確信度が高い)。気候目標を達成し、増大するリスクに対処し、排出削減への投資を加速するためには、適応と緩和の両方の資金を何倍にも増やす必要があるでしょう(確信度が高い)。{4.8.1}

C.7.2 資金へのアクセスの増加は、特に開発途上国、脆弱なグループ、地域、および部門にとって、能力を構築し、適応に対する当面の限界に対処し、リスクの上昇を回避することができます(確信度が高い)。公的資金は、適応と緩和を可能にする重要な要素であり、民間資金も活用できます(確信度が高い)。温暖化を2℃または1.5℃に抑えるシナリオでの2020年から2030年までに必要なモデル化された年間平均緩和投資額は、現在のレベルよりも3倍から6倍大きく [56]、緩和投資の合計(公共、民間、国内および国際)は、すべての部門と地域で増加する必要があります(確信度が中程度)。大規模な世界全体の緩和努力が実施されたとしても、適応のための財政的、技術的、および人的資源が必要になります(確信度が高い)。{4.3、4.8.1}

C.7.3 グローバルな金融システムの規模を考えると、グローバルな投資ギャップを埋めるのに十分なグローバルな資本と流動性がありますが、グローバルな金融部門の内外で、また経済の脆弱性と発展途上国が直面する債務の状況において、資本を気候変動対策に振り向けるには障壁があります。資金の流れを拡大するための資金調達の障壁を減らすには、政府による明確なシグナルと支援が必要です。これには、実際の規制、コスト、市場の障壁とリスクを軽減し、投資のリスクとリターンのプロファイルを改善するために、公的財政のより強力な調整が含まれます。同時に、国の状況に応じて、投資家、金融仲介機関、中央銀行、金融規制当局などの金融関係者は、気候関連リスクの体系的な過小評価を変更し、利用可能な資本と投資ニーズの間の部門別および地域別のミスマッチを減らすことができます。(確信度が高い){4.8.1}

C.7.4 追跡された資金フローは、すべての部門と地域にわたって、適応と緩和目標の達成に必要なレベルに達していません。これらのギャップは多くの機会を生み出し、ギャップを埋める課題は発展途上国で最大です。先進国やその他の資金源から発展途上国への財政支援を加速することは、適応と緩和の行動を強化し、資金へのアクセスにおける不公平性に対処するための重要な実現要因です。これには、そのコスト、条件、および気候変動に対する発展途上国の経済的脆弱性が含まれます。脆弱な地域、特にサハラ以南のアフリカの緩和と適応のための資金調達のための公的補助金の規模拡大は、費用対効果が高く、基本的エネルギーへのアクセスの点で高い社会的利益をもたらします。発展途上国における緩和を拡大するためのオプションには、以下が含まれます:年間1,000億米ドルという目標に照らして、先進国から開発途上国への公的資金と公的に動員された民間資金の流れのレベルの向上;リスクを軽減し、低コストで民間フローを活用するための公的保証の利用の増加;地元の資本市場の発展;および国際協力プロセスへのより大きな信頼を築くこと。パンデミック後の回復を長期的に持続可能なものにするための協調的な取り組みにより、開発途上地域や、高い債務コスト、債務不振、マクロ経済の不確実性に直面している国を含め、気候変動対策を加速することができます。(確信度が高い){4.8.1}

C.7.5 技術革新システムを強化することで、排出量の増加を抑え、社会的および環境的なを創出し、その他のSDGsを達成する機会を提供できます。各国の状況と技術特性に合わせた政策パッケージは、低排出イノベーションと技術普及の支援に効果的でした。公共政策は、インセンティブと市場機会を生み出す規制と市場ベースの手段の両方によって補完され、トレーニングと研究開発をサポートすることができます。技術革新には、環境への新たな影響やより大きな影響、社会的不平等、外国の知識や提供者への過度の依存、分配への影響、およびリバウンド効果などのトレードオフがあり[57]、可能性を高め、トレードオフを減らすために適切なガバナンスとポリシーを必要とします。ほとんどの開発途上国、特に後発開発途上国では、低排出技術の革新と採用が遅れています。これは、限られた資金、技術の開発と移転、能力開発などの実現条件が弱いことが一因です。(確信度が高い){4.8.3}

C.7.6 国際協力は、野心的な気候変動の緩和、適応、および気候に強靱な開発を達成するための重要な実現要因です(確信度が高い)。気候に強靱な開発は、特に開発途上国、脆弱な地域、部門およびグループのための資金へのアクセスの動員および強化、ならびに気候変動対策のための資金フローを野心レベルおよび資金ニーズと一致させることを含む国際協力の増加によって可能になります(確信度が高い)。資金、技術、能力構築に関する国際協力を強化することは、より大きな野心を可能にし、緩和と適応を加速し、開発経路を持続可能性に向けてシフトするための触媒として機能することができます(確信度が高い)。これには、NDCへのサポートと、技術開発と展開の加速が含まれます(確信度が高い)。国境を越えたパートナーシップは、政策の策定、技術の普及、適応、および緩和を促進することができますが、そのコスト、実現可能性、および有効性については不確実性が残っています(確信度が中程度)。国際的な環境のおよび部門別の協定、機関、ならびにイニシアチブは、GHG排出量の少ない投資を促進し、排出量を削減するのに役立っており、いくつかのケースでは役立つ可能性があります(確信度が中程度)。{2.2.2、4.8.2}

このページのトップへ


[1] AR6への3つの作業部会の貢献は次のとおりです。AR6気候変動2021:自然科学的根拠;AR6気候変動2022:影響、適応、脆弱性; AR6気候変動2022:気候変動の緩和。これらの評価は、それぞれ2021年1月31日、2021年9月1日、2021年10月11日までに出版が承認された科学文献を対象としています。

[2] 3つの特別報告書は次のとおりです。1.5℃の地球温暖化(2018年):気候変動の脅威、持続可能な開発、および貧困撲滅への取り組みに対する世界的な対応を強化する文脈において、産業革命以前のレベルよりも1.5℃高い地球温暖化の影響と、関連する世界の温室効果ガス排出経路に関するIPCC特別報告書(SR1.5);気候変動と土地(2019):地球生態系における気候変動、砂漠化、土地劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障、および温室効果ガスフラックスに関するIPCC特別報告書(SRCCL);変化する気候における海洋と雪氷圏(2019)(SROCC)。特別報告書は、それぞれ2018年5月15日、2019年4月7日、2019年5月15日までに出版が承認された科学文献を対象としています。

