2009.08.22; 23.04.07  ↑UP   人為的地球温暖化は“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”<イチオシ  CO2濃度は増加、気候関連死者数は激減<オススメ 
二酸化炭素は本当に地球温暖化の原因か?(その7)
井上雅夫
目次
53. 国連:緊急プラットフォーム日本語訳 (23.08.16)<New
52. IPCC第6次評価報告書 統合報告書 政策決定者向け要約 日本語訳 (23.03.21)
51. CO2濃度は増加、気候関連死者数は激減 (23.02.22)<オススメ
50. 人為的地球温暖化は“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”(23.01.04; 04.07)<イチオシ
49. 脱炭素キャンペーン番組「1.5℃の約束」の騙しのテクニック (22.10.02; 11.25)<オススメ
48. IPCCはシミュレーションを観測値からわざと外して、欲しい知見をゲット? (22.01.14)
47. 石油価格高騰の真犯人は脱炭素だ! (21.11.25;26)
46. ノーベル賞・真鍋淑郎氏の一次元モデル
(21.10.21;25)
45. This is the True Character of Human Caused Global Warming!
(21.09.20)
44. これが人為的地球温暖化の正体だ!(21.09.06)
43. IPCC第6次報告書 第1作業部会(自然科学的根拠)政策決定者向け要約 日本語訳(21.08.11)
41. 日本が2050年CO2ゼロを目指しても、中国が5年で帳消しに(21.06.01;29)<オススメ
40. スベンスマルク著「気候変動における太陽の役割」の翻訳(21.05.05)

国連気候変動枠組条約
 パリ協定 地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)


*2021年8月9日、IPCC第6次報告書 第I作業部会報告書(自然科学的根拠)が公表されました。
*2022年2月28日、IPCC第6次報告書 第II作業部会報告書(
影響、適応、脆弱性が公表されました。
*2022年4月4日、IPCC第6次報告書 第III作業部会報告書(気候変動の緩和)が公表されました。
*IPCC第6次報告書の統合報告書の政策立案者向け要約は2023年3月20日に公表されました統合報告書本文(Longer Report)も公開されました。

1〜10(その1)へ
 11〜20(その2)へ 21〜24(その3)へ 25〜28(その4)へ 26〜35(その5)へ 36〜39(その6)へ          


51. CO2濃度は増加、気候関連死者数は激減(23.02.22)

次の図は気候関連の死者数のグラフ(右下がりの青)に、大気中CO2濃度のグラフ(右上がりの赤、緑、青)を重ねた「CO2濃度増加と気候関連死者数激減の図」です。
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気候関連の死者数のグラフ(右下がりの青)は、「2022年の気候関連の死者数は100年前より98%減少した」(杉山大志)に掲載された図を翻訳した図です(元をたどると、ビョルン・ロンボルグ氏がフェイスブックに掲載した図で、同氏の論文の図17左をアップデートした図です)。横軸は年、縦軸は世界の気候(洪水、干ばつ、嵐、山火事、極端な気温)関連の死者数です。急激に低下する青の折れ線グラフは、年間の気候関連死者数の10年平均値です。2020年代は10年平均ができないので、各年の値が点で示されています。

大気中CO2濃度のグラフ(右上がりの赤、緑、青)は『「気候変動監視レポート 2014」の主な内容』(気象庁)の最後の頁に掲載された図で、赤はマウナロア(ハワイ)、緑は綾里(りょうり)(日本)、青は南極における大気中CO2濃度の観測値です。横軸は年で、気候関連の死者数のグラフの横軸の年と目盛りを一致させています。縦軸はCO2濃度で、単位はPPM(100万分の1)です。CO2濃度がギザギザなのは、夏に草木がCO2を吸いCO2濃度が下がり、冬は上がるからです。草木の多い日本(緑)では季節変動(ギザギザ)が大きく、太平洋の真ん中にあるハワイ(赤)では季節変動(ギザギザ)は少ない。CO2濃度は、季節変動や地域差は多少ありますが、基本的には地球全体でほぼ一定で年々増加する傾向にあります。この単純さにより気候モデルに取り入れやすく、そのためCO2が地球温暖化の犯人にされている面もあるのではないでしょうか。

CO2濃度増加と気候関連死者数激減の図」から明らかなように、CO2濃度は増加しているのに対して、気候関連死者数は激減しています。グラフの上には「気候関連死者数は激減しました。より豊かでより強靱な社会が災害による死亡を減らし、潜在的な気候シグナルを圧倒したためです。」と記載されています。

CO2濃度の増減で気候関連の死亡者数の増減があるとしても、適応(自然災害対策)による死者数の激減と比べれば無視し得る程度なのです。気候関連死者数を減らすために必要なのは、脱炭素ではなく、自然災害対策です。

CO2濃度増加と気候関連死者数激減の図」を見れば、脱炭素しなければ人類が滅亡するかのような気候危機説は、ウソであることがわかります。

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50. 人為的地球温暖化は“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”(23.01.04; 02.04

要約

人為的地球温暖化は“条約で人為的に決めた地球温暖化”
@IPCC第1次報告書:人為的地球温暖化を確信、枠組条約つくれ
A国連気候変動枠組条約:締約国は人為的地球温暖化を憂慮
B第6次報告書:人為的地球温暖化は疑う余地なし
枠組条約を作らせたIPCCの主張は信用に値しない
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目次
はじめに
@ IPCC第1次報告書
A 国連気候変動枠組条約
B IPCC第6次報告書
おわりに
 2023.02.01追記 なぜ「地球温暖化の悪影響」はほとんどフェイクなのか? <オススメ
   (注1)科学は私たちのもの
 2023.02.04追記 それでも地球は回っている
 2023.04.07追記 江守正多氏「第一次報告書では…よくわかっていませんでした」 <New


はじめに

人為的地球温暖化とは、「人間が温室効果ガス(CO2など)を排出し、大気中の温室効果ガスの濃度を増加させ、その温室効果により地球が温暖化していること」であると言われています。

しかし、実は、人為的地球温暖化は、“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”なのです。以下、これを詳しく説明します。

@ IPCC第1次報告書
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1990年、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は第1次報告書を発表し、次のように述べています(図@、日本語訳の「科学的知見」の項、原文の52頁(PDFの2/12)左欄1.0.1)。

我々は以下のことを確信する。
人間活動に起因する排出によって、二酸化炭素、メタン、…といった温室効果ガスの大気中濃度は著しく増加している。これらの増加は温室効果を強めるため、その結果、全体として地球表面に一層の温暖化をもたらすだろう。

IPCCが確信した内容は「人為的地球温暖化」そのものなので、言い換えれば、「我々(IPCC)は人為的地球温暖化を確信する」と述べたわけです。「確信する」ですから、「かたく信じる」だけで、IPCCは「人為的地球温暖化は科学法則である」とは述べてはいないのです。

また、IPCCは第1次報告書で次のようにも述べています(図@、日本語訳の「国際協力及び将来の作業」の項、原文の60頁(PDFの10/12)右欄5.)。

…枠組条約についての国際交渉は、この報告書の発行後、…可能な限り早く開始されるべきである。

これは要するに、「枠組条約をつくれ」ということです。

A 国連気候変動枠組条約
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IPCCが「枠組条約をつくれ」と言ったわずか2年後の1992年に国連気候変動枠組条約が締結されました(図@A)。条約の前文には次のように記載されています(図A)。

この条約の締約国は、…
人間活動が大気中の温室効果ガスの濃度を著しく増加させてきていること、その増加が自然の温室効果を増大させていること並びにこのことが、地表及び地球の大気を全体として追加的に温暖化することとなり、自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼすおそれがあることを憂慮し、…

「人間活動が…追加的に温暖化する」は「人為的地球温暖化」そのものなので、言い換えれば、「締約国は人為的地球温暖化を憂慮して」この条約を結んだということになります。

結局、IPCCは「人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と主張し(図@)、国連気候変動枠組条約をつらせ(図@A)、その条約の前文にIPCCが確信した(かたく信じた)「人為的地球温暖化」を記載させること(図@A)に成功したのです。

世界中の国々が国連気候変動枠組条約の締約国になっており、その条約にはIPCCがかたく信じたけれども科学法則とは言っていない「人為的地球温暖化」が記載されているのですから、人為的地球温暖化は科学法則ではなく、“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”なのです。

