1 コジツケ自己紹介

2000.1


 

 毎年4月に新しい学年を担当することになると、まずは自己紹介をすることになるが、教師を30年近くもやっていると、おのずとパターンが出来てしまう。

 エーット、名前は(黒板に字を書きながら)山本洋三といいます。三が付くから、三男だと思う人がいると思うけど、これが長男なんだな。どこか知らない所に兄弟がいるわけじゃないみたい。(ませたヤツは笑う)ちなみに、三がついても三男じゃない人に、内村鑑三がいるね。鑑三っていうのは、「三度鑑(かんが)みる」ということで、本などを調べながらよく考えるという意味なんだ。

 だから、ぼくの場合もね、ひっくり返すと、ほら三洋だ。三洋電機って会社あるよね、つまり三つの海っていうことなんだな。三というのは、いち、に、さんの三もあるけど、その他に「多い」という意味もある。三つの海ということは、つまりすべての海ということになるわけ。

 でね、名字だけど、山本なんて平凡だけどね、この山本ってどういう意味かっていうと、山のふもとということだね。じゃあ、山のふもとってどこを指すんだろう。(と言いながら、山の絵を描く)この山のどこがふもとかというと、だいたいこの辺だろうけど(と山の裾あたりを指す)でも、考えようによっては、この辺だって(と頂上ちかくの山腹を指す)ふもととも言えるよね。つまり、頂上以外は全部ふもとと言えるわけだ。だから、下のほうの平野も考えようによっては山のふもとだね。(強引だという声は無視)ところで、頂上というのは、どこだろう。やまの一番高い所だから、ほんの一点のはずで、ほとんど面積なんてないよね。つまりだ、山本というのは、地面の全部であると言ってもいい。

 そうすると、山本ですべての地面、洋三ですべての海。山本洋三で全地球という意味なのさ。(中学生くらいだと、だいたい笑う。高校生だと、何バカいってんだって顔をする。)

 ところで、ぼくの母は新潟県の(と地図を書きながら)いちばん端の青海町、ここの隣が糸魚川なんだけど、そこの生まれ、父は静岡県の蒲原の生まれ。糸魚川、静岡と聞いて、何か思い出すかな? そう、フォッサマグナだね。つまり、ぼくはね、日本をまたにかけて生まれたというわけだ。しかも、国際都市横浜でだ。どうだ、すごいだろ。

 コジツケだあという生徒の声の中、自己紹介は、まだまだエンエンとつづくのである。

 で、ぼくの生まれた所というのはね……。


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