[3] この報告書では、2040年までを短期、2040年以降を長期と定義しています。

[4] 各調査結果は、基礎となる証拠と合意の評価に基づいています。IPCCで調整された言語では、5つの修飾子を使用して信頼度を表現しています。非常に低い、低い、中程度、高い、非常に高いです。また、中程度の信頼度のようにイタリック体で記載されています(訳注:この日本語訳では、イタリック体での記載は行っていません)。次の用語は、結果または結果の評価された可能性を示すために使用されます:ほぼ確実99〜100%、非常に可能性が高い90〜100%、可能性が高い66〜100%、どちらかと言えば>50〜100%、どちらも同程度33〜66%、可能性が低い0〜33%、可能性が非常に低い0〜10%、ほぼあり得ない0〜1%。必要に応じて、追加の用語(可能性が極めて高い95〜100%、どちらかと言えば>50〜100%、可能性が極めて低い0〜5%)も使用されます。評価された可能性はイタリック体で記載されています。たとえば、非常に可能性が高いです。これは、AR5およびその他のAR6報告書と一致しています。

[5] SPM全体で示されている範囲は、特に明記されていない限り、非常に可能性の高い範囲(5〜95%の範囲)を表しています。

[6] AR5以降の推定世界平均気温の上昇は、主に2003〜2012年以降のさらなる温暖化によるものです(+0.19℃[0.16℃〜0.22℃])。さらに、方法論の進歩と新しいデータセットにより、北極を含む気温の変化をより完全に空間的に表現できるようになりました。これらおよびその他の改善により、世界平均気温の推定値も約0.1℃上昇しましたが、この上昇はAR5以降の追加の物理的温暖化を表すものではありません。

[7] A.1.1との期間の区別が生じるのは、帰属研究がこのわずかに早い時期を考慮しているためです。2010年から2019年にかけて観測された温暖化は1.06℃[0.88℃〜1.21℃]です。

[8]  放射強制研究から評価された1850〜1900年と比較した2010〜2019年の温暖化への排出量の寄与は次のとおりです。メタン0.5[0.3〜0.8]℃;亜酸化窒素0.1[0.0〜0.2]℃およびフッ素ガス0.1[0.0〜0.2]℃。{2.1.1}

[9] GHG排出量測定基準は、異なる温室効果ガスの排出量を共通の単位で表すために使用されます。この報告書で集計されたGHG排出量は、AR6に対する作業部会Iの貢献に基づく値で、100年の時間範囲(GWP100)の地球温暖化係数を使用して、CO2換算(CO2-eq)で示されています。AR6WGIおよびWGIII報告書には、最新の排出指標値、緩和目標に関するさまざまな指標の評価、およびガスを集計するための新しいアプローチの評価が含まれています。指標の選択は分析の目的に依存し、すべてのGHG排出指標には限界と不確実性があります。これは、それらが物理的な気候システムの複雑さと過去および将来のGHG排出に対するその反応を単純化するためです。{2.1.1}

[10] HG排出レベルは、有効数字2桁に丸められています。その結果、丸めによって合計にわずかな違いが生じる場合があります。{2.1.1}

[11] 領土からの排出。

[12] 深刻な食料不安は、原因、状況、または期間に関係なく、食料安全保障と栄養の決定要因を危険にさらすショックの結果として、人命、生計、またはその両方を脅かす深刻さでいつでも発生する可能性があり、人道的行動の必要性を評価するために使用されます。{2.1}。

[13] この報告書では、「損失と損害<losses and damages>」という用語は、観察された悪影響および/または予測されるリスクを指し、経済的および/または非経済的である可能性があります。(付録I:用語集を参照)

[14] ゆっくりと発生するは、WGIAR6の気候影響要因の中で説明されており、例えば、気温の上昇、砂漠化、降水量の減少、生物多様性の損失、土地と森林の劣化、氷河の後退と関連する影響、海洋酸性化、海面上昇および塩類化に関連するリスクと影響を指します。{2.1.2}

[15] ここでの有効性とは、気候関連のリスクを軽減するために適応オプションが予想または観察される程度を指します。{2.2.3}

[16] 付録I:用語集{2.2.3}を参照。

[17] 生態系に基づく適応 (EbA) は、生物多様性条約 (CBD14/5) の下で国際的に認められています。関連する概念は、Nature-based Solutions (NbS) です。付録 I: 用語集を参照してください。

[18] 気候変動への漸進的な適応は、極端な気象/気候事象における自然変動の損失をすでに減らしたり、利益を高めたりする行動や行動の延長として理解されています。{2.3.2}

[19]  この文献では、経路とシナリオという用語は同じ意味で使用されており、前者は気候目標に関連してより頻繁に使用されています。WGIは主にシナリオという用語を使用し、WGIIIはモデル化された排出および緩和経路という用語を主に使用しています。SYRは主に、WGIに言及する際にシナリオを使用し、WGIIIに言及する際にモデル化された排出および緩和経路を使用します。

[20] モデル化された全世界の排出経路の約半分は、世界的に最小コストの緩和/削減オプションに依存する費用対効果の高いアプローチを想定しています。残りの半分は、既存の政策と、地域的および部門的に差別化された行動に注目しています。

[21]  SSPベースのシナリオはSSPx-yと呼ばれ、「SSPx」はシナリオの根底にある社会経済的傾向を説明する共有社会経済経路を指し、「y」は2100年におけるシナリオの結果となる放射強制力のレベルを指します(ワット/平方メートル、またはWm-2)。{Cross-SectionBox.2}

[22] 非常に高い排出シナリオの可能性は低くなりましたが、除外することはできません。4℃を超える温暖化レベルは、排出量が非常に多いシナリオに起因する可能性がありますが、気候感度または炭素循環のフィードバックが最良の推定値よりも高い場合、排出量が少ないシナリオに起因する可能性もあります。 {3.1.1}

[23] RCP ベースのシナリオはRCPyと呼ばれ、「y」は2100年のシナリオから生じる放射強制力のレベル (1平方メートルあたりのワット数、またはWm-2) を指します。SSPシナリオは、RCPよりも、将来の温室効果ガスと大気汚染物質のより広い範囲をカバーします。それらは類似していますが、同一ではなく、濃度の軌跡が異なります。全体的な実効放射強制力は、同じラベルのRCPと比較してSSPの方が高くなる傾向があります(確信度は中程度)。{クロスセクションボックス2}

[24]  少なくとも1.8GtCO2換算/年は、経済および規制手段の影響に関する個別の推定値を集計することで説明できます。ますます多くの法律や行政命令が世界の排出量に影響を与えており、2016年の排出量は、そうでない場合よりも5.9GtCO2換算/年 少なくなると推定されています。(確信度が中程度){2.2.2}

[25] 削減は、エネルギー供給の脱炭素化、エネルギー効率の向上、およびエネルギー需要の削減に関連しており、政策と経済構造の変化の両方に起因する(確信度が高い)。{2.2.2}