IPCCが「人為的地球温暖化」をかたく信じただけでは大した影響はありません。しかし、「人為的地球温暖化」を国連気候変動枠組条約で決めたことは大きな影響を及ぼします。

まず、気候変動問題が国連事務総長、国連職員、外交官、気候関連NGOなどの仕事になりました。国連は気候変動問題に大きな影響力をもつことになったのです。私(井上雅夫)としては、気候変動問題に異常に熱心な国連は、この国連気候変動枠組条約に関連する影響力を利用して、世界中の国々を支配する「世界政府」になることを目指しているのではないかとさえ疑っています。

そして、各締約国は条約に沿った国内法を制定します(日本では「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」)。その結果、気候変動問題が各国の官僚、政治家、科学者、マスコミ、関連業者(再エネ業者、EV業者など)の仕事になったのです。仕事になったということは、その仕事をすることによって利益を得ることができることでもあるのです。

こうして国連および各国において地球温暖化利権が生まれたのです。

B IPCC第6次報告書
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2021年、IPCCは第6次報告書で、次のように述べています(図B)。

人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。

要するに、「人為的地球温暖化は疑う余地なし」ということです。IPCCは「人為的地球温暖化」を確信し(図@)、国連気候変動枠組条約をつくらせ(図@A)、条約に「人為的地球温暖化」を記載させ(図@A)、条約に記載させた「人為的地球温暖化」を「疑う余地なし」と正当化しています(図AB)。しかし、このIPCC第6次報告書の記述は信用できるはずがありません。

なぜなら、IPCCは条約をつくらせ、条約に「人為的地球温暖化」を記載させたのですから、もしIPCCが「よく検討したら人為的地球温暖化は間違いでした」と記述したとしたら、IPCCが国連と世界中の締約国を騙したことになり、IPCCの権威も国連の権威も地に落ち、この条約による地球温暖化利権も全て吹き飛んでしまうからです。

IPCCには、「間違いでした」と記述する選択肢はなく、何としても、ウソをついてでも条約に記載させた「人為的地球温暖化」を正当化するしか選択肢がないのです。このようなIPCC第6次報告書の記述が信用できるはずがありません。

おわりに

IPCCは国連気候変動枠組条約をつくらせ、その条約に「人為的地球温暖化」を記載させたのですから、IPCCには条約に記載させた「人為的地球温暖化」を正当化する以外の選択肢はないのです。そのIPCCが「人為的地球温暖化は疑う余地なし」と言っても、これは信用するに値しません。

IPCCとは全く関係のない科学者たちが第三者委員会のようなものをつくって、そこで客観的に検討した結果、「人為的地球温暖化は疑う余地なし」という結論を出したのであれば、それは信用するに値するかもしれません。しかし、国連気候変動枠組条約をつくらせ、それにより様々な地球温暖化利権を生じさせたIPCCが主張する「人為的地球温暖化は疑う余地なし」が、信用に値しないことは言うまでもありません。

以上のように、人為的地球温暖化は、科学法則ではなく、“国連気候変動枠組条約で人為的に決めた地球温暖化”であり、国連気候変動枠組条約を作らせ、それにより様々な地球温暖化利権を生じさせたIPCCが主張する「人為的地球温暖化は疑う余地なし」は、信用に値するものではないのです。

2023.02.01追記 なぜ「地球温暖化の悪影響」はほとんどフェイクなのか?
杉山大志著「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」が最近発行されました。
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その106頁には次のように記載されています。

…環境問題の分野では、フェイクやプロパガンダが堂々とまかり通っています。
誤解を恐れずに言えば「地球温暖化の悪影響」という話はほとんどフェイクニュースです。(太字は原文による)

著者の杉山氏は、『なぜ「地球温暖化の悪影響」という話がほとんどフェイクニュースなのか』については述べていませんが、これは国連気候変動枠組条約の前文に「締約国は、…人為的地球温暖化することとなり、自然の生態系及び人類に悪影響を及ぼすおそれがあることを憂慮し、…」と記載されているからなのです(図A)。
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条約に記載された文言は「悪影響を及ぼすおそれがある<may adversely affect>」です。これは「地球温暖化の悪影響」があるかもしれないということであり(英和辞典(英辞郎)によればmayは50%の確実性を示す)、悪影響がない可能性もある記載です。とはいえ、もし実際には悪影響がなかったとしても、条約に「悪影響を及ぼすおそれがある」と記載されていれば、国も科学者もマスコミも、地球温暖化の悪影響はないと発表をするのは難しく、いろいろ工夫して悪影響があると発表せざるを得ないのではないでしょうか。

上記の杉山氏の著書の108〜110頁には次のように記載されています。

驚くことに、環境白書は観測データの統計をほとんど掲載していません。その上、たまに掲載する図は、使い方を間違っていたり、誤解を招いたりするようなものばかりです。そのことを私は以前から批判しているのですが、残念ながら一向に改善される気配がありません。
 …
…環境白書の記述はタチの悪い「印象操作」だと言えます。(太字は原文による)

環境省としては、タチの悪い「印象操作」と言われようとも、国連気候変動枠組条約に「悪影響を及ぼすおそれがある」と記載されているからには、「地球温暖化の悪影響」を記載したフェイク環境白書を発行しなければならないのでしょう。 また、地球温暖化分野の科学者は研究費を国から得るためには「地球温暖化の悪影響」のフェイク論文を書かざるを得ないのでしょう。 マスコミも国連や国や環境NGOの意向に従ったり注目される記事にするために「地球温暖化の悪影響」のフェイクニュースを流さざるを得ないのでしょう(マスコミが国連の意向に従った例:「脱炭素キャンペーン番組「1.5℃の約束」の騙しのテクニック」国連広報センターと日本の146メディアによる「1.5℃の約束」キャンペーン注1)。

したがって、これらを読み視聴する側が、「地球温暖化の悪影響」はほとんどフェイクであると、あらかじめ認識した上で読み視聴しなければならないのです。

(注1)前記国連広報センターの記事に記載されたメリッサ・フレミング国連事務次長(グローバル・コミュニケーション担当)は、私(井上雅夫)のツイートが引用するツイートに記載された国連グローバル・コミュニケーション部長メリッサ・フレミング氏です。その動画で同氏は『私たちはGoogleと提携し、「気候変動」でググると検索のトップに国連の資料が表示されるようにしました。歪んだ情報が一番上に出てくることにショックを受け、提携を始めました。「科学は私たちのもの」であり、世界中の人々がそれを知るべきと考えています』と述べています。この国連事務次長の発言「科学は私たちのもの<We own the science>」は、国連が、国連気候変動枠組条約をとおして、地球温暖化(気候変動)の科学を所有(支配)しているということにほかなりません。
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2023.02.04追記 それでも地球は回っている
上記(注1)に記載した国連事務次長の発言「科学は私たちのもの<We own the science>」からわかるように、国連が、国連気候変動枠組条約をとおして、現代の地球温暖化の科学を所有(支配)しているのです。これは、17世紀、ガリレオの時代にカトリック教会が当時の天文学を支配していたのに類似しています。
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上記の杉山大志氏の著書「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」の238頁には次のように記載されています。

筆者はなぜあえてCO2ゼロという政府の方針に立ち向かうのでしょう。
私利私欲だけで考えればこれは愚かなことです。「できます」と適当に同調しておけば、結構な御用学者となって安穏と暮らせるはずです。
けれども、それはしません。
大学時代に筆者は物理に傾倒しました。物理というのは、反骨的な学問です。どんな大先生であろうが、いくら大金を積まれようが、実験結果に合っていなければ、間違いだと正面から言います。物理学の学界にはそんな気風があります。
ガリレオの「それでも地球は回っている」という故事はその象徴です。


2023.04.07追記 江守正多氏「第一次報告書では…よくわかっていませんでした」
地球温暖化の論客として有名な江守正多氏が『いま企業に求められる「本質的な転換」とは?国立環境研究所の江守正多氏に聞く』というインタビュー記事の中で次のように述べています。

(30年のあいだのメガトレンドの)1つが気候変動の科学の進歩です。IPCCの第一次報告書では、地球温暖化と人間活動の関係性がよくわかっていませんでした。しかし、1995年(第二次報告書)では「識別可能な人間活動の影響が、地球の気候に表れている」、2001年(第三次報告書)では「人間活動が主な原因である可能性が高い」、2007年(第四次報告書)では「可能性が非常に高い」、2013年には「可能性が極めて高い」と記載されました。そして2021年の第六次報告書では、ついに「人間活動の影響で地球が温暖化していることは疑う余地がない」と書かれたのです。

