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 決して高くはないのに、ぽくには「買えない」付箋がある。はがきの半分ほどの、大きめのサイズの付箋だ。おもに電話のメモなどに使うもの。書いた文字が読みとれるよう、薄い色のものが多い。まとまった字数が書けるので、書評や読書のときに役立つ。ぼくは欲しい。でもこれをぼくは買えない。店ではいつも「またにしよう」と思い、あきらめる。しばらくあと、またそこに行き、手にとり「いいなあ」と思う。でも買えない。


 大きいので、もったいないという気持ちになるのだ。世界がちがうような感じがするのだ。この付箋と、これからいっしょに生きていけるのだろうかなどと思う。目の前が、ぼうっとする。草深い田舎から、突然大都会に出たときの、めまいのようなものかもしれない。めまいがおさまる。おちつく。いつもの付箋のところに行く。

 


 

荒川洋治「読むので思う」幻戯書房・2008年刊


 

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