[26] WGIIIの文献締め切り日のため、2021年10月11日以降に提出された追加のNDCは、ここでは評価されません。{長い報告書の脚注32}

[27]  予測される2030年のGHG排出量は、すべての条件付きNDC要素が考慮される場合、50(47〜55)GtCO2換算です。条件付き要素がない場合、世界の排出量は53(50〜57)GtCO2換算でモデル化された2019年のレベルとほぼ同じになると予測されます。{2.3.1,表2.2}

[28] 地球温暖化(付録I:用語集を参照)は、ここでは、特に明記しない限り、1850〜1900年と比較して、連続した20年間の平均値として報告されています。どの1年でも、世界平均気温は、自然変動により、長期的な人為的な傾向を上回ったり下回ったりする可能性があります。1年間の世界平均気温の内部変動は、約±0.25℃(5〜95%の範囲、確信度は高い) と推定されます。特定のレベルを超える世界平均気温の変化を伴う個々の年の発生は、この地球温暖化レベルに達したことを意味するものではありません。 {4.3、クロスセクションボックス2}

[29] WGIIIで検討されているモデル化された経路のカテゴリーで1.5℃の地球温暖化レベルに達する(50%の確率)5年間隔の中央値は2030-2035年です。WGIで評価された5つのシナリオ全体で、40%から60%の確率で、2030年までのいずれかの年の世界平均気温が1850〜1900年と比較して1.5℃を超える可能性があります(確信度が中程度)。非常に高い排出シナリオ(SSP5-8.5)を除くWGIで検討されたすべてのシナリオでは、評価された世界平均気温の平均変化が1.5℃に達する最初の20年間の移動平均期間の中間点は、2030年代の前半にあります。非常に高いGHG排出シナリオでは、中間点は2020年代後半です。{3.1.1,3.3.1,4.3}(ボックスSPM.1)

[30] さまざまなシナリオの最良の推定値[および非常に可能性の高い範囲]は次のとおりです。1.8℃[1.3℃〜2.4℃](SSP1-2.6);2.7℃[2.1℃〜3.5℃](SSP2-4.5));3.6℃[2.8℃〜4.6℃](SSP3-7.0);および4.4℃[3.3℃〜5.7℃](SSP5-8.5)。{3.1.1}(ボックスSPM.1)

[31] マルチモデル予測に、初めて、観測の制約、評価された平衡気候感度、過渡的気候応答を組み合わせることにより、世界平均気温の将来の変化の評価が構築されました。不確実性の範囲は、気候プロセスに関する知識の向上、古気候の証拠、およびモデルベースの制約のおかげで、AR5よりも狭くなっています。 {3.1.1}

[32] 付録I:用語集を参照。自然変動には、自然要因と内部変動が含まれます。主な内部変動現象には、エルニーニョ-南方振動、太平洋十年変動、および大西洋の数十年変動が含まれます。{4.3}

[33] 追加のシナリオに基づく。

[34] 永久凍土、季節的な積雪、氷河、グリーンランドと南極の氷床、北極海の氷。

[35] 2500年の再構成に基づくと、この報告書で評価された文献の火山成層圏エアロゾルの放射効果に関連して、-1W/m2よりも負の放射強制力を持つ噴火は、1世紀に平均2回発生します。{4.3}

[36] 評価されたすべての地域で。

[37] 検出不可能なリスクレベルは、関連する影響が検出できず、気候変動に起因するものではないことを示します。中程度のリスクは、関連する影響が検出可能であり、少なくとも中程度の信頼度で気候変動に起因することを示し、主要なリスクの他の特定の基準も説明しています。高リスクは、主要なリスクを評価するための1つまたは複数の基準で高いと判断された大幅で広範な影響を示します。非常に高いリスクレベルは、大幅な影響のリスクが非常に高く、重大な不可逆性が存在するか、気候関連のハザードが持続することと、ハザードまたは影響/リスクの性質による適応能力の制限が組み合わさっていることを示します。{3.1.2}

[38] 懸念の理由(RFC)フレームワークは、5つの広範なカテゴリーのリスクの発生に関する科学的理解を伝えています。RFC1:ユニークで脅威にさらされているシステム:気候関連の条件によって制限された地理的範囲を制限し、高度な固有性またはその他の特徴的な特性を持つ、生態系および人間のシステム。RFC2:異常気象:異常気象による人間の健康、生活、資産、生態系へのリスク/影響。RFC3:影響の分布:物理的な気候変動の危険、暴露、または脆弱性の不均一な分布により、特定のグループに不均衡に影響を与えるリスク/影響。RFC4:グローバル集計影響:単一のメトリックにグローバルに集計できる社会生態系への影響。RFC5:大規模な特異イベント:比較的大規模で、地球温暖化によって引き起こされるシステムの突然の、時には不可逆的な変化。付録I:用語集も参照してください。{3.1.2、クロスセクションボックス2}

[39] 100年間の地球温暖化係数によって定義されるGHG排出量の正味ゼロ。脚注[9]を参照してください。

[40] 地球規模のデータベースは、陸上で発生するどの排出と吸収が人為起源と見なされるかについて、さまざまな選択を行っています。ほとんどの国は、国のGHG目録で「管理された」土地での人為的な環境変化(例えば、CO2施肥)によるフラックスを含む、人為起源の土地CO2フラックスを報告しています。これらの目録に基づく排出量の見積もりを使用して、残りの炭素収支をそれに応じて削減する必要があります。{3.3.1}

[41] 例えば、中央のケースの500GtCO2と比較して、残余カーボンバジェットは、1.5℃(50%)で、CO2以外の排出量が多い場合と少ない場合で、それぞれ300または600GtCO2になる可能性があります。{3.3.1}

[42] ここでの削減とは、化石燃料インフラから大気中に放出される温室効果ガスの量を削減する人間の介入を指します。

[43] 同上。

[44] WGIは、50%、67%、または83%などのさまざまな可能性で、地球温暖化を気温限界に抑えることに沿ったカーボンバジェットを提供しています。{3.3.1}

[45] 総カーボンバジェットの不確実性は評価されておらず、計算された特定の割合に影響を与える可能性があります。

[46] 同上。

[47] CCSは、地中貯留が利用可能な場合、大規模な化石ベースのエネルギーおよび産業源からの排出を削減するためのオプションです。CO2が大気から直接回収される場合(DACCS)、またはバイオマスから回収される場合(BECCS)、CCSはこれらのCDR方法の貯蔵コンポーネントを提供します。CO2の回収と地下への圧入は、ガス処理と強化された石油回収のための成熟した技術です。石油とガスの部門とは対照的に、CCSは重要な緩和オプションである電力部門やセメントや化学製品の生産では成熟度が低い。技術的な地中貯留容量は1000GtCO2のオーダーであると推定されています。これは、地球温暖化を1.5℃に抑えるための2100年までのCO2貯留要件を超えていますが、地中貯留の地域的な利用可能性が制限要因になる可能性があります。地中貯留サイトを適切に選択して管理すれば、CO2を大気から永久に隔離できると推定されます。現在、CCSの実施は、技術的、経済的、制度的、生態学的、環境的、社会文化的な障壁に直面しています。現在、CCSの世界展開率は、地球温暖化を1.5℃から2℃に抑えるモデル化された経路よりもはるかに低いです。政策手段、公的支援の拡大、技術革新などの条件を可能にすることで、これらの障壁を減らすことができます。(確信度が高い){3.3.3}