太字部分
を言い換えれば、「IPCC第1次報告書では、人為的地球温暖化かどうか、がよくわかっていませんでした」ということです。ところが、IPCC第1次報告書には、江守氏が「よくわかっていませんでした」と言うにもかかわらず、実質的に「人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と記載されているのです(図@、上記「@IPCC第1次報告書」参照)。そして、1990年の第1次報告書の発表のわずか2年後の1992年に、国連気候変動枠組条約が締結されたのです(図A、上記「A国連気候変動枠組条約」参照)。
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結局、IPCCは、よくわかっていないのに、第1次報告書に「人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と記載し、国連気候変動枠組条約をつくらせてしまったのです。 国連気候変動枠組条約をつくらせたIPCCには、何としても、ウソをついてでも条約に記載させた「人為的地球温暖化」を正当化するしか選択の余地がないのです。 このようなIPCCが発表した第6次報告書の実質的に「人為的地球温暖化は疑う余地なし」の記載は、信用に値するものではありません(図B、上記「BIPCC第6次報告書」参照)。

ところが、江守氏は、実質的に「人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と記載されている第1次報告書だけはその記載を引用せずに、よくわかっていなかったとし、第2次〜第6次報告書についてはその記載を引用して、「気候変動の科学の進歩です」と述べているのです。

このように、IPCC第1次報告書に、実質的に「人為的地球温暖化を確信する、枠組条約をつくれ」と記載されているかどうかは極めて重要なことなので、その部分の原文(52頁(PDFの2/12)左欄1.0.1、60頁(PDFの10/12)右欄5.)と日本語訳を以下に示します。この記載を認めるか無視するかで、第6次報告書の「人為的地球温暖化は疑う余地なし」が信用に値しないものなのか、気候変動の科学の進歩によるものなのか、の評価が決まるのです。
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49. 脱炭素キャンペーン番組「1.5℃の約束」の騙しのテクニック(22.10.02; 11.25)

目次
(1) はじめに
(2) 西南極スウェイツ氷河融解の原因は地球温暖化? それとも火山?
(3) バングラデシュ・クトゥブディア島の縮小の原因は地球温暖化? それとも工事?
(4) 南米チリ・アクレオ湖消滅の原因は地球温暖化? それとも水の乱用?
(5) おわりに
 2022.10.18追記
 2022.10.25追記
 2022.11.16追記
 2022.11.17追記
 2022.11.25追記


(1)はじめに

2022年9月25日午前10:05からNHK総合でスペシャル番組「1.5℃の約束 いますぐ動こう、気温上昇を止めるために」が放送されました。この番組は、NHKのスタジオに、民放キー局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)のキャスター、科学者(国立環境研の江守正多氏)、若者代表(Fridays For Future Yokosukaの高校生、Fridays For Futureはグレタさん創設)が集い、気候変動について一緒に考え、アクションにつなげるスペシャル番組です(番組紹介ページ参照)。国連と「SDGメディア・コンパクト」加盟メディアによる共同キャンペーンの一環のようです。

各局がそれぞれ制作したレポートを見ながら考えていくという番組で、先ずNHKが制作したレポートが報告されました。

(2)西南極スウェイツ氷河融解の原因は地球温暖化? それとも火山?

NHK制作のレポートのタイトルは「海面上昇の危機、バングラデシュ」です。その前半の文字起こしを以下に示します。

気候変動に極めて脆弱な地域で暮らす人々の生活につきまして、グリーンランドそして南極の氷が解けると大幅な海面上昇に見舞われるバングラデシュを取材しております。
今年1月、国際的な研究チームが西南極に調査に入りました。イギリスと同じ面積の巨大なスウェイツ氷河、すべて融けると西南極の氷床(ひょうしょう)の崩壊を引き起こし、世界の海面を3m上昇させます。
ニューヨーク大学のホランド教授が見た驚くべき光景(図1)、至る所で氷にひびが入っていたのです。
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これまで南極では気温が上昇しても大規模には融けないと考えられていましたが、近年の研究で融解の加速が判明しました。
ホランド教授「地球上で起きている最大の融解です。私たちは注意を払うべきです。」

以上のように、西南極のスウェイツ氷河が融解すると世界の海面が3m上昇するという内容です。

しかし、西南極には多数の火山があり、スウェイツ氷河の位置にも火山があることが知られています(例えば『南極大陸の氷河の下に超巨大な空洞が発見される。それと共に、南極の下で科学者たちに理解できないメカニズムによる「謎の大融解」が進行していることが判明』参照)。
図2はこの参照記事の図で、西南極に多数の火山()があり、スウェイツ氷河の位置にも火山があることがわかります。
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地球温暖化が原因なら南極大陸全体の氷床が融けるはずです。火山のあるスウェイツ氷河だけが融けるということは、火山が原因と考えるほうが無理がなく、火山が原因ならCO2削減(脱炭素)は無意味です。

NHK制作のレポートでは、「スウェイツ氷河の融解の原因は地球温暖化である」とは言っていません。これは制作スタッフがスウェイツ氷河の融解の原因は火山である可能性があることを知っていて、地球温暖化が原因と断言したら「嘘だ!」と指摘される恐れがあると考え、何が原因かを明確に言わないことにしたからではないでしょうか。

しかし、多くの視聴者は、番組全体の流れから、地球温暖化のせいでスウェイツ氷河が融解し、世界の海面が3m上昇し、大変なことになる、だから今すぐCO2削減(脱炭素)をしなければならない、と騙されてしまうことでしょう。

(3)バングラデシュ・クトゥブディア島の縮小の原因は地球温暖化? それとも工事?

NHK制作のレポート「海面上昇の危機、バングラデシュ」の後半の文字起こしを以下に示します。

極地の氷が解ける海面上昇の影響を受けている国、バングラデシュ。国土のほとんどが海抜10m以下です。
8年前に取材したクトゥブディア島(図3(a))。この50年で島の面積は大きく減り(図3(b))、あと50年でなくなると言われています。
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サイクロンによる高潮で家を失った女性に出会いました。
アンジャリ・ジョロダシさん「家は流されて住めなくなりました。」
アンジャリさん一家は近くに家を建て直しましたが、2ヵ月後の暴風雨でその家も波でさらわれ、引っ越しました。(以下省略)

以上のように、図3(a)に示す大河の河口近くにあるクトゥブディア島(左下の地図の赤で示す部分)が図3(b)のように縮小しているという内容です。

バングラディシュのクトゥブディア島は辞書にも「気候変動による海面上昇の影響をもっとも受けている場所の一つとして知られる」と記載されています。以前見た他局の気候危機恐怖番組でもここが使われていたように思います。

IPCC第6次報告書によると、海面上昇は1971-2006年は年間1.9mm、2006-2018年は年間3.7mmです。これを使って計算すると、1972-2020年における地球温暖化による海面上昇は118.3mm(約12cm)です。この影響で図3(b)に示すクトゥブディア島の縮小が起こり、家が2回も波にさらわれたのでしょうか?