[48] 生態系、生物多様性、および人々に対するCDR展開の影響、リスク、およびは、方法、サイト固有の状況、実施および規模に応じて大きく変動するでしょう(確信度が高い)。

[49] メキシコの南部は、WGIでは気候的な小地域である中南米(SCA)に含まれています。メキシコは、WGIIでは北米の一部として評価されています。SCA地域の気候変動に関する文献にはメキシコが含まれることがあり、その場合、WGIIの評価ではラテンアメリカが参照されます。メキシコは、WGIIIではラテンアメリカおよびカリブ海諸国の一部と見なされています。

*49まで
[50] 温暖化を1.5℃に抑えるための同様の確固たる結論を出すには、証拠があまりにも限られています。地球温暖化を2℃ではなく1.5℃に抑えると、緩和のコストは増加しますが、影響と関連するリスクの低減、および適応の必要性の減少という点で利益も増加します(確信度が高い)。

[51] この文脈において、「削減されていない化石燃料」とは、ライフサイクルを通じて排出されるGHGの量を大幅に削減する(たとえば、発電所から90%以上のCO2を回収したり、エネルギー供給からの漏出メタン排出量の50〜80%を回収したりする)介入なしに生産および使用される化石燃料を指す。

[52] エネルギー、材料、土地、水の需要を回避しながら、惑星の境界内にいるすべての人に人間の幸福を提供する一連の対策と日常の慣行{4.5.3}。

[53] 「持続可能な健康的な食事」は、個人の健康と幸福のあらゆる側面(FAOとWHOで説明されているように、環境への圧力と影響が少ない;アクセス可能で、手頃な価格で、安全かつ公平である;文化的に受け入れられる)を促進します。関連する「バランスの取れた食事」の概念は、SRCCLに記載されているように、粗粒、マメ科植物、果物と野菜、ナッツと種子、および強靱で持続可能な低GHG排出システムで生産された動物性食品に基づくものなど、植物性食品を特徴とする食事を指します。

[54] さまざまな研究によると、化石燃料補助金の撤廃は、2030年までに世界のCO2排出量を1〜4%削減し、GHG排出量を最大10%削減すると予測されており、地域によって異なります(確信度が中程度)。

[55] 資金源は、公的または私的、地方、国内または国際、二国間または多国間、および代替のソースなど、さまざまなソースから生じています。助成金、技術支援、融資(譲許的および非譲許的)、債券、株式、リスク保険、および財政保証(さまざまな種類)の形をとることができます。

[56] これらの見積もりは、シナリオの仮定に依存しています。

このページのトップへ



(訳注1)IPCC第6次評価報告書について

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は1988年に世界気象機関(WMO、国連の専門機関)と国連環境計画(UNEP)によって設立された政府間組織で、 気候変動に関する文献を評価して数年ごとに評価報告書を発表しています。IPCCは1990年に第1次評価報告書を発表し、2023年3月20日に第6次評価報告書の統合報告書を発表しました。

IPCCには第I、II、IIIの3つの作業部会があり、それぞれ報告書を発表しています。第6次評価報告書については、2021年8月に第I作業部会報告書(自然科学的根拠)、2022年2月に第II作業部会報告書(影響、適応、脆弱性)、2022年4月に第III作業部会報告書(気候変動の緩和) が発表されています。 それぞれの作業部会報告書は、政策決定者向け要約、技術要約、本文からなり、合計で2〜3千頁(頁数はすべて英文の頁数)にもなる報告書です。なお、「適応」は堤防を高くするなどの防災対策のことで、「緩和」はCO2などの排出削減のことです。
on_co2_7_/6s_y1f1.jpg
今回発表された統合報告書は、これらの3つの作業部会報告書と、IPCCが第5次報告書後に発表した3つの特別報告書( 1.5℃の地球温暖化(2018年)気候変動と土地(2019年)変化する気候における海洋と雪氷圏(2019年))を統合したもので、政策決定者向け要約より長い報告書からなります。

今回日本語訳した政策決定者向け要約(36頁)は、第6次評価報告書(総計7856頁)の0.5%に過ぎません。では、この0.5%の政策決定者向け要約が、第6次評価報告書の全体を正しく要約しているかというと、そうでもないようです。「地球温暖化で人類は絶滅しない」の著者のシュレンバーガー氏は次のように述べています。

なぜ多くの人々が気候変動によって人類が脅かされていると信じるようになったのか。
IPCCが依拠している科学は全般的には健全だが、政策決定者向け要約や広報記事、執筆者の声明にイデオロギー的な動機や誇張の傾向、重要な文脈の欠落などがあるからだ。

このページのトップへ

(訳注2)IPCCと国連気候変動枠組条約

IPCCは1990年の第1次評価報告書で、実質的に「人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と述べています(図@)。そのわずか2年後の1992年に国連気候変動枠組条約が締結され、その前文には実質的に「この条約の締約国は、人為的地球温暖化を憂慮する」と記載されたのです(図A)。 IPCCは2021年の第6次評価報告書の第I作業部会報告書(訳注1参照)で、実質的に「人為的地球温暖化は疑いの余地がない」と述べています(図B)。
on_co2_7_/50_f3.jpg
そして、IPCCは上記の第I作業部会報告書の記述に基づいて、ここで翻訳した統合報告書の政策決定者向け要約において、「A.1 人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく」、つまり実質的に「人為的地球温暖化は疑いの余地がない」と述べているのです。

では、このIPCCの主張は信用できるのでしょうか。上記のように、IPCCは「人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と主張し、国連気候変動枠組条約をつくらせました。国連気候変動枠組条約に「人為的地球温暖化」を記載させたIPCCには、これを正当化する以外の選択肢はないでのです。

IPCCとは全く関係のない科学者たちが第三者委員会のようなものをつくって、そこで客観的に検討した結果、「人為的地球温暖化は疑う余地がない」という結論を出したのであれば、それは信用するに値するかもしれません。

しかし、国連気候変動枠組条約をつくらせたIPCCが主張する「人為的地球温暖化は疑う余地がない」が、信用に値しないことは言うまでもありません。(詳細は「人為的地球温暖化は“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”」参照)

このページのトップへ

(訳注3)IPCCは人為的気候変動の悪影響は強まると言うけれど、気候関連死者数は激減

A.2.2〜A.2.7には、人為的な気候変動により悪影響が引き起こされていることが記載され、図SPM.1(a)には、それが図示されています。

ところが、下記の「CO2濃度増加と気候関連死者数激減の図」を見ると、気候関連の死者数(青線)が1920年代から最近に至るまで激減していることがわかります。 これは経済が発展し防災対策(IPCCの言う「適応」)が整備されてきたために、気候関連死者数が激減したのです。3色の線が示すようにCO2濃度は上昇しているのでIPCCが主張するように地球温暖化による死者数が多少は増えたかもしれませんが、適応による死者数の激減の方が圧倒し、全体として死者数は激減したのです。 (詳しくは「CO2濃度は増加、気候関連死者数は激減」参照)。
on_co2_7_/51_f1.jpg
この気候関連死者数が激減する図を信じられない人も多いかもしれません。それは、IPCCの影響を受けたマスコミが気候災害を大きく報じるからです。今も台風が来れば亡くなる人がいます。しかし、次の台風最悪被害ランキングに示すように、防災対策が不十分だった昔はもの凄くたくさんの人が亡くなっていたのです。防災対策が整ってきた現在は、昔に比べれば、気候災害で亡くなる人は激減しているのです。
on_co2_7_/6s_y3f1.jpg
また、誰もがスマホを持ち、突発的な災害を動画や写真に収め、それがネットやマスコミを通じて多くの人が見ることで、気候災害が激甚化していると思い込むこともあります。たとえば、2021年7月の熱海の土石流災害は衝撃的でした。それは土石流をスマホで撮影した人がいて、その映像を多くの人がテレビやネットで見たからです。 実際には災害を体験していないのに、リアルな映像を見てあたかも自分がその災害を経験したように思ってしまうのです。昔なら土石流を目撃した人の話を新聞で読んでその災害を知ることになります。これでは自分が災害を経験したようには思いません。最近、多くの災害を経験しているように思うのは、「百聞は一見にしかず」効果ではないでしょうか。なお、熱海の土石流災害は盛り土をした人による人為的災害ですが、「人為的CO2増加→人為的地球温暖化→人為的災害」ではありません。

このページのトップへ

(訳注4)2020年に生まれた赤ちゃんが70歳になると灼熱地獄?

次の図は図SPM.1(c)です(「SPM」は「Summary for Policymakers(政策決定者向け要約)」の略語)。上半分はIPCCが「気候ストライプ」と呼ぶ世界平均気温を色で表わしたものです。横方向が年で、色(世界平均気温)は1850〜1900年の平均値を基準(0℃:白色)として、世界平均気温が上昇すると赤色成分が多くなり、4℃程度の気温上昇でどす黒い赤色になります。2020年以前は過去の観測値、2020年以降は将来の予測値です。予測値は、温室効果ガス排出量が「非常に低い」から「非常に高い」までの5つの排出シナリオに対応する5本の気候ストライブが示されています。
on_co2_7_/6s_y4f1.jpg
下半分は、世代別の人のアイコンで、色は「非常に高い」排出シナリオの色で着色されているようです。1950年生まれの人は、予想される将来の温暖化は経験しなくてよさそうです。一方、2020年に生まれた赤ちゃんは70歳になると灼熱地獄で焼き尽くされるような印象を与える図です。どす黒い赤色から判断すると、1850〜1900年を基準として約4℃の世界平均気温の上昇です。現在既に約1℃上昇しているので、現在からは約3℃の気温上昇になります。

次の図に札幌(北海道)と那覇(沖縄県)の年平均気温を示します。北海道の人が沖縄県に引っ越したら、年平均気温は14.1℃も上昇します。これは上記の2020年生まれた赤ちゃんが70歳になったときの約3℃の4倍以上の平均気温の上昇です。
on_co2_7_/6s_y4f2.jpg
北海道から沖縄県に引っ越して、年平均気温が14.1℃も上昇しても、死んだり病気になったりすることはありません。なぜなら、沖縄の気候に合った服を着て、沖縄の気候に合った家に住むからです。普通の人は14.1℃の平均気温の上昇に難なく適応してしまうのです。人は年平均気温の非常に大きな変化に非常によく適応できるのです。
しかし、もし北海道から沖縄県に引っ越した人が、北海道の気候に合った服を着続け、北海道の気候に合った家を建てて住み、北海道と同じように暖房すれば、死んだり病気になったりするでしょう。IPCCが想定しているのは、こういう適応が全くできない変人なのです。IPCCが想定する人は、現実には存在しないのです。

以上のように、普通の人であれば、14.1℃もの平均気温の上昇に難なく適応できるのですから、「非常に高い」排出シナリオで予想される現在から約3℃の世界平均気温の上昇が現実に起こったとしても、誰でも簡単に適応できてしまうのです。2020年に生まれた赤ちゃんが70歳になると灼熱地獄で焼き尽くされるかのような印象を与える非科学的な図SPM.1(c)は、気候変動に関する評価報告書に掲載する図としては、あまりにも不適切です。

このページのトップへ

(訳注5)気候モデルは、地表を8.5W/m2で加熱すれば、温暖化が4℃を超えると予測する

次の表はボックスSPM.1 表1です。「ボックス」とは新聞などのコラムのような囲み記事です。この表はボックスSPM.1「AR6(第6次評価報告書)統合報告書におけるシナリオとモデル化された経路の使用」の表1「AR6の作業部会報告書(WGI〜WGIII)において考慮されたシナリオとモデル化された経路の説明と関係」です。
on_co2_7_/6s_t1.jpg
将来の温暖化の予測は、気候モデルと呼ばれるソフトをスーパーコンピュータ(スパコン)で処理することで行われます。「シナリオ」とは将来の温室効果ガス(GHG:greenhouse gas)の排出量のシナリオで、これを入力することにより、気候モデル(温室効果ガスが増えれば気温が上昇するように設定されている)が将来の温暖化を出力するのです。

表の右端の列の「RCP」は前回の第5次評価報告書で使われていたシナリオの名前で、例えば、下端の「RCP8.5」は「人為的温室効果ガスが2100年に地表を8.5W/m2(1平方メートル当り8.5W(ワット))で加熱する」シナリオで、これは温室効果ガス排出量が「非常に高い」シナリオです。

ところが、第6次評価報告書の第I作業部会(自然科学的根拠)と第II作業部会(影響、適応、脆弱性)では、「RCP8.5」を、表の左から3列目の「SSP5-8.5」に名前を書き換えました(最後に付加された「8.5」でRCP8.5に対応することがわかります)。(SSPの詳細は『解説:「共通社会経済経路(SSP)」で未来の気候変動を探る』参照)。

一方、表の左端の列は第III作業部会(気候変動の緩和)が使用するカテゴリーであり、「RCP8.5」に対応するのは、地球温暖化レベルC8「温暖化が4℃(>50%)を超える」(「>50%」は50%を超える確率で4℃を超える)です。