もしそうなら、世界中の標高の低い島で1972-2020年の約12cmの海面上昇によって面積が縮小しているはずです。
ところが、温暖化で沈むはずのツバル諸島では、実は、波によって運ばれた砂が堆積して、浜が広がったため、面積が拡大していたのです(「115年前から32ヘクタールも拡大」温暖化で沈むはずのツバル諸島の面積が増えているという不都合な事実」参照)。
ツバルの面積は、地球規模の海面上昇による縮小ではなく、地域的な原因によって拡大していたのです。

図4は、杉山大志著「地球温暖化のファクトフルネス」の表紙と第I部「13 砂浜の消失は温暖化のせいではない」のページです(赤線は井上が付加)。
ここには、海浜の消失の原因は、河川のダム工事や海岸の護岸工事によって砂の補給が失われた為であると記載され、神奈川県稲村ヶ崎の海浜消失が例として示されています。
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クトゥブディア島は図3(a)の左下の地図にで示すように大河の河口近くにある小さな島であり、神奈川県稲村ヶ崎の海浜の消失と同じように、大河の上流のダム工事や海岸の護岸工事によって砂の補給が失われ島の面積が縮小した可能性があります。

世界中の標高の低い島が地球温暖化による約12cmの海面上昇で面積が縮小しているわけではなく、ツバルのように地域的な原因で拡大している島もあることを考えると、クトゥブディア島の縮小の原因も、大河の上流のダム工事や海岸の護岸工事によると考えるほうが無理がなく、そうであればCO2削減(脱炭素)は無意味です。

NHK制作のレポートは後半の最初の部分で、「極地の氷が解ける海面上昇の影響を受けている国、バングラデシュ」とは言っていますが、クトゥブディア島の面積縮小の原因が地球温暖化による約12cmの海面上昇であるとは言っていません。

これは制作スタッフがクトゥブディア島の縮小の原因が、河川のダム工事や海岸の護岸工事によって砂の補給が失われたことによる可能性があることを知っていて、地球温暖化による約12cmの海面上昇が原因と断言すると「嘘だ!」と指摘されるのを恐れたからではないでしょうか。

しかし、多くの視聴者は、番組全体の流れから、地球温暖化のせいでクトゥブディア島が縮小して家を2回も波にさらわれる可哀想な人々がいる、だから今すぐCO2削減(脱炭素)をしなければならない、と騙されてしまうことでしょう。

(4) 南米チリ・アクレオ湖消滅の原因は地球温暖化? それとも水の乱用?

NHKの次はTBS制作の「南米チリ、湖はなぜ消えた」というレポート。以下にその文字起こしを示します。

南米チリのアクレオ湖という湖が忽然と姿を消しました。
アナウンサー「この場所に存在していたアクレオ湖は人々の生活に豊かな水を供給し続けてきました。しかし今は一滴の水も見つけることはできません。」
2014年の時点でこれだけあった湖の水(図5(a))は、5年後の2019年涸れ果てました(図5(b))。
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 (中略)
湖消滅の引き金を引いたのは極端な降水量の減少です。
2010年以降チリが直面している干ばつは過去60年で最悪の状況で、この10年間に降った雨や雪の量は過去の2/3にまで激減しています。
専門家は降水量の減少は地球温暖化などによる気候変動の一つだと指摘します。
さらにこの地域では、近年進出してきた大規模農園が無計画に湖の水を乱用したと指摘する声もあります(図6)。(以下省略)
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以上のように、アクレオ湖消滅の原因を、地球温暖化による降水量の減少としながらも、無計画な湖の水の乱用についても指摘しています。
地球温暖化だけでなく、地域的な原因も述べているので、TBSはNHKよりも正直なのかもしれません。

地球温暖化は、産業革命前(IPCCによれば1750年)から現在までに世界平均気温が約1.1℃上昇したという長期間にわたる変化であり温度計1目盛りちょっとの気温上昇です。
これに対して、アクレオ湖では、図5(a)(b)に示すように2014-2019年の5年間という短期間に湖が消滅しています。
アクレオ湖消滅の原因は、長期間にわたる約1.1℃の地球温暖化よりも、近年進出してきた大規模農園が無計画に湖の水を乱用したことによると考えるほうが無理がなく、そうであればCO2削減(脱炭素)は無意味です。

TBSの制作者はアクレオ湖消滅の原因を、地球温暖化だけとしたのでは、「嘘だ!」と言われることを心配して、湖の水の乱用も付け加えたのではないでしょうか。
しかし、多くの視聴者は、番組全体の流れから、地球温暖化のせいでアクレオ湖が消滅したと思い込み、だから今すぐCO2削減(脱炭素)をしなければならない、と信じてしまうことでしょう。

(5)おわりに

以上で紹介したNHKとTBSが制作したレポートだけが、地球温暖化による悪影響、つまり気候危機について報告するものでした。これに対して、他の局のレポートは、再生可能エネルギー、CO2回収、脱炭素ビジネス、古着の回収、スタジオの省エネ化などを報告するもので、気候危機を煽るものではありませんでした。

この番組は、国連などが関係する脱炭素キャンペーン番組であるため、気候危機のレポートを担当したNHKとTBSは、何としても気候危機を煽り、視聴者を脱炭素に向けて今すぐ行動するよう仕向ける必要があったのでしょう。

でもレポート制作者としては「それは嘘だ!」と具体的に指摘されるのは嫌なので、個々の部分ではできるだけ断定的なことは言わずに、あるいは地域的な原因の可能性もそれとなく触れながら、番組全体の流れの中で、地球温暖化で大変なことになる、だから今すぐCO2削減(脱炭素)をしなければならない、と視聴者を誘導しているのではないでしょうか。

脱炭素キャンペーン番組や気候危機恐怖番組を見るときには、以上に述べた騙しのテクニックに注意して視聴していただければと思います。

2022.10.18追記
テレ朝newsが「タイ“浸水レストラン”客にぎわうも…大規模洪水 温暖化で被害深刻か」(22.11.16リンク先の記事は削除されています。削除された記事のアーカイブ)で、以上で述べた騙しのテクニック(明確な嘘は言わずに全体的な流れで騙す)を使っていたので、ツイートで「地下水の乱獲などによる地盤沈下で浸水しているのです」と指摘しておきました。
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CNNが「米アラスカ州沖のズワイガニ漁、初めて禁漁に 数十億匹が周辺の海から消滅」で、同様の騙しのテクニックを使っていたので、ツイートで「A(気候変動)はCNNが気候危機を煽るために追加」と指摘しておきました。
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2022.10.25追記
FNNプライムオンラインが「ボジョレ・ヌーボーも「サステナブル」の時代…地球温暖化はブドウの作柄やワイン造りにも影響」が、見出しから温暖化でブドウに悪影響があったような印象を与える騙しのテクニックを使っていたので、ツイートで「CO2削減策をやっているという内容です」と指摘しておきました。
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2022.11.16追記
朝日新聞環境取材チームのTwitterアカウントが「《国連の気候変動会議(COP27)が開かれているエジプトにとって、気候変動は国を揺るがす問題だ》波が直撃、20階建て住宅が揺れる クレオパトラの都、水没の危機」というツイートをしていたので、「これは高潮による砂浜消失が原因の気候変動です」と指摘しておきました。
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2022.11.17追記
NHKクローズアップ現代が「世界を襲う“水クライシス” 気候変動・異変の現場をゆく」を放送しダイジェストを公開したので、『専門家に「干ばつ、洪水の"報告数"が増えている」と言わせて、以上(イラク、フランス、中国)の干ばつが温暖化のせいと印象操作』と指摘しておきました。なお、"報告数"が増えたとしても、実際に干ばつや洪水が増えたとは限りません。以前はわざわざ報告しなかったが、最近の温暖化騒ぎで報告する件数が増えただけではないでしょうか。
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2022.11.25追記
エコファシズム」(有馬純、岩田温)の中で、有馬氏は『報道で温暖化の脅威が叫ばれていますが、危機を煽った方が記事になるという側面があることは見逃せません。「地球は滅びない」という記事よりも、「地球は明日にも滅びるか?」という論調の方が、華やかで話題にもなります。だからメディアはそういったものを流すんです。』と述べています。
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48. IPCCはシミュレーションを観測値からわざと外して、欲しい知見をゲット?(22.01.14)

要約:第6次報告書は、第5次報告書でぴったり一致していた1965〜2000年を(おそらくわざと)外すことによって、20世紀前半の外れを目立たなくさせて、全体的に何となく一致しているかのようにシミュレーションのやり方を変えて、「人為的地球温暖化は疑う余地がない」というIPCCがなんとしても欲しい知見をゲットしたのではないか(図1ab)。

図1aはIPCC第6次報告書第I作業部会(2021年発表)の図SPM.1bです。一見、温度の観測値(黒)と人間&自然要因のシミュレーション結果(茶)が一致しているように見えます。これを根拠に、第6次報告書は「人間の影響が大気、海、陸を温暖化したことは疑う余地がない」という知見を示しています。しかし、よく見ると1965〜2000年(オレンジ)の期間は一致していません。シミュレーション結果(茶)は温度の観測値(黒)より温度が低い方に外れています。
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図1bはIPCC第5次報告書第I作業部会(2013年発表)の図TS.9aです。縦軸・横軸の目盛りの間隔を図1aに合うように拡大/縮小しています。温度の観測値(黒)とシミュレーション結果(赤)1965〜2000年(オレンジ)の期間はぴったり一致しています。そのため20世紀前半の外れが目立ちます。そこで、第5次報告書は「人間の影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な原因であった可能性が極めて高い」という知見を示したのではないかと思います。