結局、この表からわかることは、例えば、気候モデルに「地表を8.5W/m2で加熱する」シナリオを入力すれば、気候モデルは「温暖化が4℃を超える」と出力するということです。つまり、気候モデルは、地表を8.5W/m2で加熱すれば、温暖化が4℃を超えると予測するのです。

気候モデルがスパコン内に生成した「地球」が、4℃を超える温暖化をするのは、その通りでしょう。しかし、実際の地球がその通りになるかどうかは、2100年になるまで、わからないのではないでしょうか。

このページのトップへ

(訳注6)気候モデルが生成した赤や緑の地球

次の図は図SPM.2に赤字で加筆したものです。図の上部に「1850〜1900年と比較した地球温暖化レベル(GWL)」と記載された横向きの温度計があります。この温度計の0℃は1850〜1900年の世界平均気温の平均値で、現在は約1.1℃ということです。そして、2100年における+1.5℃〜+4℃の地球の「a)年間最高気温の変化」、「b)年平均全カラム土壌水分の変化」、「c)年間最多1日降水量の変化」が赤や緑で描かれています。(図の下につづく)
on_co2_7_/6s_y6f1.jpg
この温度計の基準となる0℃は、上記のように1850〜1900年の世界平均気温の平均値ですが、この時代は日本では江戸時代末期(嘉永3年)〜明治33年です。1872年(明治5年)に日本最初の気象観測所として北海道函館に気候測量所が開設され、徐々に日本全体の気象観測が行われるようになりました。したがって、1850〜1900年の日本平均気温の平均値のデータは存在しないのです。いち早く産業革命を成し遂げた欧州の一部の国ではその国の平均気温の平均値のデータがあるのかもしれません。また、温度計を植民地に持って行き気温を観測したかもしれません。しかし、この温度計の基準となる0℃(1850〜1900年の世界平均気温の平均値)は正確なデータに基づくものではなく、この温度計の目盛りには信頼性がないことに注意する必要があります。

気候モデルに「地表を2.6W/m2で加熱する(地表を1平方メートル当り2.6Wワットで加熱する)」シナリオを入力すれば、気候モデルは薄い赤や緑の+1.5℃の地球を出力します(「(訳注5)気候モデルは、地表を8.5W/m2で加熱すれば、温暖化が4℃を超えると予測する」参照)。気候モデルに「地表を4.5W/m2で加熱する」シナリオ、「地表を7.0W/m2で加熱する」シナリオ、「地表を8.5W/m2で加熱する」シナリオを入力すれば、気候モデルは、それぞれ、より濃い赤や緑の+2℃、+3℃、+4℃の地球を出力します。それを描いたのがこの図なのです。

気候モデルが生成した地球の表面(地表)を1平方メートル当り何W(ワット)かで加熱すれば、気候モデルが生成した地球の世界平均気温が上昇するのは当然です。気候モデルがこの図に描かれた赤や緑の+1.5℃、+2℃、+3℃、+4℃の地球を出力したのはその通りでしょう。しかし、この赤や緑で描かれた地球を、現実の地球と混同すると、IPCCの思う壺に嵌まってしまいます。

このページのトップへ

(訳注7)適応を追加しない場合の影響の図は意味がない?

次の図は図SPM.3に赤字で加筆したものです。この図は将来の気候変動による自然と人間への悪影響を示す図です。この図で最も注目すべきは、赤下線部分の「適応を追加しない場合の影響の例」です。つまり、気候が変わっても、それに対して何も対応しないという図なのです。適応を追加しないこの図は果たして意味のある図なのでしょうか。(図の下につづく)
on_co2_7_/6s_y7f1.jpg
図(b)高温多湿による健康へのリスク」について
(訳注4)2020年に生まれた赤ちゃんが70歳になると灼熱地獄?」の後半で述べたように、北海道の人が沖縄県に引っ越したら、年平均気温は14.1℃も上昇します。でも、死んだり病気になったりすることはありません。なぜなら、沖縄の気候に合った服を着て、沖縄の気候に合った家に住むからです。普通の人は14.1℃の平均気温の上昇に難なく適応してしまうのです。人は平均気温の非常に大きな変化に非常によく適応できるのです。

しかし、もし北海道から沖縄県に引っ越した人が、北海道の気候に合った服を着続け、北海道の気候に合った家を建てて住み、北海道と同じように暖房すれば、死んだり病気になったりするでしょう。この図(b)が想定しているのは、こういう適応が全くできない変人なのです。図(b)が想定する人は、現実には存在しないのです。

人は平均気温の非常に大きな変化に非常によく適応できるので、適応を追加しない場合の人の健康へのリスクを示す図(b)は意味がありません。

図(c1)トウモロコシの収量」について
農作物は品種改良や農法の改善ができるので、適応を追加しない場合のトウモロコシの収量を示す図(c1)は意味があるかどうか疑問です。

図(c2)漁獲量」について
漁獲する魚種を変えることができるので、適応を追加しない場合の漁獲量を示す図(c2)は意味があるかどうか疑問です。

図(a)種の喪失のリスク」について
動物は移動して生息地を変えられるので、適応を追加しない場合の動物種の喪失のリスクを示す図(a)は意味があるかどうか疑問です。

図(a)は動物と海草の種の喪失のリスクに関する図です。驚くべきことに、この図には陸上の植物の種の喪失のリスクについては、記載されていないのです。

もちろん、陸上の植物についても問題ありません。例えば、桜は沖縄から北海道まで分布していますが、上記のように、北海道と沖縄県は年平均気温に14.1℃もの違いがあります。でも、桜は開花時期を変えることによって、14.1℃もの年平均気温の違いに対して適応しているのです。

IPCCがこの図を掲載したのは、IPCCが国連気候変動枠組条約をつくらせ、その前文に「締約国は…自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼすおそれがあることを憂慮し…」と書かせたからです(「(訳注2)IPCCと国連気候変動枠組条約」参照)。

だから、この図の冒頭に「将来の気候変動は、自然と人間のシステム全体への影響の深刻さを増し、地域差を拡大すると予測されています」と記載したのです。しかし、これは赤下線部分の「適応を追加しない場合の影響の例」、つまり現実にはありえない場合です。IPCCにとっては、そうまでして、自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼすおそれがあると言わざるをえないのでしょう。

しかし、現実には、IPCCが予測するように地球温暖化が進んだとしても、人間も動物も植物も適応するので、大した悪影響はないのではないでしょうか。

このページのトップへ

(訳注8)観測値(科学)を軽視するIPCC第6次評価報告書

左図は前回の第5次評価報告書の政策決定者向け要約の図SPM.1(赤字は加筆)で、これまでの観測値(平均気温、海面水位、温室効果ガス濃度、CO2排出量)を示すグラフです。右図は今回翻訳した第6次評価報告書の政策決定者向け要約の図SPM.4(赤字は加筆)で、将来のリスクの増大を示す図ですが、その中に平均気温と海面水位に関するグラフが含まれています。
on_co2_7_/6s_y8f1.jpg
第5次評価報告書では、上記の左図(図SPM.1)にこれまでの平均気温や海面水位の観測値のグラフを示した後、図SPM.5で将来のCO2排出量のシナリオを示し、図SPM.6でシナリオに基づく将来の気温や海面水位を予測(シミュレーション)し、図SPM.8で将来のリスクを示しています。つまり、第5次では、観測値(科学)から始まって、順を追って将来に予測されるリスクを説明しているのです。