私(井上雅夫)は、「この第5次報告書の知見自体が、この知見が科学法則でないことを証明している」と主張してきました。なぜなら、科学法則とは普遍的な法則であり、「20世紀半ば以降」という期間限定の知見が科学法則であるはずがないからです。科学法則でなければ、21世紀末の予測は当たるも八卦、当たらぬも八卦になってしまいます。

第6次報告書ではこのような批判を封じるために、「20世紀半ば以降」という期間限定を取り除く必要がありました。そのためには、温度の観測値(黒)とシミュレーション結果(茶)を全体的に一致しているように見せる必要があります。それで、第5次報告書ではぴったり一致していた1965〜2000年を(おそらくわざと)外して、20世紀前半の外れを目立たないようにして、全体的に何となく一致しているかのように見えるようにシミュレーションのやり方を変えたのではないでしょうか。

第6次報告書は1965〜2000年を(おそらくわざと)外すことによって、「人間の影響が大気、海、陸を温暖化したことは疑う余地がない」、つまり「人為的地球温暖化は疑う余地がない」というIPCCがなんとしても欲しい知見をゲットしたのではないかと思います。

このページのトップへ  これが人為的地球温暖化の正体だ! <イチオシ


47. 石油価格高騰の真犯人は脱炭素だ!(21.11.25,26)

目次
要約
1. 石油価格高騰と石油備蓄放出
2. 石油価格高騰の真犯人は脱炭素
3. グレタさんも国際エネルギー機関(IEA)も新規開発即時取りやめ
4. 新規開発即時取りやめで今すぐ価格暴騰
5. 石油価格暴騰をとめられるのは脱炭素の取りやめだけ
参考動画:【脱炭素が招く資源高騰】7月ASAKURAセミナー ハイライト

要約: 石油価格高騰の真犯人は脱炭素です。グレタさんや国際エネルギー機関(IEA)が新規化石燃料供給への投資即時取りやめを求めているので、石油などが近い将来枯渇することが予想でき、石油備蓄を放出しても価格高騰はとまりません。とめるためには、各国が脱炭素を取りやめることが必要です(「これが人為的地球温暖化の正体だ!」参照)。

1. 石油価格高騰と石油備蓄放出

2021年11月24日、政府は石油価格の高騰を抑制するため、米国などと歩調を合わせて石油備蓄放出することを明らかにしました(政府、数十万キロリットルの石油備蓄放出決定 油種入れ替えで対応)。専門家が言うように、コロナからの回復で石油需要が増加したので石油価格の高騰が起こったのであれば、この放出によって価格高騰を抑えているうちに、石油の供給が増加し、石油価格は安定するでしょう。

2. 石油価格高騰の真犯人は脱炭素

しかし、石油価格高騰の真犯人は脱炭素です。脱炭素という構造的な問題なので、石油備蓄放出で一時的に供給を増やしても、石油価格の暴騰をとめることはできないでしょう。

産業革命前(1750年)から270年間にわたって自由な研究開発と自由な経済によって現在の工業化社会が形成されてきました。脱炭素は、これを否定し、規制と補助金によって2050年までの30年間で化石燃料の使用を実質ゼロにするというものです。そしてこの脱炭素の影響は30年後に出るのではなく、今すぐ大きな影響が出ているのです。

3. グレタさんも国際エネルギー機関(IEA)も新規開発即時取りやめ

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんは、11月29日、ロンドンの金融街シティーに姿を見せ、金融機関が石油や天然ガスなど化石燃料の採掘事業に資金を提供するのをやめるように求める抗議活動に加わりました(グレタさん、ロンドン金融街で抗議 石油採掘への融資ストップ求めました)。
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これはグレタさんだけではないのです。国際エネルギー機関(IEA)は5月18日に発表した「Net Zero by 2050」で、新規の化石燃料供給プロジェクトへの投資を即時取りやめることを求めているのです(IEA、2050年までのCO2排出ネットゼロに向けたロードマップを公表)。

国際エネルギー機関(IEA)の知的水準がグレタさんより多少なりとも優れていれば、2050年カーボンニュートラルまでの化石燃料の年々の需要を予測し、その需要を満たすために何時どの程度の新規開発が必要かを発表するはずです。しかし国際エネルギー機関(IEA)の知的水準はグレタさんと同じだったようで、即時取りやめを求めているのです。

4. 新規開発即時取りやめで今すぐ価格暴騰

私(井上雅夫)は中学生の頃に、資源の埋蔵量が20年ぐらいしかないことを知って、自分が大人になったら資源がなくなると思い心配しました。しかしそれから何十年もたった現在でも資源はあります。これは次々と新規の資源開発がなされてきた結果です。ところが、今は化石燃料の新規開発が即時取りやめになっているのです。現在採掘中の化石燃料が枯渇すればそれでお終いなのです。

新規開発が即時取りやめになっているので、石油などが近い将来枯渇することが予想できます。石油などの価格は、実際に枯渇した時に暴騰するのではなく、枯渇するだろうと予想された時に暴騰が始まるのです。それが今なのです。したがって、石油備蓄を放出しても価格高騰→暴騰がとまるわけではありません。

5. 石油価格暴騰をとめられるのは脱炭素の取りやめだけ

石油価格の暴騰をとめるためには、各国が脱炭素を取りやめることが必要です。脱炭素の根拠となるIPCC第6次報告書は、第5次報告書の温度の観測値を不適切に書き換えて、“人為的に書き換えた”地球温暖化をゲットしているのです(「これが人為的地球温暖化の正体だ!」参照)。
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こんな第6次報告書の将来予測を鵜呑みにして脱炭素政策を継続し、石油価格の暴騰を招き、ひいては世界経済の破滅を目指すのはバカげているのではないでしょうか。

参考動画:本稿は2021年7月10日と11月20日のASAKURAセミナー(有料)を参考にしています。ただし、朝倉慶氏は「気候危機」を信じているのに対して、私は全く信じていない点で相違します。今回、7月のセミナーのハイライトが無料で公開されました。脱炭素推進派の方も脱炭素否定派の方もぜひ視聴していただきたい動画です。
【脱炭素が招く資源高騰】2021年7月10日ASAKURAセミナー ハイライト
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46. ノーベル賞・真鍋淑郎氏の一次元モデル (21.10.21;25)

目次
要約
1. はじめに
2. 温室効果のおさらい
3. 真鍋淑郎氏の一次元モデル
4. CO2濃度を2倍にしたら
5. IPCC第1次報告書と真鍋淑郎氏
6. 気候感度
7. どの気候感度の気候モデルが現実を正しく再現しているのか
8. 真鍋先生、温度の観測値を書き換えてシミュレーションの平均値に合わせるのはOKですか?

要約
1. 真鍋淑郎氏にノーベル物理学賞。
2. 温室効果がなければ地表温度は-17℃、温室効果によって現実の地表温度になっていると言われてきました(図1ab)。
3. 温室効果を数値計算した放射平衡モデルでは地表温度は60℃、対流を計算に入れた放射対流モデルでは地表温度は27℃(図2)、雲を計算に入れた放射対流モデル(雲あり)では地表温度15℃(図3)、こうして真鍋先生は放射と対流と雲を使って高度による温度変化を物理的に説明しました。
4. 真鍋先生はふと思いついてCO2濃度を2倍にして、結果を同僚に伝えたところ反響が大きかった(図4)。
5. 多くの研究者が気候モデルを使ったシミュレーションを行うようになり、IPCCが結成され、第1次報告書に真鍋先生は寄稿者として名を連ねています(図5)。
6. CO2濃度を2倍にしたら何℃上昇するのかを気候感度というようになり、気候モデルの特性を示す指標に。IPCC第6次報告書に参加した数十の気候モデルの気候感度は2℃〜6℃弱とバラついています(図6)。
7. IPCCは気候感度が大きくバラついた数十の気候モデルのシミュレーションの平均値を第6次報告書のシミュレーション結果としています(図7)。
8. 第6次報告書は温度の観測値を書き換え、気候感度が大きくバラついた数十の気候モデルのシミュレーションの平均値に温度の観測値をほぼ一致させました(図8)。真鍋先生、温度の観測値を書き換えてシミュレーションの平均値に合わせるのはOKですか?