これに対して、第6次評価報告書では、図SPM.1(c)で「気候ストライプ」と称する世界平均気温を色で表わした横棒を使って、2020年に生まれた赤ちゃんは70歳になると灼熱地獄で焼き尽くされるかのような印象操作を行い、図SPM.2で気候モデルが予測(シミュレーション)した将来の赤や緑の地球を示し、図SPM.3で将来に予測(シミュレーション)されるリスクを世界地図上に示した後に、上記の右図(図SPM.4)で「燃えさし」と称する「下から上に向けて白、黄、赤と色が変わる縦棒」を使って温暖化の恐怖を煽り、その縦軸に関連付けて気温や海面水位のグラフを使っているのです。

上記の右図の(a)左は世界平均気温のシミュレーションのグラフです。過去の分は「観測上の制約を課した」と記載されているので、過去の観測値に合うようにパラメータ(気候感度)を調整した気候モデルのシミュレーションなのだろうと思います。

この小さなグラフの横軸の目盛りが1950年からであることも注目すべきです。上記の左図の第5次の(a)気温の観測値は1850年からで、1910年代〜1940年頃にかけて1970年代〜2000年頃と同程度の気温上昇が示されています。第6次では過去の観測値は使わずに、観測値を制約条件として使ったシミュレーションを示しているだけですが、それも人為的地球温暖化と矛盾する1910年代〜1940年頃の気温上昇を見せないようにするためか、1950年以降だけのシミュレーションを示しているのです。

上記の右図の(c)左は海面水位のグラフですが、過去(黒)は観測値で、将来はシミュレーションです。ここで初めて観測値が登場しましたが、右側のリスクを煽る「燃えさし」に対応するのは主に将来のシミュレーションの部分です。

以上のように、第5次では観測値(科学)を重視しているのに対して、第6次では観測値(科学)を軽視し、地球温暖化のリスクを徹底的に煽っています。しかも、平均気温については、人為的地球温暖化と矛盾する1910年代〜1940年頃のIPCCにとって不都合な気温上昇を隠すためか、1950年以降だけのシミュレーションを示しているのです。

このページのトップへ

(訳注9)気候変動(地球温暖化)の科学は「条約や協定と密接に絡み合った科学

次の図を使って、“気候変動(地球温暖化)の科学は「条約や協定と密接に絡み合った科学」”であることを説明します。

@ 1990年、IPCCは第1次評価報告書を発表し、実質的に「我々は人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と主張しました(「(訳注2)IPCCと国連気候変動枠組条約」参照)。(図の下につづく)
on_co2_7_/6s_y9f1.jpg
A 1992年、2年前にIPCCが第1次評価報告書で主張したとおり、国連気候変動枠組条約が締結され、その前文に実質的に「この条約の締約国は…人為的地球温暖化…を憂慮する」と記載され、第7条第1項には「締約国会議(COP)を設置する」と規定されました。

毎年一回開催されるCOPには、締約国の代表だけでなく、第7条第6項の規定により、環境NGOなどもオブザーバーとして参加できます。温暖化防止に後ろ向きな国に化石賞を授与する環境NGOなども参加します(「国際的な茶番にすぎない奇妙な化石賞」参照)。なお、同項には、国連、その専門機関、国際原子力機関がオブザーバーとして参加できることが明記されています。

B 2015年のCOP21でパリ協定が採択され、第2条第1項(a)には実質的に「温暖化を産業革命前より2℃に抑えること、1.5℃に抑える努力を継続すること」、第4条第1項には実質的に「正味ゼロ(=カーボンニュートラル=脱炭素)」が規定されました。

C 2023年、IPCCは第6次評価報告書を発表し、その政策決定者向け要約(ここで翻訳したもの)のA.1で実質的に「人為的地球温暖化は疑う余地がない」と主張し、図SPM.5(Cに図SPM.5(a)を示しています)にパリ協定の規定に対応する排出経路を示しています。

Cの図の赤は、これまで各国が表明した削減目標に基づく2100年までの世界全体の温室効果ガス(GHG)の毎年の排出量を示しています。毎年同程度のGHGの排出であり増加しているわけではないので、これで良さそうに思えますが、IPCCは人間が排出したCO2の約半分が大気中に残り大気中CO2濃度を増加させるとしており、これでは2100年に産業革命前より3.2℃の温暖化になると予測しています。

Cの図の緑がパリ協定の2℃に抑える場合の世界全体の排出経路で、青がパリ協定の1.5℃に抑える場合の世界全体の排出経路です。このグラフの横軸がパリ協定の正味ゼロ(=カーボンニュートラル=脱炭素)です。

IPCCは、この図(図SPM.5)を示して、パリ協定が規定する「2℃に抑える」や「1.5℃に抑える」ためには、「急速で大幅な、そしてほとんどの場合即時の温室効果ガス排出削減が必要です」と主張しています。

気候モデルに、この図に示されたとおりに、各国が表明した削減目標の排出経路(赤)、2℃に抑える排出経路(緑)、1.5℃に抑える排出経路(青)を入力すれば、気候モデルがスパコン内に生成した地球の世界平均気温が、それぞれ、産業革命前から3.2℃、2℃、1.5℃になるのは、そのとおりでしょう。でも、実際の地球の世界平均気温がそのとおりになるかどうかは、2100年にならないとわからないのではないでしょうか。

そして、上記の図の@→A→B→Cを見れば、IPCCが評価報告書を作成する気候変動(地球温暖化)の分野は、国連気候変動枠組条約やパリ協定と密接に絡み合っていることがわかります。

気候変動(地球温暖化)の科学は、「理論と実験を駆使して純粋に真理を探究する物理学や化学」とは、まったく異質の「条約や協定と密接に絡み合った科学」であることを知っておくことが、IPCC評価報告書を読むときの心構えとして必要なのです。

このページのトップへ

(訳注10)間違いに気付かない執筆チームが作成したIPCC第6次報告書は信用できる?