1. はじめに


真鍋淑郎氏が2021年のノーベル物理学賞を受賞することが決まりました(「温暖化研究の父」、真鍋淑郎氏の功績とは参照)。真鍋氏は1960年代に一次元モデルを発表、その後、これを三次元に拡張し、大気海洋結合モデルを開発しました。ここでは、ノーベル賞への第一歩となった一次元モデルについて解説したいと思います。

2. 温室効果のおさらい

真鍋氏の一次元モデルの解説の前に、温室効果のおさらいをしておきます。図1aは大気中に温室効果ガスがないと仮定した場合です。太陽からの太陽光が地表を暖め、温度が上昇した地表は赤外線を放射します。もし温室効果ガスがないとすると、地表から放射された赤外線は大気を通り抜けそのまま大気圏外に出てしまいます。そうだとすると、地表温度は-17℃になり、現実とは異なった結果になってしまいます。
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図1bは大気中に温室効果ガス(CO2、H2O、メタンなど)がある場合です。大気中に温室効果ガスがあると、地表から放射された赤外線は温室効果ガスに吸収され大気を暖めます。温度が上昇した大気の温室効果ガスから赤外線が様々な方向に放射され、下向きに放射された赤外線が地表を暖めます。これが温室効果であり、これによって地表温度はー17℃ではなく、現実の地表温度になっていると言われてきました。

3. 真鍋淑郎氏の一次元モデル

図2が真鍋淑郎氏の一次元モデルです。縦軸(右側)は高度(km)で、左側の縦軸はその高度の気圧(mb)を示しています。地表から高度11kmまでが対流圏で、それ以上が成層圏です。天気予報に出てくる高気圧、低気圧、台風などはすべて対流圏の中で起こっている現象です。台風の直径は1000kmぐらいありますが、高さは11kmしかないのです。
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図2は一次元モデルなので、高さ方向だけを考えます。横軸は温度(絶対温度)です。3本の曲線がありますが、一番左側の放射平衡モデルの曲線が、図1bの温室効果を数値計算したものです。ただし、真鍋先生はこの曲線を計算したわけではなく、曲線の上にある・について計算して、その・をつないで曲線としています。大気を高さ方向に十数層の層にわけ、各層と地表や他の層との熱の移動を計算し、平衡状態になったとき各層が何度になるのかを計算し、その結果を・にプロットしたのです。放射平衡モデルの場合は熱の移動は放射だけです。そうすると、地表温度は60℃になってしまい、温室効果だけでは現実とは異なった結果となってしまうのです。

そこで、真鍋先生は対流を計算に入れました。地表近くで暖められた空気は膨脹し軽くなって上昇します。これが対流ですが、空気が下の層から上の層に上昇することで熱が上の層に伝えられます。放射による熱の移動に加えて対流による熱の移動を計算したのが放射対流モデルで、3本の曲線のうち中央と右側の曲線です。中央の乾燥断熱調整の放射対流モデルは大気が乾燥している場合で現実とは合いません。

右側の-6.5℃/km調整の放射対流モデルが水蒸気を含む大気の現実に合うモデルです。-6.5℃/kmというのは1km上昇すると6.5℃温度が下がることを意味しています。対流圏では高度に対する温度の変化はこの傾きの直線になることが理論上も観測上もわかっていました。真鍋先生は、対流圏の温度の低下をこの傾きになるように調整し、地表温度を27℃まで下げることができましたが、これでも高過ぎです。

図3放射対流モデル(雲なし)図2-6.5℃/km調整の放射対流モデルと同じもので地表温度は27℃です。米国標準大気の曲線がアメリカにおける標準的な大気として知られているもので、地表温度は15℃です。
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真鍋先生は雲により太陽光が反射され地表に届く太陽光が少なくなることを計算に入れて、地表温度15℃放射対流モデル(雲あり)の曲線を得たのです。これは米国標準大気とほぼ一致しています。真鍋先生はこのように放射と対流と雲を使って、高度による温度変化を物理的に説明することができたのです。

4. CO2濃度を2倍にしたら

ノーベル賞受賞を伝える新聞記事によると、真鍋氏は、ふと思いついて大気中の二酸化炭素濃度の設定を2倍にしてみて、その結果を同僚らに軽い気持ちで伝えたところ反響が非常に大きかったということです。図4がその計算結果を示す図です。中央の点線が当時のCO2濃度300ppm(0.03%)の曲線で、実線が2倍にした600ppm(0.06%)の場合です。真鍋先生はCO2濃度を1/2にした150ppmの場合(破線)も計算しましたが、これは注目されず、2倍にした場合だけが大きな反響を呼んだようです。この図では、CO2の濃度を2倍にすると地表温度は2℃上がっています
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真鍋先生はこれを3次元に拡張し、さらに海を含めて、大気海洋結合モデルを開発しました。真鍋先生の業績に刺激され、多くの研究者が気候モデルを使ったシミュレーションを行うようになったのです。したがって、この分野でノーベル賞を受賞するとすれば、真鍋先生が受賞することになります。

5. IPCC第1次報告書と真鍋淑郎氏

多くの研究者が気候モデルを使ったシミュレーションを行うようになり、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が結成され、IPCCは1990年に第1次報告書を発表しました。IPCC第1次報告書の科学的評価報告書の中で真鍋先生は図5に示すように第6章の寄稿者として名を連ねています。
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6. 気候感度

前述のように、真鍋先生はCO2濃度を2倍にして2℃の温度上昇を得ましたが、これを気候感度というようになり、気候モデルの特性を示す指標となりました。図6に示すように、真鍋先生の一次元モデルの気候感度は2℃です。
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CMIP6 ESMsというのはIPCC第6次報告書のシミュレーションに参加している数十の気候モデル群で、X が各気候モデルの気候感度を示しています。気候感度は2℃程度から6℃弱までバラついています。CO2を2倍にしたときに、気候感度2℃の気候モデルに対して、気候感度6℃弱の気候モデルは3倍弱大きな温暖化を予測することになります。これらの気候モデルのうちどれが正しく地球をシミュレートしているのでしょうか?

7. どの気候感度の気候モデルが現実を正しく再現しているのか

図7は今年8月に発表されたIPCC第6次報告書第I作業部会(自然科学的根拠)の図SPM.1bです。茶色の線が人間の要因と自然の要因の両方を含めた気候モデルのシミュレーション結果です。人間の要因というのは、産業革命以降、人間が排出してきたCO2などの温室効果ガスによる温室効果のことであり、まさに気候感度に密接に関係しているシミュレーションです。図6のように第6次報告書で使われた気候モデル群の気候感度は2℃程度から6℃弱までバラついていました。では、この茶色の線はどの気候感度の気候モデルを使ったシミュレーション結果なのでしょうか? それを究明することこそが第I作業部会の使命である自然科学的根拠を示すことになるはずです。
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ところが、驚いたことに、図7茶色の線は、図6に示されたように気候感度が2℃程度から6℃弱までバラついた数十の気候モデルのシミュレーション結果の平均値なのです。IPCCはどの気候感度の気候モデルが正しく現実を再現しているのかを究明することを放棄して、気候感度が大きくバラついた数十の気候モデルのシミュレーションの平均値を第6次報告書のシミュレーション結果として発表したのです。

さらに驚くのは、気候感度が大きくバラついた数十の気候モデルのシミュレーションの平均値()が温度の観測値(黒)とほぼ一致していることです。そして、それを根拠にしてIPCC第6次報告書は「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と初めて断言したのです。気候感度が大きくバラついた数十の気候モデルのシミュレーションの単なる平均値()が温度の観測値(黒)とほぼ一致することの自然科学的根拠は全くわかりません。

8. 真鍋先生、温度の観測値を書き換えてシミュレーションの平均値に合わせるのはOKですか?

図8IPCC第6次報告書 第I作業部会(612頁)のCross-Chapter Box 2.3図1(b)の誤記を訂正して翻訳したものです。オレンジ色の線は第5次報告書の温度の観測値のグラフです。第5次報告書は2013年に発表されたので横軸は1850年から2012年までです。青の線が第6次報告書の温度の観測値で、横軸は1850年から2020年までです(図7の黒と同じ)。
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驚くことに、第6次報告書の温度の観測値()は、2012年までの第5次報告書の温度の観測値(オレンジ)の後に、新たな2013ー2020年の観測値を付け加えたものではなく、第5次報告書の温度の観測値(オレンジ)の一部を書き換えていたのです。第6次()の上に第5次(オレンジ)を重ねているので、両方の観測値がある2012年までで、完全に一致している部分ではオレンジの線だけが見え、書き換えた部分では青の線も見えています。特に2005ー2012年ごろの温度の観測値が大きく書き換えられています。図の下の方にある青の点線はどれだけ書き換えたのかを示すグラフで、これを見ると2012年にかけて温度が上昇する方向に大きく書き換えられていることが明確にわかります。

結局、この書き換えにより、図7のように、気候感度が大きくバラついた数十の気候モデルのシミュレーションの単なる平均値()に温度の観測値(黒)をほぼ一致させることができたのです。図8の2012年までの第5次報告書の温度の観測値(オレンジ)の延長上に第6次報告書の2013年から2020年までの温度の観測値()をつなげたのでは、気候感度が大きくバラついた数十の気候モデルのシミュレーションの単なる平均値()と一致させることはできないのです。

第6次報告書による第5次報告書の温度の観測値の書き換えについては「これが人為的地球温暖化の正体だ!」で詳しく説明していますので、ぜひお読みください。最後に、真鍋先生に質問があります。

真鍋先生、温度の観測値を書き換えてシミュレーションの平均値に合わせるのはOKですか?


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41.日本が2050年CO2ゼロを目指しても、中国が5年で帳消しに(21.06.01;29)

目次
 要約 (21.11.08 追記) <New
 (1)はじめに
 (2)中国はダントツで世界一のCO2排出国
 (3)中国の5年間のCO2増加量=日本の年間CO2排出量
 (4)中国は気候変動枠組条約を口実にCO2出し放題
 (5)小泉環境相、太陽光パネルは切り札ではありません!
 (6)災害は激甚化していない
 (7)気候危機は現実ではなく物語
 (8)おわりに
 追記:杉山大志氏の新刊書と動画の紹介

要約
(1)菅総理(当時)は2050年カーボンニュートラル、2030年温室効果ガス46%削減を表明しました(岸田総理もこれを継承)。
(2)中国のCO2排出量は急増し、2019年で約98億トンのダントツで世界一のCO2排出国です(図1)。
(3)2050年CO2ゼロを日本国民が死に物狂いで実現したとしても、中国が2025年までのCO2増加量で帳消しにしてしまいます(図2)。
(4)IPCCは1990年の第1次報告書に、人為起源地球温暖化を確信する、CO2排出量の多くは先進国、途上国の開発は阻害しない、および枠組条約の必要性を記載し(図3)、気候変動枠組条約を各国に締結させました。COP21でパリ協定が採択され、米欧日はCO2ゼロで自滅を目指し、CO2排出量1位の中国に世界覇権を取らせる「環境」をつくってしまったのです。
(5)小泉環境相(当時)が「切り札だ」と述べる太陽光パネルは、発電中はCO2排出量はゼロですが、その太陽光パネルは中国で生産されるときにCO2を排出しています(図4図5)。
(6)CO2濃度は上がっていて、気温も上がっているが、台風の「頻発化」や「激甚化」などは起きていません(図6)。
(7)気候危機物語に乗っかる権力とかお金がいっぱいあり、急進化した環境運動が政治システム全体を乗っ取ってしまいました(図7)。
(8)気候危機は科学でもなんでもなく、気候危機物語でしかないのです。

(1)はじめに

菅総理は2020年10月26日の所信表明演説で2050年カーボンニュートラルを表明し、2021年4月22日の気候変動サミットで2030年温室効果ガス46%削減を表明しました(岸田総理もこれを継承:2021.11.08追記)。そして、5月26日には、2050年までに温室効果ガス(以下「CO2」という)の排出量を実質ゼロにする目標が盛り込まれた改正地球温暖化対策推進法(改正温対法)が全会一致で成立しました(改正温対法第2条の2(基本理念)パリ協定第2条1(a)を引用)。でも、これで国連やマスコミなどが煽る「気候危機」は回避できるのでしょうか?

私(井上雅夫)は「人為起源地球温暖化はエセ科学」と考えていて、気候危機などないと思っています。しかし、仮にIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の「予言」が科学であり、「気候危機」が迫っていると仮定すると、日本の2050年CO2ゼロで「気候危機」を回避するのは不可能です。

(2)中国はダントツで世界一のCO2排出国

図1は産経新聞(2021.05.29)の解説記事の図です。
図1
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図1を見ると、中国のCO2排出量は急増しており2019年で約98億トンのダントツで世界一のCO2排出国です。中国は日本(約11億トン)の約9倍であり、米欧日を合計した89億トンよりも多く、しかも2030年まで増加させる計画です。図1を見れば、米欧日がCO2をゼロにして脱炭素社会を実現したとしても、「気候危機」を回避することは不可能であることは明らかです。むしろ、2000年から2019年にかけてCO2排出量を急増させた中国こそが「気候危機」の真犯人であることが一目瞭然です。

(3)中国の5年間のCO2増加量=日本の年間CO2排出量

図2は「気候サミットの結果と今後―温暖化対策の暴走にどう歯止めをかけるか―」(杉山大志)に示された中国と日本のCO2排出量を比較した図です。中国の現行の計画では、5年間で排出量は1割増え、この増加量12.4億トンは日本の年間排出量11.9億トンと四捨五入すれば同じです。中国もCO2排出量削減目標を表明していますが、2025年までの5年間で18%だけGDP当りのCO2排出量を削減するというものなので、中国のGDPの成長が年率5%であればCO2排出量は図2のように1割増加することになります(「【杉山大志】中国CO2排出は増大する―日本のCO2削減目標深堀は危険だ」参照)。
図2
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図2から「中国の5年間のCO2増加量=日本の年間CO2排出量」であり、菅総理が表明した2050年CO2ゼロを日本国民が死に物狂いで実現したとしても、中国が2025年までのCO2増加量で帳消しにしてしまうのです。この事実を菅総理や小泉環境相や全会一致で改正温対法を成立させた全国会議員は知っているのでしょうか。おそらく、総理や環境相はこの事実を知らず、欧米に追随しているだけではないでしょうか。また、全会一致で改正温対法を成立させた国会議員の多くも何も考えず何も調べずに賛成してしまったのでしょう。

では、なぜ欧米の政治家は盲目的にCO2ゼロ政策を推進して、日米欧を自滅させ、中国に世界覇権を取らせるための「環境」づくりをしているのでしょうか?

(4)中国は気候変動枠組条約を口実にCO2出し放題

欧米の気候学者たちが国連を動かしIPCCを設立させたことが地球温暖化問題の発端です。IPCCは1990年の第1次報告書(図3参照)に、人為起源地球温暖化を確信する、CO2排出量の多くは先進国が源であり先進国は排出を抑制すべき、途上国の開発は阻害しない、および枠組条約の必要性を記載しました。
図3
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そして、そのわずか2年後の1992年に気候変動枠組条約(前文にIPCC第1次報告書に記載したことと同趣旨を記載)を各国に締結させたのです。

気候変動枠組条約の前文には、IPCC第1次報告書の記載と同趣旨の「過去及び現在における世界全体の温室効果ガスの排出量の最大の部分を占めるのは先進国において排出されたものである」と記載されています。これは1990年代には正しかったのですが、図1を見れば明らかなように、2000年以降では完全に事実と相違しています。

したがって、この前文の記載を「現在における世界全体の温室効果ガスの排出量の最大の部分を占めるのは中国において排出されたものである」と改正しなければなりません。しかし、IPCCは以降の報告書では先進国と途上国の関係には触れなくなり、気候変動条約を現実に合わせる改正も行わていません。

中国開発途上国として、気候変動条約の前文の記載「持続的な経済成長の達成及び貧困の撲滅という開発途上国の正当かつ優先的な要請を十分に考慮し、気候変動への対応については、社会及び経済の開発に対する悪影響を回避するため、これらの開発との間で総合的な調整を図られるべき」ことを口実にして、CO2を出し放題なのです。