次の図は図SPM.6です。縦の黒線が「現在の世界」で、そこから緑の開発経路(温暖化を1.5 ℃以下に抑える)をたどると低排出量の世界に到達するようです。一方、赤の開発経路(地球温暖化が1.5 ℃を超える)をたどると高排出量の世界に到達するようです。
on_co2_7_/6s_f6.jpg
ところが、過去の『開発を妨げる「ショック」』から点線の矢印「機会を逃した」が緑の開発経路より上に向かっています。これでは、気候に強靱な開発を可能にする機会を逃すと、IPCCお勧めの低排出量の世界に到達することになり、奇妙です。

この図の大元の図は次に示す第5次評価報告書の第II作業部会報告書の図SPM.9です(作業部会報告書については「(訳注1)IPCC第6次評価報告書について」参照)。この図には点線の矢印はありません。なお、この図は環境省訳で「resilient」を「レジリエントな」と訳していますが、この私の日本語訳では「強靱な」と訳しています(強靱(きょうじん)とは「しなやかで強いこと。強くてねばりがあること。」)。
on_co2_7_/6s_y10f2.jpg
この第5次報告書の図SPM.9を元にして作成されたのが、次に示す第6次評価報告書の第II作業部会報告書の図SPM.5です。
on_co2_7_/6s_y10f3.jpg
この図には、点線の矢印「気候にレジリエントな開発を向上させる機会を逸失」があり、その点線の矢印の先は右側の下から上に赤から緑に色が変わる縦の両矢印「気候にレジリエントな開発」の「向上」の側の一番上を指しています。「気候にレジリエントな開発を向上させる機会を逸失」の点線の矢印が「気候にレジリエントな開発」の「向上」の側の一番上を指しているので、この点線の矢印が間違いであることは明らかです。

この第II作業部会報告書の図SPM.5を元にして作成されたのが、上記の統合報告書の図SPM.6ですが、間違いは訂正されず、間違えたままです。

これは単なるケアレスミスではありません。図の意味を理解していれば、絶対に間違えるはずのない間違いです。また、図の作成者が間違えたとしても、第II作業部会の執筆チームの誰かが間違いに気付く機会があったはずです。さらに、統合報告書の執筆チームの誰かが間違いに気付く機会があったはずです。

ところが、誰も間違いに気付かずに、上記の図SPM.6が発表されてしまいました。こんなレベルの執筆チームが作成したIPCC第6次評価報告書を信用してよいのでしょうか?

産業革命以来、現代文明は化石燃料のエネルギーに支えられてきました。その化石燃料の使用を実質的にゼロにする「正味ゼロ」をこの第6次評価報告書は必要であるとしています(「(訳注9)気候変動(地球温暖化)の科学は「条約や協定と密接に絡み合った科学」」参照)。

間違いに気付かない執筆チームが作成したIPCC第6次評価報告書をそのまま信用して、現代文明を支えてきた化石燃料を否定する「正味ゼロ」という非常に重い決断をしてよいのでしょうか?

このページのトップへ

(訳注11)IPCC第6次報告書 翻訳対決:機械翻訳を修正した版 v.s.省庁版

IPCC第6次報告書 統合報告書 政策決定者向け要約は2023年3月20日(日本時間同日夜)にIPCCのサイトで発表されました。

私(井上雅夫)は翌21日に機械翻訳版をアップしました注1。その翌日から機械翻訳版の修正を少しずつ行い、「機械翻訳を修正した版」をアップし続け、4月3日に本文、図、表、脚注の修正を一応終わりました。その後、(訳注)を書きながら、修正も続けてきました。

一方、環境省などの省庁は3月20日に「日本政府において日本語訳を作成し、4月下旬をめどに環境省のウェブサイトにて公開する予定です」と発表するとともに、「IPCC 統合報告書の政策決定者向け要約(SPM)の概要」(要約のオレンジ色の部分の日本語訳)を発表しました。そして、文科省、経産省、気象庁、環境省による暫定訳【2023年4月17日時点】(以下、「省庁版」)が発表されています。

次の図は、機械翻訳を修正した版の図SPM.6(左)と省庁版の図SPM.6(右)です。
on_co2_7_/6s_y11f1.jpg
左右を比較すると、左の機械翻訳を修正した版は仕上がりがきれいで字も読みやすいのに対して、右の省庁版は右側の2つの地球のイラストに張り紙をしたようになっていて、字も読みにくいように思います。

驚いたことに、図については、日本政府において作成した省庁版より、素人の私が作成した機械翻訳を修正した版の方が勝っているようです。

環境省などにはIPCC報告書の執筆者の方もいるので、図についてはIPCCからPowerPointのファイルをもらっていると思っていました。PowerPointのファイルがあれば、テキストボックス内に書かれた英語を日本語に書き換えれば、簡単にしかもきれいに、図の翻訳ができます。

ところが上記の右の図の仕上がりを見るとPowerPointのファイルはもらっておらず、私と同じようにIPCCのサイトからダウンロードしたpdfファイルだけを使って省庁版が作成されたようです注2

また、省庁版は図の中の小さな文字が読みにくいですが、これは原本の小さなフォントサイズとグレーの文字色を踏襲したからです。私は読みやすさを優先し、スペースが許す範囲でできるだけ大きなフォントサイズを使い、黒の太字で文字を書いています。

また、機械翻訳を修正した版は「ですます調」であるのに対して、省庁版は「である調」である点も大きな違いです。

私は脱・脱炭素派(地球温暖化懐疑派)であり、(訳注)にはIPCCに対して批判的なことも書いていますが、翻訳は原文に忠実に行っていますので、脱炭素派(地球温暖化脅威派)の方も安心してご利用ください。ただし、私の能力不足により、誤訳などがあるかもしれません。

機械翻訳を修正した版も、省庁版も、原文は同じなので、内容的には一致しているはずですが、表現的には全く違います。お好みの方をお読みいただければと思います。

(注1)機械翻訳版は、IPCCのサイトからダウンロードしたpdfファイルをWordで読み込み、HTMLで保存し、そのHTMLファイルをブラウザで読み込みブラウザの翻訳機能で日本語に翻訳し、その日本語訳をコピーしてHTMLエディターに貼り付け、それを保存したものです。(この手法で他のpdfファイルの機械翻訳版も作成できます。)

(注2)実は私も図SPM.6には困りました。図の中に英語が書いてあっても背景が一色なら、書いてある英語を背景の色で塗りつぶし、それをPowerPointに貼り付けてテキストボックス内に日本語を書き込めばよいのです。ところが図SPM.6の右側の2つの地球のイラストは下から上に赤から緑に徐々に色が変わっています。しかも経線と緯線が描かれています。その上に書かれている英語をきれいに塗りつぶすのは簡単ではありません。

そこで、「ペイント3D」というソフトで図(イメージ)を読み込み、ピクセルペンを使って地球のイラストの色をスポイトで得てその色で横方向に色を塗り、ピクセルペンを縦方向に移動させ同じことを繰り返して、何とか英語を塗りつぶし、それをPowerPointに貼り付けて、テキストボックス内に日本語を書き込みました。

このページのトップへ


since 2023.03.21