2015年の気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択され、その第2条1には次のように規定されています。
1 この協定は、気候変動枠組条約(その目的を含む。)の実施を促進する上で、持続可能な開発及び貧困を撲滅するための努力の文脈において、気候変動の脅威に対する世界全体での対応を、次のことによるものを含め、強化することを目的とする。
(a)  世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分に下回るものに抑えること並びに世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を、この努力が気候変動のリスク及び影響を著しく減少させることとなるものであることを認識しつつ、継続すること。
上記のようにパリ協定第2条1には「気候変動の脅威に対する世界全体での対応」と記載されているものの、その直前には「持続可能な開発及び貧困を撲滅するための努力の文脈において」と記載されており、さらに前文には「条約に定めるところに従い、開発途上締約国(特に気候変動の悪影響を著しく受けやすいもの)の個別のニーズ及び特別な事情を認め」と記載されているので、中国は依然として気候変動枠組条約に定めるところに従い開発途上締約国の個別のニーズ及び特別な事情を主張することにより、CO2を出し放題できるのです。

一方、米欧日の先進国は気候変動条約の前文で「先進国が、明確な優先順位に基づき、すべての温室効果ガスを考慮に入れ、かつ、それらのガスがそれぞれ温室効果の増大に対して与える相対的な影響を十分に勘案した包括的な対応戦略」に向けた行動の必要性を認め、パリ協定前文で「持続可能な生活様式並びに消費及び生産の持続可能な態様が、気候変動への対処において、先進締約国が率先することにより、重要な役割を果たすことを認め」ているので、率先して2050年カーボンニュートラルを目指さざるをえなくなったのです。

その結果、米欧日はCO2ゼロで自滅を目指し、CO2排出量ダントツの1位であり2030年までCO2排出量を増やす中国に世界覇権を取らせるための「環境」をつくってしまうという信じがたい状況を生じさせてしまったのです。

(5)小泉環境相、太陽光パネルは切り札ではありません!

小泉進次郎環境大臣は「太陽光パネルが切り札だ」と述べています。でも、これで気候危機は回避できるのでしょうか?

図4は、太陽光発電供給量の世界シェア・ランキング(2018年)です。
図4

かつては日本が最大の生産量を誇っていましたが、今は中国が世界一の生産大国で全世界の生産量の58%を占めています。なぜ、中国は太陽光パネルの世界一の生産大国になったのでしょうか。それは石炭火力発電所をどんどん増設して安い電力を供給しているからです。

図5は「【杉山大志】石炭利用の停止は究極の愚策 中国こそが問題の根本だ」に示された図です。
図5
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左 図は2020年の日中の石炭火力発電設備容量を比較する図です。中国の石炭火力発電は日本の約22倍です。右図は新規の石炭火力発電設備容量の2016年から2020年の推移を示す図です。2016年から2020年にかけて、中国を除く世界の石炭火力の新規建設(オレンジ色)は急減しているのに対して、中国の石炭火力の新規建設(青色)は急増しており、毎年その新規建設分が加わるのですから中国の石炭火力発電設備容量の増大はすさまじいものになります。しかも中国の石炭火力発電は、日本の高効率の石炭火力発電とは違い、CO2排出量の多い従来型のものです。

環境活動家が最も攻撃しているのが、CO2排出が多い石炭火力発電です。中国はその石炭火力発電を爆増させ、安い電力を供給して、安い太陽光パネルを生産しているのです。そして、その中国産の太陽光パネルは日本でも使われています。

小泉環境相が「切り札だ」と述べる太陽光パネルは、確かに発電中はCO2排出量はゼロです。ですが、その太陽光パネルは中国で生産されるときにCO2を排出しているのです。小泉環境相のアイディアにしたがって、日本中の住宅の屋根や様々な施設の屋上に太陽光パネルを設置すれば、その太陽光パネルを中国で生産するために、中国の石炭火力発電所から大量のCO2が排出されることになるのです。

小泉環境相は「私は、日本中の屋根や屋上に太陽光パネルを設置させてCO2排出をゼロにして、カーボンニュートラルを実現するんだ!」とお考えかもしれません。でも、それは日本のカーボンニュートラルだけであり、偽善です。あるいは日本国内だけしか見ていない視野の狭い考え方です。地球温暖化の問題を考えるのであれば、常に地球規模の視野が必要です。小泉環境相は、地球規模の視野で見て、日本中の屋根や屋上に設置する太陽光パネルは、中国で生産されるときに中国の石炭火力発電所がCO2を大量に排出することを認識しなければなりません。小泉環境相、太陽光パネルは気候危機を回避する切り札ではありません!

(6)災害は激甚化していない

各国の地球温暖化の研究者の多くは、気候変動枠組条約の締約国である国から予算を受けているので、気候変動枠組条約の枠内でしか研究できません。これに対して、杉山大志氏はIPCC第4〜6次報告書の著者の一人ですが、民間の研究所に所属しているためか、気候変動枠組条約の枠にとらわれず、「地球温暖化の ファクトフルネス」という動画で真実を発信しています。
「地球温暖化のファクトフルネス」
 @観測データの統計、「災害の激甚化」はフェイク
 A温暖化対策の費用対効果、CO2削減は割に合わない!
 B世界の社会統計、世界は住みよくなっている、温暖化による破局の兆しなどない
 C温暖化予測、不確かで悪影響は誇張されている
 Dグリーン成長? CO2ゼロは経済を破綻させる
 Eグリーン・バブル、何が起きているのか、いつどのように崩壊するのか
例えば、@「災害の激甚化」はフェイクでは、杉山氏は図6のグラフを使って、(A)CO2濃度は確かに上がっていて、(B)気温も確かに上がっているが、(C)台風の「頻発化」などは起きておらず、(D) 台風の「激甚化」なども起きていない、と述べています。
図6
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最近、台風が頻発し激甚化していると実感している人もいるかもしれません。でも、それは気象衛星の写真を使って赤道付近で台風が発生したときから連日テレビで報道されるからであり、また、気象衛星の性能向上により、台風の動画がおどろおどろしく見えるからではないでしょうか。

(7)気候危機は現実ではなく物語

また、Eグリーン・バブルでは、杉山氏は図7を使って次のように述べています。
図7
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杉山大志「今、世界は気候危機にあって、CO2ゼロを目指さなければいけないと、日米欧の政府指導者が言っている。観測データを見る限りは気候危機は起きていないが、現実には気候危機はあるということになって、大変な経済的負担のあるCO2ゼロを目指さなければいけないと言っている。何故こういうふうになったか。まず観念的な世界から始まる。宗教を信じる人が減ってくると、心の隙間に入ってきたのが共産主義運動。それがソ連の崩壊で終わって、その後盛り上がってきたのが地球温暖化問題。赤から緑へ、共産主義運動だった人たちが環境運動に転じることが実際にありました。

共通点は反資本主義。リベラルのアジェンダになってきているだけでなく、ポリコレ(政治的に正しい)という位置づけ。LGBTとか、移民とか、マイノリティの人権などと同じように温暖化は道徳的な課題であって、異議を挟むことは不道徳だと。この考え方に合わないデータはどうでもよくなってしまう。観測データは支持しませんよと言っても、けしからんという反応しかしなくなる。

観念の世界から出てきたのが、気候危機物語。それに乗っかる権力とかお金がいっぱいある。危機メディア、環境利権、行政利権、御用学者。一方で、気候危機物語は社会を計画したい、統制したいという人にとっては魅力的。社会計画、経済統制、規制、税、世界政府、国連、こういったことはエリートが考えること。リーダーにとっても、危機があると他の問題があっても支持してくれるので、どこの国の首脳も気候危機に対してアクションを起こしている。急進化した環境運動が政治システム全体を乗っ取ってしまいました。」

(8)おわりに

結局、気候危機は科学でもなんでもなく、気候危機物語でしかないのです(図7参照)。現実は、中国がダントツで世界一のCO2排出国であり(図1参照)、気候変動枠組条約が開発途上国とされる中国にCO2出し放題の口実を与え、日本が2050年CO2ゼロを目指しても中国の5年間のCO2増加量で帳消になり(図2参照)、太陽光パネルは切り札ではなく(図4図5参照)、しかも災害は激甚化していないのです(図6参照)。多くの国民がこの現実を知り、その国民の声で菅総理や小泉環境相が欧米追従ではなく国益のために政治を行うように変わることを期待します。

追記:杉山大志氏の新刊書と動画の紹介

以上で杉山氏の記事や動画を多数引用させていただきました。以下、杉山氏の新刊書と新しい動画を紹介します。

「脱炭素」は嘘ばかり 杉山大志
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動画 脱炭素のファクトフルネス 杉山大志
@ 脱炭素で経済が崩壊する
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A 脱炭素は地政学的自滅
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B 脱炭素は『世界の潮流』ではない
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